- 大きな車はゆっくり回る
久しぶりの経済コラムマガガジンであり、今週はポスト小泉に関して雑駁(ざっぱく)でとりとめのない話をしたい。小泉首相が退陣し、自民党の総裁選挙が今月行われ、新総裁、新首相が誕生する。これが日本の政治と経済政策の転機となる。
安倍官房長官が新総裁・新首相に選ばれることは既定の路線である。自民党の総裁選の結果は誰もが承知していることであり、興味と言っても3人の候補者が各々どれだけの票数を確保かといった事ぐらいである。既に世間の関心は、自民党の新執行部と新閣僚の人事に移っている。
ところでマスコミを中心に安倍政権は、小泉政権の後継であり、今後も小泉亜流政治が続くことになるという観測がなされている。しかしこれは根拠の薄い話である。小泉純一郎という自民党の中では異質と言おうか異常な人物が、最高権力者の座から去ることにもっと注目すべきである。したがって筆者は誰が新首相になっても、政治状況はガラッと様変わりすると見ている。当然、政治手法や経済政策にも変化があるはずである。
日本のマスコミ人やエコノミストは、限られた情報で自分達にとって都合の良い解釈(安倍後継なら小泉政治の継承が行われるという話)をし満足している。彼等は「小泉政権は自分達が作った」という自惚れがあるから目が曇っているのである。しかし今回の政権交代では、小泉首相という異物が去るということに一番のポイントがある。
しかし既に小泉政権は、昨年の郵政選挙での大勝の後の内閣改造で実質的に終了し、弱体化している。このことは本誌で何回も指摘してきたことである。「大きな車はゆっくり回る」という言葉通り、常に世の中の大きな流れの変化はなかなか目に見えにくいものである。しかし昨年の9月を境に流れは確実に変わっていたのである。
小泉構造改革の寵児のような堀江ライブドア社長や村上ファンドの村上氏が逮捕された。また福井日銀総裁の村上ファンドによる資産運用が問題にされたり、一連の規制緩和に関してオリックスの宮内会長に疑惑が囁かれている。そして楽天の三木谷社長にもスキャンダル報道である。さらに日本国内の「格差」や「二極化」が本格的に取上げられるようになった。
小泉政権が本当に力を保持しているのなら、決して起こりうるはずのない現象が次々に起っているのである。おそらくこのような事柄は今後も続き、マスコミも喜んでそれらに飛びつくことになる。構造改革派こそが正義で、それに異義を唱える者は守旧派で既得権益にしがみついているという小泉流の陳腐なセリフも色褪せている。
世の中の評価はちょうど「オセロ」みたいなところがある。「白い」ものが次の日には「黒い」と言われるのだ。つまり「白い」ものがまず灰色になり、しだいに黒くなるのではなく、一瞬のうちに真っ黒になるのである。たしかに一見今日正しいことが明日には間違いと言われるように見える。しかし前述したように「大きな車はゆっくり回る」のであり、底流を流れる客観的な情勢は既にその前から変化しているのだから、「オセロ」現象は不思議なことではない。
- 次の「オセロ」現象
日の目をみるはずのなかった小泉政権の誕生の原動力について改めて述べたい。小泉政権誕生には旧経世会の働きが大きかった。まず2001年の総裁選では、青木参議院幹事長(当時)達は、自派の橋本元首相の再選に非協力的で、結果的に小泉政権実現を後押しした。2003年の総裁選では自派から藤井候補が出ているにもかかわらず、このグループはもっと露骨に小泉氏の推薦人までなって小泉再選を実現した。
田中派の流れを継ぐ経世会は、田中角栄氏の政権コントロール方式を踏襲している。自派に適当な総裁候補がいない場合、他派閥の候補者を担ぎ上げ、政権の実権を握るのである。田中角栄元首相は大平、鈴木、中曽根政権を誕生させ、竹下・金丸・小沢は海部、宮沢政権を実現させた。
旧経世会の政権コントロール方式では誰を首相に祭り上げるかが一つのポイントになる。これに関して海部政権を誕生させた小沢一郎幹事長(当時)は、「神輿(みこし)に担ぐには軽くてパーが良い」と発言したと言われている。安倍晋太郎氏、宮沢喜一氏、渡辺美智雄氏といった一定の力を持った政治家を差し置き(これらの有力政治家はリクルート事件で傷ついていたが)、誰も想定していなかった海部俊樹氏をダークホースとして浮上させたのも、この「軽くてパー」という基準にかなったからである。
青木氏達にとって海部氏に相当すると考えたのが小泉氏である。少なくとも彼等は、小泉純一郎という人物を「軽くてパー」と見なしていた。小沢一郎氏が海部首相をコントロールしたように、青木氏達は小泉首相をコントロールできるものと考えていたのであろうか。もし本当にコントロールできると考えたとしたら、これはとんでもない誤解だったことになる。それにしても政治理念や政治手法が全く異なる青木氏が、なぜこれほどまでに小泉政権実現にこだわったのか不可解なことである。「軽くてパー」以外の何かがあったのであろう。
小泉政権を実現させたもう一つの勢力に「遺族会」というものがある。「遺族会」は自民党の支持組織であるが、国政選挙時の集票力は極めて小さくなっている。ところが「遺族会」会員の自民党員に占める比率は依然大きい。したがって総裁選の際、党員票を獲得するにはこの「遺族会」の支持が必須になっている。小泉陣営はこの「遺族会」の支持の取付けに成功し、政権を奪取することができたと言える。
しかし小泉氏は「米国軍は日本の解放軍」と発言したほどの「アメリカかぶれ」である。つまり自民党の中で「遺族会」に一番遠い存在が、小泉純一郎という人物であると筆者は考える。ちなみに当時の「遺族会」の会長は橋本元総理である。「遺族会」は会長を捨て、会長のライバル候補を全面支持したことになる。
巷間、「遺族会」が示した交換条件が「靖国神社公式参拝」と言われている。つまり小泉氏が「靖国神社公式参拝」を約束することによって、「遺族会」の全面支持を得たという話になっているのだ。しかし筆者にとってとてもそのような話は信じられない。この話はあくまでも表向きであり真相は別にあると見ている。不思議なことに「遺族会」に関しては、マスコミは一切取上げようとはしないのである。
前段で「オセロ」現象を取上げたが、小泉政権下で羽振りの良かった人々が政権末期にきて一瞬のうちに没落するケースが目立つ。この勢いで小泉首相退陣をきっかけに、政権下でこれまで伏せられていた驚くような話が次々と飛出してくるような気がする。
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