平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


毎週、経済などをテーマに独特の切り口で論評。最新号はトップページ。

97/12/15(第46号)
  • 政府と与党の景気対策が次々打ち出されるが、市場の反応は良くない。16日の第3次景気対策にも筆者は期待できない。財政再建路線を放棄しなければ、まともな景気対策は無理である。一方、野党にも期待できない。日本の野党は影の薄い存在である。期待できるのは米国政府だけである。日本の健全野党は米国政府と言える。たしかに個別には理不尽な要求を米国政府が行なうこともあるが、マクロ経済政策についての要求は極めて的確である。実際、米国の要求は世界経済の安定に必要なだけでなく、日本経済にとってもプラスになる。日本政府は、これまでずっとこの要求を実質的に無視した政策を行なってきた。いつまで米国政府が我慢できるかが注目されるところである。

景気の現状と対策を考えるーーその8
  • 信用の収縮と景気
    これまでは、資金の流れと景気の関係に注意を向ける必要性は小さかった。実際、本誌でも景気の動向については需要の動向を決めるもの、具体的にはGDPを構成する要素の動向を中心に話をしてきた。たしかに銀行の貸し渋りが景気の足を引っぱっていると言う議論があることは承知しているが、その影響は比較的小さいと考えていた。この考えについては今も基本的には変えていないが、これ以上の信用の収縮は景気に対して、たしかにマイナスに働くと考えている。
    今まで銀行の貸し渋りで、資金的に苦しかったのはバブル期の不良債権を抱える企業と中小の業績の振るわない企業であった。後者については本誌でも10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」で述べた通り、特に大企業に納入している中小業者が厳しい状況におかれている。納入業者間の競争も激しく、独自の技術を持たない中小企業は危機的とも言えるのである。大企業は納入業者にドライになってきており、値段が折り合わなければ、その部品を輸入することもある。
    たしかにこのような企業や前述したようなバブルの負債を抱えた企業への銀行の融資は厳しいはずである。しかし、このような現象は最近始まったことではない。それにもかかわらず昨年はまずまずの景気であった。また、かりにこのような企業に対して、銀行からの融資がスムーズに行なわれていても、はたして今日直面しているような景気後退が避けられただろうか。筆者ははなはだ疑問である。これらの企業が必要としている資金は運転資金であり、新規の投資に必要なものではない。業績の良い大企業は資金面では苦労していないはずである。これだけ金利が安くなっているのだから、市場には資金がだぶついているはずである。このような企業は市場から直接資金を調達できるのであるから、銀行融資は必要ないのである。また、全体の景気はこのよう大企業の投資に左右されているのであるから、銀行の不良債権問題は殆ど景気に関係してこなかったはずである。
    最近、テレビに登場した財界の論客と言われている人が「銀行の貸し渋りにより、中小企業が窮地に立っており、これが消費の足を引っぱっている」と述べ、さらに「今日の不況の方程式を解く鍵は銀行の不良債権問題と最近気がついた」と言っていた。しかし中小企業が窮地に立ったのは相当前からである。また、このような論客の特徴は「数字を見ないこと」である。少なくとも9月までは一般の消費水準は前年を上回っているのである。繰り返すようだが、消費と言うものはそんなに増えたり、減ったりしないものである。減るとしたら、耐久消費財や住宅さらに設備投資、つまり投資的性格を持つものである。また、景気もこれから落ちるので、現状ではそれほど落ち込んでいない。そしてその大きな原因は本年度の「緊縮型予算」である。これらの論客は去年の今ごろ「財政再建」「規制緩和」「小さな政府」が日本経済を救う道と主張していたはずである。本年度の予算はそのための第一歩となるものであった。筆者に言わせれば、むしろこのような論客の言う通りの政府の経済運営が間違っており、不況を招くのである。銀行の不良債権問題も、政府の資金をつぎ込むなら別であるが、本誌で前に述べたように銀行が独自にこれをやれば、景気はもっと悪くなるはずである。また、これらの財界の論客が間違ったことを主張しているため、困ることが起こっているのである。それはこの主張が「時流」となっており、多くの企業の経営者もこの時流に乗って意見を述べるため、あたかもこれが経済人の代表的な考えとなってしまっているのである。
    筆者は、今までは景気を考える時、金融については軽視してきた。しかし、11月の大手金融機関の破綻以来、状況は変わってきた。つまり世間の信用と言うものが急速に収縮する事態も起ころうとしているのである。場合によっては深刻な事態も想定されるのである。筆者は今でも「山一」と「拓銀」をなぜ破綻させたのか不思議でならない。筆者はこれらの破綻はハプニングとしか考えられないのである。今後の政策によっては、「こんな企業まで」と言うところも破綻する可能性があると言うことが信用収縮の恐いところである。政策当局にこの動き出した信用収縮の連鎖を本当にコントロールできるのか疑問なのである。

  • 企業間信用の収縮
    銀行の貸し渋りについては色々報道されており、本誌では、これについてはこれ以上は述べない。ところで日本では銀行からの信用供与以外に企業間の信用が大きいウエートを占めている。具体的な勘定科目で言えば、売掛金、受取手形であり買掛金、支払手形である。企業によっては200日を超える手形を振り出しているところもある。このような企業が中心となっている地域では、企業間の取引サイトも極めて長くなっている。一旦倒産が起こると、負債額が大きくなるのである。経済が拡張している時にはこの企業間の信用と言うものはとても有効に働く。いちいち銀行と折衝を行い、資金を調達する必要がないからである。
    ところがここへ来て、この企業間の信用が収縮し始めているのである。企業間の信用収縮は運転資金の不足につながる。担保物件があるところはそれを担保に銀行から借り入れることができるが、それがない企業は取引を縮小するか、最悪の場合は倒産である。この企業間の信用の収縮が顕著になったのも、大型倒産が続いてからである。ある大手企業に対してさえも現金でなければ、業者が「資材」を納入しないと言う話を聞く。企業間信用の収縮が進むとこのような事態が、あらゆる企業間に起こるのである。日本の場合、この企業間の信用が大きいだけに影響も大きい。企業間信用を古い慣行と否定することは簡単であるが、日本経済が依然としてこれに大きく依存していることも事実である。筆者はこの企業間信用が収縮傾向にあることは確信できるが、それがどの程度なのかはっきりわからないのである。実際、これを随時示すデータもないのではないかと思われる。わかるとすれば全ての企業の決算書を合計する他はない。仮に日本の企業の売上高を一日一兆円とすれば、平均10日間の企業間信用の短縮が行なわれたら、10兆円の資金が不足することになるのである。
    12月に入って日銀の資金の放出が大きくなっているが、これも企業間の信用の収縮を一部反映している可能性がある。世間では銀行の貸し渋りだけがクローズアップされているが、この企業間の信用の収縮も大事な問題である。政府にとって、少なくとも後者はコントロールがより難しいはずである。

  • 景気対策についての混乱
    ようやく政府の景気の現状に対する見方も変わり、関係者の景気に対する認識もほぼ一致するようになったと言える。これも景気対策としては、大きな前進である。しかし、具対策となると依然としてバラバラである。これがまとまるまでには相当時間がかかるようであり、時間がかかればそれだけ対策を大きく打つ必要にせまられるはずである。つまり景気対策は急ぐ必要がある。
    「金融の収縮に対する対策を取り敢えず行なえ」と言う意見があるが、根本には不況にたいする不安があるため、これを解決する政策を行なわなければ、金融面の不安も去らないはずである。筆者の意見は、まずしっかりした「不況対策」を行なうことが、金融市場の安定を確保することになると言うことである。政府や与党幹部が考えている「小粒の景気対策」では、発表される度に市場がかえって動揺することになる。今だにこれらの人々は「財政の再建路線」に金縛り状態である。16日に自民党の第3次総合景気対策を発表することになっているが、筆者は、これを市場がどう評価するか注目している。
    世間には景気対策について色々な主張があり、これらを体系別にまとめると次のようになる。
    1. 政府は何もしてはいけない
      これは「改革を進めるには痛みが伴うことは承知である」と言う考えである。この状態が5年ほど続けば、日本の経済は蘇ると言う説である。このような意見を持つのは東海総研の水谷研治氏などに限られているよう見られる。しかし、筆者はこれを論外と考えるが、世間にはこれに賛成の人が意外と多いのである。特に公務員のように雇用と収入が安定している人々の間にはこれに賛成する人が多いであろう。このような経済状態が続けば物価が下落することははっきりしており、収入がそんなに増えなくても、これらの人々の実質的な収入は伸びるのである。
      実際、ヨーロッパ諸国は通貨統合に向け、このような政策を採っている。つまり世界中が財政の赤字の削減に向かっているのである。これはまさしく第2世界大戦前の世界恐慌時の政策に似ているのである。これに通貨の切り下げ競争が加われば、恐慌時の経済が再現されることになる。現在は米ドルを除き、各国の通貨がこのような状態である。つまり米経済が一人世界の経済を支えている状態である。このため米国の経済収支の赤字は今後急速に拡大することが予想される。問題はいつまで米国が持つかである。今後は米国の株式市場と米為替の動向が注目される。
      5年くらい経れば経済が蘇ると言うのは幻想である。たしかにそのような苦しい時期を経ると強い企業は残り、ダメな企業は淘汰されるであろう。しかし、強い企業だけで経済が成り立っているのではない。つまりマクロの経済は、勝ち組だけではなく、負け組も合計したものである。負け組がいる以上、勝ち組の生産物は国内で全て消費されないことが起きる。余剰品は輸出されることになるが、どれだけでも輸出できる状況ではなく、必ず摩擦を伴うことになる。各国が同じことを行なえば、まさしく前述したような戦前の経済の再現である。戦前の世界恐慌は、列国の軍備拡張競争でこの解決を見たが、今後の景気後退の解決は各国の内需拡大の協調路線しかないと筆者は考える。「EUの通貨統合に向けた財政赤字の削減」と「ミクロとマクロの関係」については後日また述べたい。
    2. 公共事業は効果がないから、減税を行なう
      この意見に賛成の人々は多い。マスコミに登場するエコノミスト、財界の論客、テレビのキャスターなど殆どである。この影響もあってか、各種の世論調査でも「減税」を求める声が圧倒的である。以前の不況時には公共事業を求める声も多かったのに、今回は極めて少数派となっている。減税の項目は一般の人々が「所得税」であり、財界と学者が「法人税」と大別される。まさしく「減税」が「時流」となっている。つい最近まで「規制緩和を行なえば内需が拡大する」と主張していた学者が、一転景気対策として「法人税の大幅減税」を訴えていた。なんと変わり身が早いことであろう。規制緩和で内需拡大ができるのなら、それをあくまでも主張するべきであり、それが「学者の良心」と言うものであろう。学者も「時流」に乗ることが大切なのかもしれない。これでは「規制緩和を行なえば内需が拡大できる」と言っていた経済企画庁も「はしごをはずされた」かっこうである。驚くことに経済企画庁は「内需拡大につながる規制緩和項目」を一般からアンケート募集を行なっているのだから「のんき」なものである。規制緩和が本当に内需拡大に効果が大きいと言うなら、どのような規制緩和が効果があるか腹案を持ってしかるべきである。筆者は、本誌5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」で述べたように「規制緩和」には内需拡大にプラスになる面もあるし、マイナスになる面もあるから単純には効果は判断ができない。多くの場合、プラス、マイナスの両面を持っているので景気対策としてはあまり考慮する必要はないと考えるのである。
      「減税」は景気対策としてほとんど効果はない。筆者は、アンケート調査の結果はストレートには受けないことにしている。これについては後日また述べることとする。しかし、最近の各種の世論調査で「減税があった場合の使途」を見ても、ほとんど「消費を増やす」と言う回答が小さいことには納得する。一番大きいのは「貯金」であり、二番目が「ローンの返済」である。これらで60パーセントくらいである。これを見ても「減税」が景気対策として効果がないことが理解できよう。「恒久減税」なら効果があると言うエコノミストもいるが、筆者は、ほとんどその差異はないと考えている。かろうじて効果が見込めるのは「消費税の減税」であるが、その実現性はまずない。
      公共事業は効果にはなく、「法人税の減税」が景気対策の即効薬であると言う財政学者がいる。公共事業は効果にはないと言う考えは全く事実ではない。昨年までの景気回復も公共事業による部分が大きかったはずである。効果は小さくなっているが、なくなったと言うことではない。反対に今後の企業利益事態があやしいのに、「法人税の減税」があるから投資を増やそうと言う企業が表われるとは考えられない。企業は、主に国際競争に付いていく必要にせまられ、設備投資を行なうのであって、法人税率が下がるから投資を行なおうと言う企業がどれだけあろうか。
      実現性があるのは「投資減税など」の政策減税である。しかし、これらも「法人税の減税」と同様に「最終需要が期待できない」現状では投資を増やす企業がそんなに現われるはずがなく、その金額規模も小さいこともあり、効果は限定的である。
    3. 大型公共事業と減税を同時に行なう
      これを主張している人々は、政治家には増えてきたが、エコノミストには意外と少ない。一貫して主張しているのはリチャード・ク氏と金森久雄氏ぐらいである。両氏も「減税」に景気浮揚効果があまり期待できないことは理解していると思われるが、これを言うことがはばかれる状況なのであろう。
    4. 大型公共事業を行なう
      これは筆者の主張であるが、まったくの少数派である。敢えて減税を行なうのなら「消費税の減税」である。しかし、政府と自民の幹部は、今年消費税を上げたばかりであり、これを減税すると言う「カッコウ」の悪いことができるはずがなく、実現性はない。しかし、今回の景気対策は面子にこだわることはないと筆者は考える。むしろ面子にこだわったらとんでもないことになる可能性があるのである。しかし、現実はこの面子が障害になっているのも事実であり、それだけ景気対策を難しくしている。
      いずれは、景気対策として「公共事業の追加」と「減税」が同時に行なわれることが予想される。しかし、筆者の希望は「公共事業」と「減税」とは分けて行なうことである。まず、「減税」を行ない、これが大した効果がないことを確認してから、次に「公共事業」を行なうのである。これによって「減税」が景気対策としてあまり効果がないことが証明されることが重要なのである。そしてこの安易な「小さな政府」路線が、今の日本経済にいかに危険なものかが理解されると思われる。またこのことが今後の経済運営にも大切なことなのである。


来週号は今年の最後である。2週間休刊し、次回号は1月12日に予定している。来週号では、なぜ日本経済はほっておくと需要が不足し不況に陥りやすいのかを考えたい。何事につけても日本が特殊と言う考えには抵抗を感じるが、こと経済については「日本は特殊な体質」と筆者は考えている。したがって、その日本経済に外国で行なわれている政策をストレートに持ち込むことは間違いと考えている。最近、日本の経済の後進性を指摘されているが、これも全てが当っていると思われない。むしろ日本が世界に先駆けて新しい現象にぶつかっているような気がしている。「少子化高齢化」「物価の安定」「金利の低下」これらはすべて日本が先行していることであり、これらが経済に影響しているのである。したがって外国の政策をマネをするとかえっておかしいことになるのである。これらについても来週号で述べるつもりである。



日常的に起こる経済問題をトーク形式で解説
日頃忙しいビジネスマンへのオンラインマガジン



97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」