- 円高は構造的
本誌は、これまで為替を幾度となく取上げ、また当面の為替動向についても度々予想をしてきた。しかし超長期の為替動向をまともに取上げたのは97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」と04/4/5(第339号)「円高は構造的」の二回だけである。特に前者は10年以上も前の事である。しかし超長期の為替動向に関する筆者の基本的な見方はこの時とほとんど変わっていない。
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」では読者の方の質問に答え、30年後、つまり今日で言えば20年後の円レートを80円の円高と予想した。また場合によっては40円も有りうると同時に述べた。この40円の円高の根拠として、1ドル360円の円レートが30年間で120円と3倍の価値に上昇したのだから、次の30年でさらに3倍の40円になる可能性があることを挙げた。
まさに今日の米ドル安・円高の様子を見ていると、80円どころか40円だって決して非現実的とは思われないのである。仮にここ1年くらいで1ドル90円が定着すれば、20年後の40円という超円高へのラインにちょうど乗ることになる。97年の当時は逆に「そのうち1ドルは150円以上の円安に戻る」と主張する市場関係者が多い時代であり、将来40円になるなんてとても口に出せない雰囲気であった。状況が様変わりしたのである。
しかし決して筆者は円高論者ではない。むしろ円安が好ましいと思っている。もっと正確に言えば、購買力平価に応じて為替レートは決まるべきと考えている。その意味で中国の為替操作による著しい人民元安を不当と強く訴えている。
円高の程度は別にして、筆者が「円高は構造的」と考える根底には、長期的に為替水準は経常収支によって決まるという信念みたいなものがある。この日本の経常収支はずっと大きな黒字を続けており、一向に黒字幅が小さくなる兆しがない。むしろ日本の海外投資資産が大きくなっており、これに対する利息や利益が大きくなっている。
つまり所得収支の黒字が年々大きくなっているのである。したがって経常収支を均衡させるには、貿易黒字の縮小どころか、貿易収支を赤字にする他はない。それもかなり大きな赤字にしなければ経常収支は均衡せず、円高要因は消えない。
この状況ではいつ円高になっても不思議ではなかった。ここ数年、円高を阻止していたものは、日本からの資金流出であった。政府・日銀の為替介入、民間の海外投資、そして外資金融機関の円キャリー取引がこれである。
これまで米国は先進国の中で高い成長率を維持し、世界中から金をかき集めてきた。ところがサププライム問題が起って米国経済の実態が明らかなった。メッキが剥げたのである。これによって資金の流れが逆転し始めたのである。筆者は、再び資金が米国に集まる事態は今後なくなるとまで見ている。
- 急激な円高への対処
国際的な競争力を維持するには、生産性を向上させる必要がある。例えば為替が10%円高になれば、単純な計算なら生産性を10%程度上げる必要がある。もっとも円高によって輸入品の価格が下落するので、国内での生産性は10%も上げる必要はない。さらにもっと正確に言えば、為替といっても米ドルだけではなく、交易を行っている全ての国の通貨が対象になる。つまり各国の通貨の平均(貿易額での加重平均)である実効為替レートの上昇が問題になる。
プラス・マイナスを相殺しても、円高は日本経済にマイナスに働く。しかしこれまでも幾度となく、日本は急激な円高を経験してきた。「固定相場(360円)からスミソニアン体制(308円)に移った時」「変動相場制(完全フロート制)への移行時」「プラザ合意の後の円高調整」「95年の80円の超円高」などである。
今日の円レートの動きを見ていると、これまで経験した程度の急激な円高に遭遇する可能性がある。筆者はその条件として「ECBの利下げ」と「人民元の大幅な切上げ」を考えている。「ECBの利下げ」は、まだドイツの経済が強いので実現するといってももう少し時間がかかると思っているが、最終的には実施されると見る。
日本経済はかなりのスピードで悪化している。さらにこれ以上の急激な円高が起った場合、日本経済はピンチになる。筆者は、たしかにさらなる円高になっても、日本はこれを乗越えると確信している。しかしそれには相応の時間が必要である。その間また合理化や生産性の向上で、日本人はまた酷い目に遭うことになる。
円高にピリオドを打つため、日本経済の内需依存への転換が20年以上も前から叫ばれてきた。ところが日本政府はこれと全く反対の政策をずっと行ってきた。特に小泉政権からこれが顕著になり、日本経済は外需に依存する度合が強まった。しかしこのような事をやっていれば、そのうち円高になるのが当り前である。
ガソリン税を巡っての与野党の攻防を見ると分るように、日本の政府は今機能していない。しかし仮にこのような事態がなくとも、急激な円高に対処する政策は何も採れない。昔ならこのような事態が起れば、緊急の財政出動や金利の引下げが検討された。しかし今の自民党は昔の自民党ではない。
メディアも頭がおかしくなっている。最近、大和住銀投信顧問のM氏という市場関係者がテレビで「日本政府の財政のバラマキ体質の復活で外資が逃げている」「小泉首相の再登板を望む」と発言していた。あきれはてコメントする気もなくなるようなばかげたセリフである。
さすがにこの発言には筆者も驚いた。しかしこの種の発言は時たま耳にするものである。そこで本誌は来週号で小泉政権がやってきたことを緊急に取上げることにする。このような意見がまかり通るようなら、永遠に日本ではまともな経済政策は行われないということになりかねない。
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