平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/3/23(第58号)


新日銀総裁の就任を考える
  • 日銀の独立性
    今週は「日銀の独立性」について考えたい。このテーマについては、8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」でも述べたが、日銀の新総裁も交代するこの機会を捉え、「日銀の独立性」について前回の補足として述べたい。
    中央銀行が独立し、行動することについて世間ではそれを当り前と考えている。4月に施行される「改正日銀法」も日銀の独立性を強めることが主眼となっている。外国を見ても、英国のように中央銀行の独立性を強めることがあたかも「世界の潮流」になっているかのようである。ではなぜ中央銀行が独立していなければならないかが問題となってくる。一般的には、中央銀行が独立して行動し、「通貨の安定」を確保することが国民生活にとって大事であると考えられている。これの暗黙の前提としては、「政府はややもすれば、国民に迎合しやすく、財政支出を増大させ、これが経済をインフレに陥らせる」あるいは「政府は軍事力の止めどもない拡張」を行ない易く、これらをチェックするのが中央銀行の働きと考えられていることである。そして中央銀行はいつも決して間違わないと言うことも前提になっているようだ。ところで筆者は通常「定義があいまい」と言うことで「インフレ」と言う言葉は使わないが、ここではあえてこの言葉を使用する。ここで「インフレ」とは通貨膨張、つまり通貨の大量発行により、結果的に物価の上昇を招く現象ととらえる。
    政府が財源を国債に依存し、財政支出を増やす時、その国債を誰が引き受けるかが問題となってくる。もしこれが市中で消化されるのなら、筆者は特に問題はないと考える。これに対してこれは政府の非効率化を招くと言う意見がある。しかし、問題を「インフレ」に絞ることにすれば、政府の非効率化の議論は一応ここでは別次元の問題であり、これはまた別の機会に述べたい。一方、発行された国債が全て中央銀行が引き受けるケースが考えられる。この場合にはそれに見合う通貨が新たに発行されることになる。そのよう事態になる原因は、色々な理由で民間が国債を引き受けられないことである。そしてこの場合は典型的な「インフレ」が起こることになる。つまり一国の生産物が変わらないのに、通貨量だけが増えるため物価がそれに応じ上昇する。中央銀行がどんどん紙幣を印刷し、政府の財政を賄えば、このような「インフレ」が日常化する。一頃のロシア、中南米や戦前のドイツに見られた現象である。日本も終戦直後に同じ様な「インフレ」を経験した。なお、ここで日本における高度成長期における物価上昇はこれとは異なることを一応断わっておく。
    「インフレ」を広く世間では悪いことと考えている。しかし、筆者は、世界的に見ると、国によって一口に「悪い」と言っても、その程度に違いがあると思われる。そしてこの違いが、その国の中央銀行のあり方に影響を与えていると考えられる。典型的なのがドイツである。ドイツは「インフレ」に極めて神経質である。そのせいもあってか、中央銀行は力が強く、独立性が強い。ときには独善的で、頑固に思われる。そして国際的に協調性が欠けるその行動は国際的問題の原因ともなる。米国の株式が大幅に下落した「ブラックマンデー」のきっかけは、ドイツの国際協調を軽視した高金利政策であった。一方、「インフレ」経済がなかば常態化している国々もある。典型的なのは中南米諸国である。これらの国々は「インフレ」に慣れているかのような印象を受ける。国民自体が「インフレ」に慣れており、巧みに持ち金をドルに変えたりして生活の防衛を行なっている。
    これらの国では、ドイツなら革命が起こってもしょうがないような「インフレ」の状態でも、結構なんとなく生活は成り立っているのである。筆者は、これらの両者の「インフレ」への対応の違いの多くは、両者の「国民気質」の違いに根差していると考えている。生真面目なドイツ人に対する、柔軟性に富むラテン系民族の気質の違いがが現われていると思われる。そしてラテン系民族にとって「インフレ」はあまりにも当り前の現象なのかもしれない。
    筆者は、世間の常識に反し、どうしても物価の安定が景気の低迷を伴うなら、ある程度のゆるやかなインフレの方に賛成する。国民を労働者と金利生活者に分けたとき、物価はある程度上昇するが、給与所得がそれ以上増えるような経済の方が労働者にとって良いのではないか思われる。そしてこの場合には物価上昇率が多少なりとも金利を上回る状態の方がむしろ健全と考えられる。日本の経済状態はこれに反した状況が長らく続いている。たしかに日本の金利は低いが、物価上昇率はマイナスに転じているのである。これでは働いている者より、金利で生活している者の方が有利である。実際、消費者金融のように資金の出し手は空前の好決算である。反対に資金を借り投資を行なってきた企業や、ローンを借りて住宅を建てた人々は、その返済に苦しんでいる。なぜこのようなことを問題にするかと言えば、最近「景気対策」として「公定歩合を上げろ」と主張する人々が増えて来たからである。筆者から見れば、極めてバカバカしい意見であるが、日銀の総裁交代を期にまたこのような主張が強まる危惧があるからである。
    また、筆者は中央銀行の独立性の必要性をあまり感じない。逆に中央銀行は政府の経済政策の中で行動すべきと考える。特に日本のように低い物価上昇率が続く国では、どうしても通貨の安定を第一義に考え、金利を高くすることを指向しがちな中央銀行である日銀が、自分達の考えに固執してもらっては困るのである。特に今日の日本は国際的な政策協調が要請されており、それを念頭に置いた政府の政策と日銀の行動に矛盾があってはまずい。筆者は「日銀の独立性」より、政府の経済政策の一貫性の方が日本経済よりずっと重要と考えるのである。そして現在のような政策協調が求められる国際経済においては、ドイツの中央銀行のようなあり方が理想とはとても考えない。

  • 日銀の新総裁
    日銀の総裁が任期なかばで交代する。原因は大蔵省に続いて、職員の不祥事である。これらについて、現在明らかなっている事以外で、さらに世間の耳目を集める事柄が今後出てくる可能性もあるが、その追及は「週刊誌」などの他のメディアにまかせたい。本誌ではもっと経済に係わる面で今回の総裁交代を考えたい。
    新総裁の金融政策に対する考えは、今のところはっき分からないが、現在の低金利政策を取り敢えず継続すると言うことなので、当面経済に影響を与える政策変更はないと考えたい。また、報道によれば新総裁の一番の仕事は日銀の内部体制の立て直しと言うことである。ただ、筆者が関心あるのは、新総裁の速水氏が経済同友会の代表幹事の時の言動である。当時の円高の状況下において、速水氏は「円高容認論」を主張し、産業界から顰蹙をかった。そもそも経済同友会自体が、財界の団体の中でも一番「観念論者」が集まっているところである。ただ、速水氏については、特に出身の日銀の信条に固く縛られているとも考えられるのである。日銀にとって一番大切なことは「円の価値の維持」であり、そのためには多少国民経済や国際社会の中の日本の立場が犠牲になってもかまわないと言う考えが根本にある。「円高」はこの「円の価値の維持」にとってプラスである。たしかに「円高」は産業界には試練を与えることによって、日本の企業の競争力を強くする働きをしたことを否定できないが、それによって犠牲となった者も大勢いたことも事実である。
    経済同友会は観念論者の集りである。政府と経済の関係では、「小さな政府」が全てを解決すると言う考えである。また金丸元副総理の汚職に端を発した政治の混乱時には、「政治改革」を一番強く主張していた団体でもある。観念論者は問題が起こると、それはシステムに問題があるからと考え、そのためには「改革」が必要と短絡に考えるのである。筆者には、それ以降の実施された「小選挙区制」が決して良いものとは考えられない。また、癒着から起こる汚職はどのようなシステムでも起こりうるものであり、選挙制度を変えたらなくなるようなものではないと考えている。筆者はむしろこれらの解決には「政治家の職務権限を広くとらえる」ような法改正とか「罰則の強化」の方が有効と考えている。そして当時のこのような観念論者のリードした政治的混乱がバブル崩壊後の経済立て直しの機会を失した大きな原因と考えているくらいである。
    当時、速水氏は「政治改革」に消極的と自民党を非難していたが、これが自民党の反発を招き、速水氏がこれに「わび」を入れることで一件落着となった。その速水氏を政府自民党が日銀の新総裁に任命するのであるから不思議なことである。世間では新総裁の年齢が高いことが心配としているが、筆者は、今後新総裁の「小さな政府」主義的行動や日銀至上主義的行動が問題となるのではないかと注視している。
    筆者は、中央銀行は政府の経済政策と整合性を持った行動をすべきと考えている。物価は現在、現在超安定的に推移している。むしろ今は景気の回復が必要であり、日銀の行動の選択肢も限られている。却ってここで日銀の独立性を強調し、勝手な政策を採られては困るのである。世間には「日銀の独立性」が大事と考える人々が実に多いが、その根拠を適切に説明する者はほとんどいない。そして、物価上昇率がマイナスの日本で、「日銀の独立性」だけが強調されては却って危険である。「日銀の独立性」を強調する人々は日銀マンは決して間違ったことは起こさないとか、日銀は日本経済を完全に把握していると考えているのであろうか。また、今回の「改正日銀法」では総裁の任命権は内閣にあるが、解任権がない。つまり、新総裁が独走しても誰もそれを止める手段がないのである。日本における色々な法的地位にはそのチェック手段が用意されている。例えば政治家には選挙や内閣不信案があり、最高裁判事には国民投票がある。公務員の最終人事権者として担当大臣がいる。株式会社の経営者も株主総会や取締役会のチェックを受けることになっている。その意味で今回の「改正日銀法」は異常である。「日銀の独立性」を主張する観念論者は、今回の「改正日銀法」はバブルの生成を反省してと言っているが説得力がない。筆者は、現在の日本経済の現状を考えるならなぜ「日銀法」の改正を急いで行なわなければならなかったのか、全く理解できない。また、これについては後日に述べるが、バブルの生成についてはもっと他の要素を考える必要がある。今は、今回の「改正日銀法」が裏目にでないことを願うだけである。




98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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