平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




07/3/19(474号)
超円高になる条件(その2)

  • 中国政府の為替政策
    先週、為替の動向が円高に転換するためのカギは、中国人民元の動向であると指摘した。先進国の通貨は基本的にフロート制を採用しており、原則的として政府は為替市場に介入しない(ただし日本は3年前に常軌を逸した円売・米ドル買介入を行っているが)。しかし中国人民元は依然厳しく管理されている。ところが人民元の管理は緩められ、市場の動向で決まるようになったと誤解している人が多い。

    人民元については、中国人民銀行(中央銀行)が基準値を決め、一日の変動幅を0.3%(0.0234元)に制限している。これを円の変動幅に置き換えるとわずか0.35円ということになる。しかも基準値は中国人民銀行が恣意的に決める。つまりこの方法で人民元は米ドルとの連動性をほぼ維持しているのである(香港ドルは依然として米ドルに完全にペッグ)。

    人民元はフロート制を一部取り入れたと言われているが、実質的に米ドルにペッグしているのと同じである。実際、人民元は2年間でわずか6%高くなったに過ぎない。05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」で述べたように、人民元の歴史は大幅な切下げの連続であった。ところが巨額の貿易黒字国となっても、この極めて不当な為替水準を米ドルに連動させることによって維持しているのである。


    不当な為替水準が外資系企業を呼込み、中国は一大輸出基地になった。またわずか数年のうちに中国の外貨準備高は世界一になった。ところが中国は人民元の大幅な切上げを拒否している。中国の首脳は、人民元が安いことを認識しているが、簡単には切上に応じない。プラザ合意後の超円高で日本経済が混乱したことを教訓にしているのである。

    しかし中国政府の為替政策に対する先進各国からの批難は確実に大きくなっている。特にユーロに対して米ドルが安くなっており、これに連動して人民元も安くなっている。欧州の我慢も限界に達していると思われる。中国がなんらかの措置を講ずるのは時間の問題と考える。

    筆者は、人民元の切上げの可能性は小さいと見ている。おそらくその代わり変動幅を大きくして批難をかわすつもりと考えている。これなら人民元の上昇スピードを緩めることができるのである。また為替市場の自由化という欧米の要求にも一歩近づくことになる。


    中国は欧米の要求である為替市場の完全フロート制導入を強く拒否している。また変動幅を即座に大きくすることにも応じない。理由として中国の金融市場がまだ整備されていない(金利は自由化されておらず、また先物市場が事実上ないなど)ことを挙げている。為替市場だけを自由化した場合、国内の金融市場が大混乱するというのである。たしかにその可能性はある。

    しかし事実上固定相場を維持していることによって、中国経済に弊害が生まれている。大きな貿易黒字によって、外貨がどんどん入って来る。これを放っておけば人民元はどこまでも高くなるので、中国人民銀行はこの外貨を買い上げ、人民元の高騰を抑えている。しかしこれによって中国国内には人民元が溢れることになっている。いわゆる過剰流動性の発生である。この過剰流動性の一部は不動産投機に向かい、一部は株式市場に向かっている。

    米ドルとの連動性を維持する為替政策によって、不動産と株価の高騰を生んでいるのである。先日の中国株価の下落は、短期間のうちに上がり過ぎた中国株価の調整である。為替政策を変えない状態では、中国政府の過剰流動性対策は輸出奨励制度の撤廃くらいしかないのである。


  • 次の円高場面で起ること
    どのような政策(筆者の予想では変動幅の拡大)が採られるか不明であるが、人民元の高くなるスピードが今より速まると考える。また時期は不明であるが、そんなに遠くはないと思われる。しかし中国政府がどの程度の人民元高を容認するのかが分からない。筆者は先進各国との協調関係を最低限維持できる程度と踏んでいる。もちろん皆が期待しているような数十パーセントの人民元高はとうてい無理である。せいぜい10%くらいのものであろう。


    しかし人民元の変動こそが円に大きな影響を与えると筆者は見ている。円安が是正され円高に向かうとしても円だけが高くなることは、円と人民元との間の矛盾を拡大することになる。日本としてはとても容認できることではない。

    実際、経常収支黒字国である日本と中国であっても、両国への風当たりはかなり違う。やはり最大の問題は人民元である。したがって人民元の行方がはっきりしない限り、円高圧力も大きくならないと思われる。しかし逆に言えば、人民元高の道筋が見えてきたなら、円も高くなる可能性が極めて強い。つまり円の行方は、人民元しだいということになる。


    これまでの円高転換(プラザ合意後、橋本政権下)では、政府・日銀の円買・米ドル売が行われた(日米欧の協調介入という形になっているが、主体は日本の介入)。しかし次の円高転換では、政府・日銀が介入する可能性は低いと筆者は考える。一つは中国人民元の調整があまり大きくないと思われるからである。人民元以上に円が高くなる事態は、円と人民元の矛盾を拡大することになり、日本としては飲めないことである。

    しかしこれは中長期的な見方であり、円が高くなり始めれば、一時的には相当の円高になる可能性がある。両方の通貨が高くなるとしても、人民元の方は中国政府によって管理されており、急騰ということは避けられると思われる。一方、円は自由市場で取引されており、大きな変動に見舞われる可能性が強い。特に投機目的の資金の流入が大きければ、思い掛けないような円高も有りうる。


    筆者は、次の円高局面では、キャリー取引の動きに注目している。円高が確実となれば、外資系ファンドは一斉にキャリー取引の解消(巻き戻し)に向かうと思われる。金額が数兆円でも、短期間に巻き戻しが起れば、かなり大きな影響を円相場に与えそうである。もちろんこれに投機が加われば、円の変動幅はさらに大きくなる。

    外資系ファンドにとって日本経済なんてどうでも良い存在である。人民元高が見えてきて、円高の条件が揃えば、我勝ちにキャリー取引の解消に向かうものと考えられる。先週号で指摘したように日本経済はとんだ爆弾を抱え込んだものである。これもキャリー取引の増加が円安要因に働き、日本経済にとって(日本政府にとっても)ここち良かったからである。


    筆者は、為替水準の大きな変動はやはり政府の意思が働くものと筆者は考えている。今回は日米欧だけでなく、これに中国が加わったのである。それぞれの政府の思惑が為替相場を動かすことになる。



来週は、構造改革派の落日について述べたい。為替については変動の気配が見えてきた時、また取上げることにする。



07/3/12(第473号)「超円高になる条件(その1)」
07/3/5(第472号)「今回の円高の分析」
07/2/26(第471号)「為替動向を占うポイント」
07/2/19(第470号)「今日の円安を考える」
07/2/12(第469号)「「女性は子供を産む機械」発言」」
07/2/5(第468号)「財界人と「合成の誤謬」」
07/1/29(第467号)「日本の財界人の自信」
07/1/22(第466号)「日本の財界の変質」
07/1/15(第465号)「日本の財界」
07/1/8(第464号)「面白みがない景気予想」
06/12/11(第463号)「筆者の主張のサマリー」
06/12/4(第462号)「高速増殖炉にまつわる誤解」
06/11/27(第461号)「高速増殖炉の話」
06/11/20(第460号)「日本の核融合研究」
06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
06/11/6(第458号)「LNG(液化天然ガス)の話」
06/10/30(第457号)「筆者の国防・防衛論」
06/10/23(第456号)「日本の核武装論」
06/10/16(第455号)「北朝鮮の核実験」
06/10/9(第454号)「安倍政権の生産性」
06/10/2(第453号)「安倍政権の発足にあたり」
06/9/25(第452号)「ポスト小泉の経済論議」
06/9/18(第451号)「ポスト小泉の経済と対米外交」
06/9/11(第450号)「ポスト小泉の対アジア外交」
06/9/4(第449号)「ポスト小泉について」
06/8/7(第448号)「郵政改革と宗教戦争」
06/7/31(第447号)「郵政改革論議の混乱」
06/7/24(第446号)「宗教・哲学と経済学」
06/7/17(第445号)「宗教と哲学への入門」
06/7/10(第444号)「劣勢のケインズ」
06/7/3(第443号)「トービン税について」
06/6/26(第442号)「自由放任(レッセ-フェール)の経済」
06/6/19(第441号)「筆者の税制改正案」
06/6/12(第440号)「筆者のニート対策」
06/6/5(第439号)「美しくない話」
06/5/29(第438号)「第三セクター鉄道の危機」
06/5/22(第437号)「テレビ番組の制作現場」
06/5/15(第436号)「日銀の実態・・憶測」
06/5/8(第435号)「日銀は魔法の杖か」
06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」
06/4/17(第433号)「格差とマスコミ」
06/4/10(第432号)「官僚の力と限界」
06/4/3(第431号)「日経新聞のダブルスタンダード」
06/3/27(第430号)「金融政策の失敗の歴史」
06/3/20(第429号)「量的緩和解除の波紋」
06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」
06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」
06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」
06/2/20(第425号)「労働力と経済成長」
06/2/13(第424号)「大衆社会における経済論議」
06/2/6(第423号)「皇室典範改正法案に一言」
06/1/30(第422号)「ホリエモンと政治家」
06/1/23(第421号)「改革の旗手の危機」
06/1/16(第420号)「今年の景気予想」
06/1/9(第419号)「思考停止の日本」
05/12/19(第418号)「日本人の変質」
05/12/12(第417号)「日本的経営の行く末」
05/12/5(第416号)「アメリカ人」
05/11/28(第415号)「遠ざかる豊かな社会」
05/11/21(第414号)「移民問題と市場経済」
05/11/14(第413号)「ブリエアの解放者たち」
05/11/7(第412号)「第三次小泉内閣の感想」
05/10/31(第411号)「現実経済の乗数値」
05/10/24(第410号)「公共投資に伴う誘発投資」
05/10/17(第409号)「誘発投資の拡張版」
05/10/10(第408号)「経済理論上の乗数」
05/10/3(第407号)「政治家達の沈黙」
05/9/26(第406号)「大谷氏への公開質問状」
05/9/19(第405号)「デマの検証」
05/9/13(第404号)「選挙結果の雑感」
05/8/29(第403号)「今回の総選挙を読む」
05/8/22(第402号)「今回の総選挙の沿革」
05/8/8(第401号)「中国経済の本当の脅威」
05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」
05/7/25(第399号)「経済のグローバリズムの行末」
05/7/18(第398号)「経済のグローバリズムの本質」
05/7/11(第397号)「郵政法案と小泉政権の行方」
05/7/4(第396号)「経済のグローバリズムと競争の公正」
05/6/27(第395号)「日本語の研究」
05/6/20(第394号)「公的年金とセイニアーリッジ」
05/6/13(第393号)「日本国民全員がばん万歳の政策」
05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」
05/5/30(第391号)「マクロ経済政策で解決するもの」
05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」
05/5/16(第389号)「ヴァーチャルなもの(その1)」
05/5/9(第388号)「中国進出の主導者」
05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」
05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」
05/4/11(第385号)「ノストラダムスの大予言」
05/4/4(第384号)「法律と現実社会との間」
05/3/28(第383号)「株式に関する非常識」
05/3/21(第382号)「人とグローバリズム」
05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
05/3/7(第380号)「貿易とグローバリズム」
05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」
05/2/21(第378号)「マスコミが流す誤った概念」
05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」
05/2/7(第376号)「日本のマスコミの体質」
05/1/31(第375号)「財政当局の変心」
05/1/24(第374号)「経済成長の条件(その2)」
05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」
05/1/10(第372号)「中国経済の実態」
04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
04/11/29(第369号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その2」
04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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