経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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09/10/26(590号)
八ッ場ダムの建設中止

  • 軽くてガンコ
    民主党連立政権が発足して一ヶ月が過ぎた。政策の評価を下すにはまだ早いと言われそうであるが、今の段階での感想を述べる。ただし金融庁所管の返済猶予法案については先週号まで取上げたので、これ以外の政策が対象である。

    今のところマスコミが盛んに取上げているのは予算の編成作業の様子である。これが政治家主導になっているかが注目されている。しかし結果は自民党時代とそんなに違うことにはならないと考える。また出来上がった予算で、日本経済がデフレから脱却できるとはとうてい思われない。デフレ脱却には、国民新党が主張しているような、5年間で200兆円程度のマクロ経済対策が必要と筆者も考える。


    たしかにこれから迎える年末・年始あたりに日本経済が二番底を付けるリスクを、民主党の面々も口にしている。また雇用状況が悪化していることも認識している。これに対して民主党は雇用対策本部(緊急雇用対策)を設置して対処するという話である。

    また民主党は二番底が深刻な時には年明けにも補正予算を組むという。しかし雇用対策本部や補正予算はバンソウコウ的政策であり、経済全体を浮揚させるものではない。これでは自民党時代と変わりがない。

    ただ鳩山総理が、最近、エコノミストとの懇談の席で無利子国債について意見を聞いている。もし鳩山連立政権が無利子国債など、通常行わない政策に踏出す可能性があるのなら大ニュースである。しかしこれが与党の検討課題に直にでも上る雰囲気は今のところない。このように筆者が一番関心のあるマクロ経済政策には大きな変化はないと見ている。


    個別の案件で注目を集めているのが前原国土交通相の行動である。マスコミは前原大臣を「ブレない」と持上げ、アンケート調査でも「よくやっている」という評価になっている。しかし筆者は前原氏にちょっと「軽い」という印象を持っている。あまりにも簡単に結論を出すのである。またこの政治家は「ガンコ」という面がある。人々が「ガンコ」を「ブレない」と勘違いしているのではないかと思う。一連の政治行動は前原氏が民主党代表だった時の「偽メール事件」をなんとなく思い起こす。

    八ッ場ダムを始めとした工事中のダムの建設を中止・凍結したことで、人々は前原大臣に喝采を送っている。とにかく日本ではダム建設が無駄な公共事業の代名詞になっている。「ダムはもういらない」ということが常識になっている。

    しかし筆者は、人々がダム建設に嫌悪さえ感じているのは、長年のマスコミによる「反ダム」キャンペーンの影響が大きいと思っている。また田中康夫前長野県知事の「脱ダム宣言」なども影響している。たしかに最近では渇水の経験がないため(特に首都圏)、人々は水がいつでも手に入ると思い込んでいる。


    しかし日本の川は急傾斜であり大きなダムの建設に向いていない。たしかに日本には2,000以上のダムがあるが、貯水量を全部たしても米国のフーバダム一個にも満たないのである。日本の一人当りのダムの貯水量は世界でも最低クラスである。

    日本の首都圏の一人当たりのダム貯水量はわずか30立法メートルである。飲み水だけでなく、工業用水、農業用水などを全て含んでの話である。ちなみにボストン717、ソウル392、ニューヨーク285、台北118立法メートルとなっている。このように日本には主要国の10分の1程度の一人当たり貯水量しかない。


  • 第二の「偽メール事件」
    日本はアジアモンスーン地帯にあり降水量に幸い恵まれている。しかし近頃の気候の変調を見ていると、日本もいつ渇水に見舞われても不思議ではない。実際、日本は16年前の93年に大渇水を経験している。

    一人当り30立法メートルといえば一ヶ月程度の水の使用量(工業用水、農業用水などを含め)である。常にわき水があるため一ヶ月雨が降らなければ干上がるという話ではないが、決して潤沢にダムの水があるという訳ではない。不思議なことに日本のマスコミはこのような事実を全く伝えない(知らない可能性が高い)。


    平均的な日本人は、ばかマスコミが伝える「日本のダムの貯水量は十分」という大嘘に洗脳されている。このように日本にダム建設は不要という「空気」が醸成され、政治家もそれに迎合してきた。実際、アンケート調査でも今回の八ッ場ダム建設中止に対して、首都圏ですら賛成が反対を上回っている。

    テレビに登場する政治評論家(屋山太郎氏)も「八ッ場ダム建設には50もの公益法人がぶら下がっている。中止して当然。」と前原大臣の判断を高く評価している。しかし公益法人の問題とダム建設は別次元の話である。公益法人に問題があるから、ダム建設を止めるべきというのは非論理的である。まるで「自動車は事故を起こすから走らせるな」と言っているのと同じである。


    首都圏の知事はこぞってダム建設中止に反対している。首都圏のダム貯水量が貧弱なことを分かっている地方自治体としては当り前である。渇水になれば非難されるのは自分達だということを知っている。分担金を返せば良いという話ではない。

    ここまでダムを利水の面だけで論じてきた。当然、治水や発電としての用途があるが、今週はこれらの話を省略した。またダムにまつわる土砂や腐葉土の滞積の問題があることも承知している。さらに農業用水に関する受益者負担の問題も割愛した。


    亀井静香氏は、自民党の政調会長の時に223もの公共事業を中止にした。しかしほとんどは計画段階のものであり、実現性の乏しいものばかりであった。ただ中には中海の干拓事業のように工事が進んだ例外もあった(住民の反対で長らく中断していた)。しかしこの時には農水省や地元と合意を取付けて止めている。今回の前原大臣のようにいきなり中止にしたわけではない。

    亀井大臣の持論は「不必要な公共事業は止めるが、必要なものは積極的にやる」と理解している。ダムだから全て不要という考えではない。筆者は、亀井さんが中止した公共工事は本当に人々から賛同が得られない案件ばかりだったと見ている。今回のように首都圏の知事がこぞって反対している八ッ場ダム建設中止とは事情が全く違う。

    事業を進めることが公共事業全体の悪評に繋がり、むしろ今後必要な公共事業が実施できなくなると困ると亀井さんが判断したからこそ、そのような案件を中止にしたと考える。ただこの時はゼネコンから大きな反感をかった。兄の亀井郁夫氏には参議院選で、建設業界から協力が得られないどころか、いやがらせまがいのことがあったと聞く。


    筆者は、八ッ場ダムなど既に工事を開始した案件は、建設を続行し完成させるべきと考える。ところが中止になっても困るのは、大手ゼネコンだけという間違った事を流布しているマスコミ人や評論家が多い。しかし最近では公共事業の採算が悪くなっているため、撤退しても大手ゼネコンの損害はそんなに大きくはない。またゼネコンの社員は会社から給料が支払われるから生活に困ることはない。

    一方、下請業者には基本的に出来高払いであり、工事がなければ支払いはない。前途が真っ暗なのは、下請業者であり下請業者の従業員である。特に今日は亀井政調会長が数多くの案件を中止した時代と違い、公共投資が極小になっており別の公共工事は全くない。ダム建設の中止については、実情が知られるにつれ世論も大きく変わる可能性がある。筆者には、八ッ場ダム建設中止が何か第二の「偽メール事件」になりそうな予感がする。



来週はハブ空港を取上げるつもりでいたが、日本郵政の新社長が決まったので、予定を変更してこれを取上げる。

政権交代があり政治の世界に色々な変化がある。そのせいか、本誌で取上げるべき事が次々と起る。特に亀井金融・郵政担当大臣の周辺で興味を引くことが頻繁に起っている。日本郵政の人事もその一つである。週一回発行の本誌がこの流れについて行くのは大変である。最近では亀井大臣が公正取引委員会の竹島委員長を呼びつけて「良い談合と悪い談合がある」と、公取に注文をつけている。筆者は亀井さんとほぼ同意見である。これを取上げたら2週間ほどかかるが、そのうち取上げることにする。



09/10/19(第589号)「返済猶予法は不合理?」
09/10/12(第588号)「返済猶予法の原案」
09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
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09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
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08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
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