- 経済問題になりさらに社会問題に
NY原油先物価格は140ドル寸前まで上昇した後、130ドル台で乱高下している。何時140ドルを越えるのか、あるいはさらに150ドルにもなってしまうのかが注目されている。しかし筆者は突発的な事件が起らない限り、今回の価格高騰劇はこれで一応お終いと見ている。根拠の一つは、石油価格高騰が深刻な問題だとして世界中が認識しだしたことである。
ここ10年くらい、石油消費は経済問題ではなく、CO2削減といった環境問題として捉えられる傾向が強かった。しかし環境に対する人々の認識は曖昧である。環境問題ということになれば、各国は立場が異なり考え方も大いに異なる。化石燃料の消費削減目標と言っても各国の利害が対立し、合意まで時間がやたら掛かっている。まさに時間と労力の無駄であった。
ところがここまで石油価格が上がれば事情は変わる。環境問題ではなく、これを経済問題と実感するようになったのである。例えばGDPの2%程度であった日本の原油輸入代が5%に迫ろうとしている。石油価格の決定は市場に委ねるといった暢気な状況ではなくなった。
例えば燃料代高騰で世界各国の漁民が騒いだり、出漁を取り止めるという事態になっている。つまり経済問題になり、さらに社会問題になろうとしているのである。さすがに各国の政府は、この問題を深刻に受止めざるを得なくなった。
中国は、石油製品を安値で供給している制度を撤廃する方針である。22日には産油国と消費国の会議が、サウジアラビアのジッダで開催される。ようやく世界中が石油価格の高騰に真剣に対処しようと動きだしたのである。
今回の原油価格の高騰は、第一次オイルショックや第二次オイルショックと様子が違う。前者は第4次中東戦争、後者はイランのホメニイ革命がそれぞれ勃発したことがきっかけとなった。この時には一時的といえ、供給不足(仮需や買占めによるものも含め)が実際に起っていた。しかし今回は供給側に問題があったわけではない。市場価格の金額さえ出せばどれだけでも原油は買えるのである。また仮需も起っていない。ここまで産油国が増産に消極的だったのも、増産しても在庫が積み上がるだけと感じていたからである。在庫が積み上がれば、これが原油価格の暴落に繋がる。
原油価格の決定権は、OPECなどの産油国から、NY原油先物など(他にドバイと北海ブレンド)の商品市場に移った。石油輸出国はこの市場価格をベースに輸出価格を決めている。物の価格は需要と供給で決まるという古典派経済学の理論は今日のところ無力である。
ただここ数年、原油の需給がタイトに推移してきたことは事実である。そしてこれが今回の価格急騰に結び付いた。ファンドなどの投機マネーはこのようなところに目を付け、原油高騰劇を演出したのである。したがって今後の原油価格の動向を予想するには、需給がタイトに推移している背景を探る必要がある。
まず取上げるのは需要側である。たしかに中国などの人口の大きい新興国の経済が本格的に成長路線に乗り、これらの国の石油製品の需要が増えている。また今後もこれらの国の石油消費が伸びることが確実視されている。ただここまで価格が高騰すれば、当然需要の伸びは相当鈍るものと思われる。また世界全体の総需要の伸びには省エネ技術の浸透と代替エネルギーの開発(後ほど取上げる代替資源を除く)がカギを握ると思われるが、この結果には時間がかかるものと考えられる。
- 代替資源開発の加速
今日、石油の需給に関しては、いささか需要サイドの話ばかりが注目されている。しかし供給サイドにも不都合があった。ほんの10年前、逆に原油はダブついていたのである。皆が騒ぎ出したのは、原油価格が本格的に上がり出した04年頃からである。
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」で述べたように、10年前の98年には原油価格は一時的にバーレル当たり9ドルまで下落した(NY原油先物価格の98年の平均は14.4ドル)。これは油田における採掘技術の進歩により、既存の油田の可採掘量が飛躍的に増えたためである。実に原油採掘の限界コストがバーレル当り7ドルまで低下したのである。
新興国の需要増もさることながら、この10年前に始まったの原油価格の下落が、今日の原油価格の高騰に繋がっていると筆者は考えている。翌99年も19.3ドルと、総じて03年まで原油価格の低迷はかなり長く続いた。このため新規の油田の開発意欲が一気に萎んだのである。逆に安い石油に依存する形のまま経済発展が続けられた。
世界全体の原油供給量はわずかに増えているが、最近、ロシアの生産量が減少に転じている。これも原油価格低迷によって、長年ロシアでの投資が不足していたからである。今日、石油高騰を目の当たりにして、新油田の開発が急ピッチに行われている。しかし新油田の開発の成果が実際の供給増となって現れるにはある程度の年月が必要である。
130ドル台の原油先物価格が高すぎることは、誰もが承知している。しかし何時、どこまでこれが下落(暴落)するのか予想することは難しい。ただ価格予想の落着く先としては、不思議と60ドルから70ドル程度に集中している(これを超える部分がバブルということになる)。しかしこの根拠が薄弱である。
テレビに登場したある商社の専門家は、60ドルが原油価格のファンダメンタルだからと説明していた。しかしファンダメンタルの意味が不明である。価格決定方式の一つに、コストに一定比率の利益を上乗せしたマークアップ方式というものがある。しかしこれではないようだ。そもそも筆者は経済問題で「ファンダメンタル」という用語を使うエミノミストを信用しない。
またファンダメンタルは産油国が言っている適正価格とも違うようである。2000年以降OPECは、バスケット価格でバーレル当り25ドルを適正価格と明示し、生産量を調整するために22ドルから28ドルの目標価格帯制度を導入している。しかし04年頃からの原油価格の高騰を受け、サウジアラビアは方針を変更し、それまで25ドルとしていた適正価格を32ドルに引上げた。この適正価格が4年という短期間のうちに倍になるということはない。
筆者も、米ドルの価値の変動がない限り、原油価格の落ち落着き先を60ドルから70ドルと想定している。筆者が根拠にしているのは代替資源開発のコストと採算ラインである。原油に替わるものとして念頭にあるのは、オイルサンドとオイルシェールという新資源である。
オイルサンドは04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」で取上げた。本誌はここで開発コストをバーレル当たり50ドル程度と想定していた。しかし最近の情報(6月10日付日経新聞)では、オイルサンドとオイルシェールの採算ラインはともに70ドルから80ドル程度ということである。やはり4年の間の物価上昇と米ドルの下落が影響しているようである。
04年時点では、日本はカナダのサンドオイルから抽出した油分を2009年末から40万bpd(日本の石油消費の8%)輸入することになっていた。つまりあと一年半ほどで、原油の代替品が市場に出回る可能性がある。130ドル台というバカ高値が続けば、当然のこととしてサンドオイルなどの石油の代替資源の開発が加速される。
筆者が注目するのは、新油田の開発コストが上がるのに対して、サンドオイルからの抽出油のコストは逓減する可能性があることである。サンドオイル開発の場合、当初は輸送設備などのインフラの整備にコストが掛かる。しかし一旦生産が軌道に乗れば、追加コストはそんなに掛からないものと考えられる。さらに技術進歩や生産規模の拡大で限界コストがどんどん下がることが予想される。サウジアラビアなどにとって、今回の原油高騰劇は迷惑な話だと筆者は見ている。
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