平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




09/4/6(564号)
経済対策に必要な条件

  • 政治家の本気度
    政府・与党は、新年度の予算が成立するないなや、景気対策としての補正予算の検討を始めた。しかし景気対策が本当に必要なら、当然、新年度の予算に組込まれるべきであった。どこまで政府・与党が本気なのか疑わしい。そのうち政府・与党からつまらない景気対策が出てくると思われるが、今週から筆者なりの経済対策を提案したい。まず今週は必要な政策の規模や必要な条件について述べる。

    09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」で述べたように、自民党の政治家は、今回の日本経済の落込みの原因をよく分かっていない。さらにどれだけ日本経済が収縮しているのか、また今後どれだけ悪くなるについての共通の認識はないようだ。政府・与党が策定する対策の規模は10兆円であるが、政治家によっては20兆円は必要と言っている。また町村派は5年間で真水100兆円の対策を行うと言う。どうも景気対策を来る総選挙のための事前運動の一つと認識しているようだ。


    まず09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」で説明したように、昨年10〜12月GDP改定値では、年率換算、実質で12.1%、名目で6.4%のマイナス成長となっている。金額ではそれぞれ年間60兆円、30兆円強のGDPの縮小ペースである。今後の各国の経済対策の効果など不明な点が多いが、このままでは日本はかなり大きなマイナス成長は避けられない。

    政府の対策の中心は、中小企業の資金繰り支援など後ろ向きのものばかりである。経済の底上げを目指すマクロ経済対策は目立たない。本当は経済不調で苦境に立たされている人々のほとんどに効果が及ぶような規模の対策が必要である。政府はマイナス成長をゼロ成長に持って行く程度の事しか考えていない。また仮にそれを目指すとしても10兆円では話にならない。


    規模とともに筆者が一番問題にするのはスピード感である。まず政府・与党の対応が遅いことと、打出されている対策が効果を生むには時間がかかることを指摘しておく。今のところ企業の資金繰り以外、対策はなにもやっていないと言っても良い。


    これまでの政府・与党は目玉政策を「定額給付金」と「休日の高速料金の一律1,000円」と考えているようだ。まず「定額給付金」は規模が小さ過ぎるので話にならない。総選挙のための事前運動と言われてもしょうがない。

    「休日の高速料金の一律1,000円」は景気対策としての経済効果はほとんどない。ところが政府・与党やマスコミは全く誤解している。たしかに休日の高速料金を大幅に引下げることによって、高速道路の利用者は増える。また関連消費が増え、多少観光地が賑わう。政府・与党やマスコミはこれによって経済効果が生まれると言っている。

    しかし利用者の可処分所得は変わらないのだから、高速料金の引下げによる消費増によって、他の消費が減っているはずである。分りやすい具体例が鉄道、航空機、フェリーなどの利用減と関連消費の減少である。もし高速料金の引下げによって、預貯金を取崩しても消費を増やすという人がいるなら、その分経済効果があったと言える。しかしそのような人は稀であろう。もっとも筆者は高速料金の引下げには賛成である。しかしそれは景気対策としての効果があるからではない。


  • 三つの注目点
    来週取上げる経済対策を考える上で、経済の現状を把握し、将来の経済動向を見据える必要がある。本誌は09/1/12(第553号)「09年今年の景気」で今年の景気を占ったが、3ヶ月が経ち、リーマンショック以降の経済の動きも分かってきた。ここで経済動向の見通しを見直す必要がある。

    GDPはほとんどの国がマイナス成長になっている。意外と思われるが先進国の中で日本の成長率のマイナス幅が一番目立つ。今後の注目点は、先程から述べているように、各国の金融対策を含めた経済対策の効果と資産価格の動向である。

    経済について全体の動向を占うことは、経済数字が揃っていない現時点では難しい。そこで数多くの経済数字から、筆者が特に注目している経済指標を三つピックアップし、世界と日本の経済の今後の動向についてコメントしたい。今週はそのうち二つを取上げる。


    一つ目は米国の新車販売である。米国の新車販売はリーマンショック後、4割程度の減少で推移してきた。ところが3月の数字は36%の減少と少し持直した。これを米国での自動車販売の底打ちのサインと受取る人がいる。しかし筆者も底打ちに近いことは認めるとしても、少なくとも近いうちに自動車販売が回復するとは思っていない。

    3月の販売が増えた要因は値引き販売と見ている。昨年8月にもGMなどの値引き販売が行われ、同様に全体の販売台数は伸びている。しかし値引きで販売が伸びても、これが需要の先食いになり以降の販売が減ることになる。やはり今後数カ月の販売動向が注目される。またドイツの政府の奨励金による自動車販売促進策が注目されているが、これも需要の先食いという要素がある。


    自動車については何故か販売台数だけが注目され、売上高が無視されている。経済に影響を与えるのは台数ではなく売上金額の方である。前述のように値引き販売が行われ、また安い車だけが売れているようでは、台数が伸びても業界の売上高は減少する。

    欧米で底堅く売れているのは安い韓国の現代製の車である。しかも現代はさらに大幅な値引きを行っている。しかし今後、現代製のような安い車しか売れない時代になると筆者は思っている。販売台数の減少もさることに、販売価格の低下は自動車メーカの経営にとって打撃である。またここまで販売が落込めばメーカ各社の資金繰りはピンチになろう。


    世界的な不況の中で、新興国、特に中国経済に期待する声が大きい。中国は8%の経済成長率を目指すと言っている。中国政府の色々な経済対策を実施し、中国経済は底堅く推移しているという報道が多い。また日本からの輸出も堅調という話はある。しかし筆者は中国のような独裁的な中央集権の政府が公表する経済数字は疑わしいと常々感じている。

    世界から原材料や部品を輸入し、中国で製品に仕上げ、欧米を始め各国に製品を輸出するという従来のパターンがほんとうに持直したのか疑問に思っている。筆者が二つ目に注目するのはバルチック海運指数の動向である。


    同指数はバラ積み船の用船料を指数化したものである。世界の生産活動が活発になれば、用船料は高くなり指数は大きくなる。特にバルチック海運指数は、中国の生産レベルに大きく影響を受けてきた。指数は投機の影響もあり北京オリンピックの直前まで高騰し12,200程度になった。その後、急速に下がり始め、リーマンショック以降下げが加速し今年の1月頃には700程度まで暴落した。しかしその後リバウンドし2,200程度まで回復した。

    ところが3月に入った頃から再び下げに転じ、直近ではとうとう1,500まで下落している。バルチック海運指数だけで経済活動の水準を推測するのは無理であるが、一つの参考にはなる。少なくとも中国を始めとした世界の生産活動が活発ではないことはたしかであろう。また2,200まで一旦回復したバルチック海運指数がまた下落に転じ下落傾向が止まらないことに筆者は注目している。


    バブル崩壊後の経済の特徴は一本調子の回復が難しいことである。米国の昨年の減税の効果のように、一時的に消費が持直すことがあるが、その後は再び下落に転じたりする。バルチック海運指数の動きに沿って話をするなら、指数が示すように一時的に生産が持直す徴候があったのかもしれないが、再度経済は下降に転じたとも読みとれる。

    前述のように中国経済の底堅さを指摘する人がいるが、バルチック海運指数の動きを見る限り、中国経済が回復軌道に乗ったとは思われない。筆者が注目する三つ目のポイントは日本の在庫指数と在庫率指数であるが、これは来週取上げる。



来週は日本では在庫調整が終わっていないことを説明する。また筆者の具体的な経済対策を示す。



09/3/30(第563号)「政府紙幣論議の結末」
09/3/23(第562号)「GDP統計のマジック」
09/3/16(第561号)「リーマンショックの影響」
09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
07/10/15(第500号)「プライマリーバランスの話」
07/10/8(第499号)「不況下の物価上昇」
07/10/1(第498号)「新総理総裁の誕生」
07/9/24(第497号)「GDP統計の読み方」
07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」
07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
07/2/19(第470号)「今日の円安を考える」
07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
07/1/29(第467号)「日本の財界人の自信」
07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
06/12/11(第463号)「筆者の主張のサマリー」
06/12/4(第462号)「高速増殖炉にまつわる誤解」
06/11/27(第461号)「高速増殖炉の話」
06/11/20(第460号)「日本の核融合研究」
06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
06/11/6(第458号)「LNG(液化天然ガス)の話」
06/10/30(第457号)「筆者の国防・防衛論」
06/10/23(第456号)「日本の核武装論」
06/10/16(第455号)「北朝鮮の核実験」
06/10/9(第454号)「安倍政権の生産性」
06/10/2(第453号)「安倍政権の発足にあたり」
06/9/25(第452号)「ポスト小泉の経済論議」
06/9/18(第451号)「ポスト小泉の経済と対米外交」
06/9/11(第450号)「ポスト小泉の対アジア外交」
06/9/4(第449号)「ポスト小泉について」
06/8/7(第448号)「郵政改革と宗教戦争」
06/7/31(第447号)「郵政改革論議の混乱」
06/7/24(第446号)「宗教・哲学と経済学」
06/7/17(第445号)「宗教と哲学への入門」
06/7/10(第444号)「劣勢のケインズ」
06/7/3(第443号)「トービン税について」
06/6/26(第442号)「自由放任(レッセ-フェール)の経済」
06/6/19(第441号)「筆者の税制改正案」
06/6/12(第440号)「筆者のニート対策」
06/6/5(第439号)「美しくない話」
06/5/29(第438号)「第三セクター鉄道の危機」
06/5/22(第437号)「テレビ番組の制作現場」
06/5/15(第436号)「日銀の実態・・憶測」
06/5/8(第435号)「日銀は魔法の杖か」
06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」
06/4/17(第433号)「格差とマスコミ」
06/4/10(第432号)「官僚の力と限界」
06/4/3(第431号)「日経新聞のダブルスタンダード」
06/3/27(第430号)「金融政策の失敗の歴史」
06/3/20(第429号)「量的緩和解除の波紋」
06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」
06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」
06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」
06/2/20(第425号)「労働力と経済成長」
06/2/13(第424号)「大衆社会における経済論議」
06/2/6(第423号)「皇室典範改正法案に一言」
06/1/30(第422号)「ホリエモンと政治家」
06/1/23(第421号)「改革の旗手の危機」
06/1/16(第420号)「今年の景気予想」
06/1/9(第419号)「思考停止の日本」
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