- 景気の現状
一時は14,000円台まで下がった平均株価も17,000円台を回復するなど、昨年11月の金融機関の大型破綻に始まった一連の経済危機も小康状態を保っている。噂されていたゼネコンの破綻も今のところなく、表面的にはなんとなく3月まではなんとかなるような雰囲気である。世間も「長野オリンピック」に関心が移り、一ヵ月前までの最悪の状況を忘れているかのようである。これも自民党によって打ち出された一連の対策による反応と考えられる。問題はこれらの対策が現実化されるかと言うことと、さらに今後どのような追加措置が採られるかにかかっている。 例えば、野中幹事長代理の主張である「6兆円の補正予算構想」も、財源などの問題でまとまらない結果となれば、市場の反応はとてつもなく深刻なものになろう。つい最近までの政府の経済運営を考えるとこれも案外杞憂と思われないのである。つまり財政当局が「財政再建路線」を完全には放棄したとは考えられないからである。 ただ、今後の政府の経済運営を占うには「5月のサミット」と「7月の参議院選挙」がキーワードになると考えられる。政府と自民党はこれらを乗り切るため、かなり現実的な政策を行なうことに迫られるはずである。また、これらの対策が行なわれないなら日本経済の見通しが立たなくなる事態となろう。 表面的な小康状態に反して、経済の実態は確実に悪化している。先週号2/9(第52号)「政治と経済を考える」で述べたように、マンションの契約率も1月になって急低下しているようである。自動車の国内販売も同様である。好調であった設備投資も一転不振に変わっている。そして筆者の注目しているのは「1月の住宅着工件数」である。昨年12月の数字も悪かったが、この数字にはまだ11月の金融機関の大型破綻の影響が現われていないと考えている。心理的影響が出てくるのは1月からと思われるからである。今後の住宅建設数を占う上で、もしこの数字が10万戸を大きく割り込むようだと、これからの住宅建設は相当減少しそうだ。1月のマンションの契約率が相当悪いと言うことから、「1月の住宅着工件数」も悪いことが予想される。 バブル崩壊後、日本経済を支えていたのは、「公共投資などの財政」と「民間の住宅投資」であり、最近ではこれに「設備投資」と「輸出」が加わった。そのうち現在健在なのは「輸出」だけである。これも今後の為替動向によっては雲行きがあやしくなる。また輸出の増加に対しては各国からの非難も強く、これにだけ頼ることは不可能である。つまり頼れるのはもはや「財政」しかないのである。いずれにしても今後の政府の経済運営を注目して行くことになる。
- 高い実質金利の影響
バブル崩壊後、「借入金を減らした企業」と「増やしたかあるいは減らさなかった企業」に分かれた。バブル崩壊後、金利は史上最低水準で推移し、地価はバブル前の水準近くまで下落している。借入金を増やした企業はこれをチャンス到来と判断し、積極的に投資を行なったり、会社の買収を行なったのである。これらの企業は景気が将来回復するものと考えていたのであろう。一方、借入金を減らした企業は将来を悲観的に考え、自己資本の充実を図った。そして今日の経済状況を見るとどちらの判断が正しかったか、はっきりして来た。つまり借入金を増やしたグループが厳しい状況に置かれているのである。 どうしてそうなったのか考えると、一つのポイントは金利にあると筆者は考える。たしかに金利は極めて低い水準にあるが、4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」で述べたように物価上昇率も極めて低いため、実質金利は結構高いのである。この辺が錯覚を生みやすいところである。高度成長期のように、逆に金利が高かった時代の方が、経済活動が活発だったことなどにより物価の上昇率が大きく、実質金利はさほど高くはなかったのである。また物価指数には地価動向が反映されていない。投資を行なう場合、この地価も考慮して実質金利を算定することにすれば、むしろ地価が上昇していた頃の方が実質金利は低かったはずである。当時、おそらく地価を考慮した場合は実質金利が長らくマイナスであったと考えられる。この時代は、土地の買収を伴う投資を行なっておけば、たとえその投資が失敗しても、値上がりした土地を売却すると、投資金額のかなりの部分が回収できるか、場合によっては利益を生むことも可能だった。それに対してバブル崩壊後の低成長で、投資を行なうことによって利益を確保することが非常に難しくなった。金利はたしかに低いが、よほどの投資案件でない限り、収益を上げることが困難なのである。さらに土地などの資産価値の下落が依然続いている。バブル崩壊後の日本においては、受験生ではないが、「投資」の偏差値は極めて高くなっているのである。 したがってバブル崩壊後、借入金を増やし、投資を行なった企業の多くは現在苦境に追い込まれている。これによく似た現象は個人にも起こっている。バブル崩壊後、住宅価格の下落と金利の低下を受け、資金を借り入れて住宅投資を行なった人々である。この人々達は景気回復を見越し、将来給料などの収入が増えることを想定していたはずである。しかしこの想定がはずれたのである。そして名目の金利は低いが、今日ローンの返済に苦しんでいる。それに加え、購入した住宅の資産価値もダラダラと下落すると言うダブルパンチを受けているのである。 バブル崩壊後、経済は低迷しているが、それでもこれらの企業の投資や住宅投資が景気をある程度下支えしてきたのも事実である。筆者がこれから景気を対して悲観的に見るのは、ここまで景気を支えていた一角のこれらの投資による需要が急速にしぼむと予想するからである。いよいよ「財政」の出動しかないのである。 名目金利は、これだけ景気が悪く、投資機会がないと言うことになれば、もっと下がっても良いと言う意見もある。しかし金利はある程度まで下がると、それ以上は下がりにくい状態になる。これをケインズの言う「流動性のわな」と解釈することもできるであろう。たしかに金利がドンドン下がり、マイナス金利と言う現象が可能なら、預金をする人も減り、消費が増え、不景気と言うこともなくなると考えられるからである。 バブル崩壊後、借入金を増やした主体に政府がある。ここまでの話では、この時期借入金を増やしたことが誤りとして解釈されるが、政府の場合は事情が異なる。日本の政府の収入である税収は、その強い累進性に特徴がある。つまり景気が後退した場合には、より税収が減り、逆に景気がよくなれば税収がより増える形になっている。つまり財政を出動させることによって景気を下支えすることが、税収の極端な減少を阻止して来たと言えるのである。
- 貸し渋りの影響
今日、借入金が多く、自己資本比率が低いことは、その企業の評価にとって良くないこととして解釈されている。しかし、逆に考えれば、資本が小さいこと、つまり元手が小さくても大きな商売ができると言うことは、その経営者の手腕とも言える。そして資本が小さいにもかかわらず、多額の借入金ができると言うことは、その企業が信用されている証拠である。逆に信用がない企業は資金の借り入れができないため、自己資本比率が必然的に高くなるのである。実際、以前は自己資本の何倍の資金を調達できるかが一つの目安となり、これを「ギヤリングレイシオ」、つまりギヤ比と呼び、この値が大きいことだけで企業内容が悪いとは判断されなかった。つまり他人資本である借入金をなるべく多く使い、いかに大きい収益を上げられるかも経営の腕であった。そしてこのことによって自己資本収益率、つまりROEを大きくすることが可能であった。 事実、高度成長期には日本を代表する企業の大部分は自己資本比率は極めて低かった。またこれが今日のように問題にされることもあまりなかった。日本の企業の自己資本比率が大きくなったのはバブル期前後からである。企業がさかんに株式の時価発行や転換社債、ワラント債の発行を行ない、その資金で借入金の返済を行なったからである。これにより自己資本比率は大きくなったが、自己資本収益率は低下したのである。たしかに両者の充実を行なうことは至難の技である。 ところがここに来て、「自己資本比率」がキーワードとなった。米国の格付け機関が「自己資本比率」を重視しているからである。筆者は、日本の企業の場合、「自己資本比率」にそれほど重きを置くことが正しいことか疑問である。そして最近は日本の銀行までも融資にあたりこの「自己資本比率」を重視していることが問題と考える。たしかに自己資本比率は大きいが、守りの経営しか行なっていない企業と自己資本比率は小さいが企業家精神に溢れ、積極経営を行なっている企業とどちらが日本経済にとって大切か考えさせられるのである。 「銀行の貸し渋り」が話題になっている。筆者は、日本経済全体ではこの影響はさほどないと考えていた。実際、積極的に設備投資を行ない、経済をリードしている有力企業は自己で資金を調達できることから、「銀行の貸し渋り」の影響はほとんどないと考えていた。実際、景気に影響する民間の設備投資はしばらく前までは順調に伸びていた。たしかに「銀行の貸し渋り」が原因と見られる企業倒産は増えているが、全体から見れば件数そのものは極めて少ないものであった。しかし、これが昨年の11月ころから増えだしているのである。まだ顕著に影響が現われているのは中小企業に止まっているが、いずれ大手企業に波及することは必至である。つまり、この流れが日本経済に影響を本格的に与えるのはこれからである。 バブル崩壊で深手を負った不動産関連やゼネコンは既に「銀行の貸し渋り」に直面しているが、これから影響を受けるの企業は他の業種でも出てくる。これが前段で述べた、バブル崩壊後、積極的に借入金で投資を行なった企業と借入金の返済が進まなかった企業である。筆者が思いつく具体的な業種は商社と流通業、特に大手の流通業である。これらの業種の自己資本比率はたしかに低い。特にバブル崩壊後、投資を行なったが、思うように収益が上がっていない企業は苦境に立つことになる。 子会社や関連会社が多い企業の借入金の実態は外部から分かりにくい。連結決算を行なっていても、借入金の多い関連会社を連結決算の対象から巧みに外している場合もある。今後は金融機関やゼネコンと言った以前から注目されていた業種に加え、これらの業種の行方も注目される。これらの企業が社債、転換社債の借り換え債をスムーズに発行でき、長期借入金の返済資金を借り入れられるかが問題である。 銀行に対しては、公的資金による資本注入が検討されている。これは銀行破綻による預金者の保護に加え、その貸出先への波及を阻止するのが狙いである。たしかに銀行の貸出先は多岐にわたり、銀行の破綻が取引企業に多大の影響を与えるのは事実である。北海道拓殖銀行の破綻が、北海道の経済に少なからず悪影響を与えていることからも理解できる。しかし、破綻が取引先に影響するのは銀行だけではない。商社も金融を通じた取引先は多い。商社も大手となれば、銀行に劣らず、破綻が社会に及ぼす影響は大きい。ところが銀行には破綻回避の用意が準備されることになっているが、他の企業にはなにもないのである。つまり今後は金融機関以外の企業の破綻が注目され、政府の対応が問題となる。筆者は、金融機関さえ大丈夫なら日本経済はうまく回ると言う単純な考えにはとても賛成できない。
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