経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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09/6/15(573号)
「かんぽの宿」の一括売却

  • 日本郵政の不祥事
    今、世間の注目を浴びているのが日本郵政の社長人事である。西川善文社長の再任を巡り、鳩山総務大臣が日本郵政の一連の不祥事を理由に強く反対していた。ところが驚くことに、事実上更迭されたのは鳩山総務大臣の方であった。

    たしかに構造改革派とっては、小泉改革のシンボル的存在である日本郵政の人事は譲れないところである。しかし筆者は、構造改革派が必死になって守ろうとしている西川氏という人物が、日本郵政社長の「玉」としてあまりにも悪すぎると感じる。これについては後半触れることにする。


    まず不祥事の一つである郵便事業会社の障害者団体向け割引制度の悪用事件を取上げる。今のところこの事件には郵便事業会社に加え、厚労省、広告代理店、割引制度の悪用企業などが関わっている。しかし根本は郵便事業会社の割引制度である。この図式は、本誌が06/7/31(第447号)「郵政改革論議の混乱」で取上げた10年前のDMの大量発送に伴う別後納郵便の割引制度の悪用と全く同じである。

    この時に問題になったのは「エンデバー」「郵和」というDM取扱い業者であった。郵便局がこのような不正に手を染めた原因は、収益を上げるためのノルマであった。予算達成のノルマは、地方の郵政局、郵便局、担当課毎に設定された。つまり郵便局同士が競争関係に置かれたのである。


    今日、郵政事業が民営化され、さらに収益を上げるようプレッシャーがかかっている。しかし人々が期待しているのは非効率的な経営の是正による収益アップである。郵政社員への過酷なノルマ課すことまで期待しているのではない。

    ましてや割引制度の悪用など考えられない。また利用者への負担増加による収益増加なんてもってのほかである。もしこれらが郵政事業民営化の実態なら、民営化路線を止めさっさと元の形に戻すべきである。筆者には障害者団体向け割引制度の悪用事件は氷山の一角と思われる。


    より大きな問題は、「かんぽの宿」の一括売却である。「かんぽの宿」は一旦オリックスの子会社への売却が決定されていた。国が日本郵政の株式を100%保有している現状では、「かんぽの宿」は国有資産ということになる。

    この売却決定の過程が不透明ということが問題になり、売却は白紙に戻された。ところが売却が中止された途端、この不透明な国有財産の売却過程に関する報道が尻すぼみになった。しかしこの出来事は一連の政府傘下の企業の民営化にとって重大である。


    「かんぽの宿」は赤字だから、全部売り払うという話が前提になっている。しかし今の日本郵政には「かんぽの宿」の経営改善という選択肢が最初からないのである。経営努力したが良くならなかったので、売却するという話ではない。もっとも経営改善を行っても赤字が続くという話なら、オリックスも買おうとしなかったであろう。

    以前に売却された「かんぽの宿」の中には、経営合理化によって黒字化したところも結構あるという話である。また「かんぽの宿」が大きな赤字経営という話もまゆつばものである。「かんぽの宿」の採算計算において、固定資産の償却年数を60年から急に25年に短縮したという話が出ている。これによって経費をかなり水増しして、赤字を装っている可能性がある。


    事業の採算を誤魔化すための常套手段が減価償却費である。儲かっていないように見せかけるために償却年数を縮めるのである。03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」では、償却年数を70年から40年にしていた。ものすごく儲かっているはずの道路公団を、「赤字の垂れ流し」の経営と嘘をつくための道具として、減価償却費を使ったのである。また道路公団の採算計算に使われた長期金利は年4%というとんでもない数字であった。

    今日、高速道路会社がものすごく儲かっていることがようやく知られるようになって、「高速料金1,000円政策」まで実施されている。民主党は高速料金の無料化まで検討している。しかし数年前まで、「赤字の垂れ流し」だからさっさと売り払えと言った声が大きかったのである。世界一高い高速料金で、あれだけ混雑しているのに、高速道路が儲かっていないはずがない。


  • 不良債権まぶし
    「かんぽの宿」の売却では、怪しい人々が跋扈している。まずオリックス会長の宮内義彦氏は、規制緩和小委員会座長を始め、政府の規制改革のキーマンを続け、「ミスター規制緩和」と呼ばれている。しかし規制緩和がオリックスの商売と密接に関係しているのである。このためか宮内氏を「政商」と呼ぶ声もある。

    「かんぽの宿」の売却に関しては、「第三者検討委員会」と「郵政民営化承継財産評価委員会」というものがある。これらは中立の第三者機関を装っている。しかしここにはオリックスと関係の深い者がいるという話である。興味のある方は検索サーバで検索してもらいたい。驚くような話になっている。


    「かんぽの宿」の売却では、メリルリンチがアドバイザリィー契約者として登場する。手数料が売却資産の簿価の3%で、最低保証額が6億円ということである。通常、不動産の仲介手数料は売買額を元に算出する。ところが今回は簿価を元に手数料を計算するというのだから意味が分らない。

    メリルリンチは、膨大な不良債権を抱えバンク・オブ・アメリカに救済合併された。メリルリンチには公的資金が投入され、事実上破綻した。ところがすきを見て社員に多額のボーナスが支払われたということで問題になった。「強欲資本主義」を象徴するような投資銀行である。このようなメリルリンチからアドバイスを受けようというのだから訳が分らない。本当に人をばかにしたような話である。


    極めつけは日本郵政の西川社長である。西川社長は三井住友銀行の頭取からの転身である。またさくら銀行との合併の前は住友銀行の頭取であった。西川氏の経歴については、文芸春秋2004年1月号に「西川善文研究」のタイトルでジャーナリストのレポートが載っている。

    西川氏は、本来の銀行業務で業績を上げトップに上りつめたのではない。ずっと不良債権の処理を担当してきた。しかも普通の不良債権ではない。


    旧住友銀行には、安宅産業、平和相互、イトマンなど、巨額の不動産に関連した不良債権があった。その処理を専門に行ってきたのが融資第三部という部署である。この融資第三部の主的存在が西川氏であった。

    西川氏らが行ってきたことは、これらの不良債権を表沙汰にせず、密かに処理することであった。しかし不良債権が特殊なだけに簡単には処理できず、2004年の時点でもかなり残っていたという話である。西川氏みたいな経歴の者がトップに就かざるを得ないほど、これらの不良債権の処理は旧住友銀行にとって死活問題であった。


    西川氏らが行ったのは、ある意味で不良債権隠しである。実質子会社の不動産会社に不動産と融資を振替える(いわゆる飛ばし)。しかしこれではこの会社への融資が破綻懸念先債権になるため、この子会社に収益が出る事業をくっ付ける。また逆に収益の出ている子会社に不良債権をくっ付ける。いわゆる「不良債権まぶし」である。これらの処理で、破綻懸念先債権を要管理先債権や要注意先債権に変えていた。このような実質子会社が40社もあるという。

    米国で優良債権に不良債権を組合わせたCDO(債務担保証券)が問題になったが、西川氏の融資第三部はずっと前から同様のことを行っていたのである。ちなみにこのような処理をせず、不良債権をそのまま実質子会社に飛ばしていた長銀は破綻した。


    どうやら西川善文氏の得意技は、人の目を欺くことである。「かんぽの宿」の売却でも「第三者検討委員会」と「郵政民営化承継財産評価委員会」といったいい加減なものをでっち上げている。

    日本の郵政事業は地味な仕事の積み重ねである。郵便貯金は小額な貯金を集めたものである。郵便は一家、一家訪ね歩いて届けるものである。このような事業を長年続けて、郵政事業の資産は成立っている。郵政事業の金は、大金持ちから集めたヘッジファンドの金とは違うのである。メリルリンチや西川善文氏は、本来の日本郵政とは対極の存在といえる。



来週は今週号の続きである。



09/6/8(第572号)「経済をマクロで見る」
09/6/1(第571号)「日本のケインズ経済学」
09/5/25(第570号)「裁判員制度に一言」
09/5/18(第569号)「半径10mの関心」
09/5/11(第568号)「保護主義と国家」
09/4/27(第567号)「中央銀行の国債購入」
09/4/20(第566号)「年金制度改正の私案」
09/4/13(第565号)「筆者の経済対策案」
09/4/6(第564号)「経済対策に必要な条件」
09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
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07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
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