- 自民党の経済運営
2/2(第51号)先週号「官僚と経済を考える」 で、日本の場合、マクロ経済について責任を持って管轄している部署が役所にはないことを話した。つまりマクロ経済がスランプになって、企業がバタバタ倒産し、失業者が街にあふれても、官僚は責任をとる必要がないのである。「財政再建構想」は、たしかに政治の表舞台に出てきたが、これは政治家がリードして作成したものとは考えられない。どう見てもこれは財政当局のお膳立てに、橋本総理を先頭に政治家が乗ったものである。問題は、この「財政再建構想」がマクロ経済への影響を考慮していないことである。もちろん、本誌12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」で主張してきたような日本経済の変質、つまり消費社会の成熟による慢性的な需要不足になりやすい日本経済の体質に理解がないことも指摘できる。 特に97年度の予算案が作成された時期は、一昨年の秋であり、当時は、消費税の税率アップ前の住宅の駆け込み需要、前年に行なわれた円高不況への対策、さらに為替の円安傾向による輸出の増加などによりマクロ経済が好調さを瞬間的に示した時期であった。しかし、「為替の円安傾向による輸出の増加」を除けば、これらの効果は消滅するものである。しかし、政府はこれで景気も自立回復の軌道に乗るものとして、緊縮型の97年度の予算案を決定してしまったのである。しかし、「バブル崩壊による資産価値の下落の影響」と、前述した「底流にある慢性的な需要不足の日本経済の体質」が景気の自立回復を妨げているのである。つまり景気の自立回復は無理であった。 自民党は長らく日本の政権の座にある。筆者は、その原因を「自民党の現実性」にあると思う。つまり問題への現実的な対応能力であり、言い替えればポリシーがないかあるいはポリシーにあまり重きを置かないことである。昨年末の大型の金融機関の破綻以降、たしかに自民党の政策も方向転換されて来た。まさしく自民党の柔軟性が発揮されているのである。しかし、現在の自民党に経済に強い人がたくさんいるとは思えない。特に影響力があってかつ経済に強いと言う政治家がいないのである。かっての渡辺美智雄みたいな人がいないのである。経済通として宮沢元総理を挙げる人もいるが、宮沢元総理はいま一つ「押し」が弱い。いずれにしても自民党の経済通が力を発揮できたなら、97年度の予算のようなバカげたものが通るはずがなかったのである。 長らく自民党が政権を維持してきた原因として、自民党が野党の唱える政策を大胆に取り入れて来たことである。このことによって野党を無力化して来たのである。例えば自民党は野党の主張である「福祉政策」を取り入れてきた。国民皆保険のように、米国でも実現していない政策を早々と実現して来たのである。しかし、この野党の政策を採ると言う手法が、今回の不況の原因ともなったのである。 一昨年秋の総選挙では、野党の「改革」に対抗し、自民党も「改革」を旗印に争ったのである。「改革」を主張することによって、野党を牽制し、これがうまくいったのである。そして「改革」には「財政構造改革」も含まれるのである。つまり橋本政権は、元々官僚の作った「財政再建」のシナリオに乗りやすい形でスタートしたのである。マスコミの論調もこれには追風となった。マスコミはむしろ97年度の予算でさえ歳出に甘いと言っていたくらいである。そしてこの緊縮予算の副作用については全く無視されたのである。
- 野党の経済対策
自民党の特徴がその現実性にあるなら、野党の主張は観念的である。いつも「改革」「構造改革が必要」と主張するが、その具体的な内容はわかりにくい。経済についても「構造改革」が必要と主張している。しかし「構造」と言うものは元々変わりにくい物である。それを改革しないと「明日の日本はない」と言うのである。しかし「構造」と言うものは、人に例えるなら「性格」みたいな物である。「構造改革」を行なえと言うことは、他人に向かって「性格を直せ」と言っていることと同じである。本誌で「慢性的な需要不足になりやすい日本経済の体質」について述べたが、これも一つの日本経済の構造に係わる問題である。これを解決するには相当の期間が必要であり、実現性も乏しい。これを解決するには「日本の土地問題を解決する」「自動車並の大衆消費財があらわれる」とか「セカンドハウスを建てる大ブームが来る」と言ったことが必要である。むしろ現実的には「団塊の世代」が引退するまでこの状態が続くと考えている。 もう一つの野党の政策の特徴は「小さな政府」である。具体的には「減税」と「政府支出の削減」、さらには「規制緩和」である。特に最近新しく誕生した政党のほとんど全てが「小さな政府」指向である。現在与党陣営いる「新党さきがけ」も「小さな政府」指向である。この政党が与党にいるのも安全保障の考えが、他の「小さな政府」指向する政党と違うことが原因と考える。 97年度の予算はすんなり国会を通り、野党も有効な反対の手段をこうじなかった。少なくとも97年度予算が政府支出をギリギリに抑えており、この点では野党の主張に沿うものであったからである。そして今でも景気対策は「減税」の一点ばりである。したがって自民党の景気対策は多少この野党の主張に配慮するものにならざるを得ないであろう。つまり「大型の公共投資の追加と金額としては小さいが減税を折り込む」ような対策である。 新党はおしなべて支持率が低下している。一つには「改革」の内容がよくわからないことと、「改革」と言う言葉に有権者があきてきたことであろう。そして「小さな政府」政策に有権者が密かに疑義を感じているのではないかと筆者は考えている。「小さな政府」指向する以上、今日の景気後退に対しても有効な政策は打ち出せない。大型の金融機関の破綻が続き、橋本政権の支持率が低下しても、野党の支持率が一向に増えないのである。つまり、国民は野党に期待していないのである。これは筆者の感想であるが、「小さな政府」指向と言う日本の経済には全く合わない政策を転換しない限り、これらの野党はますます弱体化して行くと思われる。 これは本誌で以前に述べたが、日本には「米国政府」と言う野党に替わるものがある。日本の野党は頼りないが、この野党は強力である。この野党に当分活躍してもらう外はないのが現実なのである。
- 自民党の追加景気対策
自民党の野中幹事長代理が「6兆円規模の98年度補正予算案」を提唱した。なんとこれに対して「財政再建一辺倒」であった橋本総理を始め自民党幹部も前向の反応を示している。98年度の本予算さえまだ国会を通っていない現段階であるため、表現は慎重であるが、この案を中心に追加景気対策が作成される空気である。この補正予算案を始め、最近の自民党の景気対策をめぐる動きはようやく適切なものになってきた。これは、それだけ事態が深刻であることを自民党全体が認識し始めていることの現われである。「30兆円規模の金融不安対策」「金融機関所有の土地の評価益の自己資本への繰入」など極めてリーズナブルなものである。また所得減税のやり方も「一律定額方式」と消費税の減税に及ばないにしても、それに準じた効果が期待される方法を採用している。特に「土地の評価益の自己資本への繰入」は信用収縮に対する効果が期待される。これは終戦後の物価高騰時に一般の企業でも行なわれたことがあると言うことであるから、実に約50年ぶりの会計処理の変更である。一連の動きを見ていると、ようやく自民党の現実政党の面目躍如と言うところである。 それにしても各国の日本政府の経済運営に対する非難はすざましい。ダボス会議では「日本の政治家は何をやっているか全然わからない。むしろ中国の指導者の方が何をやるべきかを心得ている」と言われるしまつである。残念ながら、筆者も同じ意見である。日本政府の経済運営はここ一年あまり何をしてきたのかまったく分からないものであった。これは別の機会にまた述べるが、アジア経済の今日の混乱の原因のかなりの部分は日本の経済の運営にある。したがって今回の景気対策は過去の景気対策にまして重要である。 次に6兆円規模の補正予算が景気対策の規模として適当か考えたい。先々週号1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」で今年度より落ち込む需要の規模をもとに必要な公共投資の追加額を試算した。これによると必要額は6兆8千億円であった。この数字は野中幹事長代理の6兆円にほぼ見合うが、本誌の試算は「住宅投資」と「貿易収支の黒字額」の減少だけを対象にしたものであった。その他の小さい項目も対象にすれば、この額はもっと大きくなる。また、これらは減少する需要の埋め合わせのための必要額であり、さらに景気の回復と言うことになれば、必要額は増加する。しかし、いきなり「10兆円の補正予算」と言えば相手にされないおそれもある。また、景気の動向もいま一つはっきりしない。現実にはまず6兆円の対策を行ない、様子を見ながら第二次の補正予算を考えると言う段取りになると思われる。 12月の「住宅着工件数」も不振であり、1月の自動車の売上も予想通り、対前年同月そして対前月で大幅な落ち込みを記録している。さらに本誌の予想通り、1月の住宅着工も不振で、マンションの契約率も急速に悪化しているようである。これで今後貿易黒字が減少すると言うことになれば、とても6兆円ではすまないと言うことになる。そしてこの6兆円についても、その使い方によってその効果は異なってくると思われる。この6兆円の使い方については、後日また述べたい。
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