- その他の景気対策
本誌が提案する景気対策は先週号で述べた通りである。これは厳密には景気対策と言うより、内需拡大策である。つまり内需の拡大を継続的に行なっていたらこんなに景気が落ち込む自体に至らなかったはずである。日本の貿易収支の黒字は予想通り急増している。そろそろ外国からの非難も大きくなってくるであろう。したがって政府は新たに内需の拡大を行なうことに迫られることとなる。今週号では先週号以外の景気対策について述べる。
- やはり公共事業
景気対策として効果があるのはやはり公共事業である。先週号で述べたような、民間の誘発投資が期待できるような交通インフラの建設が理想であるが、一般の公共事業でも「減税」よりましである。つまり、交通インフラの建設でなくとも民間の誘発投資を生むものなら良いのである。 その点で今回の政府の緊急景気対策の中で社会資本整備策が注目される。具体的には光ファイバー網の整備の前倒しと中部新空港の建設である。ただ問題はこれを民間の資本で行なうと言うことである。日本の場合、公共事業のコストは高い。この原因は入札方法に問題があると指摘されるが、これが解決しても、諸外国に比べコストはまだ相当高いはずである。筆者が思いつくその理由として「土地が高い」「地形が複雑で工事の障害が多い」「地震や環境などの対策費がかかる」「特に人口密集地では地域住民からの苦情もあり工事の時間帯も制限される」などが挙げられる。この他に権利関係の複雑さも加わる。関西国際空港の場合は、第一期工事だけで漁業補償費として400億円から500億円払ったと言うことである。ほんとうにそのあたりに魚がいるのかどうかしらないが、公共事業にはこのような補償がつきものなのである。諸外国では考えられないことであろう。パリのシャルルドゴール空港は25年ほど前に完成したが、これは2人の地主と話をつけて工事ができたと言う話を聞いたことがある。日本とは大きな差である。また日本は古い国であり、いたる所に遺跡がある。遺跡が発見される度に工事は中断される。最近発見される遺跡は、ほとんどが公共工事の過程で見つかったものであろう。 公共工事にはこのようなリスクも伴うのである。公共工事を民間会社が行なう方が効率的と言う意見があり、注目されるが、はたしてどれだけの会社が名乗りを挙げるかがポイントである。日本には高速道路を建設し、運営している会社が一社あるそうだが、残念ながら赤字経営と言うことである。もし名乗り出る企業がなければ、これは構想倒れと言うことになる。
- 公共料金の引き下げ
日本の国は不思議で、産業活動に必要な交通インフラの建設費は財政投融資が当てられ、その主な原資は郵便貯金などである。これには利息がかかるため採算が問われる。日本の建設コストがどうしても高くなることを説明したが、これらのため日本の高速道路などの料金はとても高い。これが産業活動を阻害することになる。最近できた高速道路は料金が高すぎるため、利用者がほとんどいない場合もある。料金が高いため、利用者が少なくなる。また利用者が少ないため、採算がさらに悪くなると言う悪循環である。一方、日本では利用者がほとんどいない道路がいたる所に建設されている。筆者はこれは、公共工事が、その工事自体のやりやすさがかなり考慮され、選択されているのではないかと思っている。予算の消化の能率を考えると、どうしても人の住んでいない所での道路建設や、土地買収の必要がない既存公共施設の立て替えが優先されるのである。反面、経済的にはメリットがあるが、権利関係が入り組んだような道路の改修などは後回しである。たしかに、これは福田元総理の景気対策のための公共事業の考え方に沿ったものであるが、本当に必要な公共施設の建設が犠牲になっているのである。これについては10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」を参照願いたい。そしてこれらの工事の予算は一般会計から拠出されるため採算は考慮されない。 道路建設の財源の一部は、ガソリン税や軽油税であるが、これらは一般道路に当てられ、高速道路建設には使われない。高速道路を走る車も、ガソリンや軽油を使用しているのに、建設の財源にはそれらは使われないのである。最近ではさすが、高速道路建設費の借入にたいして一般会計会計から利子の補給が行なわれている。しかし、この額はわずか年間2千億円である。一般道路の年間15兆円の予算に比べると微々たるものである。 景気対策として減税が話題に上っているが、筆者は賛成しかねる。それが実行されても、それほど需要の増大が期待されないからである。減税で可処分所得や税引き後利益が増えても、貯蓄に回る分があり、需要をそれほど増大させないのである。 筆者が考える景気対策の一つは、過去に財政投融資で建設された高速道路、新幹線、空港の建設費借入の一般会計の肩代りである。これによって料金の引き下げが可能となる。料金の引き下げは、それらを使用する者にとっての経済的負担を軽減する。つまり経済活動を伴う費用が小さくなる。つまり実際の経済活動にとってプラスなのである。貯蓄に回る部分が大きい「減税」より経済効果ははっきりしている。またこれによる利用者の増大が期待されるが、これは将来、償還後の国庫の収入増を保証する。たしかにその金額を使っての高速道路の建設も考えられるが、景気対策と言う緊急性の観点から、筆者の提案の方が即効性は期待できる。ただし料金を引き下げる場合でも、一律の引き下げは行なわない。利用者が少ない路線の料金の方を大きめに引き下げることにする。これは利用者が多い路線で大きく下げると、これによる利用者増により高速道路としての機能が低下する可能性があるからである。 しかし、これには一つだけ問題が残る。それは、財源を国債の発行により調達することになるが、返済される財政投融資資金の適当な行き場がないことである。常識的に考えられるのは、料金引き下げのために発行される国債の購入くらいである。
- 減税の経済効果
筆者は、景気対策としての「減税」を好ましいとは考えていない。これは「減税」が景気対策としての効果がないと言っているのではなく、同じ額の財政負担では、公共事業などの方が効果が大きいと考えられるからである。これは繰り返すが減税では貯蓄が差し引かれた残りの部分だけが需要創出となるからである。日本は貯蓄は過多で、需要が不足しているのである。「減税」では効果が少ないのである。 しかし、本誌でも「減税」の経済効果についても述べることにする。減税には色々なものが考えられるが、大きいものでは「消費税」「所得税」「法人税」である。これ以外にも地価税や各種の政策減税が考えられるが、金額も小さいので一応ここでは無視する。これらはやらないよりやった方が良いと言った程度のものであろう。 景気対策として効果の大きさは次の順番であろう。
- 消費税
- 所得税
- 法人税
消費税は消費に直接かかる税金であるから、この減税は一番需要を増やすと考えられる。次は所得税である。収入の消費に回す比率、つまり消費性向は所得が増えるほど小さくなり、一方貯蓄性向が大きくなる。また日本は累進のカーブが極端に上がる課税体系となっている。したがって減税の場合は逆に所得の多い層に厚目となる。これらの貯蓄率の高い層に減税を行なっても消費は増えないのである。逆に収入の少なく、消費性向が大きい層は元々そんなに所得税を納めていないので、減税の恩恵も限られているのである。 効果がはっきりしないのは法人税の減税である。これによって投資が活発となると言うが、投資水準を決めるものはもっと他の要素であろう。法人税が低くなるから投資を増やすと言う企業はほとんどないであろう。日本ではこれまでこの法人税率でも活発に投資が行なわれ、バブル期には過剰設備を抱えたほどである。また、仮にこれが行なわれるとしても98年度の税制改正で行なわれる。つまりこの効果が現われるのは、税金が納められる99年の5月から6月にかけてである。つまり今から一年半先であり、とても景気対策とは言えない。さらに今後景気後退が予想される。つまり一般企業においては法人税どころではないのである。 よく法人税の国際比較がされるが、課税ベースを合わせなければ、比較にならない。また、正確には法人を巡るあらゆる負担込みで比較すべきであろう。これについては機会をあらためて述べたい。「法人税が高いから海外からの投資が少ない」と言う意見があり、これはもっともらしく聞こえる。しかし、日本への外国からの投資額は極端に少ないのであり、これについてはもっと他の要素を考えるべきである。法人税を減税するくらいで、海外からの投資が急増するとはとても考えられない。これについても別の機会で述べたい。
- 減税を巡る誤解
マスコミに登場するエコノミストが発する意見で明らかに間違っていることを指摘しておきたい。これは「無駄な公共事業費を削り、それを減税にあてることが景気対策になる」と言う意見である。ほとんどのエコノミストが言っているような印象を受ける。「無駄な公共事業費を削り、有用な公共事業に回す」と言うなら理解できるが、減税を行なってても公共事業の減少分はカバーしきれないはずである。これが「小さな政府」を指向していることは理解できるが、景気にはマイナスである。 需要が不足している場合には、「1兆円の増税を行ない、その1兆円をそっくり公共事業使う」ことによっても需要を創出することができる。これは増税することにより、本来貯蓄に回る部分を全額需要に当てられるからである。この効果は経済学の初歩的原理である。たしかに諸条件の変化により、この効果が小さくなることも考えられるが、効果が反転することは考えられない。つまり「無駄な公共事業費を削り、それを減税にあてることが景気対策になる」と言う考えは、この原理をまっこうから否定しているのである。筆者はこれらの「エコノミストもどき」の人々にその理論的根拠を聞いてみたいくらいである。
景気対策について6週間述べてきたが、このテーマにはきりがない。これについては随時取り上げることにして、来週号は、京都で会議が開かれるのに合わせ、「地球の温暖化」について述べたい。
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