- EPRとは
環境問題、健康問題そしてエネルギー問題に関しては、世間に強い思い込みがある。困るのは、そのような思い込みがそのまま政策に反映され、法律までが制定されることである。問題は、時としてそのような思い込みに科学性の裏付けが乏しいケースがあることである。そして一歩間違えばそれらの思い込みは虚言・妄言の類になる。
例えばペットポトルの分別回収である。ほとんどの自治体はペットポトルを焼却処分せずに、回収している。回収されたペットボトルは細かいチップに裁断され、主に繊維製品に再生されている。しかしペットボトルを回収したり、チップにするには手間がかかる。したがってそれに応じてそれなりのエネルギーを使うのである。
一説によればペットポトルの分別回収・再生に使われるエネルギーは、ペットポトルの再生利用によって節約される石油より大きいという話がある。つまりペットポトルは分別回収せずに、そのまま焼却した方が省エネにかなっているという話になる。またこれには補助金が出ている。ところが日本の再生繊維業者ではこれでも採算が採れないため、チップは中国企業が落札し中国に輸出されている。一体何をやっているかということになる。
エネルギー問題が生じると必ずクローズアップされるのが、風力発電と太陽光発電の推進である。両者の普及は環境にもやさしく誰もが賛同する。どの政党も採用したがる政策である。世界を見渡しても、ドイツのように原子力発電を止める方向で、風力発電に力を入れている国がある。
しかし筆者の疑問は、こんなことで将来のエネルギーは本当に大丈夫かということである。筆者は核融合の専門家である九州大学のS教授(今後、何回か当コラムに登場する)と、何度かエネルギー問題でお話したことがある。話の中で一致する意見がいくつかある。
その一つが「世の中に薄く(あるいは拡散して)存在するエネルギー源がエネルギー源の主役になることはない」ということである。風力や太陽光はまさに薄く(あるいは拡散して)存在するエネルギー源である。これらはたしかに一つのエネルギー源として認めるが、日本がエネルギーとしてこれらに頼ることはできないという話である。
筆者のこの話を裏付けるような数字が今年の7月2日の日経新聞に掲載されている。「エネルギーの理科」でEPRというものを取上げている。EPRとは「発電所や石油生産施設などが生み出すエネルギーの総量を、施設の建設や運転などにかかるすべての投入エネルギー量で割った比率」である。つまり投入するエネルギーに対して、何倍のエネルギーが出力するかとういう数字である。数値が大きいほど効率の良いエルルギー源ということになる。
ここで一つの発電に関するEPRの試算数値を列記する。LNG火力2.14、石炭火力6.55、地熱6.8、石油火力7.9、中小水力15.9、原子力17.4といった具合である。ちなみに太陽光は0.98と産出エネルギーと投入エネルギーが拮抗する。
思った通り原子力は高いが、LNG火力は意外と低い。また中小水力が案外効率の高いエネルギー源ということが分かる。風力については掲載がなかったが(おそらく場所や条件でバラつきが大きいと筆者は想像する)、太陽光と同様効率的なエネルギー源とは思われない。冒頭のペットボトルの回収にも通じる数字である。
- エネルギー議論の迷走
前段の話で、筆者がエネルギー源としての太陽光や風力に否定的と捉えられても仕方がない。しかし筆者は両者を完全に否定している訳ではない。少なくとも現時点の技術力では、太陽光と風力は効率的なエネルギー源ではないと言っているのである。両者も技術の進歩があれば、もう少しは効率的なエネルギー源に成り得るかもしれない。
実際、効率的である原子力でも技術的に劣っている米国の場合、EPRは4.0〜6.6程度に止まっている。一方、日欧は米国の3倍程度の数値である。これはウラン濃縮に米国が「ガス拡散」という古い技術を使っていて、ウラン濃縮に多大なエネルギーを必要としているからである。一方、日欧は「遠心分離」という最新技術を使っている。このように今後の技術進歩によって各エネルギー源のEPRも変わることを指摘しておきたい。
もちろん将来のエネルギー対策を考える場合、単にEPRだけを考える訳には行かない。安全性や環境への配慮、そしてどれだけそのエネルギー源が安定的に確保されるかということも加味される必要がある。その点では太陽光と風力は高い得点となる。また話は変わるが原子力のEPRが極めて大きいのなら、もっと安全面に経費を割くべきと考えられる。
2年前、筆者は04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」と04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」で、「政情が安定した地域での石油開発」「代替エネルギーの開発」「徹底した省エネの推進」の三つの政策を訴えた。特に筆者が注目するのが2番目の「代替エネルギーの開発」である。つまり新エネルギー源の開発ということになる。日本でも新エネルギー源については関心が高い。ところが具体的な政策レベルの話になると、必ず太陽光発電や風力発電といった誰もが反対しないような話でお茶を濁すことになる。しかしここまで述べてきたように、残念ながら太陽光や風力が将来のエネルギーの大宗にはとても成り得ないと筆者は考える。
環境などを考えると太陽光や風力は理想のエネルギー源であることは解る。また環境などに配慮することは貴いことである。しかし筆者は、この「頼りのない」エネルギー源である太陽光や風力などにだけ世間の関心が向くことがむしろ問題と思われる。これらはエネルギーに関する議論を迷走させるだけである。
筆者は、次世代のエネルギー源の本筋は、決して今日世間で関心の高い太陽光・風力やエタノールではないと考える。今週取上げたEPRを考えると、どうしても原子力系のエネルギー源が本筋と筆者は考える。しかし原子力系と言うと拒否反応があるのが日本の社会である。でも本当に将来のエネルギー源について真剣に考えるなら、この本筋を避ける訳には行かない。
|