平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/1/12(第48号)
  • 日本の高官とグリーンスパンFRB議長の会談の中で、議長が「現在、時間をかけて日本の経済構造について分析し直している」と述べていた。これは注目される言葉であり、今後米国の対日要求の内容が変わる可能性がある。内需拡大の要請は変わらないが、その具体的方法については変わってくるかもしれない。どのように変わるか現時点では不明であるが、筆者は、これまでの対日要求の「減税」と「規制緩和」と言う項目は、常々ほとんど内需拡大効果はないとは考えていた。
    財界人や学者に対するアンケートを見ても、景気対策として「公共事業の増大」を唱える者はいない。例外は金森久雄氏くらいである。こう言う世論の現状は当然政府の行動にも影響し、本格的な景気対策を採られるまでに当分時間がかかることを意味する。そしてそれまではアジアの経済の混乱が続く可能性もある。
    政府日銀の為替管理が難しくなっている。過度の「円安」に対しては市場介入も辞さないと言うスタンスであるが、一方には日本の金融機関の信用不安がある。信用の安定には市場には円資金の供給が必要となるが、「円安」傾向の阻止にはこの円資金の吸い上げが必要となる。つまり当局は自分で放出した資金を自分で回収しなければならないと言う矛盾した立場に立たされているのである。このような状況に追い込まれないような政策をこれまで行なって来るべきと言えるが、それは「後の祭」である。今後は「口先介入」などが中心となろうが、市場の動きを見ていると「景気対策」には為替は「円高」に動くようである。これが合理的な動きと言えるかどうか疑問であるが、為替管理には使えそうである。さらに、今後は諸外国、とくに米国との協調政策がより大切となってくる。


「小さな政府」を考えるーーその1
  • 「小さな政府が良い」と言う常識の危うさ
    日本では、政府がなるべく経済に関与しない方が、経済がうまく機能し、効率的であると言う考えが常識とされている。はたしてそんなに単純に考えて良いのか、筆者は疑問であり、今週号ではこれを考えてみたい。特に「ベルリンの壁の崩壊」後、政府が全てをコントロールする社会主義経済の行く詰まりの連想もあり、経済がうまくいかないと、「小さな政府」を指向することが一番の解決方法と主張されるのである。また、日本においても「国鉄」や「電電公社」の民営化が良い結果を生んでいることもあって、政府の経済への関与は否定的に捉えられている。
    まず、「政府」と「経済」の関係を考える場合、その係わりには二つの事がある。一つは政府の経済システムの管理である。具体的には各種の法律による経済の管理である。規制緩和はこの管理をなくそうと言う動きである。逆に管理を強化した究極の姿が「国営企業」である。世界的、歴史的に見て「国営企業」がうまく機能しないことははっきりしている。特に現代の消費の多様化や技術の進歩には「国営企業」はついて行けない。このような観点から「政府による規制は必要最小限にとどめるべき」と言う意見には賛成である。しかし、規制を緩和すれば、内需が拡大し、景気が良くなると言う考えには同調できない。5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」で述べたように「規制緩和」は内需を拡大することもあるが、反対に縮小する場合も考えられるのである。景気にはプラスとマイナス両方の影響があり、一概に「規制緩和が景気浮揚に効果がある」とは言えない。かりに効果があっても極めて小さいものであろう。今「景気回復のためには規制緩和が必要」と主張するエコノミストは実に多いが、具体的な項目を挙げる者はいない。実際、内需拡大には規制緩和が必要と主張している経済企画庁自身にもアイディアがないらしく、国民からアンケートをとっている状態である。ところで規制緩和が景気回復に役立たないことについては別の機会にまた述べたい。
    では政府が経済にどれだけ関与すべきかと言う問題である。筆者は、市場が順調に機能している場合には、政府はタッチする必要もないし、タッチすべきではないと考える。しかし、市場が壊れ、自動的には回復しないと思われる場合には政府が関与する余地が出てくると考えるのである。6/23(第21号)「投機と市場を考える」で述べたように「市場の価格メカニズム」がいつも正常に動くとは限らない。これが資本主義経済の宿命と考えられるが、市場の動きの異常さが大きくなり、その異常さが経済のメカニズムの全体を破壊する可能性がある場合には、当局が市場に介入すべきと考える。つまり市場が壊れ、市場にその回復力がなく、ますます不均衡が大きくなると判断される場合には政府の関与が必要なのである。資本主義経済にはこのような不均衡はつきものであるが、資本主義経済にはそれ以上のメリットもあることも事実である。具体的な例として昨年暮れの株式市場である。商品と同様に株式も安くなれば買い手が増え、逆に高くなれば売り手が増え、株価は適正な水準に決まるのが正常な市場である。ところが株価が下がれば、さらに売り物が増えると言う状態であった。つまり売りが売りを呼ぶ状態である。それが一銘柄とか数銘柄にとどまっているのではなかった。この状態が続けば、日本経済全体にも影響が及ぶ勢いであった。
    年明けに政府は株価対策として「カラ売りの規制強化」を打ち出した。しかし、筆者は、これを規制強化と言うより「現物売りとカラ売りの明示により市場の透明性を増すようにした」と理解している。これに対して識者の意見は「根本の経済問題に手をつけない小手先の政策である」「市場の動きに逆行しており、効果はない」とさんざんである。筆者は前者には賛成であるが、「効果がない」と言う意見には賛成できない。この措置はむしろこれから着実に成果をあげると考える。
    筆者は最近の株式市場の下落のかなりの部分はこのカラ売りの影響と見ている。カラ売りであるからいずれは買い戻しが入るはずであるが、その前に経済全体に大きなダメージを与える可能性があるのである。12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」の冒頭で述べたように、現在ならわずか数千億円の資金でのカラ売りで日本の株式市場を崩壊させることも可能なのである。筆者は、これは少々大袈裟に聞こえるかもしれないが、これは「一国の安全保障」にかかる問題と考えるのである。
    ところで市場への政府の関与は必要と考えるが、どのような時に関与すべきかは、たしかに問題ではある。しかし、筆者は、これは当局の判断にまかせる他はないと考える。少なくとも今回の政府の「現物売りとカラ売りの明示」の措置は適切な対策と考えるのである。また、これに関連し、誰が株式市場において、これまで大きくカラ売を行なってきたかも注目されるところである。これについては今後、公にされるかどか分からないが、びっくりするような人物や機関が含まれている可能性もある。

  • 「財政」と言うもう一つの関与
    もう一つの「政府」と「経済」の係わりは「財政」である。つまり税金などの政府の収入と財政の支出である。また広く捉えるなら郵便貯金などを原資とする「財政投融資」も「財政」に含めることもできる。そこで「小さい政府」を指向する立場の人々の主張は、財政の極力削減し、税金も減らすことであり、さらに「財政投融資」もなるべく少なくすることである。そしてできるなら政府の累積赤字もなくすことが、経済を活性化するカギと考えている。政府の支出は非効率的であり、経済活性化の障害となっていると考えている。筆者もこの考えに全面的に反対しているのではない。しかし、この考え方が、はたして現在の日本経済に適応するかが疑問なのである。
    民間の投資や消費がさかんな国において、政府も競争するように財政支出を増大させれば、もちろん問題が起こるであろう。ASEAN諸国や韓国の経済混乱はその良い例である。このような国の経済の特徴は経常収支の赤字と高金利である。そしてこのような国においては政府の財政支出を削減することも合理性があると考えられる。一方、日本のように経常収支が黒字で、資金も国内に投資先がなく毎月1兆円ずつ海外に流出しているような国では事情が違うのである。先週号12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」で述べたように、日本のような慢性的な需要不足を起こす国では、不足する需要を政府がその部分を補填しなければ、景気が後退するのである。たしかにこのよう場合にも財政支出を増やさない選択もある。しかし、それを行なえば、日本経済は縮小均衡のパターンに入るだけである。その場合は失業の増大と生産要素の遊休を覚悟することになる。もちろん輸出が無制限に許されるならこのような縮小均衡のパターンには入らない可能性もある。しかし従来のパターンではこのような場合には為替が円高になり、経済が「円高不況」となり、最終的には財政支出の増大などの不況対策により苦境から脱出してきたのが現実である。つまり日本経済はある程度の財政赤字の継続を必要としていると筆者は考えている。
    日本は国と地方で500兆円の借金があり、しばしばこれが問題とされる。しかし、一方日本には1,200兆円の個人の貯蓄がある。筆者は、国と地方が500兆円もの借金をして経済を支えてきたからこそ現在1,200兆円の個人の貯蓄が存在していると考えている。過去何回かの景気低迷期に政府の公共事業などの景気対策が行なわれていなかったら、現在の経済はもっと縮小しており、個人の財産の形成ももっと小さいものであったはずである。この点が世間ではほとんど無視されているのが不思議である。
    たしかに日本の消費形態は変わった。これは最近始まったことではない。筆者の感想では80年代に入った頃からである。平均的な家庭には一通りの物はそろい、この頃から消費意欲と言うものが急速に減退してきたのである。一応「衣食住」がそろった段階であり、大きな消費項目がなくなったのである。たしかに「住」についてはレベルは低いが、日本の土地事情を考慮すれば限度に近いと考えれる。それまでは、不況期に景気対策を行なえば、景気が回復し、さらにその後も経済は成長を続けたものである。その背景には個人の消費意欲と言うものがあったからである。今日のように家庭においての消費物資の在庫も高水準に達し、消費社会も成熟してくると、よほどの物でないと消費意欲がわいてこないのである。したがって景気対策が行なわれ、景気が回復しても、それ以降の持続的な高い経済成長は無理である。消費者は消費を行なうより、ほとんど利息のない預貯金を選好しているのである。しかし、これは景気対策が無駄になっていると言うことではない。景気対策を行なうことによって景気が回復しても、それ以降の成長力が極めて弱いと言うことである。現在の日本経済は世界的に見ても、まれなケースであり、ある面では先進的なのである。世間には米国や英国の行なった政策を行なえと言う意見があるが、事情が違っているのであるからまるで参考にはならない。このことは金利水準の違いを見ればはっきりしているが、これについては別の機会に述べたい。
    日本の大きい貯蓄率は、経済の成長を助けた。日本人は消費を抑え、貯蓄を大きくし、この大きな貯蓄が投資されることによって、過去の高度成長を実現させることができた。特に日本は外国からの資金ではなく自前の資金でこれを行なったのである。しかし、この大きな貯蓄を行なう傾向がそのまま残ったため、今日の構造不況を生んでいるのである。消費が成熟した社会では投資機会が減少しているにも拘わらず、投資の原資となる貯蓄水準がそのままなのである。つまり投資と貯蓄がアンバランスになっているのである。そしてこのギャップをうめているのが輸出と政府の赤字である。経済の縮小均衡でこのバランスを採らないとしたなら政策の手段は限られる。まず現在のアジアの経済の混乱を見れば、これ以上外需に頼ることは無理である。つまり財政政策しかないのである。ところで「ここ数年来の景気対策が効果がなく、財政赤字を膨らませただけである」と言う意見をよく耳にするが、これはとんでもない間違いであり、効果は確実にあったのである。「バブル崩壊による何百兆円の資産価値の下落」と「為替が80円まで達した円高不況」の落ち込みをカバーするのに精一杯だったのである。たしかに景気回復後の経済が弱いことは事実であるが、これも現在の日本においては過去のような大衆消費項目がなくなっているからであり、納得できることである。したがって、簡単に需要不足の不況に陥る可能性の強い日本においては、日本国民の貯蓄水準が下がる10年から15年後くらいまでは、政府は財政赤字を膨らませながら不足する需要を補っていくべきと言うことが筆者の結論である。

  • 「減税」は景気対策として大きな効果は期待できない
    政府の「2兆円減税構想」はあまり評判が良くない。その理由として「時期が遅すぎる」「減税規模が小さい」「恒久減税ではない」と言われている。ただ言っているのが「景気対策として減税が必要」と主張していた人々だから、不思議に思われる。筆者は元々「減税」には景気回復力はほとんどないと考えており、今回の減税も米国の要請と理解している。むしろ同時期に発表された98年度の公共事業の前倒し策の方が、額は小さいが、効果はあると考えているくらいである。
    ただ「減税規模が小さすぎる」と言う意見の中で「減税規模を大きくするため、にもっと無駄な支出を削減して減税に回せ」と言うものがあり、これを無視することはできない。この考えまさに「小さな政府」を指向しており、一般受けするが、理論的に間違っていることを説明したい。
    2兆円の減税を行なっても、平均の貯蓄率を15パーセントとすれば消費に回るのはのこりの85パーセント、つまり1兆7千億円だけである。公共事業に2兆円使えば2兆円全部が消費となる。この差額は3千億円であるが、乗数効果を考えるとこの差額はもっと大きくなる。しかし、これは机上の計算であり、実際に減税を実施された場合はもっと大きく貯蓄に回され、効果はもっと小さいと予想される。実際12月23日の「日経流通新聞」の緊急アンケートでも「減税」によって「消費を増やす」と答えた人は10パーセントにも満たないのである。筆者は各種のアンケート結果と言うものをストレートには信じない方であるが、それにしても酷い結果である。筆者は、現実はもう少しましと考えるが、そんなに消費が増えるとは考えない。経験的にも所得が大きくなるほど貯蓄率は大きくなる。つまり所得税を納めている額が大きい層ほど貯蓄率は大きいのである。特に累進課税のカーブがきつい国では、所得減税の規模を大きくすればするほど貯蓄に回される率が大きくなるのである。反対に所得のほとんどを消費する低所得層は元々そんなに所得税を納めていないのであるから減税の恩恵もないのである。たしかに貯蓄が増えることによって、金利が低下し、投資が増えると言うパターンが考えられるが、現状を見れば日本ではこのようなことは考えられない。
    逆に今増税を行ない、それをそっくり政府が支出した方が需要は増大する。これは増税によるマイナスの乗数効果より、政府支出のプラスの乗数効果の方が大きいからである。理論上は需要の増加額は増税額、つまり支出の増加額に等しい。つまり財政的に「大きな政府」にした方が、大きくした分だけ需要が増えるのである。この話をわかりやすく言えば「本来貯蓄に回る部分を含む所得を税金として吸い上げ、それを政府が全て消費する」ことにより、貯蓄に回る部分が消費に回り需要を増大することが可能なのである。さらに話を厳密に行なえば、政府支出を増大すると言っても公務員の給料を増やしても意味がない。公務員が替わりに貯蓄するからである。政府支出を増大するのは政策経費であり、外部に消費されなければならない。10兆円増税し、10兆円政府支出すれば、計算の上では乗数効果により最終的に10兆円の需要増加が実現することになる。この効果が小さくなっていると言う指摘ならいざしらず、まるっきり正反対の主張が堂々となされているのは驚きである。つまり「小さく政府」政策はまったく正反対の効果を生むことになる。また、減税によって民間の投資を活発にできると言う主張がよくなされるが、それが可能としても、それは供給不足の国か所得の低い発展途上国の話である。筆者に言わせてもらえば「小さな政府」論は、需要が不足傾向の今日の日本経済にとってはまったくの不況化論である。

来週号ではいかに「小さな政府」指向が経済を不況を深刻化させるか、一歩踏み込んで述べたい。



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97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」