経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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09/7/27(579号)
苦戦の自民党

  • 地方の切捨て
    衆議院が解散し総選挙は8月30日に行われる。世間の予想が本当なら、自民党は相当負けそうである。公明党との合計で過半数を確保することが難しいだけでなく、自民党の議席数は民主党に抜かれるという話も出ている。自民党は初めて第二党に転落する可能性があるのだ。

    もっとも選挙まで一ヶ月もあり、形勢が大きく変わることも考えられる。ともあれ自民党にとって苦しい戦いになることは間違いないであろう。


    そこで今週は自民党が苦戦する要因を挙げてみる。まず地方の選挙区で自民党が勝てなくなっていることが指摘できる。この傾向はかなり前から出ている。2年前の参議院選挙で一人区(一人区のほとんどは地方)は29あったが、自民党が勝ったのはわずか6選挙区だけであった。

    自民党が地方で強いというイメージは完全に過去のものになった。小泉構造改革路線が定着して以降、地方の人々が自民党に投票する意味がなくなったのである。もっとも考えてみれば、自民党の方から地方を切ってきたと言える。


    以前、自民党は地方で圧倒的に強かったが、都会では民主党にかなわなかった。都会で民主党に勝つため、自民党は民主党をまねて構造改革路線に転換した。長期的に政権を維持するため、国会議員の定数が減り続ける地方から都会に軸足を移したのである。

    もし地方の選挙区が本当に大事なら、「三位一体の改革」「継続的な公共投資の削減」などは絶対にやらない政策である。自民党は地方を捨てても都市部で議席を確保できれば良いと考えたのであろう。実際、05年の郵政選挙では、自民党は東京のほとんどの小選挙区で勝った。


    しかし地方につらい政策は、決して都会の人々にとってもメリットのあるものではなかった。構造改革時代、毎年大きな利益を得たのは大手の輸出企業とその周辺だけであった。そして米国のサブプライムローン問題に端を発した世界不況は日本の都市部も直撃した。まるで今の自民党は地方と都会の両方を敵にまわしているようなものである。

    自民党が顔を都会に向けた隙に、一方の民主党は地方に食込んだ。民主党は「農家の所得補償」など地方を向いた政策を打出すようになった。また「生活重視」のスローガンに見られるように、明らかに民主党は構造改革路線からの転換を図っている。また外向面においても、テロ特措法を容認するといった現実路線に民主党はさっさと転換した。


    本来、自民党が積極財政を唱え、民主党は構造改革を指向する政党であった。例えば民主党前代表の小沢一郎氏は、かって正真正銘の新保守主義者であり、政治信条は「自己責任」と「構造改革」であった。ところがいつのまにか積極財政派に転向していたのである。

    しかしその徴候は前からあった。小渕自民党が小沢氏率いる自由党と連立政権を組んだ時、自由党の方が自民党より景気対策に大胆な政策を打出していた。むしろ構造改革・財政再建派の政治家や官僚にがんじがらめになっていた小渕自民党の方が、ケチくさい経済対策を主張していた。積極財政とみなされていた小渕政権でもこうであったのである。


  • 「民主党に一度やってもらおう」という声
    構造改革政策の一つとして市町村の合併が推進された。地方の市町村を財政的に追い詰め、合併に追込んでいった。合併を行えば、特例の地方債の発行を認めるというものである。合併の結果、地方の市町村議会の議員が大幅に減った。

    しかしこれまで国勢選挙では、市町村議会の議員は自民党の立候補者の手足となって集票活動を行ってきた。この市町村議会の議員の数が減ったのである。自民党はこのことを承知で「平成の大合併」を容認してきたのである。選挙の実働部隊が弱くなっても、この構造改革路線は選挙民から支持されると踏んだのであろう。しかし「平成の大合併」を評価して、自民党に投票をしようという者はほとんどいないと見られる。むしろ集票活動における戦力低下の痛手の方が大きいと思われる。


    これはよく言われていることであるが、かなりの人々は「自民党が政権与党」だから自民党を支持してきた。「この代議士はどうかな」と怪訝に思っていても、自民党が政権党だから投票してきたのである。ところが今回の総選挙で自民党が野党に転落すると予想されている。この「野党転落予想」自体が自民党にとって大きな逆風になる。

    このような人々にとって、野党に転落する自民党には用はない。時に中選挙区制から小選挙区制に移行した際、不本意ながら別の自民党議員から支持する候補者を変えざるを得なかった者は簡単に離れて行く。つまり自民党が劣勢という予想が、さらに自民党を劣勢にするのである。


    また野党転落が予想される自民党に、公明党が本気になって選挙協力するとは思われない。だいたい07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」で指摘したように、公明党自体の集票力がかなり落ちていると感じられる。したがって今回の総選挙においては、公明党の自民党立候補者に対する「選挙区は私に、比例区は公明党に」という例のバータ票の要求は一段と強まると見られる。しかしこれによって自民党の比例票はさらに減少することになる。

    投票率も気になる。前回の郵政選挙を越えるかどうかである。都議会選の様子を見ていると、筆者は今度の総選挙の投票率はかなり高くなると予想している。そうなれば公明票の威力もそれだけ低下する。このように公明党の選挙協力は自民党にとって頼りのないものになると思われる。


    衆参のねじれ現象も自民党にとって不利な材料である。07年の参議院選で自民党は大敗し、ねじれ現象の解消は絶望的になった。また来年の参議院選でも自民党が苦戦することが容易に予想される。したがってもし今度の総選挙で与党が勝てば、このねじれ現象が半永久的に続くことになる。

    ねじれ現象によって国会運営がスムースに運ばないことに国民はかなり辟易としている。自民と民主の大連立を望む声が大きいのもこの反映と考える。しかし小選挙区制においての大連立は非現実的である。そうなれば政策の善し悪しを別にして、民主党を中心にした野党に政権を委ねる方が良いという気分に国民はなっていると思われる。「民主党に一度やってもらおう」という声が結構大きいのもうなづける。


    ここまで自民党が苦戦する要因を挙げてきた。それでは自民党にとって有利な材料が全くないのかということになる。少なくとも筆者には思い当たるものはほとんどない。強いて挙げれば、日本の株価が少し持直していることぐらいである。



来週は、自民党と民主党の問題点を取上げる。



09/7/20(第578号)「米国経済の正念場」
09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
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08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
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08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
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08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
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