- 基金の創設
先週号の続きである。リサーチ会社のアンケートに回答したメールを早々に返送したが、なかなか連絡がなかった。2週間くらい過ぎた頃にやっと電話が来た。まずオーディションの日程が3週間ほど延びたという話である。そして筆者が取上げた年金問題は、あるタレントがやることになっているので、もう一つ別の政策を緊急に考えてくれという話である。どうもめぼしい政策が集まっていないのではないかと思われた。
そこで筆者は、第三セクター路線の廃線問題を取上げ、これに対する政策をまとめ、直にメールで回答した。ところで本誌で取上げる経済問題のほとんどはマクロ関連であり、これまでこのような個別の問題を取上げることはめったになかった。しかしテレビ番組としては、もっと視聴者に身近な問題を取上げた方が良いのではないかと筆者は考えたのである。ちょうど台風14号の被害が元で宮崎県の高千穂鉄道の廃線がちょっと話題になっていた頃であった。
ちなみにこの回答は次の通りである。
【Q1】その他に政策ついて。もしあなたが政治家になったら、「この政策を是非実現させたい」と考えているようなものがあったら、お書き下さい。
国の出資による第三セクター路線維持のための基金の創設。
【Q2】Q1の回答についてご質問致します。なぜ、その政策を打ちたてようと考えたのですか?
国鉄の分割民営化に伴って、不採算の路線の経営が第三セクターに移管されました。大体は地方の過疎化が進んでいる地域の路線です。新生JRにとってお荷物の路線であったこれらの不採算路線を切離すことは、新生JRの収益にとってプラスでした。
第三セクターの路線には、地方自治体が出資しています。第三セクターとして残れなかった路線は、即廃線ということになりました。第三セクターとして存続した路線は経営努力がなされ、採算は向上しています。
しかしそれ以降の地域のさらなる過疎化や、モータリゼーションの進展によって、元々経営基盤が弱い第三セクター路線に新たに窮地に陥っている所が出てきています。経営が苦しくなった第三セクター路線は、運行する列車数を減らしたり、値上げでこれに対処するところも有りました。しかしこれらが裏目に出て、さらに
客離れを起こしたケースも有ります。
累積債務が増えたため地方自治体が支えられなくなった第三セクター路線が、廃線となるケースが最近目立つようになっています。沿線住民は廃線に反対するのですが、他にスポンサーを見つけることが困難なのです。地方自治体の努力にも限界があります。
世の中は何でも「官から民へ」が正しいという風潮があります。この流れの背景には国鉄の民営化が成功したという話があります。しかし国鉄民営化には、不採算路線の廃線や第三セクターへの移管が伴っていました。国鉄の民営化は成功したという話の裏に、このような切捨てられた路線のあった事が忘れ去られています。
今日、マンションやホテルの構造計算偽装問題が問題になっています。この原因として、安全チェックが建築確認機関の民営化によって甘くなったのでないかという指摘があります。この他にも「官から民へ」の流れによって社会的な「ひずみ」が生まれています。このように単純な「官から民へ」という考えにも反省が求められる時代になったのではないかと思われます。
第三セクター路線の廃線問題を取上げることは、「官から民へ」の流れによる「ひずみ」というものを考える上で意味があると考えます。官業に民間的な経営手法を取入れることには賛成です。しかし官業には地域の住民のナショナルミニマムを保証するというもう一つの役目も負っていることを忘れるわけには行きません。
公共交通機関というものは、どこも採算が苦しいものです。しかし地方にとっては、このような路線の存続が死活問題になっているケースがあります。また廃線によって足の便が悪くなると言った問題だけでなく、地域に住む人々にとって廃線は精神的なダメージになっています。
郵政事業の民営化の際にも、地方の郵便局の存続が問題になりました。公企業体の民営化には必ずこのような地方、特に過疎地でのサービスが切り捨てられるのではないかといった議論が付きまといます。郵政民営化の場合、その解決策の一つとして1兆円の基金を積立て(後に増額)、これを赤字郵便局の経営補填に使うことにしました。
第三セクター路線も、郵便局のネットワークと同様、地域にとって重要なライフラインです。国がもっと前面に出て救済策を考えるべきです。ちなみに北海道、四国、九州のJR各社は、東日本、東海、西日本といった本州のJR各社に比べ、収益力が著しく劣るため、国鉄分割民営化の際に経営安定化基金を設定し、これがそれらの地方JR各社の収益を下支えしています。
【Q3】Q1の回答についてご質問致します。その政策はどのようなシステムになっていますか?
国が中心になって第三セクター路線を維持するための基金を募ります。JR各社、特にJR東日本、JR東海、JR西日本からの出資も考えられます。この基金の運用利益を赤字第三セクター路線の赤字補填に使います。金額は郵政民営化に伴う基金を参考にします。
仮に基金を6,000億円とします。第三セクター路線沿線の住民を300万人とすれば、一人当り20万円になります。赤字補填対象の路線は、一定の基準で選び、補填額にも基準を設定します。地域住民の協力の度合もこの基準の一つです。
赤字の補填を行った第三セクターには、さらなる経営の改善を指導します。また基金の一部を使って、第三セクター路線の設備更新やバリヤフリー対策を行います。特に第三セクター路線の沿線には高齢者が多く、バリヤフリー対策は大事です。
と言った次第である。
- テレビ番組原稿
前段の回答をメールで返送ししばらくすると、リサーチ会社の担当者の上司とおぼしき人物や、テレビ制作会社のディテレクターやアシスタントディレクターから次々と電話が来た。話は少しずつ異なっていたが、予選会(オーディション)の話が中心であった。まず年金問題を取上げる予定のタレントのスケージュールが難しくなったので、ひょっとしたら予選会では年金をやってもらうかもしれないので、第三セクター路線問題と二つの準備をしておいてくれと言う話になった。
またテレビ向けに、回答をテレビ番組の台本ベースにしておいてくれという要請があった。どうやら書類審査の一次試験はパスしたようである。その後、担当ディテレクターとの打ち合わせがあった。ところがしばらくすると予定のタレントがまた年金問題をやるということになり、最終的に筆者はやはり第三セクター路線で予選会に臨むことになった。
予選会(オーディション)出場が現実のものとなり、筆者の方も第三セクター路線についてできる限りの資料を集め、原稿を改めた。まず第三セクター路線という表現が一般的ではなく、第三セクター鉄道と表現を変えた。また第三セクター鉄道に関する資料を取り集めている団体を探し当て、詳しい話を聞きに行き、そこから過去2年間の輸送実績や経営成績をもらって来た(インターネットでは古い3年前の数字しか公開されていなかった)。ちなみにこの団体が数字を掴んでいる第三セクター鉄道の数は39社である。
集めた資料や聞いた話をもとにテレビ番組原稿を手直しした。ところで第三セクター鉄道の赤字額が意外と小さいのである。39社中赤字なのは35社であり、平成16年度の赤字会社の赤字額の合計は38億円であった。この赤字会社35社の年間の輸送人員が4千7百万人であるから、輸送人員一人当り80円ほどの赤字になる。そこで6,000億円としていた基金を1,000億円に減額した。
ところでテレビ番組原稿に盛込まなかったが、実際の赤字額はもう少し大きいようである。会社によって減価償却費を計上していないところがあるようだからである。しかし1,000億円の基金の運用益を年3%とすれば年間30億円の収益が生まれ、これによって赤字額の半分くらいは十分補填することができると考える。
問題は、高千穂鉄道のように突発的な災害に出会った場合である。高千穂鉄道は台風14号によって川に掛かる架橋が流された。復旧には40億円が必要であり、その金額の調達はとても無理と廃線が決まった。台風14号の被害は高千穂鉄道だけでなく周辺にも及んでおり、国の災害復旧予算は430億円ほど予定されている。しかし高千穂鉄道は復旧工事の対象になっていない(道路は復旧するが鉄道は復旧の対象になっていないのだ)。もし復旧工事をやるなら、周辺自治体が費用を負担するという考えなのである。
公共性があるといっても第三セクター鉄道は民間の会社として扱われ、国が費用を負担することはないとされているのだ。つまり台風だけでなく地滑りや地震で大きな災害を被れば、第三セクター鉄道の場合、ほとんどが即廃線となると考えて良い。したがって第三セクター鉄道の利用者や関係者は、このような災害に会わないよう日々脅えることになる。
筆者は、この解決策として第三セクター鉄道を対象にした損害保険制度の創設を提案したい。第三セクター鉄道会社には毎年の保険料の負担がかかるが、災害による即廃線という事態は避けられる。国も年間数億円くらいの保険料の分担をすべきである。ただしこれらの込み入った説明は、話が複雑になるのでテレビ番組原稿には入れなかった。
一昨年スマトラ沖大津波の被害に日本政府は、5億ドルの無償援助をいとも簡単に決めた。おかしいのはドイツやオーストラリアの援助額が日本の提示額を越えると、日本政府はむきになって「さらに援助額を上積みする用意がある」と示唆した。無償援助額はまるでバナナの叩き売りの様相であった。これはさすがに国際的に顰蹙(ひんしゅく)をかった話である。このように今日の日本政府は、日頃、財政は危機と言っていながら(もちろん大嘘であるが)、他国の困っている人達には大盤振る舞いをしたがるのである。
筆者は、スマトラ沖大津波の被害に対する無償援助には賛成である。しかし自国民が自然災害に脅えていることを放っておいて、海外への援助だけに熱心というのもおかしな話である。要するに今日の日本政府は、地方の人々だけには徹底して冷たい(本当に日本人の政府なのかと思われるほどである)。おそらくこれが小泉改革政権の本質なのであろう。決して第三セクター鉄道の関係者が努力していないという話ではない。旧国鉄時代に比べ、採算は飛躍的に向上している。しかし一つ災害に襲われれば、先人が血が滲むような努力で敷いた鉄道が一つ一つ消えて行くのである。
今回第三セクター鉄道を調べことで考えさせられることが多かった。その一つが都会と地方の経済格差という捉え方だけでは、今日の日本の経済格差を語れないことである。一口に「地方」と言っても、地方の地方が最も見捨てられているという話である。地方と言っても地方の中核都市周辺はまだ恵まれている。地方の中のさらに地方が立ち行かなくなっているのである。まさに第三セクター鉄道が走っているのは、このような地方のさらに地方である。
つまり第三セクター鉄道の廃線問題と言っても、地方の人々全体が関心あるわけではない。したがって地方にとっても第三セクター鉄道の赤字が負担となれば、さっさと廃線にしてしまう。廃線に反対しているのは、沿線の住民だけである。まさに地方もバラバラにされているのだ。このような今日の日本の状況では、第三セクター鉄道の廃線は極めてマイナーな問題であり、とてもテレビ向けとは言えなかったかもしれない。
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