経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




09/7/20(578号)
米国経済の正念場

  • 米国経済の現状
    今週は日本経済に影響がある米国経済の現状と動向について述べる。サブプライムローン問題が表面化してからほぼ3年が経ち、リーマンショックから10ヶ月が経過した。米国経済も最悪期を過ぎたという印象がある。

    FRBは異例の低金利政策を実施した。オバマ政権も7,000億ドルの景気対策を実施した。少なくとも大手金融機関の新たな破綻はなかろうと認識されるようになった。

    たしかに消費者信頼指数など心理面の指数は、水準は低いが順調に回復している。米国のGDPも近々プラスになる見通しである。NYダウも3月の最安値から2割程度上昇している。これらを見ていると、米国経済は順調に回復しているように感じられるであろう。


    しかし一方、良くなっていない経済数値も多い。まず雇用関連の数字の悪化が目立つ。失業率は悪化を続け6月には9.5%になった。

    リーマンショック後、急激に非農業部門の雇用者数が減少した。ただ1月の74.1万人減をピークに、2月68.1万人減、3月69.6万人減、4月53.9万人減、そして5月は34.5万人減と減少幅はしだいに小さくなっていた。ところが6月は46.7万人減と再び減少幅が大きくなった。ただ6月については、米国の記録的な長雨の影響と期間限定の臨時政府統計員の失職という特殊要因があった。しかしこれらの特殊要因を考慮しても、米国の雇用状況は足踏状態と言える。通常、雇用の回復は景気に対して遅効的ではあるが、それにしてももたつきが目立つ。このままでは雇用なき景気回復という事態も有りうる。


    雇用と並んで弱いのは住宅関連である。米国の住宅不況は2007年辺りから始まっている。それでも07年は135.5万戸の住宅が建築された。

    酷くなったのは、やはりリーマンショック前後からである。年率換算で80万戸程度に減り、さらに今年に入ってからは40万戸台、50万戸台で推移している。ピークの05年の206.8万戸がバブルとしても、米国なら150万戸程度の住宅が建築されて普通であろう。

    人口が米国の半分以下で同様に住宅不況といわれる日本でさえ、米国の倍の住宅が建設されている。ちなみに日本の08年の新築住宅着工件数は103.9万戸であった(09年は80万戸程度に減りそうであるが)。いかに米国の住宅不況が深刻かが分る。


    自動車の売上も酷い。今年に入ってからずっと、年率換算で1,000万台を切っている。これもリーマンショック以降急減している。ただ今月の24日から新車購入に補助金が出る。これがどの程度の効果があるか見物である。

    このままでは09年の自動車売上は950〜1,000万台といったところであろう(これに補助金の効果がプラスされる)。ちなみに自動車売上のピークは、これも2005年であり、1,694万台であった。ピーク時から4割以上の減少である。

    ここまでの経済数値を見ていると、米国の実態は依然低迷しているのである。近くGDP成長率がプラスになると言っても、輸入が大きく減っているからである。これは米国の不況による数量減と原油などの一次産品の価格が対前年比で下落しているからである。オバマ政権の景気対策は景気の下支えになっているが、景気を回復させるまでには至っていないと言える。かろうじて景気回復のきざしが見えるのは、多国籍企業とウォール街の一部だけのようだ。


  • 下落を続ける資産価格
    米国の不良債権問題は一段落したかの印象があるが、実態はまだまだである。例えば住宅ローンの延滞率は悪化を続けている。08年12月の延滞率は7.88%であったが09年3月は9.12%と悪くなっている。サブプライムローンの延滞率が大きくなっているだけでなく(24.95%と3.07%上昇)、プライムローンの延滞率も6.06%と1%上昇している。

    ここまで住宅ローンの不良化が目立てば、ローンを提供する側も身構える。ローンの審査が一段と厳しくなっており、住宅だけでなく自動車の購入にも影響が出ている。前段の述べたように雇用環境が良くなっていないので、ローンの延滞率は今後さらに上昇し、不良化も進むと思われる。


    08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」で「ゴールドマン・サックスは、企業向け融資や自動車ローンが今年の1〜3月、カードローンが同年4〜6月、商業用不動産ローンが同年10年10〜12月にそれぞれ損失のピークを向えると予想している。」と述べた。つまり商業用不動産ローンの損失などはこれからピークを迎えることになる。


    これに関連し、筆者が注目しているのは住宅などの資産価格の動向である。これがなかなか下げ止まらない。4月のケース・シラー指数は対前年同月比で18.0%(10都市)の下落であった。3月が18.6%だったから、若干下落ピッチが緩和されている。ケース・シラー指数は最悪期の19%台から少しずつ良くなっている。しかし良化のテンポは極めて緩やかである。

    商業用不動産バブルの崩壊は、住宅バブル崩壊より一年ほど遅れて始まった。商業用不動産価格の下落の最悪期はこれからである。住宅や商業用不動産の価格の下落が続いている限り、金利がどれだけ低くなっても、新たに住宅やビルを建築しようとする者は現われない。また担保資産の価値が目減りするのでリスクが大きくなり、金融機関は貸出の審査を厳しくする。


    大手金融機関の4〜6月の決算が公表されている。ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースの投資銀行部門は好調である。株式市場の回復が寄与している。しかしやはり商業不動産ローンや商業銀行部門の貸倒が依然大きい。住宅や商業用不動産の価格下落がこれには反映している。

    資産価格が安定しない限り実物投資は増えない。今は金融緩和による資金が株式や商品に回っているだけである。資産価格が急落している時には、なかなか有効な対策はない。資産価格の下落ピッチがもっと穏やかになれば、米国にはそろそろ次の経済対策が期待される。


    米国の場合、連邦政府と州政府が一体となって経済対策を行うことが難しい。ほとんどの州は財政均衡法を採用しており、赤字財政による景気対策は無理である。むしろ税収の減少を埋めるための増税が検討されている。ニューヨークでは地下鉄の料金が値上げされたほどである。

    連邦政府は州政府の財政のために1.350億ドルを支出した。これによってやっと予算を組めた州がいくつもあるほどである。一方連邦政府は、公共投資を決めたが、ちょっと前まで工事はほとんど実施されていない。そもそも公共投資は州政府が行うもので、連邦政府はこれまで公共投資というものに関わってこなかったのである。このようにオバマ政権の景気対策はちぐはぐな面が目立つ。

    資産価格の安定と雇用確保のために、追加経済対策による実体経済の底上げが求められるところである。ところがガイトナー財務長官は「当面、これまでの景気対策の成果を見守る」と追加政策には消極的である。日本で見られたように、経済状態がちょっと良くなると「景気はもう良い、次は財政再建だ」といった無責任な発言が米国でも幅をきかすのか注目される。



今週号は筆者の都合でアップを早めた。来週は予定されている選挙と政界の混乱を取上げる。



09/7/13(第577号)「選挙マニフェストの話」
09/7/6(第576号)「日本郵政問題の結末」
09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
07/10/15(第500号)「プライマリーバランスの話」
07/10/8(第499号)「不況下の物価上昇」
07/10/1(第498号)「新総理総裁の誕生」
07/9/24(第497号)「GDP統計の読み方」
07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」
07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
07/2/19(第470号)「今日の円安を考える」
07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
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07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
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07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
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