平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/1/26(第50号)


「小さな政府」を考えるーーその3
  • 市場のサインを読む
    日本の金融市場は資金がダブついている。そのため名目金利は史上最低水準で推移している。たしかに目先金融機関の信用問題による信用収縮現象はあるが、これは極めて特殊な事情による。マクロ的には資金はやはり余剰の状態である。特に長期金利の1.7パーセントと言う数値は、世界的にも歴史的にも最低の水準である。たしかに物価上昇率も極めて低いため、実質金利はそんなに低くはないが、名目金利の方は異常に低いのである。これは民間に資金の需要がないか、あるいは資金需要より貯蓄が過多の状態であることを示している。日本においては、貯蓄が過多になりがちであることは、12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」で述べた。本来それを補うのが民間投資であるはずが、その民間投資は金利がこれだけ低くても十分になされない。つまり将来の収益を保証する需要が期待できないのである。そしてこの不足する需要を長年カバーしてきたものの一つが、政府や地方の公共投資である。また余剰の資金は海外に流出し、これが諸外国の購買力となり、日本製品の輸出の増加となり、これも不足する需要を補ってきたのである。民間の投資が期待できない現状で、公共投資が減額され、輸出の伸びがこれ以上無理とすれば、日本経済は縮小均衡に入らざるをえないのである。
    「小さな政府」論者は、これは「規制緩和」で解決できると主張する。しかし、これらの人々からは具体的な規制緩和項目が提案されないのである。筆者も必要な「規制緩和」を行なうことには賛成であるが、大きな投資を生むような規制緩和項目は思い浮かばないのである。たしかに多少民間投資を刺激する規制緩和の項目があるかもしれないが、後ほどのべるような何十兆円もの需給ギャップを埋めるような「もの」は思いつかない。

  • 市場から見た公共投資増大の必然性
    市場のサインを読み、民間がこんなに金利が低くなっても投資を行なわないとしたなら、政府がその資金で投資を行なわざるをえないと考える。これが先週号1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」の結論の意味である。つまり市場金利の推移から、日本は「大きな政府」にならざるをえないと言うことである。現状の日本では1.7パーセントの金利でも民間の投資が行なわれないのである。そうなれば収益がそれほど期待できないが、必要な投資を行なえば良いのである。これは本誌でも以前から述べていることである。国民から要求はあるが、収益がないかあるいは収益が小さくて回収期間の長い投資となれば、まさしくこれは政府しか行なわないであろう。
    見渡せば、このような投資機会はきりがないほどある。「歩道のない混んだ道路」「先進国ではめずらしい満員の電車」「外国へ行くほうが便利なような地方との交通アクセス」「毎年起こる水不足」「消防自動車も入れない狭い道」「都市景観にそぐわない地上の電線」などである。さらに最近では「環境」や「高齢化対策」など「公」がある程度かかわざるをえない問題も重要となってきた。また消費者もひとそろいの「物」を手に入れたら、ニーズもだんだんこちらの方へ行くと考えられる。つまりこれ以上の「物」を手に入れるより、自分の住んでいる町の川がきれになって、魚が泳いでいる方が良いと考えるのではないか。このような川の浄化なども民間投資に期待することができない。
    逆に消費者がまだ「物」が不足していると感じているなら、こんな低い金利では預金などせずに「物」を購入するはずであり、その場合には需要があると言うことになり、民間もそれに対して投資を行なうはずである。もちろんその場合には公共投資は控えることになるが、現実はそうなってないのである。
    たしかに「衣食住」のうち日本では「住」が貧弱であり、この分野のニーズはかなりあると考えられる。しかし、これ以上の住宅投資には「土地」の問題を解決する必要がある。したがってこれにも公共投資による交通アクセスの整備が重要である。これら以外でも「治安」「安全」と言った民間が手を出しにくい分野のニーズがあるはずである。
    このような施策をおこなえば「財政赤字」が膨らみ、「財政危機」を招くと言う意見がある。これには筆者は三つの点で反論したい。一つは「財政危機」と言う言葉である。本当の「財政危機」とは発行した国債が誰にも買われない状態になり、国の財政がパンクした場合である。もちろんその場合には国債に買い手がつかないから金利はどんどん上昇するはずである。現実はこの正反対なのである。二つ目には金利の問題である。しかし、これも金利水準が以前の三分の一、四分の一になっているのであるから、政府と地方の長期債務残高が500兆円も金利面では以前の150兆円くらいに相当するレベルである。また現在の利払いが大きいのもバブル期の高金利政策によるもので、今後急速に軽くなるはずである。三つ目に税収である。景気を今のままほっといては、経済はさらに縮小し、税収もさらに落ち込むはずである。反対に公共投資により景気を維持した方が税収も伸び、結果的には財政赤字を膨らませないことになる可能性がある。特に日本のように累進課税のカーブがきつい国では、景気を良くすることが税収にはプラスとなるはずである。
    筆者も、民間投資がまだ伸びる余地があると信じている。それは「規制緩和」ではなく、都市圏の交通の整備による住宅投資と地方と大都市との交通や通信インフラの整備による地方への民間投資の増大である。つまりこれらも公共投資による民間投資の誘発であり、いずれにしてもまず公共投資が必要なのである。
    ただ筆者がここで取り上げた「消費者」と言うものは平均的な「消費者」であり、一方にはまだ「物」が不足した人々がいることも承知している。そして今後「規制緩和」や「国際化」などが進めば、これらのような人間が増えることが予想される。つまりニーズはあるが、収入がない層であり、ゆわゆる所得格差の増大である。これを当り前の現象と考える人もいるが、これが社会にどのような影響があるか筆者も注視したい。ひょっとするとこれが、今後日本の経済の重要なテーマになるかもしれないのである。

  • 今後の日本経済の需給ギャップ
    日本においては、金融不安も加わり、政府による対策が検討されている。今日まで出揃った対策では不十分であると言う意見が大勢を占めていると考えられる。今注目されているのが3月末までに打ち出されると期待されている「追加の景気対策」であり、株式市場でもそれを前提に株価が上がっている。米国政府も、昨年来の日本の経済政策の間違いを露骨に非難するようになった。たしかに、これも本誌でも一貫して主張してきた「内需拡大策の必要性」を日本政府があまりにも軽んじて来た結果と考えられる。その原因は政府の経済政策が「小さな政府が良い」と言う、筆者に言わせてもらえば、幼稚な理論にあまりにも影響されていたからである。これについては後日また述べたい。
    さて、問題は必要な追加の景気対策の規模と内容である。特に必要な規模について最後で本誌なりの試算を行なうこととする。すべての項目について分析することは無理であるから、GDPの構成に比較的に大きい比重を持ち、変動幅が大きい項目についてだけ検討することにしたい。したがって構成比率が大きいがあまり額的に変化が少ないと予想される「一般の消費」は、失業率が急速に増大すると言ったことがない限り、あまり大きい影響はないと考え、検討を省略する。筆者が考える影響が大きい項目は、「住宅」「貿易黒字」の2項目である。この他には民間の設備投資と政府の支出がある。民間の設備投資の変動が気にかかるところであるが、今後減少することはほぼ間違いないと思われるがどの程度減るのか試算が難しいので、一応これはペンディング事項としたい。政府支出については、総額では前年とほぼ同額と言うことであり、差し引きの景気に与える影響はあまり大きくないと考えている。ただ公共投資が減り、その他の項目の支出が増加している構成の変化の影響はある程度あると思われる。とりあえず今週号で注目するのは2項目だけである。しかしこれだけでも大変と言うことが理解できるはずである。
    1. 住宅投資の減少
      24年間の推移ー単位は万件
      731768111489167
      741268211690167
      751438311391134
      761538412192142
      771538512593151
      781508614094156
      791498717395148
      801218816696163

      2年間の推移ー単位は千件
      95.1213696.12138
      96.0110797.01105
      96.0211297.02111
      96.0312297.03113
      96.0413997.04126
      96.0513797.05123
      96.0613797.06121
      96.0715797.07113
      96.0813697.08112
      96.0914897.09115
      96.1016097.10120
      96.1115197.11115
      上記の表は12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」で示したものに97年の11月の住宅着工件数を追加したものである。表の数字を見ればわかるように、月を追うごとに対前年の数値が下がっている。このままでは97年度の数値は、政府の予想数値147万戸より10万戸少ない137万戸くらいになりそうである。
      問題は来年度の予想数値である。なかには今年度の反動で来年度は増えると予想する向きもあるが、筆者は今の傾向が継続し、来年度はもっと減少すると考えている。マンションの販売業者の予想も7パーセントくらいの減少である。筆者はマンション建設はまだましな方で、住宅全体では10パーセントから15パーセントくらいの減少も覚悟すべきと考えている。戸数で言えば15万戸減少の120万戸前後である。しかし、世界的に人口比で見れば、この数字でも際立って大きいものである。また120万戸と言えば、80年代の前半の数字に等しいと言うことで、全く非現実的な数字ではない。逆に、今後も大型の企業倒産などが続けば、心理的な影響もあり、これ以上の落ち込みも考えられる。
      建設省の試算によれば、住宅1戸当りの最終需要に与える影響は3,300万円と言うことである。したがってこの15万戸の減少のマイナス効果は約5兆円となる。
    2. 貿易黒字幅の減少
      暦年ベースの昨年一年間の貿易黒字額は10兆円と、対前年で3兆3,000億円の増加となった。これは国内の需要が弱かったことと、為替レートが「円安」で推移したからである。さらに付け加えるなら米国の景気が好調を維持していたからである。
      問題はこの貿易黒字の動向である。これを予想するにはいくつかのファクターがある。為替の推移もその一つである。直近では本誌が予想していたように「円高」に方向転換したように見受けられる。筆者の予想では、政府日銀が130円近辺で介入していることから、今後130円を大きく超える「円安」はないと考えている。つまり動くとしたら「円高」方向である。しかし、日本の貿易量の4割を占めるアジア諸国の為替レートが大きく下落している。香港、中国、台湾は為替レートを辛うじて維持しているが、加重平均すれば、今日のレートの127円はアジア通貨暴落前の115円くらいに相当すると考えられる。つまり現状でも実質的にかなり「円高」が進んでいるのである。これからどこまで円高が進むか不明であるが、個々の輸出企業によって採算の面では相当バラつきが大きいが、平均して10円くらい円高になればどの企業も苦しくなるはずである。特に素材関連の企業は既に厳しい状態である。
      しかし、筆者は、「円高」がかなり進むことが考えられるが、貿易黒字額が急激に減少することはないと考えている。一つは日本経済が不振で国内に需要を求められないことであり、たとえ採算が合わなくても、変動費さえまかなえる限り、稼働率を維持するため、当分輸出のペースはそんなに落ちないと考えられる。二つには為替が暴落したASEAN 諸国の輸出の増加である。このため日本からの部品などの資本財の輸出が増えることが考えられる。これらの完成品の行く先は、たしかに一部は日本であるが大半は米国である。三つ目には米国の景気が好調を維持すると考えられることである。その理由はアジア発の信用不安で、金利をあまり上げられないことと、米財政が黒字転換することによる減税や政府支出の増加が期待できることである。さらに新年度には米国全土で何十年ぶりかの道路の大補修などの公共事業が計画されている。このように筆者は、減速がささやかれている米国経済もう少し好調さを維持すると考えている。つまり多少「円高」が進行しても、ある程度の円高にとどまるなら貿易黒字額は急減することないと思われる。ただこれが減少することは十分考えられる。減少額を現時点で予想することは難しいが、年度ベース、暦年ベースで3兆円くらいは減るのではないかと考えている。そして3兆円の貿易黒字の減少は乗数効果を考慮すると、4兆円の最終需要の減少に相当すると考えられる。
    これはあくまでも筆者の試算であるが、「住宅投資の減少」と「貿易黒字幅の減少」だけで9兆円の最終需要の減少が見込まれる。この需要の減少の穴を埋めるには、1/19(第49号)先週号「「小さな政府」を考えるーーその2」で取り上げた経済企画庁の試算の1年目の効果を用いるなら、公共投資を6兆8千億円の追加が必要となる。またこれを所得減税だけで行なうなら、19兆6千億円の減税が必要となる。
    住宅に比べ金額は小さいが、自動車も新年から売上の急減が予想される。さらに設備投資も不振となれば、このように減税だけで景気対策を行なうことがいかに非現実的な考えであるか理解できよう。



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98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」