経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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09/10/12(588号)
返済猶予法の原案

  • 企業の借入金
    モラトリアムの話を進める前に、企業の借入金について述べる。借入には長期と短期がある。長期は概ね設備投資資金であり、短期は運転資金である。通常、長期借入金は毎月返済される。返済には設備投資による利益と減価償却費が充てられる。

    一方、短期借入には、長期と同様、約定により毎月返済するものと、ずっと借換を続けるものがある。借換は、ロールオーバーとかコロガシと呼ばれ、毎月利息だけを払う。貸出は銀行にとって営業活動であり、むしろ昔は貸出額(借手にとって借入額)を維持することを銀行の方が求めた。銀行が長く付合いのある取引先に「利息さえ払っていただければ、元本の返済はけっこうです」というのが普通であった。


    日本の中小・零細企業は過小資本であり、銀行借入の借換は資本不足を補うものであった。借換が当り前と想っていた中小・零細企業は、これを自己資本とさえ見なしていた。借換の借入金はちょうど優先株による資金調達に似ている。配当金の代わりに利息を銀行に払っているような感じであった。

    ところが金融庁がこの借換を止めるよう指導し始めたのだ。約定を交し返済を受けなさいというのである。理由ははっきりしないが、おそらく「不健全」というのであろう。たしかに一部には今も借換が残っているが、条件が極めて厳しくなっていると聞く。中小・零細企業の企業の倒産が増えているが、不景気というだけでなく、金融庁のこの行政指導の影響もあると考える。

    また銀行の方も金融庁の指導に悪乗りし、積極的に借換を約定による返済借入に転換を進めているところがある。例えば保証協会の保証を受け借入を行った企業に対して、それを使ってロールオーバーになっていた旧債の返済を要求するのである。


    金融庁は銀行に対して自己資本を増やすよう指導しながら、中小・零細企業の準資本的存在である借換えによる借入をなくそうとしている。少なくとも今日までの金融庁は、自分の管轄の銀行の経営安定だけを考え、日本の中小・零細企業を潰して回ってきたようなものである。

    長期国債の利回りが低下し続けている。日銀の低金利政策もあるが、どうも銀行が国債をどんどん買っているようだ。まさに銀行が中小・零細企業から貸し剥がした金で国債を買っている形になる。これでは日銀がどれだけ金融緩和を行っても全く意味がない。


    さて9日に返済猶予(モラトリアム)法案、つまり「貸し渋り・貸しはがし対策法案」(仮称)の原案が公表された。ざっと見る限り本誌の想定に近いものになっている。ただはっきりしない点やまだ流動的な面がある。

    金融庁で決めることができる部分はほぼ確定的と考えて良い。一方、他省庁に関わる事項は今後詳細が詰められるものと考える。例えば政府による信用保証については経済産業省との折衝があるものと思われる。しかし原案は与党内の合意をある程度取付けていると思われ、大きな変更はないと考える。


  • 一度だけの措置
    原案に対する筆者の疑問点と留意事項をいくつか挙げる。まず返済猶予の指針は国が決めるが、個々の案件についてこれを認めるかどうかは融資を行っている金融機関(銀行)が判断する。原案では概ね10年程度で事業が再建できるところが対象になっているようだ。この判断を銀行が行うことになっており、後で取上げる財政負担との兼合いで、この辺りがグレーゾーンになると思われる。

    対象が中小企業等となっており、住宅ローンが含まれるかどうか明記されていない。しかし今日までの議論を見る限り住宅ローンも対象になると考える。ただ返済猶予対象の住宅ローンは、勤め先の倒産などで失職した場合を想定しているようである。しかし企業業績の急激な悪化によって、給与が大幅にカットされたり賞与がなくなった人々がいる。失職しないまでも、住宅ローンの返済に窮するこれらの人々まで対象を広げるかどうかが問題になろう。

    返済猶予(モラトリアム)は元本に加え金利も対象になるようである。ただ金利の減免はないようだ。今のところ妥当な線であろう。


    財政負担も想定されていると考えられる。もっとも財政負担がないのなら「金融庁の検査マニュアルの改正と運用のさらなる改善」だけで済む話である。法案を提出する以上、何らかの財政の負担があると考えて良い。

    しかし返済猶予債権に政府保証が付くとなれば、銀行は何でも返済猶予債権に持って行く可能性がある。当然、何らかの審査が必要になると考える。


    このように見てくると「貸し渋り・貸しはがし対策法案」(仮称)は銀行にとって良い事ばかりである。債務者の救済というより銀行の救済策に見える。不良化しそうな債権を返済猶予しても保証される。保証によって要管理債権(不良債権)から要注意債権に債務区分の変更ができれば、貸倒引当金の繰戻し益が発生する。したがって政府が銀行にある程度の負担を求めることも有りうると考える。例えば利息分については政府保証は行わないとかいったことである。


    返済猶予(モラトリアム)法案が国民に受け入れられるかどうかが問題になる。アンケートを採れば、半分くらいの人々は反対であろう。ただ反対者のうちかなりの人々は、いまだにこの法案を誤解していると思われる。これには当初のデタラメなマスコミ報道が影響していると考える。

    最初、マスコミは、政府の命令で全ての銀行借入に対して一律の返済猶予が行われるような報道を行っていた。しかしそんな事が有るはずがない。亀井金融担当相もそのような事は一言も言っていない。いかに日本のマスコミ人が、現場を知らず、また非常識かが分る。


    しかしいくら説明しても、反対する者がなくなるとは思われない。たしかに返済猶予というのは異常な処置である。ましてや返済猶予債務に国の保証を付けるなんて通常行わない政策である。

    そのような異常な政策を進めているという認識が必要である。原案も一年の時限立法になっている。日本の中小・零細企業を巡る金融情勢がそれほど悪くなっているのである。しかしそのことを全ての人々に理解してもらうのは無理な話である。国民の理解を得るには、せいぜい「今回限り」とか「一度だけの措置」ということを強調するくらいしかないと筆者は考える。



予想通り亀井大臣の返済猶予(モラトリアム)構想の評価が大きく変わっている。だいたい当初の批難は、構想の中味を知らないまま発せられたものである。またマスコミ人や経済評論家は、中小・零細企業や住宅ローンの実情をあまりにも知らなさ過ぎる。来週は、返済猶予(モラトリアム)が必要になった背景について述べる。

永住外国人に対する地方参政権の付与が話題になっている。亀井大臣は「地域によっては、日本人の方が少数民族になっているところがある」と連立与党に慎重な対応を求めている。筆者も国政への参政権より地方参政権の方が大きな問題が有ると考えている。



09/10/5(第587号)「モラトリアムのポイント」
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09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
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