- ヒスパニック移民の社会
米国でのサブプライムローン問題(以下サブプライム問題に略)が世界中に波紋を及ぼしている。たしかにサブプライム問題は各方面でこれまで随分取上げられており、聞き飽きたと感じる人も多いと思われる。しかしこれに関しては、なかなかトータルに納得するような適切な解説に出会わない。この問題を巡る背景を考えると、実に奥深い数々の事柄が関わっていると筆者は理解しているが、そこまで言及したものが少ないのである。
単に米国でのサブプライム問題だけに着目するなら、これは米国の一部の人々の信用問題であり、これによって引き起された米国の一部の金融の信用不安問題に矮小化される。しかし筆者は、サブプライム問題の根源はもっと広くて深いものと理解している。分りやすく病気に例えるなら、今世界経済が慢性的な成人病(例えば糖尿病みたいなもの)に罹っており、サブプライム問題はそれが原因で発生した一つの症状と筆者は捉える。
今週号はまずサブプライム問題そのものについて述べる。サブプライム問題を「所得が低い層」への融資(主に住宅融資)の焦げ付き問題とよく表現されているが、筆者は「信用力が低い層」への融資の不良化問題と表現した方が適切と思う。日経新聞は一貫してこの表現を採っている。
サブプライム問題に関して米国の信用力が低く、所得が低い層とは、具体的にはヒスパニック(系)移民の人々を指す。米国は、中米(主にメキシコ)からの移民(合法、非合法)で溢れ、この人々が米国の一大勢力になっている。ヒスパニック移民は、人の嫌がる職に就き、所得得て、活発な消費活動(ウォールマートのお得意様)を行っている。
米国経済の中で、彼等は供給側(生産に従事し所得を得る)であると同時に、需要側(得た所得を消費に回している)である。米国の経済成長率は高いが、このヒスパニック移民の活発な生産・消費活動の寄与が大きい。また米国の人口増加率が先進国の中で大きいのも、ヒスパニック移民の出生率が大きいことが影響している。
一口に米国の社会と言っても、従来の米国社会とは別にヒスパニック移民の社会があると考えて良い。しかもこのヒスパニック移民社会の存在が年々大きくなっている。ところで今日、世界の新興国の経済発展が目覚ましい。米国のヒスパニック移民社会もこれに似ている。彼等は米国で職を得て、活発な消費活動を行っている。
つまり米国経済は、ヒスパニック移民社会という新興国を抱えているようなものである。米国は先進国の中で比較的高い経済成長率を続けてきた。しかし中身を見ると、ヒスパニック移民社会と言う「内なる新興国」の経済成長率が高かっただけである。構造改革派がよく言う「米国は、供給サイドの生産性をアップして経済成長を続けている」は「大嘘」である。
たしかに米国のように移民を活発に受け入れれば、その国の経済成長率が大きくなる可能性が高いという説は正しいようだ。しかしそこまでして経済成長率を高めることには筆者ははっきり反対である(それ以外の方法があるはずである)。欧州でもスペインが移民を積極的に受け入れ、高い経済成長率を達成している。ところがこれにも色々と問題が生じ、スペイン政府は見直しを迫られている。
- 前提条件の崩壊
時が経ち米国のヒスパニック移民は、経済的基盤を米国内に持つようになり、とうとう住宅を購入し始めた。ここ数年の米国の住宅ブームはこのヒスパニック移民の活発な住宅購入が支えていた(ただ米国の住宅ブームには、ヒスパニック移民だけでなく、台湾の人々や中国人も関わっていたという意見があることを補足しておく)。米国経済の高い成長はこれに大きく依存していた面が強い。
しかし考えなくてはいけないのは、所得が低いヒスパニック移民の人々が簡単に住宅を購入できるはずがないということである。ところがこれが出来たのである。それを可能にしたのが問題になっているサブプライムローンという高金利貸付けである。
サブプライムローンは、最初の数年の返済金利を低くし、借りやすくしている。日本にもこれに似た住宅融資制度があった(たしか「ゆとり返済住宅ローン」とかいうもの)。しかしこの借入制度は数年すると返済金利が急上昇する。つまり住宅購入後数年して、所得が低いままのヒスパニック移民の人々が、通常なら返済不能に陥る仕組になっている。
このようなサブプライムローンは普通有り得ない融資制度である。ところが不思議なことに、どんどんサブプライムローンの残高は増え続けてきたのである。そしてこの謎を解く鍵が住宅価格の継続的な値上がりである。米国の中古住宅の市場は非常に大きい(年間800万件くらい取引され、新築件数の4倍もある)。しかも住宅が中古になっても値段は下がらない。下がらないどころかここ数年、毎年、大きく上昇してきたのである。都市部の住宅価格が土地の値段でほとんど決まり、上物の評価が完成後急速に下がる日本とは事情が大きく異なる。
米国の住宅金融会社が信用力が低いヒスパニック移民の人々に住宅融資を実行できたのも、担保となる住宅の価格がどんどん上昇してきたからである。返済金利が上昇するまでの数年の間に買った住宅が値上がりするので、仮にローンが返済できなくなっても購入した住宅を手放せば良いだけである(売却すればかなりの売却益を手にすることができた)。
このようにサブプライムローンは住宅価格の上昇を前提にした融資制度である。しかしこの前提条件が崩れれば、今回のような問題が発生することは目に見えていた。そしてこの前提条件を崩したのが米国金融当局の継続的な金利の引上げである。
米国連邦準備制度理事会(FRB)は、9.11同時テロによって米国経済が危機的状況に陥ったため短期金利を下げ続けてきた。しかし原油価格の高騰や物価の上昇などの低金利の弊害が見られるようになり、一転して短期金利を引上げの方向に持って行った。ところが短期金利が上がったのに長期金利は全く上昇しなかった。これもあってか金利の引上げ効果がなかなか現れないため、政策金利の引上げをずっと続けることになった。
しかし継続した金利の引上げによって、さすがに昨年あたりから住宅価格の上昇は頭打ちになった。ところによっては逆に住宅価格が値下がりに転じた。そしてこの住宅価格の動きがサブプライムローン制度の前提条件を崩し、今日のサブプライム問題を引き起すことになったのである。また長期金利が上昇しなかったことが住宅価格の高騰を長引かせ、このサブプライム問題を大きくしたと筆者は考える。
このように見てくると、米国のサブプライム問題が、日本のバブル経済崩壊に非常に似ていることが分る。日本の場合は土地を担保にした融資であったが、米国の場合は住宅である。両者とも担保に取っている物件の価格下落によって、バプルが崩壊し始め問題が表面化した。また金融当局の引締め政策の効果がなかなか現われず、問題が大きくなったのも両者の共通点である。
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