- 国際熱核融合実験炉計画ITER
本誌はエネルギー問題をずっと取上げており、今週は核融合である。エネルギー源としての核融合の技術は、まだ人類が手に入れていないものであり、まだ実験段階にある。太陽がこの核融合でエネルギーを発生させていることは知られいる。つまり地球上に人工の太陽を作り、永遠のエネルギーを得ようというのが核融合の試である。
しかし核融合が起る条件には高温・高圧など厳しいものがあり、核融合が実際にエネルギー源となるのは今世紀の末頃という観測である。まず核融合には高温・高圧の条件で起る熱核融合と常温での核融合がある。しかし常温での核融合は80年代末に実験に成功したと一時脚光を浴びたが、実験の再現が難しかったり、発生するエネルギーが微量という研究があり今日では忘れ去られている。先週号で取上げたEPRの値が小さいということである。したがって今日核融合と言えば、熱核融合を指すと思って良い。
さらに今だ実験段階の核融合も、方向において主に二つの流れがある。磁場核融合とレーザ核融合である。日本で核融合と言えば前者の磁場核融合であり、実験炉はトカマク型核融合装置と呼ばれている大掛かりなものである。昨年、次世代の実験炉の建設で日本とフランスが競り合い話題になった。
実験炉の建設には莫大な費用が必要であり、共同で研究するという国際的な流れになった(国際熱核融合実験炉計画ITER=イーター)。そしてどの国にこの実験炉を建設するかということになり、日本とフランスが名乗りを上げた。最終的に日本はこの誘致合戦に破れ、実験炉はフランスのカラダッシュに建設されることが決まった。この誘致合戦においては、日本が米国と韓国の支持を受け、フランスがEUとロシア、そして中国の支持を得た。両陣営は拮抗していたが、フランスが中国を取込むことに成功し優位に立った。
中国の賛同を得た裏には、フランスが天安門事件以降禁止していた中国への武器輸出を解禁したことが挙げられるという話がある。またフランスは日本にも、国連の常任理事国入りに賛成することを条件に譲歩を求めていたという噂もある。科学の世界である核融合もなかなか政治的ということになる。
日本ではほとんど話題にならないのが、熱核融合のもう一つの方のレーザ核融合である。ところが米国はこのレーザ核融合の方により力を入れており、科学関係予算も磁場核融合を上回っている。フランスなんかも磁場核融合だけでなく、このレーザ核融合の研究が結構盛んに行われている。ところが日本では大阪大学を除き、レーザ核融合の研究はほとんど行われていない。
つまり先進各国とも、核融合と言えば磁場核融合とこのレーザ核融合の両者があり、両陣営の科学者は互いに核融合の実現を競っている。ただ両陣営の科学者同士の交流はほとんどなく互いにライバル視している。ところで日本では核融合と言えば磁場核融合と言うことになっているが、どうしてこうなってしまったのかについて筆者の想像を後ほど述べる。
- 核兵器とのニアミス
日本の磁場核融合への偏重に異議を唱えているのが立花隆氏である。磁場核融合の実験にはやたら大きな設備が必要である。つまり実験炉の建設そのものが大きな公共事業になるのである。日本は青森の六ヶ所村への次世代の実験炉の誘致を目指したが、これも一種の大型公共事業の地元誘致合戦と同じというのである。
立花隆氏はレーザ核融合に力を割かず、磁場核融合に偏重している核融合実験の日本の実情を批難している。氏は核融合の実現性という観点が欠落した原子力行政の結果がこの磁場核融合研究への偏重と主張している。つまり公共事業推進派と磁場核融合推進者の結び付きが、六ヶ所村への実験炉の誘致運動であったと指摘しているのである。
筆者は、立花氏ほど六ヶ所村への実験炉の誘致運動に反感はなかった。最先端の科学技術開発に予算を使うことに抵抗感はないと言って良い。合理的な金の使い方というものを認めるとしても、金が掛かり過ぎるから研究を止めるべきとも思わない。
たしかに核融合エネルギーは遠い将来の技術である。今回の国際熱核融合実験炉計画(ITER=イーター)は来年から設計が始まり、30年間に及ぶ長期実験計画である。熱核融合については実用炉まで5段階のステップがあると言われている。今回の実験炉はその4番目とされている。
しかしこの実験炉での実験が成功してこそこれが4番目ということが本当に判るのである。もしうまく行かなかったら、ステップがもう一つ増える可能性がある。このように核融合の研究開発はまさに金喰い虫である。そして日本は実験炉の誘致に失敗したが、これを密かに喜んでいる人々がいることも事実である。核融合実験ばかりに予算を取られることに危惧する他の分野の科学者達である。たしかに納得行く話ではあるが、筆者は科学開発予算全体を大きくすれば良いと考える。
たしかに今日の段階では核融合は夢の技術である。しかしこの夢の技術も、国際政治や国際的な色々な思惑に翻弄されている。前述したように実験炉の誘致に際して、フランスが政治力を行使した。また日本が磁場核融合に偏重し、レーザ核融合の研究が低調(立花隆氏の指摘の通り)なことにも何となく裏がありそうである。ちなみに磁場核融合の実験炉を熱心に誘致したフランスさえ、レーザ核融合の研究は進んでいるのである。
こんな「もやもや」を、半年ほど前に九州大学の核融合が専門のS教授(先週号でお話した)にぶつけてみた。「なぜ日本はレーザ核融合の研究が盛んではないのか」と質問したのである。すると即座に教授は「レーザ核融合なんて水爆みたいなものだ」と吐き捨てるようにお答えになった。真意は計りかねるが何となく苛立ち加減なご返答であった。
しかしこの答で筆者はピンときた。核融合の技術は、純粋な科学のテーマや将来のエネルギー源に関わるだけではないのである。立花氏は核融合を公共事業との関係で捉えているが、全く別の観点から見る必要もあると筆者は感じた。核融合の研究は核兵器開発と密接な関係があるのである。
日本がレーザ核融合の研究が低調という理由は、単に科学的な判断だけではなく、この研究が核保有の問題に結びつくからと筆者は推測する。つまりレーザ核融合の研究は核保有国の専売特許になっているのではないかと言う憶測である。一方、日本では非核三原則を議論することさえタブーになっている。日本のマスコミ界では司会者やコメンテーターが、「核論議」することさえ「おぞましい」と間抜けな事を言っている。情けない話である。しかし来週お話する高速増殖炉も核兵器とニアミスする話である。
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