経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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09/10/5(587号)
モラトリアムのポイント

  • モラトリアムの対象
    マスコミ報道では、亀井静香金融担当大臣の返済猶予(モラトリアム)構想は極めて評判が悪い。先週も亀井さんはサンデープロジェクト(テレビ朝日系)に出演し、コメンテータから袋叩きに遭っていた。しかし筆者は、まだ具体的なモラトリアムの姿が示されていないのに、批難だけが先行していることに異常さを感じる。

    日経、朝日、読売、毎日、産経の主要五紙も、モラトリアム構想を強く批難している。どう言うわけか産経の批難が凄まじい。しかし広告費の減少で各紙の経営も苦しいはずだ。貧乏神の日経もとうとう赤字に転落した。一、二年の間に、よもやこれらの新聞社は、金融機関に借入金の返済猶予(ADRの申請を含め)や追い貸しを求めることはないと筆者は信じているが。


    現在行われている中小企業に対する政府保証による銀行貸出や、亀井金融担当大臣のモラトリアムは概ね後ろ向きの政策である。筆者も資金的な救済だけでは、企業がいずれ行き詰まることを承知している。これらの政策は、あくまでもマクロ経済政策が効果を生むまでの繋ぎである。またこれの政策によって、追加のマクロ経済政策が忘れられることがあってはならない。

    ところが民主連立政権の次の経済対策が見えてこない。たしかに極端な在庫調整が終わって、設備の稼働率がアップしている。また前政権の財政政策(公共事業の前倒しや定額給付金など)の効果と外需によって、経済と株価が少し持直している。世間には不況の峠は越えたという雰囲気がある。

    しかし筆者は、一連の経済政策の効果も薄れ、日本経済はこれから再び厳しくなると見ている。また次の景気対策と言っても、手っ取り早く着手できる公共事業は前政権がやり尽くしている。大型公共投資も、八ッ場ダムの工事中止に見られるようにハードルが高くなっている。さらに民主党は、定額給付金のようなヘリコプターマネー的な政策も否定している。

    案外、返済猶予(モラトリアム)法案を成立させておいて、連立政権は助かったという事態も有りうると筆者は想っている。モラトリアム法案の骨格は10月9日あたりに明らかになる予定である。筆者はそれまでに返済猶予(モラトリアム)構想への評価が、ガラッと変わっていると思っている。


    さて先週号で挙げたポイントに沿って、返済猶予政策について述べる。まず対象範囲は、亀井氏の発言から中小・零細企業への融資金が対象になることははっきりしている。一方、住宅ローンについてはあまり触れられていない。亀井さんは中小・零細企業の経営者から窮状を訴えるFAXと手紙が殺到していると話している。中小・零細企業の融資がクローズアップされているのは、このようなことが影響していると思われる。特にリーマンショック以降、またミニバブル崩壊後、銀行の貸出姿勢が厳しくなったと見られる。

    しかし住宅ローンを抱えている人々も苦しくなっていると想像される。ただ住宅ローンの返済に窮している人々は、個人的な問題と考えがちで、自ら「苦しい」と声を上げない。広く給与やボーナスのカットが実施されている。また公務員の俸給の引下げも実施された。当然、住宅ローンの返済に窮している人々が急増していると思われる。

    筆者は、中小・零細企業の場合より、住宅ローンの方が融資として標準化されており、とっかかりやすいと考える。また住宅ローンの返済が猶予されたり減額された場合、回り回って消費が増える。例えば毎月12万円ずつ返済しているローンの返済額が7万円に減れば、5万円の余裕が生まれる。この5万円のうち60%が消費に回れば消費は3万円増える。つまり年間で36万円、もしこのような人が300万人いれば、1兆円の消費増となる。これは今年実施された定額給付金の経済効果に匹敵する。


  • 相互不信
    次のポイントは「法律を改正せずに実行できるもの」であり、具体的には「金融庁の検査マニュアルの改正と運用のさらなる改善」策の検討である。法律の改正が不要ということになれば、先行して実施が可能である。筆者は「検査マニュアルの改正と運用のさらなる改善」によるリスケも、モラトリアム政策の一つとして位置づけている。


    そもそもこのようなことに政治が介入せざるを得なくなった背景には、関係者の相互不信があると考える。金融庁は銀行の言う事を信じない。本来、貸倒処理すべき不良債権を隠し過大な利益を出したり配当を出したりして、責任を取るべき経営幹部が不当な高給を得ていると疑っている。まさに粉飾決算ではないかと疑っているのである。

    このような銀行には検査マニュアルを盾に厳しく対処すべきという雰囲気が、金融庁の担当者の中にはあると思われる。見方によっては今日の両者の相互不信は深刻であり、後日、ある事件を通じ改めてこれを取上げる。もし昔のように両者に相互不信というものがほとんどなかったら、今日のような金融の混乱もなかったと思う。


    銀行は融資先の中小・零細企業を信じない。特に複数の金融機関から借入れている相手には警戒心を持つ。他の金融機関には返済し、自分のところだけに返済の猶予を言って来ているのではないかと疑う。また経営者が本業以外で金を浪費しているのではないかと疑う。

    個人の住宅ローンの返済が滞った場合も、本当にまともな理由があるのか疑う。パチンコや競馬で金をすって住宅ローンを返せなくなっているのではないかと疑う。実際、銀行が疑っているようなケースが現実に有りうるのである。


    このような相互不信がある限り、返済猶予希望者の全部に一律の返済猶予は無理と考える。ある程度の信用の格付が必要になると考える。住宅ローンの場合は、最近返済が始まった者と20年の間に返済に支障がなかった者を同列には扱えない。

    つまり返済が進んだ融資に対しては、より長い返済期限の延長(リスケ)を銀行が認めるということは可能である。そしてこの限度内のリスケの場合、金融庁は債務区分を変更せず、貸倒引当金の積増しを銀行に求めないことが考えられる。またこの措置は中小・零細企業の長期借入金にも適用できる。


    三つ目の政府がモラトリアム実施に当って何らかの経済的負担を負うかどうかが重要なポイントとなる。筆者は、亀井大臣の発言から、政府が財政支援をすることを承知していると判断している。また銀行にもある程度の負担を求めることも有りうると考える。政府保証によって融資金の返済猶予を行うことは、銀行にとってもメリットは大きい(この点が誤解されている)ことを考えると、それほど無茶な要求ではない。

    現在の政府保証付きの銀行貸出枠30兆円も財政負担を想定している。貸倒比率を見積もり財政負担は予算化されている。返済猶予(モラトリアム)の対象金に対しても貸倒比率を想定し、金額を見積もることができる。ただ希望者がどれだけ出てくるか不明なので、やってみないと分らない面はある。また政府保証付き銀行貸出枠と同様、枠を設けることも考えられる。


    モラトリアムまで行わなくとも、現行の政府保証による貸出制度を拡充すれば良いではないかという意見がある。これには一利あるが、新規の借入はいやだが返済だけは待ってほしいという中小・零細企業がある。さらに今回は個人の住宅ローンも対象になる。

    筆者は、政府保証付きの銀行貸出制度を利用しているところより、今度のモラトリアム対象企業は信用力が劣るところが多いと見ている。実際、現行の政府保証付きの銀行貸出の審査で落ちたところも対象になる。したがって貸倒比率は大きくなることを覚悟しておく必要があると考える。


    モラトリアムの対象が元本だけなのか、あるいは利息まで含めるかが四つ目のポイントとして浮上している。亀井大臣は、利息まで含めることを想定し、さらに利息の減免まで言及している。一方、どうやら鳩山首相は元本までと考えているらしい。しかし筆者は両者がいずれ妥協点を見つけると楽観している。

    鳩山首相もずっと前から返済猶予(モラトリアム)を考えていたことがようやく報道されるようになった。両者はかなり前からこれについて話し合っているふしがある。当初、亀井大臣の独走とマスコミに叩かれたが、これはマスコミが何も取材せずに発した報道である。ちなみに先週号09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」でAさん達が3回も面会した政治家を取上げたが、これは鳩山由紀夫氏その人であった。



9日に連立与党の返済猶予(モラトリアム)構想の骨子が出来上がる。来週はこれを取上げる。また今週取上げた相互不信は政府と国民の間にもある。モラトリアムを実施するにあたりこれが障害になりうる。これに対する対処も来週述べる。



09/9/28(第586号)「モラトリアムの話」
09/9/21(第585号)「自民党のカルチャーの変化」
09/9/14(第584号)「自民党再生の道」
09/9/7(第583号)「一番の自民党敗因」
09/9/1(第582号)「09年総選挙の結果」
09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」
09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
07/10/15(第500号)「プライマリーバランスの話」
07/10/8(第499号)「不況下の物価上昇」
07/10/1(第498号)「新総理総裁の誕生」
07/9/24(第497号)「GDP統計の読み方」
07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」
07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
07/2/19(第470号)「今日の円安を考える」
07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
07/1/29(第467号)「日本の財界人の自信」
07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
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