- 現実的な対応
大手金融機関の4〜6月決算が出揃う少し前から相場は転換した。株式が反発し、原油価格が下落に転じた。住宅公社ファニーメイとフレディマックに対する公的資金注入の方針決定や、SECによる主要金融機関に対する「カラ売り規制」も効果があったと思われる。
ベアー・スターンズ救済以降、当局(FRBや財務省など)の動きは目立たなかったが、ここに来て急に矢継ぎ早に対策を打出している。ファニーメイとフレディマックの経営危機は、ずっと懸念されていたサブプライム問題の広がりを示すものである。
たしかに住宅公社二社に対する支援策によって当面の信用不安は一歩後退する。しかし信用不安がこれで峠を越えたわけではない。危なっかしい状況はずっと続き、真偽のはっきりしない話に市場が動揺する状態は続くものと見られる。
サブプライム問題に端を発する信用不安は、これからまだまだ広がる。ゴールドマン・サックスは、企業向け融資や自動車ローンが来年の1〜3月、カードローンが同年4〜6月、商業不動産ローンが同年10年10〜12月にそれぞれ損失のピークを向えると予想している。筆者はサブプライム問題については来月の8月にピークを向えると予想しているが、その後も信用不安の種は目白押しである。
米国の金融と経済は最悪であるが救いはある。政府やFRBがなんとか対処していることである。議会もいざとなれば現実的な対応をしている。例えば住宅公社二社に対する支援法案提出が表明されたのが7月13日の日曜日であり、それからわずか10日間で法案成立のメドがたち、2週間で法案が成立する運びとなっている。日本では考えられないスピードである。米国のマスコミもこれらの法案に批難めいたことを言わない。
一方日本は、95年の住専国会でたった6,850億円の公的資金の投入でさえ大問題になり、長い間国会が空転した。なさけないのが日本のマスコミであった。住専への公的資金投入を主張していたはずの大新聞が、住専国会の頃には全く逆の事を言い始めていた。
日本は本音と建前が違う国とよく言われるが、米国の方がこの傾向が強いと筆者は思っている。建前で米国は自由主義経済を唱えているが、いざとなれば政府は露骨に市場に介入する。本誌で何度も取上げているが、米国はプラグマティズムの国であり、リアリズムの国である。やはりいつも戦争をしている国はやることが現実的である。
住宅公社二社に対する支援策で米国は公的資金の投入を開始する(実質的にはベアー・スターンズ救済時に、FRBがJPモルガンを通じ特別融資という形で公的資金投入を既に実施している)。公的資金投入はずっとブッシュ大統領が建前で反対していたことである。
さらにサブプライムローン借換えのための3,000億ドルの資金枠の設定法案までも提出されている(野党民主党が中心にまとめたもので、住宅公社支援法案通過と引換えに大統領は拒否権を行使しない見通し)。日本なら「なぜ税金(罪のない国民の金)を投入するのか」とか「責任者をはっきりさせ罰されるまで税金の投入はだめだ」という声が出てきそうな一連の法案である。
- 米国にも「小泉的なもの」
筆者は、米国の金融と経済の危機に対する、米当局の対応と米国のマスコミの動向に注目している。バブル崩壊後の日本と比べると面白い。日本の場合はとにかくめちゃくちゃであった。
米国の金融と経済の危機を克服するためのカギは住宅価格の安定である。一方日本のバブル崩壊の場合は、都市部の地価の安定であった。問題は住宅価格や地価が下落して適正価格に近付いた時の政府の対応である。
日本は、地価の下落が続きやっと適正価格に近付いた頃08/5/12(第526号)「日米のバブル崩壊」で述べたように、何を勘違いしたのか「経済は回復した。次は財政再建だ」と日本政府は緊縮財政路線に突然転換した。97年の橋本政権の行財政改革(構造改革)である。これがやっと浮上し始めた経済に冷や水をかけ、地価の下落を止まらないものにした。さらにこれに連れて株価も下落した。
さらなる地価の下落は、金融機関の不良債権をさらに増やし、大手金融機関の破綻に繋がった。不幸なことにその後地価は適正価格を大幅に下回る水準まで下げ続けたのである。しかしこの橋本政権の逆噴射的政策は国民の支持を受けていたということになっている。たしかに大マスコミはこの異常な政策を強く推進し、国民を洗脳していた。例えば日経新聞は「2020年からの警鐘」というばかげた特集をずっと続けて、橋本政権の構造改革路線をフォローしていた。
今の下落ペースを見ていると、米国の住宅価格は後1年くらいで適正価格に近付くと思われる。それまでに「財政赤字が問題」とか「政府が経済に介入するのは問題」といった声が大きくなり、米政府の政策が逆行したり縮小されたりするかがポイントである。今のところその徴候はないと思われるが、先のことは不透明である。
サブプライム問題などによって、バブル崩壊後から続く日本経済の不調が目立たなくなっている。しかし日本の経済成長率はずっと先進国の中で最低である。さらに他の先進国と違うのは、名目成長率が異常に低いことである。原油などの一次産品の価格上昇がなければ、今日でも名目成長率がマイナスになっている可能性がある。
筆者は、これは目立たないが橋本政権の行財政改革(構造改革)路線の政策が依然続いているからと考える。橋本政権は日本経済を傾かせ参議院選挙で大敗し退陣した。しかしこの行財政改革路線は小泉政権(実態としては森政権から)から完全に復活している。これが日本のデフレ経済からの脱却を阻害しているのである。
実際、橋本政権で中枢にいた政治家や官僚が、一掃されるどころか今日でも大きな顔をして跋扈している。幹事長だった加藤紘一氏、政調会長だった山崎拓氏、そして官房副長官だった与謝野馨氏などが代表である。与謝野氏などは「政策通」ということになっているのだから驚きである。また小泉前総理も橋本政権の閣僚であった。さらに秘書官として橋本政権で強権を振るった江田憲司氏は、衆議院議員となって今日頻繁にマスコミに登場している。
もちろん橋本政権下で行財政改革(構造改革)路線を押進めた官僚も健在である。筆者はこれらの人々を「小泉的なもの」と呼んでいる。この「小泉的なもの」が日本のデフレ経済からの脱却を妨げていると考える。大マスコミも「小泉的なもの」的論調を依然保持している。反対にこれに異論を唱えた政治家が郵政改革選挙で自民党から追出されたのである。
米国経済は今後少なくとも1年間は大事な時期である。ここで政策を間違えると日本の二の舞いになる。はたしてこの間に米国でも「小泉的なもの」的政治勢力が出現し、力を持つようなことがあるのかが注目される。なにしろ「構造改革」と「小さな政府論」の理論的支柱となっているのが米国のシカゴ大学である。
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