- 本誌とエネルギー問題
人々の関心事、別の言い方をすれば、マスコミが取上げるテーマが日々刻々と変わる。最近のテーマは「酔っぱらい運転問題」や「高校の単位の偽装問題」などである。しかしこれらの不祥事は昔から起っていたり、行われていたことである。何も今日になって唐突に取上げる必然性はない。ところが不思議なことに日本のマスコミは一斉にこの「しょうもない」テーマに飛びついているのである。
マスコミとしては「北朝鮮の核実験騒動」が一段落し、次に人々の耳目を引付けるテーマとして「酔っぱらい運転」や「単位の偽装問題」を取上げているのであろう。ただ「北朝鮮の核実験」と「酔っぱらい運転」や「単位の偽装」では重要度の点では雲泥の差があるはずだ。ところが日本のマスコミにとっては両者に大した差がないようだ。しかし筆者は、テレビのニュースをつけトップニュースが「酔っぱらい運転問題」と分かった時、「日本のマスコミは一体何を考えているのだ」と軽いショックを受ける。
日本の大半のマスコミは、視聴者や読者の興味を引付けるため、テーマをどんどん変える。多分日本のマスコミの言い分は、視聴者や読者の反応が「北朝鮮の核実験」と「酔っぱらい運転」や「単位の偽装」ではそう違わないということであろう。
それでは日本人が「アホ」化していると言っているのと同じである。そんなこともあってかニュース番組がどんどんワイドショー化している。ところがこのワイドショー化したニュース番組が視聴率を稼いでいるのである。やはり日本国民が「アホ」化しているのかもしれない。
重要な出来事も、次々に起きるどうでも良いニュースに主役の座を奪われ、マスコミの世界では片隅に追いやられている。筆者が今週取上げる「エネルギー問題」もその一つである。原油価格は1バーレル70ドル代でピークを打ち、今日では50ドル代まで下がったためか、この問題に対するマスコミの関心はほとんどなくなった。
まるで「エネルギー問題」は片付いたという雰囲気である。しかしこの問題は今後も続くのであり、次に問題になった時に慌てても簡単には対処できない。「エネルギー問題」については日頃からの戦略的な対策というものが必要である。その意味では、今回の原油の高騰は「エネルギー問題」を考える上で良い機会だったはずだ。
本誌は04/6/28(第350号)「テロと中東石油」、04/7/5(第351号)「危うい石油の確保」、04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」と3週連続でこの「エネルギー問題」を取上げた。しかしこれも2年以上も前のことであり状況も変わり続編を書くことにした。
前回は原油価格上昇の初期で、エネルギー問題に人々の関心が集まり始めた頃であった。筆者は特に04/7/12(第352号)「日本のエネルギー自立政策」で原油代のピークはバーレル当たり70ドルくらいと予想した。幸い今のところこれが当っていたようだ(もっとも今後、突発的な出来事が起り100ドルにでもなったら予想は外れたことになる)。また日本においてエネルギー自立政策が重要という筆者の主張はいささかも変わっていない。
- 液化設備を持つ船の建造
今回は先週号で提案した「天然ガスの液化設備を持つ船の建造」の補足説明から始める。これには初歩的な有機化学の説明から始めた方が良いと思われる(専門家の人々には不要で退屈かもしれないが)。石油製品は炭化水素であり、炭素と水素の組合せで成っている。炭素原子1個に水素原子4個結びついたのがメタン(CH4)、炭素2個に水素6個がエタン、炭素3個に水素8個がプロパン、炭素4個に水素10個がブタンといった具合である。そしてここまでが常温では気体(ガス)である。
さらに炭素と水素の数が増えればガソリン、灯油、軽油そして重油となる。つまり炭素と水素の数が少ないほど気化しやすい。逆に重油より炭素と水素の数が増えれば、常温でも液体ではなく固体になる。これがアスファルトである。実際のところガソリン以降の組成はもっと複雑であるが、ここでは常温では気体のガスに絞って説明を行う。
常温で気体(ガス)であるメタン、エタン、プロパン、プタンも冷やせば液体になる。しかしガスの中でプロパンとブタンは常温でも圧力を掛ければ液体になる(プロパンで8気圧、ブタンで2気圧)。一方、メタンとエタンは圧力だけでは液化せず、相当冷やす必要がある。特にメタンはマイナス162度でやっと液化する。
圧力で液化するプロパンとブタンがLPG(液化石油ガス)、冷やして液化したメタンとエタンはLNG(液化天然ガス)とそれぞれ呼ばれている。
圧力だけで液化するプロパンとブタンは扱い易く、家庭用燃料、タクシーの燃料、ライターなどに使われている。一方、メタンは通常、消費地にパイプラインで運ばれ使われる。ただ日本などメタンの生産地から遠い国は、一旦液化したメタン(LNG)を輸入し、これをガスに戻して都市ガスや発電に使っている。ところでエタンは、昔はメタンと一緒に燃やされていたが、石油化学の原料(エチレン、エタノール、ベンゼンなど)になるので、今日ではメタンと分離して回収されている。
これらのガスは原油採掘の随伴と石油精製の過程で発生する。またメタンはこれら以外でも発生する(欧米、ロシアなどには各地にガス田がある)。ただし商業生産ということになれば、そのガス田の位置が問題になる。ここにメタンの活用の難しさがある。欧米のように生産地が消費地の近くあれば、メタンはパイプラインを使い容易に運ぶことができる。しかし日本のように生産地から離れている場合は液化というコストが別に必要になる。
エネルギーの開発にはコストというものが常に付きまとう。マイナス162度以下にするメタンの液化にはかなり大掛かりな装置が必要である。また液化する過程で、不純物を除去したり、エタンやプロパンなどを分離することになり、これらの装置も必要である。一ケ所の設備投資額も1,000億円以上掛かっているようだ。つまりよほど大規模なガス田でなければ、液化設備の建設は商業的にペイしない。したがってLNG(液化天然ガス)の売買契約は、生産側の投資負担を考え、何十年という長い期間で設定される。
エネルギー開発には常に不確実性がつきまとう。しかし採算を考えざるを得ない日本の民間企業は、このリスクをかぶってまでどんどんエネルギー開発を行えない。この点がメジャーと違う。一方、国は将来を見据えたエネルギー政策を持つ必要がある。ところが日本では官から民へという流れがあり、今日エネルギー開発においては国が前面に立ちにくい状況にある。
しかし先週号で述べた「天然ガスの液化設備を持つ船の建造」みたいなことこそ国が主導で行うべきプロジェクトと筆者は思う。技術的には今日においてもこの種の船の建造は可能と考える。後はコストの問題である。そして民間企業ではこの負担は難しいというのなら、このようなことにこそ国が積極的に関与すべきと筆者は考える。もちろん天然ガスの液化設備を持つ船の活用は、なにも東シナ海のガス田に限ったものではない。
|