経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




10/2/15(603号)
経済と金融の間の緊張関係

  • 神棚に1,400兆円?
    先週号までに述べたように、日本には少なくとも今日まで財政に大きな問題はなかった。ところがマスコミによって、国民は日本の財政が最悪の状態と洗脳されてきた。これまでマスコミは「白」を「黒」と言い続けてきたのである。一方、日本の財政には「問題がない」とか、「問題は深刻ではない」といったまともなことを主張する論者は、日本のマスコミに抹殺されてきた。

    筆者は、日本の財政の善し悪しの判断は客観的な事実でなされべきと考える。最近、榊原英資氏がテレビに登場し「国内にはまだ400兆円程度の預貯金の余裕があり、これを使って次の大型補正予算を組むべき」と主張している。この400兆円は先週号で取上げた家計純資産と政府純負債の差額と察せられる。


    しかし筆者に言わせれば、この人の発言には、賛同できる場合とそうではない時があり、昔から惑わされてきた。今回の発言については概ね賛成である。しかしそんなに単純な話なのかという疑問もあり、今回は全面的に賛成とは行かない。。

    日本に巨額な貯蓄が存在していることはよく知られている。個人の預貯金が1,400兆円もあるという話はよく言われていることである。問題の400兆円もこの一部である。


    しかし預貯金の1,400兆円が神棚にとってあるという話ではない。既にこれらは何らかの形で運用されている。400兆円についても同様である。この資金は国債購入だけでなく、企業への貸付けなどにも回っている。また政府の外貨準備とは別に、民間の資金も海外に流出している。日本の外貨建資産は官民で220兆円程度と推察される。

    まだ400兆円の余裕があると言っても、国債の購入を増やすには、他で運用している債券を売却したり、また貸付け金を回収する必要がある。しかしこれは少なからず金利の上昇要因になる。

    特に外貨建資産は簡単には取り崩せない。日本を国債を買うために外貨建資産を売却し、この資金を円転すれば円高になる。もし外貨建資産の220兆円を全部円転すれば、それこそ超超円高になるであろう。つまり国民に余裕資金があると言っても、新規発行の国債が何事もなく全て消化されるということにはならない。


    今のペースで国債発行が続けば、2020年までに日本の資金だけによる国債の消化は限界に達するという日経の話を先週号で取上げた。日経はそのうち外資の流入が必至となり、日本は外資受入れの環境を整える必要があると主張している。しかしそんなにのんびりした話ではない。

    国内の貯蓄で国債の消化が賄えるかどうかという話は、論点がズレている。たとえ国内資金で国債の消化が賄うことができても、国債購入を増やすには他の形で運用している金融資産を売却する必要がある。これは前述したように金利の上昇要因や円高を招く。つまり2020年を待たずとも経済と金融との間に緊張関係が生じることは十分有りうる。ただどのような緊張関係が予想されるかについては来週号で取上げる。


  • 「ハルマゲドンが起る」
    10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」が行われていた時点では、日本の財政に問題はなかった。しかし財政が危機がというデマを元にした経済政策によって、逆に日本の財政状態は悪くなったのである。これまでは良くても、今後の日本の財政は決して楽観できるものではないと筆者も考えている。

    「第一回目キャンペーン」が元でバブル経済が起った。「第二回目キャンペーン」によって、さらなる資産価格の下落を招き、不良債権問題がとほうもなく大きくなった。あれだけ良かった日本の財政もかなり悪くなったのは事実である(それでも先進国の中では中レベル)。つまり「オオカミ少年」が何度も嘘をついているうちに、本物のオオカミが出てきそうになっているのである。


    例えば「第二回目キャンペーン」が行われた頃には、バブル崩壊からかなり経っており、既に日本の地価も適正価格に近い水準まで下がっていた。ところが財政危機キャンペーンによる緊縮財政と金融機関の不良債権の早期処理を迫る声によって、資産の投売りが起り、地価の下落が止まらなくなった。ちなみに外資が日本の株や一等地を底値で買っている。

    本来なら積極財政を続け経済を浮揚させ、資産価格の下落を止めるかもしくは上昇させるべき時であった。あわよくば不良債権のかなりの部分を蒸発させることが可能だったのである。しかし全く逆のことを行い、これによって金融機関には大量の不良債権が発生した。


    財政問題では、これまで景気浮揚のための財政支出増だけが問題にされてきた。しかし日本の財政を考えるなら、税収減の方が問題である。これだけ経済活動が低いということは、それだけ生産設備と労働が余っていることを意味する。具体的には遊休設備と失業の存在である。また日本の場合、雇用慣行から企業内に数字に現われない失業を抱えている。雇用者報酬がかなり減っていることから、日本の実際の失業率は、政府公表の4倍、つまり20%程度と推察される。

    前述のように大量の不良債権を発生させたことも大きな政策のミスである。これを償却するため、日本の金融機関は長い間法人税を払っていないはずである。また不良債権の処理は金融機関に限らない。これまで仮に200兆円の不良債権が償却されてきたとしたなら、これだけで80兆円程度の税収減になっていると推計される。このように経済活動の低迷と不良債権の処理によって税収は大きく落込んだ。さらに物価が下落すること自体によって税収は減少してきた。


    少なくとも過去に財政危機キャンペーンが行われていた時には、日本の財政は健全であった。ところが日経などのインチキ祈祷師が「あなたは病気だ」と言い続けた結果、日本の経済と財政は本当の病気になろうとしているのである。

    これは「ハルマゲドンが起る」と人々を脅かし布教活動していた新興宗教の事件と似た構図である。前段で述べたように日経は「ただ家計の貯蓄にも限度があり、今のような大きな財政赤字が続けば、2020年頃には国内の貯蓄で財政赤字を賄えなくなる」と言っている。筆者はこの2020年は当然「2020年からの警鐘」を意識したものと考える。たしかにこれまでの教訓から、日経新聞の唱える経済政策を行えばかなり高い確率で2020年までに本当のハルマゲドンがやって来るような気がする。



今年に入ってから日本の財政をずっと取上げてきた。最終的には政策提言に繋げるためである。来週号は積極財政に対する雑音について述べる。



10/2/8(第602号)「第二回目キャンペーン」
10/2/1(第601号)「第一回目キャンペーン」
10/1/25(第600号)「日本の財政構造」
10/1/18(第599号)「財政非常事態宣言」
10/1/11(第598号)「10年今年の景気」
09/12/21(第597号)「今年を振返って」
09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
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