平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


今年は今週号が最後で、新年のスタートは1月8日号です

06/12/11(463号)
筆者の主張のサマリー

  • 通貨増発政策
    最近「経済コラムマガジンなのに、何故、経済を取上げないのか」というご意見を頂戴している。筆者もこれについては多少なりとも反省している。そこで今年最後である今週の経済コラムマガジンは久し振りに経済を取上げる。

    しかし筆者は、これまでの経済コラムマガジンを通じ、主張したいことは既にかなり述べてきたつもりである。主張自体もほとんど変わっていない。ただなかなか世間の賛同を得られないのが現実である。そこで今年の最後として、今週号では筆者の主張のサマリーをお届けする。長年の読者の方ならご理解しておられると思われるが、ポイントは財政と考える。


    筆者の主張は、日本経済の長期不調の対策として「セイニアーリッジ」、つまり政府貨幣(紙幣)発行政策を実施することである。残念ながら、この政策は「あまりにも過激過ぎる」と積極財政に賛同する人々からさえもなかなか賛成を得られないのが現状である。たしかに中央銀行としての日銀が存在する以上、通貨を日銀と政府が同時に発行するということに抵抗を感じる人が多いのも納得できる(もっとも補助貨幣を今日でも政府が発行しているが)。

    そこで次善の政策としては、政府が国債を原資に財政支出を拡大し、その国債を日銀が買入れることが考えられる。日銀が直接国債を引受けても、あるいは一旦市場に放出された国債を積極的に買入れても良い。また日銀が買入れた国債はそのまま塩漬けにしておいても良いし、景気が良くなれば市中に売却しても良い。ちなみに日銀が買入れた国債に支払われる利息は、最終的に国庫納付金として国に戻ってくるので、国の財政上の実質的な負担はない。つまり仮に日銀が国債を何年塩漬けにしても、財政負担はないということである。


    筆者の主張は政府貨幣発行や日銀の国債の買入れによって通貨を増発することである。財政支出拡大の原資にこの通貨の増発を充てるのである。これに対して大半の経済学者やエコノミストは、通貨の増発政策がインフレ・物価上昇を招くと猛反発するかもしれない。しかし日本にはデフレギャップが存在し、さらに技術進歩による生産性の向上も考えられるので、物価の上昇は過激なものとはならないと考える。むしろ他の先進国並の物価上昇率なら決して不健全と言えない。

    一方金利も通貨の増発となれば直接の上昇要因にはならない(国債の市中売却によって原資を調達する場合にはほぼ確実に金利は上昇する)。ただし通貨の増発によって経済活動が活発になる結果、設備投資や消費が増え、これによって資金需要が増え、金利が上昇する可能性は大きい。もっともこの金利上昇こそが日本経済の健全化する兆しである。

    つまり通貨増発政策によって物価と金利は上昇してくると考えられる。しかしこれは日本経済がまともになる証である。通貨増発政策の規模は、日本経済がまともになる程度までの大きさが適切である。一つの目安としては、他の先進国の物価上昇率や金利水準が参考になる。つまり物価上昇率が名目で3%、長期金利が5%といったところが目安になる。もっともこれまで間違った政策で、日本経済は相当歪んでおり、これを是正(取返すと言っても良い)するためには、当初の目安はもっと高くしても良いという意見もある。


    しかし今日、日本の財政再建問題が大きなテーマになっている。通貨の増発による支出増加なら全く財政の負担にならないが、財政支出拡大そのものが問題にされている(筆者に言わせれば、財政赤字を増やしてきたからこそ、日本経済は低レベルながらかろうじて均衡しているのである)。このような日本の間違った空気の中では、政府貨幣発行や日銀の国債の買入れは誤解を受けやすく、猛反対に会うことは必至である。

    そこで筆者は、200兆円(公務員共済を含め)もある日本の公的年金の積立額を担保にした債券を発行して、これを日銀が買入れる政策をもう一つ提案する。これによって年金支給額を増やしたり、毎月の年金の納付額を減らすのである。これなら抵抗感の大きい財政支出の拡大をしなくても、実質的に通貨の増発政策が行うことができると考えるからである(このためには公的年金を、積立方式から目的消費税を将来に導入することを前提にした賦課方式に変えることを考えて良い)。


  • 金融面からの分析
    筆者は、政府貨幣発行や日銀の国債の買入れによる通貨増発政策を、何の根拠もなく主張しているのではない。日本経済長期不調の背景には、日本の過剰貯蓄による経済のデフレ体質がある。この日本経済のデフレ体質については、04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」から04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」のレポート(論文)で分析したつもりである。

    日本の巨額の貯蓄のうち郵便貯金や公的年金の積立金のかなりの部分は財政投融資に回され、経済の循環に戻っている。またこれらの残りの資金や簡保が国債や地方債を買うことによって、同様に資金は経済の循環に戻っている。ところが日本にはもう一つ大きな貯蓄の原資がある。土地の売却代金である。これが消費や設備投資に回らない場合には、大きなデフレ圧力となる。


    この巨額の郵貯・簡保、公的年金積立金、そして土地の売却代金は国債・地方債の購入や財政投融資に使われることによって、日本のマクロ経済は辛うじて均衡を保ってきたのである。つまり日本の経済においては、国民の金融資産が増えると同時に国・地方の借金が増える関係になっている。

    巨額の郵貯・簡保、公的年金積立金、そして土地の売却代金の存在は、日本経済だけの特殊性である。つまりこのような特殊な経済構造の日本では、他の先進国で有効な政策も、全く通用しないばかりか有害でさえある。この巨額の貯蓄の結果、日本のマネーサプライ残高はGDPの2倍(郵貯などを含め)という異常値(マーシャルのk)となっている。他の先進国のマーシャルのkが0.5倍程度であり、日本のマネーサプライはGDPの1.5倍分程度大きい。余分なマネーサプライの金額は750兆円となり、偶然にも国・地方の借金の額に見合うのが面白い。


    日本のマネーサプライは異常に大きいが、民間に資金需要がそれほどない。つまり日本のマネーサプライは凍り付いており、金融機関は国債・地方債を買う他はないのである。このような状況を打開するのが、筆者の主張する政府貨幣発行や日銀の国債の買入れによる通貨増発政策である。

    通貨増発政策は直接民間に資金を流すことによって、総需要を増やすことができる。つまり所得を生むマネーサプライを増やすことによって、消費やそれに伴って設備投資が増えるのである。日銀がマネタリーベースを増やしても民間に資金は流れないが、政府が資金を直接民間に流せば、所得を発生させるのである。

    また通貨増発政策を実施しても構わないのは、日本では巨額のマネーサプライが凍り付いているからとも言える。しかしもし通貨増発政策によって、経済活動が活発化すれば、マネーサプライが凍り付いていたマネーサプライが動き始めることが考えられる。もっともこれが筆者の主張する政策の目的でもある。もし凍り付いていたマネーサプライが急激に溶け出し、問題を起こすほどになれば、通貨増発をセーブすれば良いのである。この目安は前段で説明した物価上昇率が名目で3%、長期金利が5%といったレベルである。


    今日の日本政府の政策は、この巨額の凍り付いたマネーサプライを徒手空拳で何がなんでも溶かそうというものである。規制緩和が効果があるとか、投資減税が効果があるとかはたまた官の仕事を民間に移せばといったものである。筆者に言わせれば、マクロ経済の上ではそれらはほとんど効果が期待されない政策ばかりである。実際このような政策は何年も続けられているが全く効果がない。もうそろそろそのことを認めるべきである。

    日本経済は、中国を始めとした新興国の経済発展や米国の経済、さらに落込み過ぎた設備投資の反動で持っている。また外需依存を助長するような常軌を逸した為替介入や、海外への資金逃避による円安に支えられている。日本の経済政策には妄言・虚言がはびこり、残念であるが今年も無為に過ぎたようである。



今週号が今年の最後であり、新年のスタートは1月8日号を予定している。では良いお年を。



06/12/4(第462号)「高速増殖炉にまつわる誤解」
06/11/27(第461号)「高速増殖炉の話」
06/11/20(第460号)「日本の核融合研究」
06/11/13(第459号)「将来のエネルギーの本筋」
06/11/6(第458号)「LNG(液化天然ガス)の話」
06/10/30(第457号)「筆者の国防・防衛論」
06/10/23(第456号)「日本の核武装論」
06/10/16(第455号)「北朝鮮の核実験」
06/10/9(第454号)「安倍政権の生産性」
06/10/2(第453号)「安倍政権の発足にあたり」
06/9/25(第452号)「ポスト小泉の経済論議」
06/9/18(第451号)「ポスト小泉の経済と対米外交」
06/9/11(第450号)「ポスト小泉の対アジア外交」
06/9/4(第449号)「ポスト小泉について」
06/8/7(第448号)「郵政改革と宗教戦争」
06/7/31(第447号)「郵政改革論議の混乱」
06/7/24(第446号)「宗教・哲学と経済学」
06/7/17(第445号)「宗教と哲学への入門」
06/7/10(第444号)「劣勢のケインズ」
06/7/3(第443号)「トービン税について」
06/6/26(第442号)「自由放任(レッセ-フェール)の経済」
06/6/19(第441号)「筆者の税制改正案」
06/6/12(第440号)「筆者のニート対策」
06/6/5(第439号)「美しくない話」
06/5/29(第438号)「第三セクター鉄道の危機」
06/5/22(第437号)「テレビ番組の制作現場」
06/5/15(第436号)「日銀の実態・・憶測」
06/5/8(第435号)「日銀は魔法の杖か」
06/4/24(第434号)「もう一つ勇気を」
06/4/17(第433号)「格差とマスコミ」
06/4/10(第432号)「官僚の力と限界」
06/4/3(第431号)「日経新聞のダブルスタンダード」
06/3/27(第430号)「金融政策の失敗の歴史」
06/3/20(第429号)「量的緩和解除の波紋」
06/3/13(第428号)「コンビニ弁当の話」
06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」
06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」
06/2/20(第425号)「労働力と経済成長」
06/2/13(第424号)「大衆社会における経済論議」
06/2/6(第423号)「皇室典範改正法案に一言」
06/1/30(第422号)「ホリエモンと政治家」
06/1/23(第421号)「改革の旗手の危機」
06/1/16(第420号)「今年の景気予想」
06/1/9(第419号)「思考停止の日本」
05/12/19(第418号)「日本人の変質」
05/12/12(第417号)「日本的経営の行く末」
05/12/5(第416号)「アメリカ人」
05/11/28(第415号)「遠ざかる豊かな社会」
05/11/21(第414号)「移民問題と市場経済」
05/11/14(第413号)「ブリエアの解放者たち」
05/11/7(第412号)「第三次小泉内閣の感想」
05/10/31(第411号)「現実経済の乗数値」
05/10/24(第410号)「公共投資に伴う誘発投資」
05/10/17(第409号)「誘発投資の拡張版」
05/10/10(第408号)「経済理論上の乗数」
05/10/3(第407号)「政治家達の沈黙」
05/9/26(第406号)「大谷氏への公開質問状」
05/9/19(第405号)「デマの検証」
05/9/13(第404号)「選挙結果の雑感」
05/8/29(第403号)「今回の総選挙を読む」
05/8/22(第402号)「今回の総選挙の沿革」
05/8/8(第401号)「中国経済の本当の脅威」
05/8/1(第400号)「中国の為替戦略」
05/7/25(第399号)「経済のグローバリズムの行末」
05/7/18(第398号)「経済のグローバリズムの本質」
05/7/11(第397号)「郵政法案と小泉政権の行方」
05/7/4(第396号)「経済のグローバリズムと競争の公正」
05/6/27(第395号)「日本語の研究」
05/6/20(第394号)「公的年金とセイニアーリッジ」
05/6/13(第393号)「日本国民全員がばん万歳の政策」
05/6/6(第392号)「公的年金とマクロ経済」
05/5/30(第391号)「マクロ経済政策で解決するもの」
05/5/23(第390号)「ヴァーチャルなもの(その2)」
05/5/16(第389号)「ヴァーチャルなもの(その1)」
05/5/9(第388号)「中国進出の主導者」
05/4/25(第387号)「鎖国主義への誘惑(その2)」
05/4/18(第386号)「鎖国主義への誘惑(その1)」
05/4/11(第385号)「ノストラダムスの大予言」
05/4/4(第384号)「法律と現実社会との間」
05/3/28(第383号)「株式に関する非常識」
05/3/21(第382号)「人とグローバリズム」
05/3/14(第381号)「資本とグローバリズム」
05/3/7(第380号)「貿易とグローバリズム」
05/2/28(第379号)「マスコミの暴走」
05/2/21(第378号)「マスコミが流す誤った概念」
05/2/14(第377号)「日本のマスコミの権力指向」
05/2/7(第376号)「日本のマスコミの体質」
05/1/31(第375号)「財政当局の変心」
05/1/24(第374号)「経済成長の条件(その2)」
05/1/17(第373号)「経済成長の条件(その1)」
05/1/10(第372号)「中国経済の実態」
04/12/13(第371号)「第一回財政研交流会」
04/12/6(第370号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その3」
04/11/29(第369号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その2」
04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」
04/11/15(第367号)「虚構の終焉(フィクション・エコノミクス)その1」
04/11/8(第366号)「第二次南北戦争」
04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」
04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」
04/10/18(第363号)「日本経済のデフレ体質の分析(その3)」
04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」
04/10/4(第361号)「日本経済のデフレ体質の分析(その1)」
04/9/27(第360号)「豊かな社会ーー競争と共生」
04/9/20(第359号)「レーガンの規制緩和の実態」
04/9/13(第358号)「今こそ大胆な政策転換を」
04/9/6(第357号)「虚言・妄言が跋扈する世の中」」
04/8/30(第356号)「日本の「韓国化」」
04/8/2(第355号)「日本の分割統治」
04/7/26(第354号)「自民党大敗北の要因分析」
04/7/19(第353号)「参院選で見たもの」
04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」
04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」
04/6/28(第350号)「テロと中東石油」
04/6/21(第349号)「対談の論点(再)」
04/6/14(第348号)「対談の論点」
04/6/7(第347号)「富の分配と公正」
04/5/31(第346号)「小泉首相訪朝の成果」
04/5/24(第345号)「日本に必要な財政赤字政策」
04/5/17(第344号)「土地売買の盲点」
04/5/10(第343号)「日本経済の体質と財政政策」
04/4/26(第342号)「凍り付くマネーサプライ」
04/4/19(第341号)「デフレ体質の日本経済」
04/4/12(第340号)「火星の土地」
04/4/5(第339号)「円高は構造的」
04/3/29(第338号)「規制緩和に飛びつく人々」
04/3/22(第337号)「矛盾の出発点」
04/3/15(第336号)「日経の貧乏神」
04/3/8(第335号)「実感なき経済成長」
04/3/1(第334号)「為替介入ではなく財政支出を」
04/2/23(第333号)「為替介入への道」
04/2/16(第332号)「為替介入資金の働き(その2)」
04/2/9(第331号)「為替介入資金の働き(その1)」
04/2/2(第330号)「為替介入政策の限界」
04/1/26(第329号)「今日の政治課題」
04/1/19(第328号)「今年の政局の課題」
04/1/12(第327号)「今年の日本の景気」
03/12/15(第326号)「日本の公的年金」
03/12/8(第325号)「足利銀行の破綻処理」
03/12/1(第324号)「日本経済を支えているもの」
03/11/24(第323号)「総選挙結果から見えるもの」
03/11/17(第322号)「総選挙結果の分析」
03/11/10(第321号)「総選挙の結果他」
03/11/3(第320号)「総選挙の予測」
03/10/27(第319号)「動態的会計による企業価値算定」
03/10/20(第318号)「道路公団、財務諸表の怪」
03/10/13(第317号)「藤井総裁解任劇」
03/10/6(第316号)「総裁選と総選挙」
03/9/29(第315号)「総裁選の総括」
03/9/22(第314号)「ドキュメンタリー総裁選」
03/9/15(第313号)「レポート総裁選・・その2」
03/9/8(第312号)「レポート総裁選」
03/9/1(第311号)「混迷の終始符」
03/8/25(第310号)「急がば回れ・・再び」
03/8/18(第309号)「自民党の総裁選に向けて」
03/8/4(第308号)「日本の実稼働率」
03/7/28(第307号)「設備投資の実態」
03/7/21(第306号)「企業経営と創造的破壊」
03/7/14(第305号)「頭が破壊されている人々」
03/7/7(第304号)「頭が混乱している構造改革派」
03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」
03/6/23(第302号)「経済の循環(その1)」
03/6/16(第301号)「経済政策の混乱」
03/6/9(第300号)「りそな銀行の件」
03/6/2(第299号)「規制緩和と日本経済」
03/5/26(第298号)「経済学と経営学」
03/5/19(第297号)「政府紙幣発行の認知度」
03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」
03/5/5(第295号)「政府紙幣発行政策の誤解」
03/4/21(第294号)「逆噴射の財政政策」
03/4/14(第293号)「危機管理下の経済政策」
03/4/7(第292号)「国債の管理政策」
03/3/31(第291号)「経済再生政策提言フォーラム」
03/3/24(第290号)「日本の有名経済学者達」
03/3/17(第289号)「波乱の株式市場」
03/3/10(第288号)「政府貨幣の理解」
03/3/3(第287号)「軽視される高橋是清の偉業」
03/2/24(第286号)「日本の清貧の思想」
03/2/17(第285号)「日本のデフレの原点」
03/2/10(第284号)「小泉首相の「もっと重要なこと」」
03/2/3(第283号)「スローパニック経済」
03/1/27(第282号)「所得を生むマネーサプライ」
03/1/20(第281号)「マネーサプライ政策の限界」
03/1/13(第280号)「データに基づく経済論」
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