- 円高は政府の意思で実現
今週は、超円高、つまり先週号で述べた「えらいこと」が起る可能性を探る。日本は経常収支が黒字であるが、日本からの資本(資金)流出が大きいため、逆に円安が続いている。特に金融の自由化によって80年頃から、外貨建金融資産の取得が盛んになり、主に高金利の米国国債購入に資本(資金)が流れるようになった。ちょうど土光臨調による行財政改革が始まり(消費税導入を目論んだ大平政権の財政再建路線が発端)、内需拡大路線が行き詰まった頃である。
昔の日本(70年代の中頃まで)は、反対に外貨不足が深刻で旅行者の外貨持出しでさえ厳しく制限されていたのだから、状況は様変わりしたのである。これはオイルショック後に日本の輸出が急激に伸びたためである。オイルショックによる急激な物価上昇を抑え込むため、緊縮財政が採られ、企業は活路を輸出に求めるしかなくなったのである。橋本行財政改革政権の時にも同様なことが起った。そして今日の状況がこれらの時と極めて似ている。
外債(米国国債)投資は、円安が続く限り高利回りが取れる。しかし外債投資が円安の原因になっている。そしてこの円安によって輸出が伸び、経常収支の黒字幅がむしろ大きくなる。つまり資本(資金)流出が大きいと、為替変動による貿易収支の均衡機能が働かなくなる。したがってどれだけ経常収支の黒字が大きくなっても円高にならないのである。
しかし経常収支黒字国の通貨が安いまま推移することは、矛盾を蓄積することになる。この矛盾の蓄積を修正するため、どこかで円高への調整が起ることになる。ところが資本取引が活発になると、市場のメカニズムに任していては、この調整がいつまでも起らない。この調整を半ば人為的に行ったのが、85年のプラザ合意後と橋本政権下でのドル売・円買介入である。それも相当規模の介入を行って、為替の動きを反転させた。
このように過去二回の円高転換では、政府、特に日米両政府の意思というものが重要であった。ところで中国株ショックが発端で、日本株の下落と円高が最近起った。注目点はこのまま円高が続くのかということである。もし円高が定着するのなら、初めての政府の介入がないままの円高転換というケースになる(円がフロート化した時の円高を別にして)。
筆者は、政府の意思がないまま円高転換は難しいと考えている。しかし前回までと違い、キャリー取引といった外資系ファンドの為替取引が大きくなっている。したがって場合によっては、外資系ファンドの動きいかんによっては、為替相場の流れが変わることもあるのかと注目している。
さらに中国経済(中国政府を含め)の動きが、円相場にも影響を与えるようになっていることを筆者は指摘しておきたい。またインドなどの新興国の経済が大きくなっており、世界経済に及す影響も大きくなっている。特にインドも中国と同様、通貨を米ドルにリンクさせている。中国の人民元が問題にされているが、同じことがインドのルピーにも言えるのである。
これまでの大きな円高への調整は、日米欧(特に日米)の協調で行われた。しかし米ドルとの間で円だけを円高に調整した場合、円と新興国の通貨との矛盾がさらに大きくなる。つまり為替調整は多国間の問題になっているのである。
- キャリー取引という危険因子
前段で述べたように、筆者は為替の大幅な円高への調整には政府の意思というものが必要と考えている。しかしここ5,6年の間に為替市場を巡る環境が変化した。外資ファンドのキャリー取引と中国経済の台頭である。超円高が現実となるには、これらの動向についても考える必要があると感じる。
まず今週はキャリー取引を取上げる。日本が超低金利を維持していた間に、米国は利上げを続け、この結果日米の金利差は拡大した(もっとも金利差が拡大したのは短期金利であり長期金利の金利差はそれほど大きくなっていないが)。キャリー取引はこの日米の金利差の拡大に応じて増えてきた。
つまり金利差が縮小すれば、キャリー取引の増加率が小さくなるかあるいは減少する可能性がある。まず日本の金利については、先月小幅な利上げが行われた。しかしこれに対してはかなりの抵抗があった。したがって今後、小幅の利上げがあるかもしれないが、利上げに対する反対を考えると大幅な金利上昇は考えられない。
一方、米国の金利はほぼ天井まで上がっている。今後考えられるのは利下げである。今日、米国の景気の現状について強気と弱気がある。見方が別れているのである。したがって景気指標に多少弱い数字が出ても、直には大幅利下げということはない。仮に利下げがあっても秋以降という観測に筆者は賛成である。したがって日米の金利差は、当分の間、今のままで推移するという予想である。ただし方向としては金利差は小さくなる。
キャリー取引の主体は利にさとい外資系ファンドである。日米の金利差が縮まないとすれば、当分今日のキャリー取引が続けられると見られる。ただ確実な円高が見えてきたなら、事情は一変すると考える。外資系ファンドは、手の平を返すようにキャリー取引の解消(キャリー取引の巻き戻し)に向かうものと考えられる。
キャリー取引大規模な巻き戻しが起れば、これが超円高の一因となろう。もしキャリー取引の巻き戻しだけで円高が実現するなら、これまでのような政府・日銀の為替介入に頼らなくとも円高転換が達成されるということになる。しかしキャリー取引の解消が大規模に起るということは、外資系ファンドが運用している株や債券がたたき売られることを意味する。当然、これが世界の株式や債券の暴落を生み、日本は世界から非難を受ける可能性がある。
さらに次にはこれが日本の株式市場などを直撃する。日本経済はキャリー取引というとんだ危険因子を抱え込んでしまったのである。キャリー取引というものがどんどん増えて行くのを、何の対策も行わず漫然と眺めてきた小泉政権のツケは大きい(もっとも小泉政権はこれに伴う円安で維持されたようなものである)。
しかしこれによって日本政府が行う将来の経済政策が制限されることになったのである。ここまでの話をまとめれば「円高になるという予想」が定着すれば、まず外資系ファンドがキャリー取引を一斉に巻き戻し、最終的に超円高が実現するというストーリである。筆者は利にさとい外資系ファンドが一番最初に動くと見る(今日の株式市場でも外資系ファンドが相場をリードすることが当り前になっている)。外資系ファンドはキャリー取引の解消に止まらず、円買い投機まで行うであろう。それを見て企業や個人も円買いに走るという具合である。
結論はこの「円高になるという予想」が生まれる条件が何かということになる。筆者はこれが来週取上げる中国人民元の動向と見ている。超円高、つまり「えらいこと」が起る条件を人民元高と筆者は考える。
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