経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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09/7/6(576号)
日本郵政問題の結末

  • 日本郵政の利益
    6月29日の株主総会で取締役全員が再任され、日本郵政の人事問題は一応決着した。ただかんぽの宿などの売却を実質的に取り仕切ってきた横山邦男専務執行役など(チーム西川)は失脚する予定である。一見、郵政改革を推進してきた勢力と、それに反対してきた者達の間の痛み分け的決着である。しかし筆者は、これで「一件落着」とは行かないと見ている。

    まず西川善文社長だけでなく、横山専務執行役なども民主党、社民党、国民新党の野党三党の有志議員から特別背任未遂罪で刑事告発されている。またかんぽの宿に止まらず、他の郵政施設の売却も問題になろうとしている。例えば住宅会社への土地・建物の売却などである。

    さらにゆうちょ銀行のカード事業の業務委託先が問題になる可能性がある。わずか2%のシェアーしかなかった三井住友カードに、今日、ほとんどの業務が委託されている。ちなみにゆうちょ銀行には常務執行役として宇野輝氏(住友銀行、三井住友カード出身)という人物がいる。これもいずれ追求されるであろう。


    衆議院選挙が近付いている。今回の総選挙で政権が交代する可能性がある。民主党、社民党、国民新党の野党三党は西川社長の退任を明言しており、もし政権交代となれば西川氏が現職に止まることが難しくなる。

    ただ民主党には、自民党の構造改革派に通じる人々がいて、物事はそう単純には進まないことも有りうる。とにかく郵政を巡る攻防は、構造改革派と保守派の決戦場になると思われる。いずれにしても日本郵政問題は「もう一山」来るものと見ている。


    構造改革派は、さかんに西川体制によって日本郵政の利益が増えたことを強調し、今の体制の維持を訴えている。しかし利益が増えた中味については触れようとしない。また利益が出ているといっても4,500億円程度である。

    日本郵政はゆうちょ銀行やかんぽ生命などを傘下に持つ持ち株会社である。ところでかんぽ生命には保険金の不払い問題がある。これを損失に計上すればとても配当できる状況にない。ところがかんぽ生命は日本郵政に配当を行っている。これも西川氏の日本郵政の利益を大きく見せるための小細工の一つであろう。

    また郵政事業が民営化になって最初に行ったことの一つが振込手数料の値上げである。こんな風に利用者の負担を増やすことによって、利益を増加させることなんて誰でもできることである。また不採算の簡易郵便局の閉鎖もかなり行っている。民間企業だから不採算部門を切るのは当然と言いたいのであろう。しかしこのようなことは利用者にとっては不利益となる。


    公益事業全般に言えるが、不採算部門を切り捨てるなら、事業が黒字になるのは当り前のことである。事業の合理化は必要であるが、それを不採算部門の切捨てで行うのは問題である。むしろ公益事業に期待されるのは、儲かっている部門の利益で不採算の部門の事業を維持することである。公益事業に独占的な経営が許されているとしたなら、不採算の部門の事業をなんとか継続することが前提である。

    西川社長は郵政事業の株式の公開に異常にこだわっている。しかし株式の公開を希望する国民はほとんどいないと思われる。民間の経営感覚を取入れることには賛成しても、株式を公開して完全な民間企業になることは誰も期待していない。むしろ株式の新規公開に巨大の利権が発生することを、ほとんどの国民が気付いているはずである。


  • プーチンになれない麻生首相
    麻生首相の発言で筆者が一番驚いたのは「私は郵政民営化に元々反対であった。小泉首相を除き自民党の中で賛成していた者はいなかったであろう。」である。しかしこの発言は一時話題になったが、それほど問題にはならなかった。このような事は皆が薄々気付いていたからであろう。それでは05年の郵政選挙のバカ騒ぎは何であったんだろうということになる。

    今日、麻生首相を始め、麻生政権を支えている面々のほとんどは小泉政権でも要職に就いていた。つまり麻生首相と同様に「郵政民営化をばかばかしい」と思いながら小泉首相に平伏していたことになる。つまり政治家としての出世のために、本心を隠しながら小泉政権を支えていたことになる。したがって西川郵政の酷い状況が明るみになっていながら、西川体制を擁護せざるを得ない立場にある。


    小泉政権を支えてきたものに先週号で触れた大手マスコミがある。前回の郵政選挙では、日本の大手マスコミは、明らかに小泉政権を応援していた。テレビに登場する政治解説者は「小泉さんは、小泉さんは」と「ごますり発言」の連発であった。

    一方、大手マスコミは郵政改革に反対する政治家には「造反者」のレッテルを貼った。05/9/26(第406号)「大谷氏への公開質問状」で述べたように、ジャーナリストの大谷昭宏氏が、自民党の郵政法案反対派の国会議員を「汚れた鳩」と決めつけたことが印象に残っている。

    何度も繰返すが、どうしても改革運動には「改革」で利益を得ようとする貪欲な者が結び付く。またこれには「改革」を正義だと喧伝するメディアの働きが必要である。エリツィン政権下のロシアではウラジミル・グシンスキーという人物がメディアを押さえていた。日本では大手のマスコミがこの役目を担ったことになる。


    郵政が次の選挙の争点の一つになるか微妙なところである。しかし西川氏の日本郵政社長留任を認めた以上、自民党は西川体制を支持していることになる。もっとも自民党の中にはこの小泉改革路線の継続が選挙に有利と錯覚している人々がけっこういるのである。

    最近、民営化後の郵政事業のサービス低下が指摘されている。これに対して町村前官房長官は「国営化復帰を狙う労働組合のサボタージュが原因」とトンチンカンなことを言っている。しかし労働組合活動が急に活発になったという話は聞かない。サービス低下は日本郵政に利益を出させるための合理化が原因であることは明らかであろう。


    小泉氏の地元である横須賀市の市長選では、先日、33歳の無所属の候補が小泉系の現職市長に勝っている。このように小泉元首相にまつわる神話みたいなものは確実に崩れている。しかし小泉神話や構造改革路線が幻であったことを信じたがらない自民党議員がいるのである。

    過去の選挙で不況時には自民党は強かった。しかし今回はそうは行かないようである。小泉構造改革路線をひきずったままの自民党では、政策に迫力がない。政権交代をすれば、景気が後退すると訴えても説得力がない。


    外国からは色々な見方があるが、ロシアではプーチン首相(前大統領)の支持が大きい。プーチンがエリツィン政権下で纂奪された国有資産を取返したことも評価されているからと考える。一方、日本郵政問題では中途半端な政治判断がなされた。どうも麻生首相はプーチンになれなかったと言える。



総選挙が近付いている。来週は「マニュフェスト」というものを取上げる。



09/6/29(第575号)「続・国有資産の纂奪者」
09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
07/10/15(第500号)「プライマリーバランスの話」
07/10/8(第499号)「不況下の物価上昇」
07/10/1(第498号)「新総理総裁の誕生」
07/9/24(第497号)「GDP統計の読み方」
07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」
07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
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