平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/12/8(第45号)


景気の現状と対策を考えるーーその7
  • 景気はどれだけ悪いのか
    景気の現状がどの程度の悪いのか半然としない。たしかに大手金融機関の破綻が相次ぎ、景気が好調とは言えない。しかし、景気の現状が極端に落ち込んでいるわけでもない。大手企業に限れば、今冬のボーナスはわずかながら昨年を上回ることが予想されている。設備の稼働率は9月の時点ではかなり高水準である。広告の取扱高も最高水準である。デパートの売り上げは不振でも、勤労者の消費支出全体では対前年度でプラスである。これらの良い数字だけを見れば、景気の現状はそんなに悪いとは言えないが、反面、良くない数字も目立つ。所定外労働時間の減少、新車新規登録数、倒産件数の増加そして本誌で何回か取り上げた新設住宅着工数の減少である。
    つまり、現状において景気は「まだら模様」であり、全体を平均すればやや悪いと言ったところであろう。人によって景気を判断する基準は違う。しかし、最近は景気が悪いと判断する割合ははっきり増えている。政治家もそれを実感し、対策を講じようとしているのであろう。良い数字と悪い数字が混在している現在のような場合には、一般大衆の景気判断の基準となる大きなものは「株価の動向」と「大型倒産」であろう。また、マスコミの働きも大きい。たしかに株価の動きと大型倒産は景気のバロメータとしてわかりやすく、マスコミも取り上げやすいのである。たしかに株価は将来の経済を先取りする性質がある。しかし、それがどの程度先行しているのかは、場合によって異なると考えられる。結論としては、「景気は、現状でもそれほど良くはないが、今後は相当悪くなる」と言った観測が平均的な見方であろう。筆者の見方もほぼこれに近い。問題はこの相当悪くなることの要因である。今週号はその要因を3つ挙げ、これらを説明したい。実際はさらにここへ来て「金融不安と信用の縮小」と言うものがクローズアップされ、景気に悪い影響をおよぼし始めている。これについては次週以降にまた取り上げたい。
    筆者は今年の景気動向で「不況下の株高」になることを予想していた。いずれにしても「不況」と言うことを予想していたが、資金がこれほど米国に流れ続けるとは考えなかった。見誤った原因は「米国経済が日本と同様に物価が上昇しない体質に変わっていることを見落としていた」ことである。また国内では資金が株や土地に流れず、債券だけに資金の流れが集中したことである。土地についてはある程度の資金が流れたが、地価が上昇するほど力強いものではなかった。しかし、資金の米国への流出により、考えているより為替が「円安」で推移し、景気の底割れが回避されているのも事実である。筆者は「今年は外需に頼らざるを得ないと予想」したが、それが顕著に現われたと言うことである。

  • 来年度の政府支出
    景気を悪化させる要因を順番に述べる。第一番目には来年度の予算である。来年度は財政構造改革の実質的な初年度である。これによると2,003年度までに、国と地方の財政赤字の合計が、GDPの3パーセント以下に抑えることや98年度の公共事業費を前年度比7パーセント、さらに次年度以降は10パーセント以上減らすことになる。地方自治体はこの目標数値以上に公共事業費を削減するところが多いようである。さらにびっくりすることに、これらについては「財政改革法」と言う法律が成立しており、98年度以降はこの枠組の中で予算が編成されることになる。筆者は、この法律がとんでもないものであると考えている。「財政」はそれ自体で景気の調整機能を持っているが、この法律の成立とともにその機能を放棄することになるのである。
    例年のスケジュールによれば、翌年度の予算案は12月に提出されるはずである。98年度の予算案はこの「財政改革法」に沿って作成されるはずである。もちろんこれは、97年度の予算よりさらに緊縮指向を強めた予算になるはずである。筆者はそれが公表された時の市場の反応が大変気にかかる。
    この法律は先日成立したが、議論らしい議論がされずすんなり通ってしまった。自民党からも特に異論は出なかった。筆者は自民党と言う政党は極めて現実的な政党と考えている。筆者は、現在の景気に悪影響を及ぼすようなこのような法律をすんなり通したことには、自民党になにか別の成算があると考えている。筆者はそれは景気対策に「財政投融資」をこれまでに増して積極的に使うことではないかと考えている。もちろんこれについては何も具体的な事業が公表されているわけでもない。
    98年度の予算案が公表されたならば、市場が混乱することも十分考えられる。たとえ自民党が腹案として財政投融資の活用を考えているとしても、具体案が市場に浸透するまでに市場下落の影響が出ることも考えられる。また、地方の支出削減はさらに大きいようで、これをはたして財政投融資の活用で十分カバーできるか心配である。

  • 住宅の建設戸数の減少
    これについては、本誌10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」でも減少する可能性を指摘してきた。これを過去24年間と直近の具体的な数字で様子を見ることにする。
    24年間の推移ー単位は万件
    731768111489167
    741268211690167
    751438311391134
    761538412192142
    771538512593151
    781508614094156
    791498717395148
    801218816696163

    2年間の推移ー単位は千件
    95.1213696.12138
    96.0110797.01105
    96.0211297.02111
    96.0312297.03113
    96.0413997.04126
    96.0513797.05123
    96.0613797.06121
    96.0715797.07113
    96.0813697.08112
    96.0914897.09115
    96.1016097.10120
    96.1115197.11
    これらの数字を読み、今後の住宅建設の数字を予想することが大切である。表から、今年に入ってからの住宅建設の不調が読み取れる。特に7月以降の落ち込みが大きくなっている。政府の今年度の予想は147万戸であるが、これは消費税の増税後、その影響が9月頃には消えると言う前提であろう。ところが実際は、9月、10月になって一段と落ち込みが大きくなっているのである。
    筆者は、繰り返しになるが、ここ10年の間、内需拡大策の柱として「民間による住宅建設の推進のための施策」が行なわれてきたが、これも限度に来たと考えている。この施策は、なるべく財政の支出を抑え、民間の資金の活用により景気の浮揚することを意図していた政策の一環である。さすが10年も続けると限度にぶつかったと言うことである。つまり消費税アップの駆け込み需要で、住宅を購入する予定の人はほとんど購入したと言うことである。96年度の163万戸と言う数字は極めて高い数字である。これはバブル期の数字に近いが、バブル期の需要はかなり資産の値上がり期待で購入されたものである。つまり、それには住む予定のない、投資目的の物件がかなり含まれていた。したがって実需だけなら96年度の数字は極めて高いものであった。
    筆者は、今後の住宅建設の戸数は、バブル期前の年間110万から120万に戻ると予想している。ただ、この数字でさえも諸外国に比べると極めて高い数字なのである。実際、財政投融資資金がかなり余っており、その額は半年間で8兆円を超えているらしい。これには住宅金融公庫の貸出が相当減少していることが容易に想像される。
    住宅建設減少の経済効果は極めて大きい。建設省の試算から計算すると、30万戸の住宅建設の減少は10兆円の需要の減少になる。この規模は自動車の売り上げ減少とは比べようがないほど大きいのである。数兆円の減税ではとても追い付かない。
    最近、大手の金融機関の破綻が続いている。これが住宅購入予定者にどのような心理的影響を与えるかも注目される。将来の雇用不安が現実味を帯びてきているのに、はたして30年ものローンを組んで住宅を購入する人がどれだけいるかである。その影響が現われるとしたなら、それは来年の1月、2月頃からであろう。いずれにしても新設住宅の着工件数は今後はさらに注目される。

  • 為替の動向
    日本の大幅な経常収支の黒字にもかかわらず、為替は「円安」で推移している。もっともこれによって日本の景気も急落を免れている。「円安」の原因ははっきりしていて、日本から米国への資金流出である。9月以降相当大きな資金が毎月流出している。どの時点で為替の推移が反転し、「円高」に向かうか容易に予想できないが、一つのヒントは経常収支のGDPに対する比率である。これが2.5パーセントを超えてきた場合であり、米政府もこの数字以上が続くと問題になると言明している。筆者の計算では、9月の単月ベースでは約2.8パーセントの黒字である。つまり経常収支は既に危険水域に入っているのである。資金の流出も続いており、日本の海外資産は着実に増えている。これからの利子と配当所得も増える一方である。輸出に相当ブレーキがかからなければ、2.5パーセント内に経常収支の黒字を収めることは無理である。あとは米政府が、景気の足元がぐらついている日本に対して、どれだけ配慮してくれるかである。少なくとも「内需拡大に努める」と言う日本政府の約束は全く実行されていないことは事実である。
    今後の為替の推移は日米政府の出方に左右されている。かりに110円以上の「円高」となれば、日本の景気は八方塞がり状態になると言うことである。

今回の景気後退の大きな要因は97年度の緊縮型予算である。来週号ではこのような予算がなぜ作成されたのかを考えたい。また、このことが景気対策を考える上でも重要になってくるのである。



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