- 各需要項目の予想
本誌は、年初にその年の景気動向や経済成長率を例年予想してきた。昨年は面白みがないと思い省略したので、2年振りの予想ということになる。本誌の予想方法は単純である。経済成長は、需要サイドで決まるという考えで、各需要項目の動向を積み上げて予想する。別にコンピュータを使う必要はなく、電卓があれば十分である。しかし過去の本誌の予想の実績を見てもらえば良いが、経済成長に関する予想はほぼパーフェクトで当てている。
シンクタンクや政府機関も経済成長を毎年予想しているが、昔からこれらは全く当らないことで定評がある。ところで今年は、これらのほとんどが日本経済の景気回復を予想している。財界人やエコノミストも景気がもっと良くなると発言している。しかし筆者は、それはちょっと違うのではないかと思っている。そこで景気動向の予想を久々にやってみようという気になったのである。
需要項目で大きいのが消費である。消費は所得の一定割合ということなので、所得額(雇用者報酬)が大きく変わらないなら、消費額も安定していると予想して良い。しかし最近では、年金給付額が大きくなっている。雇用者報酬だけでは、年金給付額の推移も重要な要素になる。さらに低位に推移していた株価が上昇しており、この株価上昇による資産効果も考慮する必要がある。
近年、消費が底固く推移している。筆者は、これは年金財政が大幅な黒字から、トントンの水準になったことがかなり影響していると考える。一般会計での財政支出を緊縮型にしても、年金、雇用保険といった特別会計がこれまでの大幅な黒字から黒字の幅が小さくなれば、政府部門の全体では積極財政ということになる。例えば5兆円あった雇用保険の積立金が小泉政権の間にすっからかんになった。これは一般会計で失業対策費を支出しなくとも、特別会計で失業対策費を支出したことを意味する。つまり小泉政権は改革政権で緊縮財政なのに景気が良くなったと喧伝されているが、特別会計まで含めば、中途半端な積極財政、もっと正確に言えばケインズ政策を行ってきたのである。
しかし年金については、2年前の年金法改正により、マクロ経済スライド制が導入され、年金給付の削減と年金保険料の値上げがなされた。つまり年金積立金が減らない形にした。つまり公的年金だけを見れば、経済に対して景気刺激的から中立になった。雇用保険も失業手当の削減と雇用保険料の値上げを行った。これも中立になった。
医療保険も自己負担を増額する方向にある。また定率減税の半減(来年度に全廃)がある。さらにこれは小さいが、消費税の免税点の減額による実質増税が今年から始まる。もちろん新規国債発行額を30兆円に抑えるため、これらの増税に加え、財政支出の削減も行っている。つまり特別会計を含めれば来年度の予算は、小泉政権が始まって、初めての名実ともに緊縮財政と言えるのである。
次は投資である。まず公共投資は、一般会計だけでなく財政投融資も減額される。住宅投資は、団塊ジュニア世代の住宅購入があり、底堅く推移してきた。今年もそれほど大きな変動はないと予想される。しかし耐震強度偽装問題がどれだけ影響するか、しばらく様子を見る必要があると思われる。
数字の上では、民間の設備投資は伸びている。今年もかなり伸びると予想されている。しかしこれが分らないのである。日経新聞の予想が正しいのなら、今年も来年も民間の設備投資は増えることになる。しかし筆者は、これに疑いを持っている。もし予想が狂うとしたなら、この民間設備投資額の推移と考える。
輸出額から輸入額を差引いた純輸出額は、そんなに大きな変動はないと思われる。これには米国と中国の経済を予想する必要がある。まず米国の景気は大きく落込むことはないと考える。住宅バブルの崩壊を予想する向きもあるが、金利をこれまで上げてきているので、米国には打つ手がいくつもある。また本誌で何度も言っているように中国は今後も放慢財政を続けると思われるので、経済成長は続くものと考える。ただし為替の大きな変動は十分考えられる。しかしもしそれがあったとしても、とりあえず短期的には純輸出額に大きな影響はないと考える。
- 結論
経済全体に影響を与える要素として、金利、為替、株価、地価があり、次はこれらの動きを検討する。金融については、日銀の量的緩和政策が止められる可能性がある。しかしこれが即金利上昇ということではなく、ゼロ金利政策は当分続くものと考える。むしろ物価が少し上がっているので実質金利は低下している。ただ日銀の政策変更は、心理面での影響が考えられる。政策転換と景気の腰折れ時期が一致すれば、日銀は悪者にされるという話である。
地価は、都心の一部で高騰している。株価の上昇にも言えるが金融の超緩和が影響している。しかしこれ以上の地価の上昇は無理と考える。株価は、いつも合理的に動くとは限らないので、予測が難しい。筆者も株価の予想は苦手である。ただ株式の自社買いや外国ファンドの買いが続くなら、株価の上昇は続くものと考える。ところで後ほど取上げるが、円高がはっきりして来たら、新たな資金の株式市場への流入が考えられる。ただ株価の動向は短期的に合理的ではないため、波乱は考えられる。
問題は為替である。大きな経常収支の黒字を考えると、円高になるのが普通である。昨年の円安は、均衡値からの乖離を一層大きくした。つまり次に円高調整があれば、かなり大きな調整になるものと考えられる。2年前の円高調整を、政府・日銀は35兆円という常軌を逸した為替介入で凌いだ。この金額は、日本の経常収支の黒字額の2年分に相当する。しかし次の円高場面では、米国自動車業界の不満などを見ても、このような手段は採れない。
円高は今年の年明けからと予想されていたが、昨年の末からそれを先取りする動きがあった。為替市場ではその時々にテーマがある。具体的には、金利差、経常収支、各国の経済成長率などである。昨年のテーマは日米の金利差であった。米国の金利引上げが続いたため、円安・米ドル高が続いた。しかしこれもあって米国の経常収支の不均衡が一層大きくなった。
つまりどこかで大きな為替調整があると考えるのが自然である。35兆円の為替介入効果もそろそろ消える。問題は、円高がいつ、どの程度のものになるかということである。為替市場のテーマが、いつ金利差から他のものに変わるかということがポイントになる。
今年の景気動向の予想に戻る。ここからはこれまで取上げた金利、為替、株価、地価の動向も加味する。まず需要項目はほぼ確定的なものと変動的なものがある。ほぼ確定的なものは、公共投資を含めた財政である。財政ははっきりと緊縮に転換した。住宅投資は、耐震強度偽装問題の影響にもよるが、ほぼ前年並と考える。純輸出額はよぼどの大きな為替調整がない限りほぼ前年並と考える。
次はあまり確定的といえないものである。まず為替が大きく変動した場合、企業の採算に影響を与える。これが案外民間の設備投資に影響を与えると考える。前段で述べたが、経済成長率の予想が狂うとしたなら、この民間設備投資額の動向が原因となると考える。民間設備投資額の動向は、この為替の動向と経済全体の動向が影響する。最後は消費である。消費は株価上昇による資産効果が小さくなり(場合によってはマイナス)、緊縮財政の影響が考えられる。これらを考慮すれば、大手企業のベースアップが実現しても、消費全体は大きくなることはない。消費はあまり変動はしないが、金額が大きいため、動いた場合の影響は大きい。
小泉政権はずっと緊縮財政だったという錯覚が世間にある。御用学者は「公共投資を削減してきたから緊縮財政」とサギ師的発言で世間を誤魔化している。特別会計を別にしても、小泉政権は公共投資を減らしているがそれ以上に他の支出は増やしてきたのである。しかし来年度の予算は初めての実質的な緊縮財政である。昨年より今年の方が景気が良くなると予想している人々は、財政は景気に関係がないと誤解している。それと同時にこれらの人々は為替の動向も軽視している。
このように見てくると、緊縮財政の影響が現れ、為替が円高に振れれば、民間設備投資の急減という場面も考えられる。さらに日銀の量的緩和政策が変更されれば、心理的な影響を市場に与える。株価は、円高によって資金流入によって上昇する要素はあるが、一方企業業績の悪化による下落が考えられる。
これらを総合的に考えれば、今年の景気は良くて昨年並である。もし緊縮財政の影響が早目に現れ、さらに円高がはっきりしてくれば、名目経済成長率はまたマイナスになる事態も考えられる。そして景気の変換点があるとしたなら、5月頃ではないかと筆者は予想している。
|