経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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09/11/2(591号)
日本郵政の新社長

  • 斎藤次郎氏のこと
    日本郵政の新社長に斎藤次郎氏が内定した。世間はびっくりし筆者も少し驚いた。斎藤次郎氏は実力派の大蔵省事務次官であった。斎藤氏は、小沢一郎民主党幹事長と親しく、細川政権時代、小沢氏と一緒に「国民福祉税構想」をぶち上げた。しかし強引な小沢氏の政治手法は政権内外の批難を受け、この一件を境に細川連立政権内の小沢氏に対する不満が大きくなり、連立政権は崩壊に進むことになった。

    当時、野党であった自民党は、小沢氏に協力するこの大蔵官僚の斎藤氏に対して反感を持った。羽田短命内閣の後、社会党党首である村山富一氏を総理大臣に担ぎ、自民党は与党に復帰した。自民党が政権に戻ってからも、自民党と斎藤氏の間はぎくしゃくしていた。それもあってか95年に任期を二ヶ月余し斎藤大蔵省次官は退官した。


    大蔵省事務次官となれば、退官後、相応のポストが用意されているものである。しかし自民党に良く思われていなかった斎藤氏は、まともな再就職先が決まらず、長い間、事実上の浪人生活を送ることになった。ちなみに村山富一氏を総理大臣にする画策を行った中心人物は野中広務氏と亀井静香氏であった。ようやく斎藤氏は東京金融取引所社長に就いたが、このポストは決して元大蔵省事務次官に相応しいものではなかった。

    ずっと斎藤氏と亀井氏の間が良くないと思い込んでいた者達にとって、今回の日本郵政社長就任は驚きであった。もっとも亀井さんと小沢一郎氏との間も、良かったり悪かったりの連続であった。亀井さんと斎藤次郎氏との交流はずっと続いていたようである。もしそれを知っておれば今回の人事も納得が行くものである。


    今回の人事はマスコミから異常なくらいの攻撃を受けている。せっかく民営化した郵政事業に官僚OBが天下るとは何事かいうのである。調子に乗って竹中平蔵氏は「これは高級官僚の渡り」と的外れの批難をしている。あまりにもばかばかしいので、これにはコメントをしない。

    筆者は、日本郵政の新社長は官僚OBと漠然と思っていた。理由ははっきりしている。本誌09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」から09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」で述べたように、西川善文氏という民間出身者の経営に問題が多すぎたからである。これではとても民間人を次の社長に就けるわけには行かない。ところが読売を除き、新聞各紙は社説で斎藤新社長を厳しく批難している。相変わらず新聞には常識がないのである。


    参考までに09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」で取上げた住友系の郵政各社に対する食い込み方の異常さを改めて示す。
         日本郵政
         代表取締役社長 西川善文(三井住友銀行頭取)
         執行役副社長  寺坂元之(元スミセイ損保社長)
         専務執行役   横山邦男(三井住友銀行)
         常務執行役   妹尾良昭(住友銀行、大和証券SMBC)

         郵便局会社
         代表取締役社長 寺坂元之(元スミセイ損保社長)
         専務執行役   日高信行(三井住友海上火災)
         常務執行役   河村学 (住友生命保険)

         ゆうちょ銀行
         執行役副社長  福島純夫(住友銀行、大和証券SMBC)
         常務執行役   向井理寄(住友信託銀行)
         常務執行役   宇野輝 (住友銀行、三井住友カード)
         執行役     村島正浩(三井住友銀行)

    もちろん郵政各社には「かんぽの宿」の異常な安値売却問題以外にも色々と疑惑のある取引があった。だいたい6月の株主総会で、西川社長の再任を認める条件が、30%の給与カットと側近の「チーム西川」の解任であった。これは明らかに西川氏側が、これまでの郵政の経営に不都合があったと認めたことを意味する。

    ところが退陣を予定されていた「チーム西川」の4名が、株式総会後、現場に居座りなかなか出身の住友グループに戻らなかったという話がある。金融機関の人事異動では、転勤の辞令が出ると対象者は間を置かず新任地に向かうのが常識である。後任者がやって来て、前任者の関係書類を不正がなかったか徹底的に調べるのである。現場に居座った「チーム西川」の4名は一体何をやっていたのかということになる。


  • 「不規則発言」
    西川社長とチーム西川の面々は与党三党の有志議員から特別背任未遂罪で刑事告発されている。原口総務相の元で郵政事業を巡る一連の疑惑を解明するチームが出来た。メンバーには亀井久興前国民新党幹事長も含まれている。原口チームは、当然、西川前社長のやっていた業務を徹底的に調べ上げるはずである。

    このような疑惑があることを考えると、次期社長は検察関係の官僚が一番適当と思われたくらいである。しかし日本郵政社長には民営化の見直しや、日常業務をこなす必要がある。このような状況を総合的に考え、斎藤次郎氏が適任という結論に達したと思われる。また今回の人事に対して批難が多いが、一体誰が相応しいのか候補者を挙げる者がいない(事前には漠然とした予想はあったが)。


    表向きの西川日本郵政社長の退陣理由は郵政改革の方針変更となっている。しかしもう一つの重要な理由は、本誌もずっと指摘してきたような、これまでの関係者(例えば住友グループ)への露骨な利益誘導経営である。ところが不思議なことにマスコミはこの点を全くと言って良いほど取上げない。何か裏があるような異様な光景である。

    先週、大塚金融・郵政担当副大臣がサンデープロジェクト(サンプロ)に出演した。しかし話のほとんどが例のごとく「官僚OBである斎藤次郎氏の新社長就任」の話であった。大塚副大臣はほぼ吊るし上げ状態であった。


    話はちょっと変わるが、筆者は全てのテレビ番組は台本に沿って作られるものと考えている。サンプロみたいなフリートーク形式の生番組も台本があると見ている。政治家であっても台本の範囲内の発言が求められる。これに逸脱しそうな政治家は番組に呼ばないか、もしくは編集が可能な録画での出演となる。

    昔、大手金融機関の不良債権が問題になっていた頃、ある国際金融評論家がよくサンプロに出演していた。ところがある時この評論家が大手の銀行が今にも破綻しそうな話を始めた(筆者はそこまで切羽詰っているとは思っていなかったが)。本人にとっては番組へのサービスのつもりだったのであろう。しかし見ていた筆者も一瞬「これはまずいのでは」と思った。明らかに「不規則発言」であった。

    とたんにカメラはしゃべっている国際金融評論家からはずれ、宙に舞った。どこを映したら良いのか製作サイドも混乱したのであろう。サンプロ発で信用不安が起ってはと番組制作者もあせったことが見てとれた。この「不規則発言」の評論家は、その後、サンプロには一切登場しなくなった。


    さて大塚副大臣を囲んだサンプロは坦々と進んだ。例のごとく官僚OBを社長に据えたことへの批難が繰返され、本当につまらなかった。ところが最後の一分になって、突然、大塚副大臣が、西川前社長を巡る不祥事に触れ、これから総務省が中心になって疑惑を解明するという話を始めた。筆者は少し驚いた。これは日本のマスコミではほぼタブーになっていることである。

    とたんに司会の田原氏は「それは問題がなかったと聞いている」と口を挟んだ。しかし問題がないのなら給与カットや「チーム西川」の解任はなかったはずである。実に奇妙な発言である。またこのことを最初から取上げておれば、官僚出身者が日本郵政の新社長に就かざるをえない状況は簡単に説明できたはずであった。


    しかし筆者は、大塚副大臣の最後の発言がいわゆる「不規則発言」ではなかったと見ている。これは番組製作サイドとの妥協の産物と考える。西川前社長の話は最後の一分に限ることが条件になっていたのであろう。しかし最初からこの発言を行っておれば、番組内容は全く違ったものになっていたはずだ。

    大塚副大臣を囲んだコーナは35分くらいであったが、コーナ開始からの34分間は何の意味もなかった。どうも日本のマスコミ界(雑誌を除く)では西川前社長に関する疑惑は小出しにしかできないようである。これはスポンサーとしての住友グループに対する遠慮をはるかに越えている。今の日本のマスコミ界は何か大きな「闇」に包まれている。



来週は羽田空港のバブ空港化を取上げる。



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