平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/3/30(第59号)


米国の対日経済要求を考える
  • 所得税より消費税の減税
    日本経済のスランプが、アジア経済に打撃を与えていると言う認識は世界で一般化している。また、これがさらに深刻化した場合、好調が伝えられている米国経済にも悪影響があると、米国からも日本に対する「景気対策要求」も日増しに強くなっている。特に「円安」と景気後退による米国の対日赤字も大きくなっており、要求する景気対策も具体性を帯びている。当初、米国からの要求は米国における教科書に沿った内容であった。つまり3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」で述べたように、米国において景気対策として常套手段として考えられている「所得税減税」であった。本誌が主張しているように、これが日本においてはたいした効果が期待できないものであるが、米国から見れば教科書に沿ったこれが一番と思うのも無理はない。
    ブッシュ政権が、日本の内需拡大には「公共投資」が有効と考え、財政支出の増大を要求していたのとは様変りである。たしかにクリントン政権の対日要求は、より政治的色彩が強いとも受け取られる。もう一つの対日要求である「規制緩和」も、内容は一般的な「規制緩和」のことではなく、「医療機器」など米国が日本に輸出を増やしたい分野の「規制緩和」であるようだ。「所得税減税」も、これによって日本が米国製品をより多く購入することを狙っているとも受け取られるのである。つまり、米国は「日本の景気回復」より「米国の国益」を考えていると言う穿った見方も可能なのである。
    その米国で、最近「所得税減税」が日本では景気対策として弱く、景気回復にあまり役立たないと言う議論が起こっている。3月20日付日経の囲み記事によれば、日本では減税するなら所得税より消費税と主張するエコノミストが増えていると言うことである。これらのエコノミストが日本の経済の特質について理解しているからこそ、このような発言ができるのであろう。本誌の主張は、一般的に景気対策として考えられる対策の中では、「公共投資」が一番効果があるが、減税に限った場合には「消費税」の減税の方が「所得税減税」より効果が大きいと言うことである。理論的にもどうしても減税で景気対策を行なうなら、消費税の減税の方が効果は大きい。これは所得の多い層の貯蓄率の方が大きいからである。つまり「所得税減税」を行なっても、比較的貯蓄率の大きい層の方の可処分所得が増えるため、全体で消費に回る率が小さく止まるからである。その点、消費税の減税は全体に影響を及ぼし、所得税をほとんど納めていない層、つまり貯蓄率の低い層へも恩恵が及ぶ。これによって全体の消費が「所得税減税」のケースより増えることになる。これは極めて簡単な理論である
    ところが、日本の多くのエコノミストは今だに「所得税減税」の一点ばりである。「恒久化すれば効果がある」とか「大型減税にすれば効果が大きくなる」と未練がましい。額を大きくすればその分効果が大きくなるのは当り前である。問題は同じ額の財政負担で、どの対策がより大きな効果が期待されるかである。しかし、日本では、「所得税減税」が景気対策として一番効果があると言う一種の「宗教」になっている。政府もこの「空気」を無視する訳にはいかないようである。今後は、これがどのような具体策になるか注視していきたい。筆者は日本の所得税の最高税率が高すぎることは承知しており、これは将来是正されるべきと考えているが、この是正が景気対策として有効とはとても考えられない。つまり日本の所得税の税率については、景気対策とは別次元で議論されるべきと考える。
    日本において「所得税減税」が景気対策として効果が小さいことを理論的に説明してきたが、実態経済でもこれは証明されている。今回の不況対策として「2兆円の特別減税」の大半は2月に実施されたが、デパートやスーパの2月の売上は、逆に深刻なほどに落ち込んでいる。筆者は、「所得税減税」に効果が全くないと言っているわけではないが、効果が極めて小さいことは明らかと考えてる。特に、昨年11月の大型の金融機関の破綻以降は、貯蓄率がさらに大きくなっていることが容易に想像される。「所得税減税」が景気対策として一番有効と主張しているエコノミスト、マスコミ、経済界そして政治家にこの事態を是非説明してもらいたいものである。

  • 日米の貿易収支のインバランス
    米国の日本に対する「内需拡大」の要請の根底には、大きな米国の対日貿易赤字が存在する。これを解決する方法として「日本の内需拡大」以外に色々な提案がなされている。その一つが日本の規制緩和である。具体的には米国製品の対日輸出に障害となっている日本の規制の緩和や撤廃である。しかし、筆者は日本の規制が著しく米国製品の対日輸出に障害となっているとは考えていない。たしかに「米」など国内事情による輸入制限があるものも残存しているが、これが諸外国に比べ多くあると言うことではなく、また金額的にも小さいものである。また米国から要求の強い医療機器なども今後は輸入に係わる規制も緩和されて行くことが予想される。しかし、これらが完全に自由化されても、日米の貿易のインバランスはほとんど解消しないであろう。自動車の例では、輸入に係わる規制がかなり緩和されたにも拘わらず、輸入台数は頭打ちであり、特に最近の不況と円安で販売台数はかなり落ち込んでいる。つまり規制が緩和されても、実態経済では貿易不均衡は解決しないのである。
    現在、世界の有力な国は為替の変動相場制を採用している。そして、理論上はこの為替レートが各国の貿易収支を調整するはずである。ところが現実は、この為替レートの変動が機能していないため、各国の貿易収支が均衡しない状況である。この大きな原因は世界を駆け巡る「投資資金」の流れがあるからである。日本と米国の間では、恒常的に日本から米国へ資金の流出が続いている。そしてこの資金流出が円の為替レートを実力よりも安い水準に放置する結果となっている。この影響は米ドルと為替をリンクさせていたASEAN諸国や韓国の経済をも直撃してきたのである。もっとも日本からの資金流出を止めることにはリスクが伴う。一つはこれに伴う円高による日本の輸出企業への打撃であり、これは85年や94年に経験した「円高不況」である。もう一つは、日本からの資金で支えられてきた米国を始めとした各国の経済である。米国経済については、日本からの資金の影響がどの程度あるのか、議論の分かれるところであるが、既に投資されている資金も日本へ逆流するとなれば少なからず影響があるはずである。ASEAN諸国や韓国への日本の資金の影響は大きい。さらに日本で調達された資金の一部が米国経由でこれらの地域に投資されていた。これら国々は既に「米ドルペッグ」を止め、高く推移している米ドルの影響はなくなったが、日本からの資金の流れが逆流した場合には衝撃は大きいはずである。
    これらのリスクを考えると、たしかに現在より円安になることはまずいが、と言っても資金の流出を止めることや、ましてや逆流させることは世界の経済にとって危険なことである。そして現在世界には大量の投機マネーが存在している。為替に動きがあれば、投機マネーが動き、為替の動きを実態以上に大きくすることが考えられる。このように為替に変動による調整は大きなリスクを伴うことになる。しかし筆者は、どこかで「円」が高くなり、為替調整をする局面が来ることは避け難いと考えている。とにかく日米両国がこれらのリスクを避け、経済運営を行なうには、本誌が一貫して主張して来たように「日本の財政政策による内需拡大」しか有効な手段がなかったのである。ところが政府はここ一年半の間これとは全く逆の政策を行なって来たのである。したがって「財政を再建させなければ、日本の将来はない」と財政の再建を急がせた政治家、官僚、エコノミストそしてマスコミの責任は重大である。
    貿易収支と輸入障壁の関係で誤解が世間ではまかり通っている。日本の輸入障壁が米国の対日貿易収支の赤字の原因とする考えである。貿易以外の資金の流れが大きくなっているので解りにくいが、これがなければ、為替は貿易収支だけで変動することになる。ある米国製品が輸入障壁となっている規制が撤廃され、日本に輸出されれば、これによって為替はその分「円安」となる。そして「円安」となれば日本からの輸出が増え、また米国からの日本への他の物の輸出は減ることになる。つまり、理論上は、為替が変動していれば、「輸入障壁となっている規制が撤廃」されても最終的には貿易収支に変動はないのである。したがって米国の日本への規制緩和の要請はむしろ極めて「政治的」意味合いが強いと理解している。
    ここからは、机上のアイディアである。現在の日本と米国の貿易収支のインバランスを大幅に改善する方法が一つだけある。それは日本が米国からアラスカ原油を輸入することである。アラスカ原油が国際価格で輸入できるなら、日本経済にとって悪影響はない。もちろんこれによって、日本の中東からの原油の輸入は減ることになる。しかし、米国も不足する原油を中東から輸入することになるので、世界全体では原油の需給に変化はない。そして少なくともこれによって日米二国間の貿易収支のインバランスは大幅に改善する。ところで、このアイディアは米国が拒否するであろう。アラスカ原油は米国とって事実上の戦略備蓄である。これを日本に輸出することは、米国の安全保障上の問題となる。さらにそれにより中東の原油に依存度を高めることも米国としては避けたいところであろう。しかし、このようなアイディアを検討することは、貿易の自由化が進んだ現在の世界では、貿易収支のインバランスを解決するには二国間だけの話合いだけでは無理であることを理解するには助けとなる。




98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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