平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




09/3/9(560号)
筆者なりの仮説

  • 注目のリーマンショック
    サププライムローン問題の表面化から始まった、今回の世界的な金融危機と同時不況はまだ山を越えていないようだ。ところがマスコミだけでなく経済の専門家と言われていた人々も、当初、事態をそれほど深刻には受止めてはいなかった。中央銀行が金利を下げ、各国政府が政策協調すれば、なんとか乗り切れるのではないかと楽観的に考えていた。口では「百年に一度の」と言っていながら、今回の事態を「リセッションのちょっと大きなもの」というくらいの認識であった。

    したがって政府や中央銀行が対策を次々と打出すので、そのうち経済は良い方向に向かうと見ていた。これまで三ヶ月後、あるいは半年後に底を打つという話がずっとなされてきた。しかし経済は一向に底を打った気配がない。


    今回の金融・経済危機の原因については部分的な解説が溢れている。例えば資産バブルの崩壊によって金融機関の資本が毀損し、信用収縮が起ったといった具合だ。しかしトータル的な納得行く説明を聞いたことがない。だいたい一年前は今回の事態をサププライムローン問題と呼んでいたほどである。

    どうして今回のような事態になったのか、誰も合理的な説明をしていないと筆者は感じる。皆がもやもやとしている状態である。そこで今週は筆者なりの仮説を示してみる。しかし今の時点では漠然としたことしか言えないのが現実である。


    世界経済に奇妙な変調が所々に見られる。例えば世界的に自動車が一斉に売れなくなった。しかもこれが一時的なものではなく、月を追う毎に悪くなっている。2月の米国の新車販売は対前年同月比で41%も減少している。米ビックスリーの落込みが酷いだけでなく(GM53%減)、これまで勝ち組と言われてきたトヨタやホンダといった日本勢も4割程度減少している。

    それにしても無気味なのは、自動車の売上急減に納得行く説明がないことである。米国ではカーローンの審査が厳しくなったことが挙げられている。しかしこのことだけでここまで売上が減少することはない。同じく審査が厳しくなったショッピングカードでの買い物の方は、これほどの異常な落ち方をしていない。またカーローンの審査がそれほど厳しくなったと思われない日本でも、新車販売が急減している(2月の新車登録車数は対前年同月比で32%の減少)。

    これら以外の理由も色々と挙げられる。例えば昨年夏場のガソリンのばか高値である。車を維持するのに思い掛けないコストがかかることを人々に改めて知らしめたのである。これらの理由はそれぞれ正しいと思われる。しかしこれらは全て部分的な説明であり、世界的に自動車の売上がほぼ同時に激減したことの適確な説明になっていない。


    筆者が注目するのは昨年9月のリーマンショックである。リーマン・ブラザーズそのものの破綻というより、これがきっかけで世界的株価が同時に急落したことに関心がある。筆者は世界的な自動車の売上の急落がリーマンショックをきっかけに起ったと見ている。

    住宅・不動産の売上減少は2年以上も前から起っている。そして自動車や家電などの耐久消費財の売上は、昨年9月のリーマンショック以降(出荷ベースでは10月以降)落込みが大きくなった。日本の貿易・サービス収支は10月から赤字に転落した。


  • カタストロフィーに直面
    筆者は、所得の流れが二つあると見ている。一つは労働の対価としての人件費と企業の利益(配当を含む)である。物の値段は分解して行くと、人件費と利益(配当を含む)に行きつく。説明を簡単にするため海外との所得の移転や政府部門を省略すれば、これらを合計したものが国民経済計算上の国民所得となる。いわゆる通常の経済活動による所得である。また利子所得は、受取と支払が同額となるため、国民経済計算上は相殺されゼロとなる。


    もう一つの所得の流れが資産の売却による所得である。ここでいう資産とは住宅・土地(不動産)や株式などである。資産の売却で所得が発生する。売上から取得原価を差し引いたものが所得である。しかしこの所得は国民経済計算上では国民所得には含まれない。これは資産の価格は常に上下するものであり、資産を売った場合、必ずしも所得が発生するとは限らず、反対に損失を生む場合もあるからである。

    つまり資産の売買に伴う所得はプラスにもなるがマイナスにもなる。資産価格の動きが小さければ、中長期的にはほぼ相殺されると考えられる。したがってこの種の所得を国民所得から外しても問題はなかろうと思われているのであろう。実際、不動産価格や株価が安定し取引も小さかった時代は、これでもかまわなかった。またこれを国民所得計算から外しているもう一つの理由は、資産の売買に伴う所得を把握することが難しいことと考える。この辺りの事情は08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」で取上げた。

    しかし資産価格が上がったり下がったりではなく、一貫して上昇していると事情は変わる。米国の住宅価格は2年半前までずっと上昇を続けていた。また米国のダウ平均は、昔は2,000ドル近辺を上下していたのに、直近の高値が14,000ドルと実に7倍にもなっていたのである。ちなみに日経平均は、米ダウ平均が2,000ドルの時代、4万円の直前まで上昇していたことがある。

    不動産価格や株価などの資産価格が一貫して上昇していた時代は、資産の売却によって巨額の所得が発生していたはずである。さらに資産を売却せずとも、所有している資産の価格が上昇すれば、資産の所有者は所得が発生したと感じるのである。これを疑似所得と称しておこう。


    問題は資産売却に伴う所得の行方である。この一部は消費に回り、残りは貯蓄と新たな資産の購入に充てられたと考えられる。また所有資産の価格上昇による疑似所得からの消費もあったと見られる。実際、住宅価格上昇によって銀行からの住宅を担保にした借入枠が増え、それを消費に回していた米国民が結構いた。

    しかしこの流れの所得からの消費はずっと過小評価されてきた。場合によっては無視されてきた。ところがこれが全体の消費のかなり大きな部分を占めていたと筆者は見ている。それを証明したのがリーマンショック以降の自動車などの耐久消費財の急激な売上減少と考える。

    不動産バブルが崩壊し歯車が逆回転し始めた。そして住宅・株式といった資産の価格の下落が実体経済にも大きな影響を与え始めた。そこに起ったのが昨年9月のリーマンショックであった。これによる株価の急落が、資産所有者にさらに大きなショックとなった。また米国だけでなく、世界中の国々で似たことをやっていたのだから、リーマンショックは瞬く間に世界中に波及した。


    リーマンショックは資産保有者にとって想定外の衝撃であった。それまでに住宅価格は2年間も下落を続け、株価も下落を続けていた。しかし過去の経験則から株価の方は一旦下げ止まり、場合によっては少し持直しても良い頃であった。また原油価格も7月にピークをつけ、9月にはかなり正常値に近付いていた。しかしこの時起ったのがリーマンショックであった。資産保有者はまさにカタストロフィーに直面したのである。



来週はリーマンショックが経済にカタストロフィーを招いた様子を取上げる。



09/3/2(第559号)「政府紙幣(貨幣)論の評判」
09/2/23(第558号)「政府紙幣(貨幣)への巧妙な反対論」
09/2/9(第557号)「政府紙幣(貨幣)論の急な盛上がり」
09/2/2(第556号)「続・構造改革派の変節」
09/1/26(第555号)「マスコミの論調は過渡期」
09/1/19(第554号)「今年の為替と株価の動向」
09/1/12(第553号)「09年今年の景気」
08/12/22(第552号)「デフレ経済の本質と克服」
08/12/15(第551号)「ポールソン財務長官の退職金」
08/12/1(第550号)「デフレ発生のメカニズム」
08/11/24(第549号)「デフレ経済を語る」
08/11/10(第548号)「デフレ経済の足音」
08/11/3(第547号)「クライン博士の本心」
08/10/20(第546号)「ノーベル経済学賞の流れ」
08/10/13(第545号)「株価暴落のトラウマ」
08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」
08/9/29(第543号)「構造改革派の変節」
08/9/22(第542号)「上げ潮派の経済理論」
08/9/15(第541号)「経済成長の定式(モデル)」
08/9/8(第540号)「またも総裁選」」
08/8/11(第539号)「投資ファンド資本主義」
08/8/4(第538号)「福田改造内閣の行末」
08/7/28(第537号)「日米のバブル崩壊後の対応」
08/7/21(第536号)「相場の流れの転換か」
08/7/14(第535号)「市場参入阻止行動」
08/7/7(第534号)「原油価格高騰劇の背景」
08/6/30(第533号)「信用不安の再燃」
08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」
08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」
08/6/9(第530号)「経済グローバル化と日本政府」
08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」
08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」
08/5/19(第527号)「ばかげた経済政策の連続」
08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」
08/4/28(第525号)「救済劇の背景」
08/4/21(第524号)「りそな銀行の救済劇」
08/4/14(第523号)「日米の中央銀行総裁」
08/4/7(第522号)「小泉的なもの」
08/3/31(第521号)「超長期の為替変動」
08/3/24(第520号)「市場の最近の動き」
08/3/17(第519号)「積極財政への障害」
08/3/10(第518号)「構造改革派の言動」
08/3/3(第517号)「米国経済の行方」
08/2/25(第516号)「虚言・妄言を見破る方法」
08/2/18(第515号)「またもや虚言・妄言・・その3」
08/2/11(第514号)「またもや虚言・妄言・・その2」
08/2/4(第513号)「またもや虚言・妄言・・その1」
08/1/28(第512号)「戦争をしている国」
08/1/21(第511号)「サブプライム問題の本質」
08/1/14(第510号)「08年今年の景気」
07/12/17(第509号)「サブプライム問題の根源」
07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」
07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」
07/11/26(第506号)「原油価格に見るバブル」
07/11/19(第505号)「金融当局の敗北」
07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」
07/11/5(第503号)「米国のサブプライム問題」
07/10/29(第502号)「日本再生会議の話」
07/10/22(第501号)「増税派と成長派」
07/10/15(第500号)「プライマリーバランスの話」
07/10/8(第499号)「不況下の物価上昇」
07/10/1(第498号)「新総理総裁の誕生」
07/9/24(第497号)「GDP統計の読み方」
07/9/17(第496号)「安倍首相の辞任劇」
07/9/10(第495号)「経済数字の実感との乖離」
07/9/3(第494号)「内閣改造に対する感想」
07/8/6(第493号)「自民党の自殺」
07/7/31(第492号)「07年参議院選挙の結果」
07/7/23(第491号)「参議員選の注目点」
07/7/16(第490号)「またもやデマ選挙か」
07/7/9(第489号)「参議院選挙の比例区」
07/7/2(第488号)「ポンカス政党」
07/6/25(第487号)「歴史の教訓」
07/6/18(第486号)「歴史教科書の上での抹殺」
07/6/11(第485号)「老舗に伝わる歴史」
07/6/4(第484号)「金・銀の産出量と経済」
07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」
07/5/21(第482号)「インフレと歴史教科書」
07/5/14(第481号)「インフレへの警戒感」
07/5/7(第480号)「日本の公務員」
07/4/23(第479号)「米国の構造改革派」
07/4/16(第478号)「構造改革派の正体」
07/4/9(第477号)「構造改革派とカルテル」
07/4/2(第476号)「構造改革派の生態」
07/3/26(第475号)「構造改革派の落日の始まり」
07/3/19(第474号)「超円高になる条件(その2)」
07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
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07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
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07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
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07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
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06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
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