- 政府の動き
経常収支が黒字なのだから本来は円高で推移すべきであるが、逆に円安が続いている。先週号では、経済成長が期待できない日本からの資本(資金)流出が、この円安の要因と説明した(経常収支の黒字額以上の資本(資金)流出)。資本(資金)流出は構造的なものになりつつある。したがって多少金利が上昇しても、当分この流れは変わらないと予想した。実際、先週日銀は0.25%の利上げを行ったが、むしろ円相場は材料出尽くしと円安に振れている。
ところで利上げは日本経済に多少なりともマイナス要因と成りうるのだから、ますます資本(資金)流出を招くという事態も有りうる。つまり利上げが円高要因にならないどころか円安を助長する面がある。したがって利下げが円安要因である一方、利上げも円安要因という、おかしな状況に日本経済は置かれていると筆者は考える。
まず経常収支が大幅黒字を続けている日本の円が、逆に安くなっていることは矛盾を大きくしている。したがってどこかの時点で円高、それも超円高に転換しても不思議はない。しかし04/4/5(第339号)「円高は構造的」で述べたように、日本には円について「自虐的な為替観」というものがある。一旦円安が続くと日本からの資本(資金)流出がどこまでも続く傾向が強い。
橋本政権の時にもよく似た事が起っていた。経常収支が大きな黒字を続けているのに円安が長く続いた。原因は外債投資(主に米国債)の増加であった。この時は最終的に円高になったが、そのきっかけは政府・日銀による円買い・米ドル売りという為替介入であった。為替介入と言えば、円高阻止のための米ドル買いが普通であったが、この時には逆の介入を行った。
当時、米国はGDP比2.5%という大きな経常赤字を記録しており(それでも今日の経常赤字比率よりずっと小さいが)、日本への是正要求を強めていた。この解決策が日米による円買いという奇手的な為替介入であった。それ以降、米国の経常赤字のGDP比2.5%は、危険水域という認識ができた。ところが今日の米国の経常赤字のGDP比は2.5%をはるかに超えている。
円安が問題としてクローズアップされたのは、この橋本政権の時と85年のプラザ合意前である。もし今日の日本の円安が問題になるとしたなら、三度目ということになる。前回までの円安是正(円高への調整)は、いずれも政府主導で行われた。これは市場の調整機能(経常収支が黒字になれば円高になり、その次には円高によって経常収支の黒字が小さくなるという市場の調整機能)が弱く、為替相場の矛盾を解決するには、どうしても政府や中央銀行の介入が「きっかけ」として必要なことを示している。
つまり為替相場の転換には、政府など外部からの刺激が必要という話になる。今日、円が安すぎるという認識は各国にある。ところがそれが円高転換に作用するほど強いものになっていない。先のG7においても、円安は問題になったが、具体的な対策は示されなかった。したがって今日の円安は当分続く可能性が強い。ただ一旦円高に転換した場合、矛盾の蓄積が大きいだけに、円高への調整はかなり大きなものになると考える。
- 人民元の動き
資本取引が大きい今日の為替市場においては、必ずしも経常収支に応じて為替相場は動かない。つまり為替の変動による経常収支の調整機能がうまく働かないのである。最後には、政府などによって恣意的な為替調整が行われることになる。このように為替の変動は一種の政治マターになっている。
今日、円安は問題になっているが、それほど切羽つまった問題になっていないことを前段で述べた。たしかに欧州ユーロは対円でかなり高くなっている。しかしユーロは対米ドルでも高くなっている。したがって欧州の円安批難は大きいが、米国の円安批難はそれほどでもない。そして今回の日銀の利上げで、欧米の批難をかわしたという形になっている。
米国は、経常収支の赤字よりもイラクの問題で頭が一杯である。米国が同盟国として米国寄りのスタンスをとる日本に、あえて不利な要求を突き付ける状況にない。概ね今日の日米関係は良好である。もしクリントン時代のように日米関係がギクシャクしていたら、対日要求も違っていたかもしれない。
欧米は日本の経済がずっと低調なことを知っている。また日本が財政再建に迫られていることも認識しており(それが正しい認識がどうかを別にして)、日本が採れる経済政策が限られていると思い込んでいる。この状況では、急激な円高によって日本をさらに窮地に追込むことまでは考えていないようだ。そして日本以上に問題の国が現れたのである。中国である。中国の問題を考えると、日本の円安などは霞んでしまう。
中国は巨額の貿易黒字を稼ぎ、なおかつ黒字幅が年々大きくなっている。外資導入によって製造業の競争力が飛躍的に高まったからである。しかしその背景に自国通貨である人民元を不当に安くしていることが挙げられる。これについては本誌で何回も取上げ、05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」で総括した。
人民元を不当に安くしているため、中国の人件費はタダ同然となっており、これが魅力となって外資が中国にどんどん進出し生産拠点を設けた。この外資系製造業が中国の輸出の半分を占めている。中国は人民元を過去に何回も切下げ、為替の優位性を実現してきた。
これまで中国は厳しく人民元を管理し、対ドルにリンク(ペッグ)させていた。しかし貿易黒字額が膨大になり、先進各国から批難を浴びることになった。これに対して中国は、2年前、人民元を3%弱切上げると同時に為替管理を多少緩めた。対米ドルの変動幅を少し広げたのである。
対米ドルで8.3元であったものが、今日7.8元まで人民元は高くなっている。しかし元は高くなったと言われるがわずか6%である。これを今日の日本に当て嵌めるなら、120円の為替レートが113円になる程度である。プラザ合意後、円レートは240円から120円まで急激に円高になったことと比べようがないほど、今日の人民元高は緩慢なものである。
もちろん各国は、人民元の管理をもっと緩め、変動幅をもっと大胆に大きくすべきと主張している(極論としては変動幅自体をなくし為替レートの決定を自由市場に委ねる)。しかしこのような要求を中国は飲む気はないと考えられる。実際、今日程度の人民元高でも、既に競争力を失っている分野が出ているのである。円レートの動向を占う上で、この中国人民元の行末も一つのポイントになる。
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