平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


06/3/20(429号)
量的緩和解除の波紋

  • 量的緩和解除の意味
    2月9日、日銀の政策委員会は量的緩和の解除を決めた。しかしこの決定には賛否両論があり、そして双方の意見がかなり混乱している。これは日銀の独立性の問題など、他の事柄と今回の決定が一緒に議論されているからと考える。日銀の政策そのものと、日銀という機関の在り方といった二つの異なった事柄が、同時に問題にされている。筆者はこれらの議論をまず整理することが必要と感じる。

    ともかく小泉政権の中枢は、量的緩和の解除に最後まで抵抗を示した。しかし形式がどうであれ、日銀の独立性は担保されている。8名の日銀政策委員(一人が病欠)による採決が行われ、日銀総裁提案の「量的緩和政策の解除案」は賛成7票、反対1票で可決された。


    本来、日銀を始め世界の中央銀行というものは、金利を操作して金融調整を行う。それを考えると、たしかに量的緩和政策は異例な政策であった。量的緩和政策は、短期金利がゼロの状態で、さらなる金融の緩和を行うための苦肉の策であった。

    日銀に各金融機関は当座預金口座を持っている。法的に各金融機関は、この口座に一定の残高(準備預金)を積立て、これを維持する必要がある。例えば6兆円の残高(各金融機関は預金規模に応じて積立)といった具合である。もしこれが不足する場合は、該当の金融機関はコール市場で資金を調達することになる。しかし量的緩和政策によって、日銀は6兆円の必要額を越える資金を常に供給してきた。したがって金融機関が、コール市場から資金の調達を迫られるケースは、本当に稀になった。


    日銀の当座には金利が付かないため、各金融機関は法定限度を越える預金を、本来なら貸出しなどの運用に回したがるはずである。ところが量的緩和政策を始めた当初、銀行が貸出したい健全な企業には資金需要がなかった。資金を必要としたのは、財務内容に問題のあるところばかりであった。したがって当座の資金はほとんど動かず、量的緩和政策は効果を見せなかった。そこで日銀は、さらに積極的に金融機関から国債や手形を買入れ、この当座残高をどんどん増やした。10兆円、15兆円、そして最高35兆円まで、「これでもか」と残高を増やした。

    仮に15兆円の残高ということになれば、法定準備預金の6兆円を9兆円も上回るのだから、この9兆円が金利の付かない日銀の口座から引出され、民間企業への貸出しに回るという目論見であった。しかし量的緩和政策ははっきりとした効果を示さないため、段々と額を増やし、ついには35兆円まで増やした次第である。最近では30兆円から35兆円の範囲で残高は推移している。実際、この金額は、量的緩和を主張していた人々が想定していたよりずっと大きい。

    量的緩和政策には当初から効果を危ぶむ声が大きかった。しかし金利がゼロになった時点で、さらなる金融緩和ということになれば、このような量的緩和政策しか残っていなかったのが現実である。日銀にとって正直なところ、ゼロ金利政策でさえ採りたくない政策であり、ましてや量的緩和政策なんてとんでもないということになる。つまり条件が整えば、直ぐさま止めたかったのがこの量的緩和政策であった。


  • 量的緩和の効果
    では量的緩和政策は効果があったのかどうかが問題になる。これについても様々な意見がある。筆者は一定の効果はあったと考える。ただし意見が割れるのも、仮に効果があったとしても、その効果が当初の想定と違っていたことが原因と考える。量的緩和政策によって本来民間貸出しが増え、それによって設備投資が活発化する予定であったが、これは起らなかった。したがって量的緩和政策の効果は当初現れず、日銀の当座預金残高だけをどんどん増やす結果になった。

    しかし前述の通り量的緩和政策の効果は、目論見と違った経路で効果を生んだ。5年間もの長い超金融緩和で、やがて資金が流れ出したのである。ダブついた資金はまず海外に流れた。日本はずっと経常収支が黒字であったが、円高になっていない。これは経常収支の黒字額と同じか、あるいはそれ以上の資金が海外に流出したからである。2年前、政府・日銀は35兆円もの為替介入を行って円高をくい止めた。しかしこれに加え、この量的緩和政策により、民間主導でも海外への投融資が活発化したのである。


    米国はここ1年半利上げを行ってきた。たしかにこれによって短期金利は4.5%まで上昇したが、長期金利の方はずっと5%前後の水準で推移している。これは米国へ海外から資金流入が続き、この資金が長期債購入に向かっているからである。資金流入元は中国などのアジアの貿易黒字国や石油高騰の恩恵を受けている中東諸国、そして超金融緩和の日本である。この長期金利の安定よって米国は景気の拡大を続けている。つまり日銀の量的緩和政策は、間接的に米国の景気を支え、米国の株高を演出している。

    ところが日本から米国に流れた資金の一部は日本にも還流している。この資金が日本の株式市場に流れ、日本株式市場も活況を呈している。もちろん国内勢も量的緩和による余剰資金を、直接日本の株式市場に取込んでいる。さらにこの資金の一部が不動産関連にも流れている。このように日銀の量的緩和によって滲み出た資金は、円安と株や一部の不動産などの資産価格の上昇を起こしている。


    まず円安によって輸出企業の業績が良くなった。また関連して輸出関連企業の設備投資も増えている。そして資産価格の上昇による所得効果で消費は下支えされている。このように間接的で効果は弱いが、日銀の量的緩和政策は実物経済にも好影響を与えたと考える。

    当初、量的緩和政策は効果を見せず、せいぜい金融機関の経営安定に寄与する程度であったが、徐々に為替や資産価格を動かすようになった。ただ量的緩和政策によって恩恵を受ける者と、ほとんど関係のない者に国内は二分されている。円安による輸出関連企業や株式などの資産保有者、そして低金利によって利鞘を確保できた銀行などが恩恵を受けた。一方、これらとは関係のない地域、例えば輸出企業がない地方はほとんど恩恵がなかった。

    この間、日本の名目GDPはほとんど伸びていない。しかし一方には量的緩和政策で所得が増えた層や地域がある。主に恩恵を受けたのは、輸出企業が立地する地域と金融機関が集中する大都会である。したがって全体のパイの大きさが変わらないのだから、その他の人々の所得は減少したと考えても良い。実際、先日公表された県民平均所得の増減を見ても、この傾向がはっきり見える。つまり日本全体が沈むところを、日銀の超金融緩和政策によって、一部の地域と一部の人々が救われているという図式になる。

    しかしこの図式はバブル期の日本経済と酷似している。バブル期は景気が良かったと言われているが、地方の経済は決して良くなかった。地方はせいぜいマイナスになっていない程度であった。バブル期と違う点は、不動産の高騰がまだ本格的に起っていないことである。しかし株価の上昇や都心の一部で不動産価格の上昇の徴候が見られる。つまり日本はバブル期前夜の状態と考えて良い。今回の日銀の「量的緩和政策の解除」は、このバブルの芽を未然に潰すことが目的の一つと考える。



来週は、日銀の独立性を取上げる。

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