経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


新年は1月11日号からです

09/12/21(597号)
今年を振返って

  • 日本だけは二番底へ?
    本誌は今週号が本年の最後であり、ちょっと今年を振返ってみようと思う。色々とあった中で、一番のトピックスは、やはり政権交代と個人的にはそれに伴って亀井さんが金融・郵政担当大臣に就任したことである。

    亀井静香氏は、自社さ政権の画策者や自・自連立、自・自・公連立の中心人物の一人と目されている。世間にはこのような政権工作が得意で、政局の人と思い込んでいる人々がいる。しかし筆者は、亀井さんは政策の政治家と思っている。自民党時代の政調会長や今の閣僚と言ったポストが似合っている。今、本人も生き生きと活躍している。


    亀井大臣は、手際良く臨時国会で債務返済猶予法案(中小企業金融円滑法案)と日本郵政改革法案を仕上げた。特に債務返済猶予法案は臨時国会での成立は無理ではないかと危惧されていた。筆者も、せいぜい金融庁の検査マニュアルを年内に見直す程度と思っていた。

    ところで今後この法律が実効を上げるかが注目される。実効が上がらない場合は手直しも必要であろう。筆者は保証協会の保証割合が4割になっているのが気になる。4割程度で本当に銀行が債務返済猶予に応じるかということである。

    保証割合が4割と低くなった背景には、新銀行東京の乱脈融資が影響している気がする。審査能力のない新銀行東京が返す気がない者にどんどん融資を行い、不良債権を大量発生させた。このことをきっかけに、信用保証協会の保証割合が10割から8割に引下げられたと聞く。また保証付き借入の申請書類の作成が大変になったようである。もし返済猶予法案の実効が上がらない場合は、保証割合を引上げることも検討する必要があると考える。


    次は今年の日本経済を振返る。やはり昨年9月のリーマンショック以降の異常な消費の減少によって、世界的な急速な経済の落込みがあった。日本でも昨年10〜12月さらに今年1〜3月のGDPは二桁のマイナス(年率)を記録した。3月までの在庫調整は過去にちょっと経験したことがない規模であった。

    さすがに4月以降はこの反動が起り、また新興国から経済の復興が始まった。さらに各国が財政と金融の両面から対策を講じたため、世界経済は最悪期を脱出した。少なくとも9月までは世界の経済は回復を示している。日本も麻生政権の景気対策と輸出の持直しによって7〜9月は低いながらプラス成長に転じた。


    問題は10月以降の経済の動向であり、はたして二番底があるかということである。11月に米国の対前月の物価変動がプラスに転じ、金融緩和政策の転換が早まるのではないかという観測が流れている。しかし筆者は、これは米ドル安によるものであり、米国経済はまだ底を這っていると見ている。中国などの新興国の経済が力強く回復しているといっても、最終需要国である米国の存在は依然として大きい。新興国の経済発展に期待する声が大きいが、これらの国の経済規模は決して大きくない。

    今後も米国の経済動向が世界に及ぼす影響が大きいのに、米国経済を軽視する論調が大きいのが気になる。筆者は、日本を除き他の国の回復は鈍るか、あるいは米国のように底を這うことになると見ている。しかし日本だけは二番底に向かって再びマイナス成長に戻る可能性が高いと感じている。


  • 景気ウオッチャー調査
    筆者は、直近の経済の状況を一番適切に伝えてくれる情報は景気ウオッチャー調査(街角景気)と見ている。同じ内閣府の発表する景気動向指数やGDPの速報値より、筆者はこちらの方を信頼している。特にGDPの速報値は、集計が遅過ぎること、また設備投資のブレが大き過ぎることなど問題が多すぎる。しかし社会的にはGDPの速報値が一番重要視されている。ところでGDPの速報値は実質値ばかりが注目されているが、デフレが続く日本では名目値がもっと重視されるべきであろう。

    12月8日公表された11月の景気ウオッチャー指数は33.9と前月から7.0ポイントも低下した。これは調査開始以来、最大の下落である。しかし科学性に劣るという理由なのか、景気ウオッチャー調査は軽視されている。同日に公表された10月の景気動向指数の一致指数の方は7ヶ月連続の上昇を示している。しかし景気ウオッチャー指数は数カ月前から既に足踏みから下落傾向を示していた。


    景気動向指数は、権威はあるが景気ウオッチャー調査(街角景気)に比べ経済の動向を正しく示しているとは言えないと、筆者はずっと思っている。景気動向指数のデータは、過去から経営が継続している優良企業から得られたものと考えられる。このような企業は経営基盤がしっかりしており、悪い数字がなかなか出てこないのである。

    日銀などの調査にも言えるが、継続してデータを取れる企業は決して平均的な企業ではない。ところがこのような優良企業のデータを元にした経済数字は良く見えるので、政府や与党にとって都合が良かったのであろう。しかしこのため政府の経済対策が常に遅れるのである。世間の実感からかけ離れたこれらの数字を信じて経済を語っていたから、自民党は支持者を失ったのである。

    筆者は、10月あたりから、再びかなり急激に日本経済は落込み始めたと見ている。前段で日本経済だけが二番底に向うリスクがあるという根拠の一つは、この景気ウオッチャー調査(街角景気)の結果である。


    日本では、ケインズ経済学上では考えられないことが起っている。給与や賃金が下落しているのである。ケインズ経済学は賃金の下方硬直性を指摘している。一方、新古典派経済学では労働への需要が減れば、賃金が下がることによって失業が発生しないことになっている。これに対してケインズ経済学では賃金には下方硬直性があり一定以下には賃金は下がらず、失業が発生するとしている。

    ケインズの指摘は、当時の英国で大量に出ていた失業者の発生メカニズムを説明するものであった。ケインズのこの失業理論は欧米では程度の差はあるが今日でも有効である。ただ日本だけが例外となってきたのである。


    今年、日本では、給与やボーナスのカットが平気で行われた。賃下げは公務員の俸給にさえ及んでいる。一方、失業率は依然先進国の中で一番低い。これらの現象を見ていると、日本の労働市場だけが、新古典派経済学の理論が適用される世界になってしまったと見られる。

    20年前までは考えられなかった給与やボーナスのカットが公然と行われるようになって(ボーナスはカットされることがあっても、給与がカットされることはなかった)、国民の可処分所得が大きく減っている。日本経済が二番底に向かうのではないかと筆者が考えている二番目の根拠はこれである。景気ウオッチャー調査にもこれがいち早く反映されている可能性が高い。しかし失業率があまり大きくならいことに安心しているのか、民主党連立政権は「国債の発行44兆円の死守」なんてのんきなことを言っている。



今年もなんとか終わりそうである。新年の第一号は1月11日を予定している。では皆様良いお年を。



09/12/7(第596号)「事業仕分けの顛末」
09/11/30(第595号)「ヘッジファンドの広報担当」
09/11/23(第594号)「素朴な疑問」
09/11/16(第593号)「民主党と官僚」
09/11/9(第592号)「首都圏のハブ空港」
09/11/2(第591号)「日本郵政の新社長」
09/10/26(第590号)「八ッ場ダムの建設中止」
09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
07/10/15(第500号)「プライマリーバランスの話」
07/10/8(第499号)「不況下の物価上昇」
07/10/1(第498号)「新総理総裁の誕生」
07/9/24(第497号)「GDP統計の読み方」
07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」
07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
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07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
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07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
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