- 先週号では短期間の為替相場の動向を予想することは無理である(少なくとも筆者にとって、さらに言えば興味もあまりない)ことを述べた。また、短期の相場を動かすと言われている数々の要因もほとんど根拠となりえず、意味がないものばかりである。
特に相場が加熱した場合はしばしば行き過ぎることがある。つまり「買いが買いを呼ぶ」あるいは「売りが売りを呼ぶ」といった状態である。こうなっては予想もできない。しかし、市場が、伝統的な価格メカニズム(高くなれば需要が減り、安くなれば需要が増える)からはずれ、ついには崩壊するといった現象が経済ではよくあることである。市場が持つこのような性質については、後日また本誌で述べたい。
- では長期的にはどうであろうか。相場を決める要因を簡単に言えば両国の為替に対する需給であり、その需給を決める主な要因は次のようなものであろう。(ここから多少話がくどくなるのでしばらく読みとばしてもらっても結構です)
- 決済に伴う需要(世界中で使われる決済資金の構造的な需要。たとえばドル建での決済がさかんになればその分ドルの需要は増える。)
- 長期資本投資(国債・株式など証券投資と生産設備・不動産への実物投資)
- 貿易決済に伴う需要
1.は構造的なものであり、一時に大きな影響を与えることはないであろう。ただ、世界貿易における円建が減少し、ドル建が増えていると言うことなので、多少なりとも最近の為替の傾向(円安)に影響があったかもしれないが、それは軽微であろう。 2.長期資本の流れについては少し複雑である。まず証券投資を決めるのは、金利差であると言われているが、正確には「為替の動向がある程度はっきりしている場合(たとえば 最近までの話なら行き過ぎた円高の反動による円安傾向)には金利差で資金が移動する」と言うべきであろう。(実際日米両国間の長期の実質金利に差はほとんどない。詳しくは本誌第3号を参照)。ここまでの説明では、為替水準を決める要因がその為替水準で決まると言う変てこなことになる。たしかに為替の動向が長期間にわたり同じ方向に進みがちであることの説明にはなる。 また、実物投資については為替水準そのものが大きく影響していると考えられる。つまり「円高」が進めば海外への投資が有利で、「円安」になればそれにブレ-キがかかるといった具合である。ただ今日においては一頃のような大型案件が減り為替相場に与える影響もあまりないであろう。 そうなればやはり長期的な為替の動きを決定付けるのは貿易収支ではないであろうか。(たしかにこの他に「海外旅行の収支」「政府の海外への援助や貸付」「海外投資の果実である利息や配当金」などの動きがあるが話がくどくなるので現在のところ影響は小さいと考え軽視する---ただし「海外旅行の収支」の赤字は年々大きくなっており、今後はこの影響を無視できなくなるであろ)
- では、長期的に貿易収支を決めるものはなにであろう。筆者が考えるには、それは「両国の産業の競争力」であり、端的にそれを示す指標は「両国の卸売り物価上昇率の差(対前年比)」である。(今後は単純にこの数値だけで競争力を測ることは難しくなると考えるが、今のところこれで大きな支障はないであろう)を表にまとめると次のようになる。(日本は94、95年は年度ベ-ス、96年は暦年ベ-ス。米国は全て暦年ベ-ス)
(単位: %)
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日本 | 米国 | 差引 |
| 94 | -1.6 | 1.9 | 3.5 |
| 95 | -0.6 | 2.6 | 3.2 |
| 96 | 0.9 | 2.8 | 1.9 |
表の数字を見る限り日本の方が年々競争力がついていることになる。つまり両国の交易条件を一定に保つためには、年々差引分だけ円高にならなければいけないことを示している。ところが最近は円安である。「行きすぎた円高」が是正され、さらに米国の景気がよければ日本の輸出が急増するのは当り前である。両国の差異の原因は日本経済の(生産性の向上分+それまでの円高による原料安)が米国経済の(生産性の向上分+それまでのドル安による原料高)を上回ったことによると考えられる。たしかに最近の「円安・ドル高」を反映し、両者の差が縮まってきているが、逆転するまではいかないだろう。つまり、いつまた為替が「円高」に向かって進んで不思議がない状態なのだ。また、一旦「円高」の方向が見えてきたら「長期の資金の動き」がそれを加速するであろう。(極端なケ-スでは、日本からの米国への長期資本の流出がゼロになるだけでも円高が進むであろう)
- いずれ円高に進むことを説明したが、ではどの時点で円高に転換するか次に検討したい。筆者が考えているパタ-ンは次の2通りである。
- なし崩し的に円高に進む。ただしその傾向は少しずつ加速がつく。
- 当分の間現在の水準で推移し、一旦円安に進む。ある水準まで円安が進むと日銀・各国中央銀行の介入があり、しばらくして天井となり、それ以降は円高に推移する。
筆者の記憶によれば、これまでの円高・円安局面において日銀の介入なしで局面の転換がなされたことはなかったはずである。たしかに中央銀行の介入 があっても、しばらくは効果がないことが多いが、いずれ相場は反転するのだ。もし1番のパタ-ンのようにこのまま日銀の介入なしで円高に進むようなら、始めてのケ-ス である。もしそういうことなら、それはそれで市場の成熟を示すものとして結構なことかもしれない。しかし筆者は、2番のパタ-ンのように現行の水準がしばらく続き、「金利差を重視するとか言う資金」の米国への流出があり、最後の円安場面を向かえ、やはり最終的には中央銀行の介入があると言うケ-スの可能性を捨て切れぬ。また、いずれの円高でもでも「円の独歩高」と言う可能性が高い。 今回の予想を難しくしている要因は、日米双方の政府の考えがあまりはっきりしないことであり、さらに政府内の人々の考えが統一されていないことである。この点については後日本誌でフォロ-したい。
- 最後に日銀の介入について一言述べたい。「日銀の介入」が市場にとってあまり効果がないと言う人々が多いのには驚かされる。その人々の根拠は「日々取り引きされる金額は莫大なものであり、それに比べ日銀の介入額は小さいく相場に影響を与えない」と言うことらしい。しかし相場を最終的に決めるのはネットの資金の流れである。少なくとも日本の銀行には「外貨建債券・債務の持ち高規制」があるはずであるから、日々の取り引きの影響は中立である。つまり朝買えば、午後には売るといった具合である。
では長期資本の流れはどうか。仮に月間100億ドルの資金が日本から米国に流れるとしたら、1日あたり平均で5億ドルであり、これも一般に思われているほど大きな金額ではないのである。 日銀が介入するのは国家の意志であり、またむやみに介入しているのではない。経済指標やその他条件を勘案し、タイミングを図って介入するのであるから大き間違いはないはずである。さらに筆者は「これまでに為替取り引きで一番利益を上げたのは日銀ではないか」と密かに思っているくらいである。もちろん利益をあげても、それは国庫に入るだけであるが。 以下これは筆者のまったくの想像である。日銀も一度だけ過去に為替で大損したことがあり、世間からいわれのない非難を受けたことがある。1ドル=360円時代の最後の頃、ドル防衛のためドルを買い続けたのである。(つまり輸出業者のドルを買い続けた)しばらくしてドルは308円に切り下げとなり(いわゆるスミソニアン体制)、差額を損したのである。それ以来為替取り引きに関しては、少なくとも利益を上げないまでも、損はしたくないと日銀が考えても無理はないと筆者は思っている。。 したがって為替取り引きで利益を上げたい人は、あまり難しく考えず、日銀の介入と同じような取り引きを行い、あとは休んでおれば良いのである。
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