経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


来週から2週間、夏休みで休刊します

09/8/10(581号)
総選挙と国債増発

  • 財源問題
    自民党は、民主党の選挙マニフェストを、財源を明確にしない無責任なものと酷評している。その点自民党のマニフェストは、「景気回復後に消費税増税を行う」と明記していると胸を張っている。しかし多くのメディアから、自民党政権こそ膨大な債務を作ってきたではないかと指摘され顰蹙をかっている。

    また自民党の言う「景気回復」とは、経済がどの程度の状態になったことを指すのかはっきり分らない。少なくともバブル崩壊後、日本国民の全体が景気が回復したと感じたことは一度もなかった(一部の大手輸出企業やミニバブルで恩恵を受けた不動産業界を除けば)。

    自民党の「10年後に一世帯の可処分所得を100万円増やす」という公約も酷い。当然、100万円増やすための具体的な手段を示すべきであるが、それが「経済成長の実現」では話にならない。もしこのような公約がまかり通るのなら、他の党は「うちは200万円増やす」と言えば良い。


    選挙マニフェストではこの「財源」が一番の問題になっている。そこで今週号は主にこの財源問題を取上げる。自民党はこれで民主党を攻めるが、自民党の方も曖昧である。両党ともいわゆる「バラマキ」が目立つ。選挙だから仕方がないという見方がある反面、これを財政に対する考えが日本の政治家の間で変わってきた兆しと筆者は捉えている。

    筆者は、財政再建論者の勢いが、一頃に比べ衰えているという印象を持つ。あれだけ騒いでいた「2011年までにプライマリーバランスの回復」という教条的スローガンが、いとも簡単に引込められた。バランスの回復は2020年までで良いということになった。


    世界同時不況後、「日本の財政は危機的状態であり、直に財政再建に取りかからなければ、財政は破綻する」という例の嘘話をとんと聞かなくなった。だいたい05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」で述べたように、筆者は日本の財政危機は虚構であると言ってきた。特に第390号で日本の財政が危機ではないことを知りながら、色々な都合で「危機」と言っている人々がいることを指摘した。

    たしかに日本の公的債務は額としては大きいが、一方、日本には過剰な貯蓄が存在する。したがって経済の循環を考えると財政を赤字にせざるを得ないのである。財政赤字は大きいと言われているが、筆者に言わせればこれでも赤字額が小さ過ぎるのである。このため日本経済はずっとデフレ状態から脱却できないのである。


    これは何回も言ってきたが、本当に日本の財政が危機ならば、日本の国債が買われるはずがない。また金利がこんなに低い水準で推移するはずがない。しかも日本の国債のほとんどを買っているのは国内の主体である。日本の巨額の過剰貯蓄を考えれば、当然と言えば当然である。


    民主党のマニフェストでは、一方で無駄な財政支出を削減して財源を捻出すると言っているが、これだけではとても足りるはずがない。どうしても暗黙のうちに国債の増発を想定していると見なされる。選挙だからこのことに触れないだけである。しかし今日の日本の経済状態では、筆者は「バラマキ」の内訳を別にして、国債を増発しても財政支出を大きくすることには大賛成である。


  • 報道ステーションの星氏
    自・公連立と民主党のどちらが総選挙に勝っても、国債の増発が避けられないことはコンセンサスになりつつある。しかし筆者は、仮に国債増発となっても、国内に巨額の過剰貯蓄があり問題はないと思っている。また仮に長期金利が問題になるほど上昇する場面があれば、日銀の国債買い切りオペ額を増やせば良いと考える。

    ところが総選挙後の政策を念頭に、また財政赤字問題がテーマに浮上する気配が出てきた。これまで大人しくしていると思っていた財政再建論者が、また騒ぎ出す様相を見せているのである。


    先日の朝日テレビ系の報道ステーションで、民主党政権ができた時の財政運営が話題になっていた。やはり日本のメディアは、民主党政権が国債発行を増やすことを見越しているようだ。この時の解説は朝日新聞の星氏であった。ところがこの星氏の話がデタラメなのには筆者も驚いた。

    彼は「国の債務は800兆円あり、仮に長期金利が3%に上昇すれば金利だけで年間24兆円になる。こうなっては一般の歳出を相当削らなければならなくなる。」と言ってのけた。テレビだから話を単純にすることは仕方がない。しかし単純化するといっても、事実とかけ離れたことを言うのは問題である。


    まず金利負担を問題にするなら、政府が持つ金融資産を差引いたところの純債務を使うべきである。特に日本の場合、政府は膨大な金融資産を持っている。つまり実質的な金利負担額はこの純債務を基に算出すべきである。ちなみに04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」で述べたように、日本の名目GDP純債務比率は他の先進各国と遜色はない。

    星氏の話の中で一番の問題は3%という長期金利である。彼は簡単に長期金利が3%になるという前提で話をしている。しかしこれは酷い誤魔化しである。たしかに国債の増発は、国債の価格の下落、つまり長期金利の上昇の要因になる。

    ところがずっと日本では国債の残高が増え続けているが、一方で過剰貯蓄も増えているため、長期金利はむしろ下がり気味である。10年前の小渕政権の頃に1.8%であった長期金利は、今日、1.4%台である。2003年には一時期1%を切ったこともある。つまり国債残高は一貫して増えているが、金利は上昇しないのである。

    むしろ筆者は、投資や消費が増えて経済活動が活発になった結果、長期金利が3%に上昇する状況が好ましいとさえ考える。しかし残念ながら今日の日本にはそのような資金需要がないのである。金利が上昇することより、経済活動が停滞していることの方が問題である。

    いずれにしても星氏の金利が3%になるという話はちょっと有り得ない。また仮に金利が3%になるという状況では、景気が超過熱になっているはずである。その時は反対に財政支出を少し削減すれば良いのである。


    ヘッジファンドの資金が再び日本に流入して来る気配がある。リーマンショック後、ヘッジファンドは解約が続き資金が底をついた。ところが最近になってまたヘッジファンドに資金が集まるようになった。問題はその資金の行方である。

    外国人の日本株の売越しがずっと続いていたが、3週間前から買越しに転じた。買越し額はここ3週間で約1兆円程度と見られる。この中にはヘッジファンドの買いもある。


    筆者が注目しているのはヘッジファンドの株式以外での運用である。例えば総選挙後の財政支出増大による国債増発を見越した資金運用である。前述の通り国債増発は国債価格の下落要因である。その前にヘッジファンドが国債(国債の先物)を売ってくるのでないかと危惧されるのである。これに内外の投機資金が加われば、長期金利の急上昇という場面も有りうる。

    筆者は星氏の話はばかげていると説明してきた。しかしこのような話が広まり信じる人が増えれば、これに乗じて一儲けを企む人々も出てくるのである。考えられる一つのシナリオは、株式売り(今日の買いから一転して売りに変わる)と国債売りである。国債売りによって金利が上昇し円高になる。円高になって株式が下落した後に株式の買戻しである。また国債も頃合いを見て買戻すといった具合だ。当分の間、長期金利の動きを注視する必要があると思っている。



今週は自民党と民主党の問題点を取上げる予定であったが、これは総選挙後に延期する。来週から2週間夏休みで、本誌は休刊である。次回号は、総選挙の結果を取上げるため、9月1日あたりの発行を予定している。



09/8/3(第580号)「自民党の問題点」
09/7/27(第579号)「苦戦の自民党」
09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
07/10/15(第500号)「プライマリーバランスの話」
07/10/8(第499号)「不況下の物価上昇」
07/10/1(第498号)「新総理総裁の誕生」
07/9/24(第497号)「GDP統計の読み方」
07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」
07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
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07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
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