経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




09/6/29(575号)
続・国有資産の纂奪者

  • 「チーム西川」の辞任
    郵政人事を巡る混乱に一旦終止符が打たれそうだ。鳩山総務相の更迭と日本郵政の西川社長の続投が決定された。ただし「かんぽの宿」の一括売却を実務的に仕切ってきた実行部隊の辞任が、西川続投の条件になっている。実行部隊は、三井住友銀行の出身者の4名で構成され、リーダは本誌の先週号で紹介した専務執行役の横山邦男氏である。彼等は「チーム西川」と呼ばれていた。

    このシナリオは前から囁かれていたものである。西川社長の知らない所で「かんぽの宿」の叩き売りが画策されたものにして、この責任を横山邦男専務執行役に押付けるというものであった。まさかと思っていたが、ほぼこの線で事が進んでいる。


    やはり鳩山総務相の更迭だけで「一件落着」とは行かなかった。むしろ鳩山総務相の更迭で、問題がはじけたという印象を持つ。これから西川体制で行われてきた酷い経営がどんどん明らかになると思われる。客観的に見て、筆者は「かんぽの宿」の問題が表面化した時、何故、西川氏はさっさと辞任しなかったのか不思議に思っている。

    おそらく西川氏の周辺の慢心が判断を狂わせたと考える。これには間抜けな自民党の構造改革派の応援や、西川氏を擁護し続けた大手マスコミの論調が影響している。ちょっと前まで彼等は民営化された郵政事業に、鳩山総務相が文句をいうことがけしからんと言っていた。また西川氏への批難は、守旧派の郵政官僚を利するだけとトンチンカンな事を口にしていた。


    しかし問題の核心は、国有資産が纂奪され、関係者に安く叩き売られようとしたことである。鳩山総務相更迭の前後、テレビに出演し鳩山氏を強く批難し、西川氏を擁護していた政治家には、中川秀直氏、河野太郎氏そして世耕弘成氏などがいた。これは筆者が目撃した範囲であり、おそらく構造改革派と目される自民党議員は同様の事を言っていたと思われる。

    これらの政治家は、自分達の主張が国民の間でも支持されているという錯覚に陥っていた。ところが鳩山総務相の更迭の後の世間の反応が、予想外であったことで愕然としているはずだ。もっともこのようなばかばかしさが、構造改革派の特徴でもある。


    いまだに構造改革派には2005年の郵政選挙での大勝の余韻が残っているようだ。国民はまだ小泉改革の類を熱烈に支持していると思っているのである。しかし歩調を合わせていたのは大手のマスコミだけである。しかもそのマスコミの中では一部西川氏批難に転じるところが出ている。この逆転現象は今後加速する可能性がある。

    彼等は07年の参議院選挙での自民党大敗という事実を無視したがっている。現在の衆議院の大量議席はその2年前に獲得したものである。4年間も解散総選挙がなかったのだから、現在の自民党の議席は今の選挙民の気持を反映していない。しかし彼等はこの事を信じたくないのである。

    元々ほとんどの国民は、郵政の民営化に反対か、あるいは必要性を感じていなかった(当初、賛成していた者はわずか25%程度)。それを大手マスコミを巻込んだデマキャンペーンでひっくり返したのである。当時、「郵政を民営化すれば、郵貯に眠っている莫大な資金が民間に流れ、経済は活性化する」など、とんでもない大嘘がまかり通っていた。しかし今回の国有資産の纂奪劇を見て、「やはり騙されたか」と思った人が多いと思われる。


  • スクラップ価格以下の価格
    05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」で取上げたように、日本のマスコミ人(特にインナーと呼ばれる実力者達)は、小泉政権は自分達が作ったという思いがある。全ての全国紙が「小泉首相は、守旧派の反体勢力の抵抗にひるまず、改革を断固つら抜け」と一斉に同じ内容の社説を掲げたこともある(01年11月20日朝刊)。何と気持の悪いことであろうか。

    このような大手マスコミは、小泉改革をずっと支援してきた。圧倒的に多かった郵政改革反対の世論をひっくり返したのも、テレビ局を含めたこのような大手マスコミの働きが大きかった。このように肩入れしてきた小泉政権の目玉政策である郵政民営化に関する問題だからこそ、大手マスコミが及び腰になるのも理解できる。


    当初、大手マスコミの攻撃対象はむしろ鳩山前総務相であった。「民営化を進める郵政の人事に担当大臣と言えど口を挟むべきではない」はましな方であり、「目立ちがり屋のスダドプレー」とか「変わり者で虚言癖がある大臣」といった的外れな解説まであった。鳩山前総務相の資質を問題にするばかりであり、「国の財産が盗まれようとしている」という発言内容の方は全く問題にしていなかったのである。

    もし鳩山前総務相の発言が間違っていたなら、「チーム西川」は辞任する必要はない。しかし後ろめたい思いがあるこそ、彼等は辞任して銀行に戻るものと解釈される。それにしてもこれまでの大手マスコミの報道はあまりにも異常であった。


    税務会計で残存価格(簿価)というものがある。2年前まで、税務会計上、取得価格の10%の残存価格(簿価)を残して減価償却費を計上できるというものである。また償却限度は95%であった。残存価格(簿価)については、スクラップとして売却した時に除却損として損金にできる。

    かんぽの宿の取得価格は2,400億円であり、償却限度まで減価償却しても5%である120億円の残存価格が残る計算になる。つまりオリックス不動産にスクラップ価格より低い109億円で一括売却しようとしたのである。また取得価格に土地代が含まれていれば、土地については減価償却はない。


    さらにかんぽの宿の70施設に加え、9ケ所の社宅施設などが一括売却の対象に含まれていた。社宅については宅地としての価値が考えられる。

    またかんぽの宿は毎年50億円の赤字という話ばかりが強調されている。しかしその中身はほとんど吟味されていない。先週号で取上げたように、例えば固定資産の減価償却年数を極端に短くし、赤字経営を演出している可能性が大きいのである。実際、1万円で売られたかんぽの宿が、直に6,000万円で転売されたケースも報告されている。


    このようにかんぽの宿の一括売却は怪しい事だらけである。では大手マスコミがかんぽの宿の売却に伴う問題を全く知らなかったと言えるのかということになる。例えば「チーム西川」のリーダの横山邦男専務執行役は三井住友銀行の社宅に住んでいた。これではみなし公務員である横山氏が民間企業から利益を受けていることになると、国会でも取上げられたことがあった。

    また横山邦男専務執行役と一緒になって「かんぽの宿」に携わっていた日本郵政の伊藤和博執行役は、オリックスが出資している不動産会社ザイマックスの出身である。ちなみに三井住友銀行は、オリックスのクレジット会社に51%の出資をするなどオリックスとは関係が深い。これらの事は大手マスコミも把握していたはずだ。

    しかしこれだけ怪しい事が多いのに、いまだに大手マスコミは西川氏サイドに立っている。佐藤総務相が「チーム西川」の辞任を求めた事を伝えた日経新聞の記事はたった19行であった。筆者は、事件と言える今回の出来事の今後の展開に注目している。



日本郵政については今週で終わりにしようと思っていたが、来週も少し触れることにする。



09/6/22(第574号)「国有資産の纂奪者」
09/6/15(第573号)「「かんぽの宿」の一括売却」
09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
07/10/15(第500号)「プライマリーバランスの話」
07/10/8(第499号)「不況下の物価上昇」
07/10/1(第498号)「新総理総裁の誕生」
07/9/24(第497号)「GDP統計の読み方」
07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」
07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
07/2/19(第470号)「今日の円安を考える」
07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
07/1/29(第467号)「日本の財界人の自信」
07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー