- 「バラマキ」批難
突然、福田首相が辞任を表明した。小泉内閣の官房長官時代、この政治家は国民年金の未納を指摘され、やはり突然辞任している。辞任の理由はあれこれと詮索されているが、筆者は本人の性格が大きく影響していると思っている。
さて福田首相退陣に伴って自民党の総裁選がまた行われる。自民党の総裁選はマスコミにとって大きなイベントであり、様子は連日大々的に取上げられている。しかしひょっとすると、自民党の総裁選が大きく報道されるのもこれが最後のような気がする。
総裁選に出馬を想定されている政治家達の発言が色々と解説されている。筆者には、この中で気になる言葉遣いや表現がいくつかある。その一つが「バラマキ」批難である。財政支出を伴う景気対策を「バラマキ」と表現している。明らかに悪意を持った言い方である。
先月29日に与党は総合経済対策を取りまとめた。1.8兆円の財政支出(真水)を伴うものである。しかし財政支出(真水)に比べ、事業規模は11.5兆円と異常に大きくなっている。これは中小企業向け融資の信用保証が含まれているからである。景気対策としての中小企業向け融資額を9.1兆円用意しており、この貸倒想定額が0.4兆円である。つまりたった0.4兆円の財政支出(真水)で9.1兆円もの事業規模になるのである。
まさに水膨れの総合経済対策である。また定額減税が盛込まれたが、規模と財源は未定である。それにしても500兆円の日本のGDPを考えると、1.8兆円の財政支出(真水)は金額的に微々たるものである。「ないよりまし」という規模であり、実際、総合経済対策の公表に株式市場もほとんど反応していない。
米国は今回のサブプライム問題による経済低迷を回避するために15兆円の減税を実施した。これも一種のバラマキである。ところが米国内では対策が小さいという意見が強い(ポール・グルーグマン教授など)。また日本よりずっと経済規模の小さいスペインでも、最近、6兆円の景気対策が決定された。とこが日本ではたった1.8兆円の日本の総合経済対策が、またも「バラマキ」だと多くのマスコミや三流エコノミストから批難されているのである。
日本では財政支出による景気対策を、マスコミやメディアは「バラマキ」と悪いイメージの烙印を押す。極端な場合「バラマキ」が財政赤字の要因になるだけでなく、経済成長の阻害要因にもなっていると主張されている。これはまさに「虚言・妄言」の類である。ところがマスコミの批難を恐れる政治家は「これはバラマキではない」と必死に言い訳をしている。このような状況にある日本では当分まともな景気対策は無理である。
財政政策による景気対策が効果があるかどうかは、客観的に乗数効果の大きさによる。日本は消費性向が他の国比べ小さいため、乗数値も幾分小さいと見られる。しかし日本の乗数値は問題になるほど小さくはない。つまり米国やスペインで財政支出(いわゆるバラマキ)による景気対策が効果があるのなら、日本でもほぼ同程度の効果はある。
ただし同じ財政負担による景気対策でも、公共投資のような財政支出と減税では乗数値がかなり異なる。明らかに公共投資の方が減税より効果は大きい。ずっと本誌は同じ財政負担なら減税よりも公共投資を大きくすることを主張してきた。ところが橋本政権のあたりから「減税は効果があるが公共投資は効果が小さい」という真っ赤な嘘が広まった。98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」で取上げたように、この頃から勢力を増した構造改革派がマスコミを巻込んでこのような「虚言・妄言」を広めたのである。
ところが今日テレビに登場する構造改革派のエコノミストは、昔の自分達の言動を忘れたように米国の今回の減税は効果は小さいと言い始めている。減税の需要創出効果が公共投資のような直接公金を支出する場合よりずっと小さいことは、当り前の事であり初歩的な経済理論である(実際、米国での減税は一部しか消費に回らず、かなりの部分が貯蓄と借金返済に回った)。ところが最近、構造改革派の一部は福祉関連の財政支出は経済効果があるが、公共投資はバラマキであり経済効果はないとさらなる「虚言・妄言」を広めている(福祉関連であろうが公共投資であろうが乗数値に大きな違いはない)。このように構造改革派はどこまで行っても卑怯な生き物である。
- バルチック海運指数
自民党の総裁選については来週以降も取上げる。ここからは経済の現状を取上げる。やはり世界経済はかなり深刻な後退局面に入ったと思われる。数カ月前までは、米国経済は悪いが中国やインドなどの新興国の経済の落込みは小さいという観測があった。いわゆるデカップリング論の類である(本誌はそのような事はないと主張してきた)。しかしこれも怪しくなっている。
また商品価格の高値が続き、オーストラリアなどの資源国の経済は大丈夫という見方も強かった。しかしオーストラリア経済も後退局面に入ったらしく、最近利下げが行われた。かろうじて好調をキープしているのは産油国ぐらいになってしまった。しかしこれも原油価格の下落が続けば微妙である。どうやら世界同時不況の様相が濃くなったようで、世界中の株価も下落している。ただ現時点では、まだその落込みの度合と不況の期間がはっきりとは分らない。
筆者は世界的な景気動向を観察する上で、毎日バルチック海運指数(英ロンドン海運取引所)をチェックしている。バルチック海運指数は、主に原材料を運搬する外航ばら積み船の運賃・配船料を指数化したものである。近年、新興国を中心にした経済活動が活発だったことを反映して、このバルチック海運指数はかなり大きく変動しながらも、高い水準で推移してきた。
ところがこのバルチック海運指数がここ2週間くらい連日下がりっぱなしなのである。このことはちょうど日経新聞も9月6日付で取上げている。9月5日の指数は5,663まで下がり(1985年平均が1,000)、今年3月の米国金融不安時の安値水準にほぼ並んだ。
バルチック運賃指数は、03年から05年までは、2,500から5,500までの間で上下していた。しかし06年からは上昇に転じ、サブプライム問題が表面化するまで上昇を続けた(この時のピークは昨年11月の11,000)。その後前述のように今年3月の金融不安時まで一旦大暴落したが、そこから5月20日の史上最高値の11,793まで一気に急騰した。しかし6月始めから今日までほぼ3ヶ月の間ほぼ毎日下がった(わずか3ヶ月間で52%の下落)。
ばら積み船の運賃・配船料は、製造業の原材料の荷動きを反映している(製品の方の荷動きはコンテナ船の運賃・配船料の指数、原油の荷動きはWS(ワールド・スケール)がそれぞれ反映)。そしてバルチック運賃指数の動きは、今年の6月以降、世界の製造業の稼働率が一貫して下がっていることを明らかに示している。
バルチック海運指数がずっと下がっていることは人々も承知していた。しかしこれには北京オリンピックが近付き、中国が工場の稼動を抑えているからという解説があった。つまりオリンピックが終われば、中国の製造業の生産は上向き、バルチック海運指数も反騰するという話であった。しかし筆者はこの話を眉唾ものと思っていた。案の定、オリンピックが終わってからも毎日下がり続けているのである。
たしかにここ5年間をみれば今日の指数の水準はまだ高い。しかしバルチック海運指数下落の止まる兆しが全く見えないところが無気味である。世界的にかなり大きな景気後退が来そうである。
ところが一部を除き各国政府の動きが鈍い。今回は物価上昇の中の不況であり、簡単には景気対策とは行かないのであろう。景気対策を真剣に考えているのは、米国を除けばスペインと韓国くらいである。日本は名ばかりの対策案を決めただけである。むしろ自民党の総裁選での、立候補者達の浮き世離れをした議論を聞いていると、日本経済は絶望的である。
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