- 経済成長の仕組
今週は先週号の補足から始める。ヒスパニック系移民の人々が、低所得でありながら住宅融資を受けられたのは、サブプライムローンという融資制度が作られたからである。本来、信用力が低いヒスパニック移民が住宅融資を受けるには、かなりの高金利を覚悟する必要があった。
しかしこれでは住宅融資はほとんど実行されないことになる。そこで融資実行後(返済開始後)の数年間、ローンの返済額を少なくした融資制度が作られた。これがサブプライムローンであり、これによってヒスパニック移民への住宅融資は爆発的に増えた。
ここから本題にちょっとそれた話をする。米国では収入が少なく、当然、貯蓄額も小さいヒスパニック系移民が、フローの貯蓄額を大きく上回る借金(サブプライムローン)をして住宅投資(広義の消費といって良い)を行っていた。つまり彼等は貯蓄を上回る投資を行っていた。
さて大まかに日本の経済は、政府、民間企業(非金融法人企業)、家計(法人成りしていない個人事業主も含まれる)の部門(主体)に分けられる(国民経済統計上は、部門としてこれらに金融機関と対家計民間非営利団体が付け加えられる)。まず部門別に見れば、貯蓄が黒字の部門と赤字の部門がある。普通の国では家計の貯蓄が黒字で、政府と法人企業が赤字である。つまり家計の黒字を借りて、財政支出や民間投資が行われるのが通常である。この金融を仲介しているのが金融機関という主体である。
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」他で説明したように、マクロ経済において事後的に貯蓄と投資は一致する。投資が増えれば、所得が増え、増えた投資を賄うまで貯蓄は増える。違った表現をすれば、貯蓄性向が一定という条件で(裏返せば消費性向が一定)、投資金額に見合う貯蓄額が実現するレベルまで一国の所得が増える。逆に投資が減る場合は、小さくなった投資に見合う貯蓄が実現するまで所得は減る(いわゆる縮小均衡)。今日の日本経済では、これに近いことが起っている。
つまり一国において、貯蓄を使って投資(設備投資、公共投資、住宅投資など)をしてくれる主体があって始めて、その国の経済は成長するのである。まさにこれを米国に当てはめれば、ヒスパニック系移民がこれを実行していたのである。彼等は、自分達の貯蓄額(住宅ローンの返済額も貯蓄にカウントされる)をはるかに超える大きな借金をして住宅投資を行っていた。今日までこれが米国経済の成長を支えていたと言って良い。
ところが日本では、本来貯蓄の赤字主体になるべく法人企業が、投資を抑えむしろ借金を返済しているのである。家計も住宅投資を減少させている。金融機関は、資金のやり場に困り、公債を買っていた。ところが政府までもが財政再建運動で財政を絞ろうとしている。まさに日本経済は縮小均衡パターンに入っている。
今日の日本経済がかろうじてマイナス成長(数年前までマイナス成長という異常な状態)を免れているのは、輸出の増加による。つまり今の日本経済は完全に外需依存になっている。ところがサブプライム問題発生によって、米国の経済成長率はかなり低くなると予想される。したがって今後は日本からの米国への直接輸出だけでなく、中国や韓国などのアジア諸外国を経由した間接輸出(日本がこれらの国々に部品を輸出し、この完成品が米国に輸出される)も減少すると思われる(徴候は既に現われている)。まさに日本経済は正念場である。
- 「金余り」こそが問題の根源
前段の話を金融(資金の循環)の面から見てみる。米国ではヒスパニック移民へのサブプライムローンが激増した。ただ資金需要が増えたのはこれだけではない。M&A資金や投機資金の需要も増えた。しかし米国は貯蓄率が小さいため、とても国内ではこれらの資金需要を賄い切れない。ところがその米国に大量の資金が流れてきていたのである。
欧州や産油国だけでなく、中国や台湾といったアジア勢、そしてもちろん日本からも大量の資金が米国に流入した。米国の経済成長率が高いという理由で、米国に資金が集まったのである。日本からは、巨額な為替介入資金やキャリー取引資金、そして金融機関や個人の外貨(米ドル)建て資産の購入資金という形で、資金が米国に大量流出した。
ずっと大きな経常収支の赤字を続けている米国に、逆に世界から資金が集まった。米国はまさに「金余り」状態になった。そしてサブプライムローンこそがこの「金余り」の「徒花(あだばな)」であった。本誌の先週号で『サブプライム問題の根源はもっと広くて深いものと理解している。分りやすく病気に例えるなら、今世界経済が慢性的な成人病(例えば糖尿病みたいなもの)に罹っており、サブプライム問題はそれが原因で発生した一つの症状と筆者は捉える。』と述べた。そしてこの慢性的な成人病こそがこの空前の「金余り」のことである。
米国の金融当局、つまりFRBもこの「金余り」に気付いていた。したがってクリーンスパン時代の最後は、政策金利の引上げの連続であった。しかしワールドコムやエンロンの破綻などが念頭にあり、急激な金利引上げは米国経済にとって危険と感じられたと筆者は理解している。既に米国の年金や個人資産の大半は、株式などの証券市場で運用されており急速な利上げはこの根本を直撃する。したがって米国金融当局の金融引締めはどうしても緩慢なものになった。
しかし皮肉にも緩慢な利上げは、「金余り」を縮小するどころか、利上げ過程の前半は「金余り」を助長した面がある。米国の利上げによって、むしろ資金が米国に向かったのである。経済成長率が高いだけでなく、金利が高いとなれば、資金が米国に集まるのも無理はない。
短期金利は当局の利上げで高くなったが、長期金利は外国からの資金流入で逆に低く推移していた。この結果、米国では長短金利の逆転という異常な現象がずっと続いているのである(2回の政策金利の引下げでも未だにこの逆転現象は解消していない)。また米ドルも対ユーロでは弱くなっていたが、円に対してはずっと高い水準で推移していた。
サブプライムローンは「金余り」の徒花であるが、逆にサブプライムローンがこの「金余り」を生むのに一役をかっていた。サブプライムローンによって住宅ブームが起り、これが米国の見掛の経済成長率を押上げた。この高成長を見て、さらに世界から資金が米国に集まった面が強い。しかしこれはヒスパニック移民社会と言う「内なる新興国」に発生したバブルであった。
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