平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/3/9(第56号)


日米の景気対策を考える
  • 景気対策と失業対策
    G7を始め、各国から日本に対して内需拡大を求める声が日増しに強くなっている。今週号では外国からの景気対策の具体的提案について考えたい。景気が後退し、失業者が増えると各国政府はそれに対して対策を講じる。ただ、国によっては景気対策に熱心な国とそうではない国がある。ドイツのように失業者が500万人に達しようとしているのに、特に対策を急いではない国もある。ドイツはヨーロッパの通貨統合政策を優先しており、そのための緊縮予算を維持している。もっともドイツについては失業者に対しては手厚い施策があり、失業すれば人々も直ぐに路頭にまようことはないようだ。また失業者の方も条件が良い職が見つかるまで、失業者のままでいると言う傾向が強いようだ。この点、米国人は低賃金でも取り敢えず、職に就こうと言う傾向が強い。これを日本の多く識者は、米国は労働市場が流動的で、このことを良いことと考えているが、単に米国では失業者に対する施策が十分でないことが原因とも考えられる。ただドイツの失業者は若年層と旧東ドイツに片寄っている。やはり失業者が多いことは社会不安を大きくすると思われるが、これについてはドイツを始めとしたヨーロッパの情勢は今後も注目される。
    日本を除き、各国の景気対策とはつまり失業対策を意味するケースが多い。一方、日本では景気対策はあくまで景気のテコ入れであり、雇用対策としての意味合いは間接的である。したがって今日までの景気対策は、政治的にも企業からの要求であったり、各国からの「内需拡大」の要求に対応するものであった。特にここ30年くらい、為替がフロート制に移行以降は、政府が財政支出を締めると、貿易黒字が急増し、各国から「内需拡大」の要請が起こり、丁度その時分には為替が「円高」になっており、つまり内外から景気対策を行なうよう政府に要求が強まると言うパターンが定着している。今日の不況と各国からの「内需拡大」の要求も、政府の緊縮財政が大きな原因の一つとなっている。このように同じことを何回も繰り返していることを見ると、日本の政策担当者とその政策を煽っているエコノミストには全く学習能力がないように思われる。
    「失業」が社会不安の種となる各国と異なり、日本ではそれほど失業に直接重点を置いて景気対策は行なわれて来なかった。実際、日本の失業率は最近多少大きくなったと言え、まだ諸外国に比べ小さい。しばらく前までは、「失業」より「人手不足」の方が深刻な問題であったほどである。日本の失業率が小さい理由は色々考えられる。よく言われているように、企業が人員の整理にあまり熱心ではないことが挙げられる。つまり企業が「社内失業者」を抱え込んでいるのであるが、これについてはこれ以上立ち入らない。若年層の少数化、つまり少子化も若年労働者の失業率が大きくならない原因となっている。諸外国では、若年層の失業が社会問題となっているが、日本ではそれほど深刻にはなっていない。企業と職種を選ばないなら、だいたいの若者は職が得られると考えられる。むしろ深刻なのは高年齢層である。この大きな理由の一つは年功序列の給料体系である。今後、高年齢層の失業が社会問題としてクローズアツプされる可能性は高いが、諸外国で見られるほどの深刻さにはならないと考える。それは多くの企業が失業を生むリストラをそれほど急激に行なうとは思われないからである。
    世間ではあまり指摘されていないが、筆者は日本の失業率を小さくしている一つの原因は、「学生」の存在と考えている。日本は諸外国に比べ学生が多い。さらに進学率も年々大きくなっている。大学生の少ないドイツなどと比べても、この人数の差はかなり大きい。失業率を比べる場合、学生の数をどう見るかによって結果は異なってくる。
    このように日本の失業率に「社内失業者」や「学生」のような潜在的失業者を加えたら、実質的な失業率は諸外国に比べそれほど小さいと言えない。家計は仕送りを行ない、企業は「社内失業」を抱え、政府になりかわって失業対策を行なっているのである。筆者は日本のこのシステムの全てを決して悪いとは考えていない。世間の識者は、企業はリストラを行ない失業者を顕在化させ、政府はそれらの失業者に直接給付の形で対処することを主張する。しかし、失業対策を官業と民業のどちらが行なった方が効率的かと言うことで判断は迷う。筆者には実質的な失業への対応を民業が中心に行ない、どうしても漏れる部分を政府がフォローすると言う現在の形の方が良いのではないかと考える。そのためにも政府は景気対策を行ない、企業と家計に余裕を持たせることが必要と考えるのである。

  • 日米の景気対策
    各国で景気対策には違いがある。特に日本と欧米、特に米国のやり方との間には大きな違いがある。そしてこの違いを理解することが、各国の日本の「内需拡大」の具体的方策の要求を考える場合大切である。やり方によっては、要求されたその政策を行なっても、効果がないことがありうるからである。以下は対策ごとの日米の経済効果の相違である。
    1. 金融政策
      両国とも不況時には金利を低くする。しかし、金利の動きは米国経済により大きい影響を及ぼす。つまり米国経済が金利の動きに感応的、または金利に対して弾力的と言うことである。一方、日本経済は以前から金利の動きに対して、経済の動きが鈍い。公定歩合の動きに対しても、経済の動きは十分に反応しない。特に公定歩合の操作による効果を一般に「アナウスメント効果」と言われるが、これは公定歩合の変更が、それ以降の一連の財政政策と相まって効果があるのであって、公定歩合の操作単独では実体経済にあまり影響力がないことを意味する。従来、日本の金融政策では銀行の窓口規制などに見られる、より直接的な方法が採られてきたのである。バブル期においても、高金利政策が適切な効果を示さなかったため、「不動産に限定した融資規制」を行なったほどである。また今日のように金利が史上最低の水準にあるにも拘わらず、経済がほとんど反応しないところを見ると日本における金利政策の限界を感じる。もっともこの状態を見て「景気対策には公定歩合を上げろ」と言うとんでもない意見があるが、これが経済に悪影響があることははっきりしている。筆者は、日本経済は「流動性のワナ」にかかっており、金融政策の効果が無効の状態であり、景気の回復には財政政策しかないと考えている。
      なぜ日本経済が金利に対して弾力的ではないかについては色々仮説は考えられるが、別の機会にまた述べたい。将来的には日本においても金利政策が有効になることも考えられるが、ここ当分は無理と思われる。
    2. 減税
      「減税」は各国で一般に採用されている景気対策である。米国においても景気対策としてオーソドックスな政策である。筆者が主張するように日本においては減税の経済効果は限定されているが、米国ではそれなりの効果が期待できるようである。その理由の一つとして筆者が考えるのは、税金が経済活動に与える影響が大きいことである。これも筆者の仮説であるが、「所得税」を見ても米国では自己申告が原則であり、税金が個人により密着したものであり、人々の経済行動は税金の動きに敏感と考えられる。例えば、住宅投資に係わる税金が変わると、住宅の購入により影響を与えると言う具合である。「法人税」についても、株主の権利の主張が強い米国においては法人税率の改正が企業の投資行動により強い影響を与えると考えられる。
      また米国の貯蓄率が小さく、消費性向が大きいことも減税が景気対策としての効果を大きくしている。減税による収入増のほとんどが消費に回るのであるから、日本と事情は違うのである。米国の国土が広いことも影響している。つまり減税は全国一律に行なわれるため、地域間に不公平が生じない。これは直接経済効果に関係ないかもしれないが、政策を行なう点でほとんどの国民から賛同が期待され、「減税」が景気対策として採用し安いと言うことである。
    3. 公共投資
      「公共投資」は従来日本で行なわれてきた景気対策の代表である。日本の公共投資についてはこれまで何回も述べているため、ここでは詳しくは触れない。一方、米国では景気対策として公共投資がテーマとして登ることはない。それは連邦政府には公共投資の予算そのものがないからである。公共投資の予算は州政府が持っており、もし景気対策として使うにしても、これは地域限定の政策となる。つまり連邦政府には公共投資を景気対策として使う発想そのものがないのである。また上述したように国土が広いことも影響している。仮に連邦政府が公共投資が行なえたとしても、広い国ではその効果が全国に波及するには時間が必要となり、場合によっては地域間に著しい不公平を生じる可能性がある。
      公共物が既に整っていることも影響している。下水道の整備なども既に終わっており、公共投資へのインセンティブ自体が小さいことも考えられる。英国などのように公共工事を行なおうとしても公共工事の対象物がほとんどない国もあるのである。一方、地形が複雑で地震などの自然災害が多く、また都市化が急速に起こったため、交通インフラを始め極めて社会資本が不足している日本は事情が違う。また、国土が小さく、政府と地方自治体の関係が密接な日本の場合は、全国一斉の公共投資を景気対策として行なうことも可能なのである。


    このように国の事情によって有効な景気対策が異なるのである。特に欧米人にとって「公共投資」を景気対策として考える発想自体がないとも考えられるが、「公共投資」が景気対策として無効と考えているわけではない。また、財政政策として財政支出を増やすとしても、それは福祉予算や失業給付を増やすことに当てられる。最近、ヨーロッパにおいて公共事業を失業対策として使った例は東西ドイツの統合時の公共工事が目立つぐらいである。これは東ドイツが社会資本の遅れが大きかったと言う特殊事情によるものと考えられる。
    米国の日本への「内需拡大策の要求」は最近具体的になっている。ブッシュ政権では「公共投資の増額」が要求された。特にこの時には実質増加分を「真水」と称し、この増額を要請してきた。本来、「公共投資」が景気対策としての発想のない米国からの具体的提案であったので、筆者なんかも驚いたが、これはいかに米国政府が日本経済について研究しているかの証である。逆に日本の経済学者の多くは「公共投資」による景気対策に反対している。日本の経済学者の発言の多くは英米の経済学のコピーである。多くの学者が米国に留学し、経済学を学んでいるが、米国の教科書には「公共投資」による景気対策は載っていないのであろう。
    日本の経済は、米国と違い、金利などの価格メカニズムが十分働かない。したがって効果的な景気対策が日米で異なっても当然である。クリントン政権は当初、米国では伝統的な「減税による景気対策」を要求していたが、最近では日本経済に有効な政策なら「公共投資」でも結構と言う態度に変わってきている。日本政府は、「減税」より「公共投資」の方が日本では景気対策として効果が大きいことを、米国を始め各国に説明するべきと考える。




98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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