- 高速増殖炉の仕組
ここ3週間、将来のエネルギー源について筆者の意見を述べさせていただいた。次世代のエネルギー源として、風力、太陽光、エタノールなどがよくマスコミに取上げられる。しかし筆者はこれらにはあまり期待をしていない。かと言って夢のエネルギー源の核融合に希望を託すのも現実的ではないと考える。
今日、漠然と筆者が次世代のエネルギー源として考えるのは高速増殖炉である。1995年の末にナトリウム漏れの事故を起こした「もんじゅ」がこの高速増殖炉である。核融合が成功すればそれこそ永遠のエネルギー源を手にすることになる。しかしこの高速増殖炉が順調に稼動してくれれば、それに近い状態が実現する。
先週、先々週号の本誌に登場していただいた核融合の専門家である九州大学のS教授も、次世代のエネルギーの本命はこの高速増殖炉と言われている。ところが高速増殖炉は「技術的に難しい」「危険性が高い」と世間では評判が芳しくない。ただし非難の中には「どの国も高速増殖炉を止めている」「日本を除いて高速増殖炉開発に積極的な国は皆無」と言った事実とは違うものがある。
まず高速増殖炉の仕組から説明を始める。高速増殖炉も原子炉の一つである。通常の原子力発電装置は、軽水炉と呼ばれる。軽水炉は中性子を核燃料であるウラン235にぶつけることによって、核分裂の連鎖反応を生じさせエネルギーを取り出す。軽水炉は核分裂を起こす中性子の速度を落とすために、冷却水(熱の媒体)に水(軽水)を使う。
天然のウランには、核分裂を起こすウラン235が0.7%含まれ、残りの99.3%はそれ自体では核分裂を起こさないウラン238である。つまり天然ウランの大部分は燃えないウラン238である。軽水炉の燃料としてはウラン235の濃度を高める必要があり、原子力発電には3〜5%に濃度を高めた濃縮ウランが使われる。
核分裂を起こさないウラン238であるが、中性子がぶつかると一部がプルトニウム239に変わる。そしてこのプルトニウム239の一部が原子炉内で核分裂を起こし、熱を発生させる。軽水炉の発生熱量の30〜40%はプルトニウム239が燃えることによって発生する。しかし軽水炉では中性子の速度を遅くしているため、ウラン238のプルトニウム239への転換率は小さい。
軽水炉の燃料がウラン235であることに対して、高速増殖炉の燃料はプルトニウム239である。また高速増殖炉ではぶつける中性子を減速させない。そして高速増殖炉には燃えないウラン238を同時に用いる。プルトニウム239が核分裂する際発生する高速中性子が、ウラン238にぶつかりプルトニウム239に転換されるのである。
高速増殖炉では、中性子の動きを高速のままにすることによって、投入する燃料のプルトニウム239からより多くのプルトニウム239が生産される(ウラン238を材料にして)。これが高速増殖炉の名前のゆえんである。つまり天然のウランの大半を占める燃えないウラン238を有効活用するのが高速増殖炉である。
- 高速増殖炉の成否のポイント
高速増殖炉では投入する燃料(プルトニウム239)より、生産される燃料(プルトニウム239)の方が多い。もちろんこの過程でエネルギーも発生する。言わば高速増殖炉は夢のような原子炉である。ところで地球上には天然ウランが無限に存在すると誤解している人々がいるが、ウランの確認可採埋蔵量はわずか85年である。
たしかに石油の確認可採埋蔵量の41年に比べれば余裕はある。しかしウランは石油と同様に日本ではほとんど産出せず、産出国も片寄っている。さらに石油の高騰につられ、ウランの価格も高くなっている。つまり今日の原子力の利用をこのまま続ければ、将来、原料の天然ウランの確保で壁にぶつかる可能性が強い。
したがってほとんど使われないウラン238が高速増殖炉に使われ、天然ウランが完全活用されることは画期的なことである。天然ウランは高速増殖炉によって100倍のエネルギー源に変わるという試算もある。これが本当ならウランの確認可採埋蔵量は、85年から8,500年に飛躍的に伸びることになる。
しかしそんなにうまい話ばかりではない。高速増殖炉は中性子の速度を落とさないないため、冷却水(熱の媒体)に水(軽水)ではなく、ナトリウム(金属ナトリウム・・高温で流体になる)を使う。このナトリウムの扱いが非常に難しいのである。
ナトリウムは一番イオン化傾向が大きい物質である。酸でなくとも、水とでさえも簡単に反応する。また空気中の水分とも反応する。水と反応すると水酸化ナトリウムと水素が生成される。この水素が水との反応で発生する反応熱で発火する場合がある。このように金属ナトリウムはまことに危険な存在である。筆者は金属ナトリウムが灯油の中に保存されているのを昔見たことがある(空気に触れさせないため)。
高速増殖炉は、この危険なナトリウムを冷却媒体として大量に使う。したがって万が一にもナトリウムが漏洩しても、空気と触れないよう周囲を窒素でシールしている。このようにナトリウムは危険な物質と分かっているので、当然、高速増殖炉「もんじゅ」でも対策は採られていた。しかしそれでもナトリウム漏れは発生したのである。
高速増殖炉は世界各国で開発されているが、どの国でもうまく行っていない。事故やトラブルが相次いでいるからである。筆者がちょっと調べたところでは、事故とトラブルの原因の約7割がこのナトリウムにまつわるものであった。つまり高速増殖炉の成否のポイントは、周辺部分といえるナトリウムの制御にあると言える。
反核グループの人々は、あらゆる核開発に拒否反応を示す。しかし反核ではない科学者の中でも高速増殖炉に反対する人々がいる。高速増殖炉の運転には高い技術が必要であり、人類はまだまだそのレベルに達していないと判断しているからと筆者は解釈している。たしかに「もんじゅ」の事故を見れば、このような意見の方が正しかったとも言える。
ただ高速増殖炉の危険性だけを強調するのもいかがなものかと考える。高速増殖炉は天然ウランを完全活用することによって、エネルギー問題をほぼ解決することができる。さらに高レベル放射性廃棄物の低減というもう一つのメリットがある。たしかに高速増殖炉には「技術的に難しい」「危険性が高い」という問題点はある。しかし筆者はそれを上回る利点があると考える。
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