- ポスト小泉の経済
9月20日に自民党の新総裁が決まる。筆者は新しい総裁が選ばれるという事より、小泉純一郎という人物が一線から去ることに興味と関心がある。もっと正確に表現すれば小泉首相という個人ではなく「小泉的なるもの」の行末である。ポスト小泉においては、当然、政治や経済政策にも変化があるものと考える。
安倍政権は小泉政権の継続という話がマスコミを中心に出ている。しかし06/9/4(第449号)「ポスト小泉について」で述べたように、マスコミ人は「小泉政権は自分達が作った」という自惚れがあるから、このような希望的観測を行っているのだ。おそらく安倍政権においては、少なくとも小泉首相の影響力はほとんどなくなると考えて良い。
「小泉的なるもの」の没落は一年前あたりから既に始まっている。小泉退陣によってこの流れは加速されると見る。さっそく竹中平蔵大臣が参議院議員を辞めるという報道がある。本誌はこの人物を02/10/28(第271号)「竹中平蔵大臣の研究」で取上げたことがあるが、実に怪しい人物である。今回の辞任劇に関しても色々な憶測が流れている。
このようにこれまで「白」と持上げられていたものが一瞬にして「黒」と言われる。まさに世の中の流れというものは「オセロ」のようなものである。この「オセロ現象」がどこまで行く着くのか注目される。ある意味ではこのようなことが新政権の性格を決定付けるとも言える。これを分りやすく言えば「新政権はどこまで構造改革派を切れるのか」と言うことである。
ポスト小泉の経済についても簡単に述べる。小泉政権の5年半は、経済政策の「空白期間」であった。その影響もあり、日本の名目GDPはほとんど変わらない。世界中どの国も経済成長をしているのにである。経済が成長しなかったのは世界中で北朝鮮と日本ぐらいである。それにもかかわらず、小泉政権の経済政策を誉めているエコノミストやマスコミ人が山ほどいる。目が曇っているのか頭がおかしいのである。
小泉政権下では全体のパイが変わらず、富の分配が変わっただけである。雇用者所得が減り労働分配率が下がっているということは、会社の利益と株主への分配が増えたことを意味する。構造改革派が言っていた「一時的に会社の利益と株主への分配が増えても、これによって投資が増え経済が成長し、最終的には雇用者の所得が増える」というセリフは大嘘ということが証明されたのである。
だいたい最終需要が増えないのに、設備投資だけがいつまでも増え続けるはずがない。これは減り過ぎた投資が幾分増えただけであり、それも今がピークで今後は再び減る可能性が強い。外需だけに頼る日本経済の限界である。
全体のパイが増えない中で大都市の経済が好調ということは、地方の経済がそれだけ不調ということを意味する。同様に輸出企業が利益を出している反面、内需関連の企業は落込んでいる。また大企業の業績が良く、一方中小零細企業の不振が続く。これらの経済の一連の流れは、明らかに小泉政権の構造改革政策を反映している。
筆者は、小泉政権がそれほど積極的に構造改革を押し進めたとは考えない(もちろんある程度の構造改革を行ったのは事実であるが)。むしろ何もしてこなかったのである。日本経済というものは、何もせずに放っておけば、今日のような状況になる体質を持っているのである。しかし何もしなかったはずの小泉政権の下で政府の借金だけが増え過ぎている。一部は大都市の輸出関連の大企業の利益となっていることは理解できる。おそらく残りは海外に流出したものと見られる。例えば35兆円の気狂いじみた為替介入資金もその一部である。
- ポスト小泉の対米外交
ポスト小泉の対米外交にも簡単に触れる。政権が変わっても、日米関係に大きな変化はないものと考える。これは誰でも思っていることであろう。あまりにも陳腐な話なので申し訳がない。
歴代の政権の中でも小泉政権は親米派ということは認める。しかしもっと正確に言えば、「親米」政権と言うより「親ブッシュ」政権と言うべきであろう。米国政府全体、あるいは米国民が小泉政権を全面的に信頼しているとは思えない。しかしもちろん日米が対等ということもない。米国政府関係者の間では小泉首相のことを「軍曹」と呼んでいるという話があるくらいだ。
ところで世界の親ブッシュ政権が次々と退陣している。スペイン、イタリアの親ブッシュ政権に続き、来年は英国のブレア首相の退陣が決まっている。小泉首相が退陣すれば、残る極端な親ブッシュ政権はオーストラリアぐらいになってしまう。今後はイラク戦争への関与に見られたような、すぐに米国に同調する国も極めて少数派になると思われる。
小泉政権が親ブッシュ政権であったことのメリットはあった。小泉首相が政権を維持できた大きな要因を「りそな銀行の救済」と「35兆円という常軌を逸した巨額の為替介入」と筆者は見ている。もし小泉政権が親ブッシュ政権でなければ、米国は2003年初頭の巨額の為替介入に当然クレームを付けたはずである。
ブッシュ政権は、小泉政権を守るためこの為替介入にさしたる文句を言っていない。小泉政権は、この為替介入とりそな銀行の救済(これ以降日本の株価は急騰する)によって2003年の経済危機を回避することができた。そしてこの経済危機の回避によって同年秋の総裁選で自民党の総裁に再選されたのである。明らかにブッシュ政権は小泉再選をサポートしたのである。ブッシュ政権の対応を見て、経済人もこぞって小泉再選支持に回ったものと見られる。
戦前と違い、日本は覇権国ではなくなった。覇権国にとって外交というものは重要であるが、覇権国ではない今日の日本にとって外交はどうでも良いものになっている。対米関係だけを見ておれば良いという状況であり、誰が外務大臣になってもかまわない。田中真紀子外務大臣はこの対米外交で躓き更迭された。今日の日米関係を「日本は米国の属国」という人がいるが、筆者は「日本は米国の保護国」という表現の方が現実に近いと感じる。
しかし50年後、100年後を見据えた場合、日本は覇権国を目指すのか、あるいはそう(具体的には商人国家のまま)ではないのかの決断に迫られると考える。筆者がここで言う「覇権」とは、もちろん他国を侵略するといった類のものではない。自主独立、そして自主防衛といったものとご理解願いたい。
日本にとって米国は最も重要な国である。しかし米国にとって日本の重要度はこれよりぐうっと落ちる。このアンバランスが案外軽視されている。米国とっては英国やカナダ、あるいはロシアなどの国々の方が重要であろう。おそらく日本はその次ぎのフランス、ドイツ、メキシコ、オーストラリア、中国といったグループと同じくらいの重要度の国に位置していると筆者は見ている。
このような状態では、有事の際、いくら保護国であっても日本にどこまで肩入れできるのか分からない。日米同盟と言っても未来永劫続く保証はないのである。特に2年後にブッシュ大統領が退陣すれば、米国の対日政策も変わる可能性がある。筆者は、ポスト小泉政権では、はたして日本が「覇権」を求める国になるのか否かの決断に迫られるのではないかと密かに注目している。もっとも誰が首相になってもこの決断は難しいと考えるが。
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