- 高度経済成長期の錯覚
日本が「少子化」に直面していることを理由に、経済成長を危ぶむ声が今日大きくなっている。しかも日本の「少子化」の解決は絶望的と考えられており、日本経済はもうだめなのではないかという雰囲気さえ漂っている。また一方で政府は、財政の再建を急いでいる。これに関して、政府は「少子化」が今後も続くと考えると、国に大きな借金が残れば将来とても返済できないからと説明している。つまり財政再建の大きな動機がこの「小子化」ということになっているのだ。
なるほど「少子化」によって労働力が不足し、経済が成長できないとしたなら税収も増えず、国の債務返済も不可能になるような気がする。ところがこの話が「嘘」、つまりガセなのである。世論を操作しようと思う人々は、このような単純で大衆に分りやすい「デマ」や「嘘」をよく使う。またこの「デマ」や「嘘」が同時に「脅し」である。しかしこれは少なくとも日本では当てはまらない「へ理屈」である。
世界を見渡せば、アフリカ諸国のように子供がバンバン生まれているのに経済が成長しない国も多い。一方、一人っ子政策を進めている中国が経済成長している。いや単なる人口増加率ではなく、労働力人口の増加率が大事というもっともな意見がある。しかし中東諸国は、人口増加率だけでなく労働力人口の増加率も大きい。しかし職がなく、失業している若者が多く、これがテロの温床になっている。つまり人口増加率だけでなく労働力人口の増加率が大きくても、経済成長ができるとは限らない。
日本でこの大嘘がバレない理由がある。人口増加とほぼ同時期に経済の高度成長を実現した記憶が人々にあるからである。戦後、日本の人口は急速に増えた。特に戦後まもなく生まれた多くの人々は、団塊の世代と呼ばれ、社会現象にもなっている。そしてほとんどの人々は、このようなもの凄い人口増がそのまま労働力増となって、日本の高度経済成長が達成できたと思い込んでいる。したがって逆に今日団塊の世代の引退が近付き、もう高い経済成長は無理と人々は思い込んでいる。しかしこれは大きな錯覚である。
ちょっと考えればこの話は奇妙と気がつくはずだ。そこで今週号は、この日本の高度経済成長期の話を使って、日本に蔓延している嘘の一つを暴くことにする。まず日本経済が高度成長したのは、60年の安保闘争で日本の社会が荒れた後、つまり池田勇人政権が登場した前後からである。池田首相は「所得倍増論」を唱え、経済成長路線を採った。一般に高度経済成長期と呼ばれるのは、池田政権発足後から64年の東京オリンピックまでの期間である。
ところで団塊の世代、あるいはベビーブーマーと呼ばれるのは、47年、48年(49年、50年を含むケースも多い)生まれの人々である。ところが高度経済成長が始まったとされる60年には、団塊の世代は9才から13才であった。また一応高度経済成長が一段落した64年(ちなみに65年はオリンピック景気の反動で不況になった)で、この世代は13才から17才であった。つまり日本の高度経済成長期には、団塊の世代の人々はほとんどが社会に出る前であった。たしかにベビーブームで日本の人口は増えたが、ほとんど労働力になっていないのである。
- 嘘の検証
前段での説明を実際の数字を使って補足する。なお労働力として労働力人口を使った。労働力人口とは一定の労働に適する年齢(労働力調査では15歳)以上の者で、かつ労働の意志と能力を有する人の数である。また経済成長率は実質経済成長率である。
労働人口増加率と経済成長率(単位:万人、%)
| 年度 | 労働力人口 | 同増加率 | 経済成長率 |
| 59年度 | 4,448 | 1.2 | 11.2 |
| 60年度 | 4,533 | 1.9 | 12.2 |
| 61年度 | 4,572 | 0.9 | 11.7 |
| 62年度 | 4,617 | 1.0 | 7.5 |
| 63年度 | 4,676 | 1.3 | 10.4 |
| 64年度 | 4,726 | 1.1 | 9.5 |
| 65年度 | 4,816 | 1.9 | 6.2 |
| 66年度 | 4,908 | 1.9 | 11.0 |
| 67年度 | 5,005 | 2.0 | 11.0 |
| 68年度 | 5,076 | 1.4 | 12.4 |
| 69年度 | 5,116 | 0.8 | 12.0 |
| 70年度 | 5,170 | 1.1 | 8.2 |
上記の表で分る通り、60年から64年の高度経済成長期はもちろんのこと、60年代はおしなべて高い経済成長率を実現している。ところが労働力人口の増加率は毎年微々たるものであった。つまり高度経済成長は、労働力人口の増加ではなく、その他の要素、具体的には資本の蓄積(設備投資)と技術進歩があった言える(しかし設備投資と技術進歩があったから経済成長が実現したという話ではない。この点は来週述べる。)。
したがって日本の高度成長期の実績から判断しても、今日問題になっている「少子化」が今後も続き労働力が不足し、労働力がネックとなって経済が成長できない事態はとうてい考えられない。筆者は、労働力といった供給サイドだけでなく、もっと需要面を考えるべきと考える。日本の高度経済成長は、旺盛な需要を、設備投資と技術進歩といった供給サイドが支えたと解釈できる。そしてむしろベビーブームによる人口増加が、労働力としての供給サイドではなく、需要増加の一因にはなっていたことに着目すべきである。
今の日本の経済の環境を考えても、労働力などの供給サイドがネックになって経済成長ができないという話はおかしい。日本においては需要があればどれだけでも経済の成長はできるはずである。日本では供給サイドはどうでもなるものと考える。これは筆者がずっと主張してきた事であり、このために政府は内需拡大政策に転換すべきである。つまり「少子化によって労働力が不足し、経済が成長できない」という話はガセそのものである。
本題と離れるが、上記の表を作成する際、労働力として労働力人口を使うか、就業者数を使うか多少迷った。就業者数は労働力人口から完全失業者数を差引いたものである。しかし表の対象期間においては、完全失業者数は概ね50万人から70万人と極めて低位で推移している。つまり当時はほぼ完全雇用状態だったのである。したがって労働力人口でも、就業者数を使っても結果に相違はない。ちなみに表の対象期間12年間で、労働力人口は17.6%、就業者数は18.8%それぞれ増えている。
それにしても当時の完全失業者数が極めて少ないことに驚かされる。しかしむしろ今日の状況が異常と考えるべきである。政府はどうしても内需拡大政策を採ろうとしない。これでは労働環境は悪化するばかりである。最近は、政府が意識的に失業者を放置しているのではないかとさえ思われる。
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