平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




09/3/16(561号)
リーマンショックの影響

  • 二種類のリスク
    世の中は危険な事で満ちあふれている。人々はこれを「リスク」と呼ぶ。この「リスク」には二種類がある。想定されている「リスク」と想定外の「リスク」である。交通事故などは想定されている「リスク」と考えられる。保険会社は、事故の確率から保険金と保険料を決める。

    一方、数々の想定外の「リスク」がある。ほとんどの天変地異、そして通常テロや戦争などは想定外の「リスク」と見なされるであろう。しかしほとんどの人々は、何となく不安に思いながらも、想定外の「リスク」はないものとして日常生活を送っている。

    ただ想定外の「リスク」を、なるべく想定される「リスク」に変えようという動きはある。例えば地震への対処などである。原子力発電所はなるべく断層の近くには建設しないといったことである。また昔、地震保険というものがなかったが、今日、地震の地区別の危険度を算定し保険会社は地震保険を売っている。


    経済の世界もリスクが溢れている。ただ想定されている「リスク」については、リスクを軽減する手段が揃っている。例えば為替変動に対しては、為替予約でヘッジすることができる。また市場で取引される株や原油などにも同様に先物市場があり、価格の変動リスクをヘッジできる。

    しかし想定外の「リスク」が起った場合、市場は脆弱である。今回の世界的な金融・経済危機では、想定外の「リスク」が次々と表面化した。住宅担保証券などの証券化商品の市場は、買手不在によって機能しなくなった。本来換金できるはずの金融商品が売れなくなったのである。このような事態は誰も想像しなかったはずである。


    先週号で取上げたリーマン・ブラザーズの破綻も、ほとんどの市場参加者が想定していなかった事態である。最悪でもベア・スターズのように、どこかに救済合併されるものと皆は考えていたと思われる。このショックは大きく、世界中の株式市場が急落した。

    リーマン・ブザーズの破綻が、市場に思い掛けなく大きなショックを与えたのは、人々が想定していなかったからである。この出来事を境にして、世界の経済はパラダイムが変わった。まず自動車の売上が急減した。また自動車以外の耐久消費材もさっぱり売れなくなった。リーマンショック以降、米国の雇用者数の減少は毎月60万人を越えるようになった。


    先週号で、リーマンショックで株価が急落し、第二の所得の流れである資産取引からの所得が大きなダメージを受けたことを説明した。株式を損ギリした投資家や、持株の含み益が底を付き逆に含み損となった投資家も続出したはずだ。住宅価格の継続的な下落に加え、リーマンショックによる株価暴落によって第二の所得はほとんどなくなったと考えて良い。このような事が米国だけでなく、世界各国で同時に起ったと筆者は見ている。

    筆者は自動車の米国での近年の売上はバブルであったと思っている。住宅や株がバブルだったということに人々は賛同するが、車の売上がバブルだったということには異論があろう。しかし近年の米国での自動車の売上増加は、バブル化した住宅と株からの第二の所得で支えられてきた部分が大きかったと筆者は見ている。


  • 日本経済のダメージ
    筆者は、かって「ザブプライムローン問題」と呼ばれていた今回の経済危機を、「金融危機」と呼ぶようになったきっかけは昨年9月のリーマンショックと認識している。しかし筆者は今回の経済危機を「金融危機」と世間で表現していることに違和感を感じる。たしかにリーマンショックと前後して、メリルリンチ、AIG、シティーグループなどの金融機関の経営危機が表面化し、これらが株価の下落を招いた。

    しかし金融機関の経営危機と、それ以降の自動車などの耐久消費財の売上の激減や、雇用者数の急減との関係が適切に説明されていない。また何か金融機関の経営危機が去れば、経済が元の姿に戻るといった誤解を与える。筆者は、そうではなく金融機関の経営危機による株価暴落が、今日の経済不調の大きな要因と捉えている。


    筆者は、リーマン・プラザーズの破綻がなかったとしても、今回のような事態は起っていたと考える。ザブプライムローン問題以降、各国の株価は相当下落したが、米国の株価だけはある程度値を保っていた。ダウ平均株価が2,000ドルから14,000ドルまで上昇していた米国の株価こそがバブルだったと筆者は見ている。

    つまり米国の株価は暴落のきっかけを待っていたと解釈できる。仮にリーマン・プラザーズの破綻がなかったとしても、他の悪材料によって同様な株価暴落が起っていたと筆者は考える。悪材料はやはり他の金融機関の経営危機という可能性は大きかったが、例えばGMの経営危機の表面化ということでも有り得た。つまり市場参加者があまり想定していなかった出来事なら何でも良かったのである。


    筆者は、今回の世界的経済危機の本質は、住宅や株式などの資産の価格の暴落と見ている。つまり資産バブルの崩壊である。特に欧米の近年の経済成長は、これらのバブルに支えられてきた部分が大きいと見ている。

    日本だけは局地的にミニバブルが起っていただけであり、今回の世界的なバブル崩壊の影響は比較的小さかった。したがって日本の金融機関の被害も軽かった。しかしバブル景気に売上が支えられてきた自動車などの耐久消費材の輸出が激減し、日本経済は思い掛けなく大きなダメージを受けている。


    今後、各国の経済対策が効を奏し多少消費も持直すと思われる。しかし米国の自動車や高級品などの販売は元には戻らないと筆者は考える。例えば07年の米国の自動車販売は1,600万台を超えていたが、今後は1,000万台から1,100万台程度に落込むと筆者は見ている。

    つまり日本の自動車輸出の激減は一時的なものではない。欧米がダメでも新興国があるという意見がある。しかし中国での競争は一層激化するし、インドは25万円程度の安い車しか売れない。今後、自動車価格の下落が始まり、自動車業界は儲からなくなると思われる。


    一旦、バブルが崩壊し始めると市場は、想定外のリスクに対して弱くなる。まず米国の住宅価格は下落を続けているが、まだ適正価格に達したとは見られていない。また米国の株価もどれだけ世界的な景気後退を織込んだか不明である(先週はある程度持直したが)。もし米国の株価にまだバブル部分が含まれているなら、次の想定外の出来事でまた急落する場面が有り得る。

    このように分析してくると、事態は米国より日本の方が深刻ということが分る。消費の総額はそんなに変わらないものである(実際、米国では自動車や高額品の消費は減少したが、意外と他の消費はそんなに減っていない)。また需要項目の中で一番変動するのが設備投資額であり、この動向が今後の経済の行方のカギを握る。日本経済は、自動車や電機関連製品、そしてこの設備投資関連の製品の輸出に頼っている。ところがこれら三つとも不調なだけでなく、簡単には回復しないものばかりである。



来週は、政府紙幣(貨幣)騒動の落着き所を探ってみる。

リーマンショックについては、また別のところで取上げる。



09/3/9(第560号)「筆者なりの仮説」
09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
07/10/15(第500号)「プライマリーバランスの話」
07/10/8(第499号)「不況下の物価上昇」
07/10/1(第498号)「新総理総裁の誕生」
07/9/24(第497号)「GDP統計の読み方」
07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」
07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
07/2/19(第470号)「今日の円安を考える」
07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
07/1/29(第467号)「日本の財界人の自信」
07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
06/12/11(第463号)「筆者の主張のサマリー」
06/12/4(第462号)「高速増殖炉にまつわる誤解」
06/11/27(第461号)「高速増殖炉の話」
06/11/20(第460号)「日本の核融合研究」
06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
06/11/6(第458号)「LNG(液化天然ガス)の話」
06/10/30(第457号)「筆者の国防・防衛論」
06/10/23(第456号)「日本の核武装論」
06/10/16(第455号)「北朝鮮の核実験」
06/10/9(第454号)「安倍政権の生産性」
06/10/2(第453号)「安倍政権の発足にあたり」
06/9/25(第452号)「ポスト小泉の経済論議」
06/9/18(第451号)「ポスト小泉の経済と対米外交」
06/9/11(第450号)「ポスト小泉の対アジア外交」
06/9/4(第449号)「ポスト小泉について」
06/8/7(第448号)「郵政改革と宗教戦争」
06/7/31(第447号)「郵政改革論議の混乱」
06/7/24(第446号)「宗教・哲学と経済学」
06/7/17(第445号)「宗教と哲学への入門」
06/7/10(第444号)「劣勢のケインズ」
06/7/3(第443号)「トービン税について」
06/6/26(第442号)「自由放任(レッセ-フェール)の経済」
06/6/19(第441号)「筆者の税制改正案」
06/6/12(第440号)「筆者のニート対策」
06/6/5(第439号)「美しくない話」
06/5/29(第438号)「第三セクター鉄道の危機」
06/5/22(第437号)「テレビ番組の制作現場」
06/5/15(第436号)「日銀の実態・・憶測」
06/5/8(第435号)「日銀は魔法の杖か」
06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」
06/4/17(第433号)「格差とマスコミ」
06/4/10(第432号)「官僚の力と限界」
06/4/3(第431号)「日経新聞のダブルスタンダード」
06/3/27(第430号)「金融政策の失敗の歴史」
06/3/20(第429号)「量的緩和解除の波紋」
06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」
06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」
06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」
06/2/20(第425号)「労働力と経済成長」
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06/1/23(第421号)「改革の旗手の危機」
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06/1/9(第419号)「思考停止の日本」
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