平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/11/17(第42号)
  • 日本の株価も下落している。本誌3/31(第9号)「日本の株式を考える」では日本の適正な株価をダウで18,000円くらいと述べていた。つまり、収益で8,000円、土地などの含み益で10,000円として算出した。しかし、現在では両者とも下方修正する必要があり、筆者の考える現在の適正水準は16,000円くらいである。ところがここへ来て「銀行の株式の持ち合いの解消」が現実味を帯びて来た。これが実際に行なわれたら、下値は予想もつかないことになる。そのなバカげたことは行なわれないと断言できないのである。バブル期の土地融資や無謀なアジアへの投資など、日本の金融機関はそのバカげたことをさんざん行なって来たのである。数行がこれを始めたら追随するところが必ず出てくるはずである。また、これに乗じた「カラ売り」もあるはずである。いずれにしても今後、株価は要注意である。
    今回の景気後退の大きな原因は、これまで景気を支えていた住宅建設が限界まで来ていたにもかかわらず、政府は緊縮財政を行なったことである。当時はこの予算でさえ「改革」は不十分とマスコミは騒いでいたくらいである。残念ながら、この論調には大きな変化はない。このような現状では景気の先行きを読むことすら困難である。ここが以前の景気後退期に比べ難しいところである。
    株式の持ち合いの解消で株式が市場に放出されても買う主体がないのである。唯一可能性があるのは「公的資金」である。しかし、これまで政府は財政再建の掛け声のもとに持ち株を市場に放出して来たのである。財政再建の政策の結果起こっている株式下落の買い支えを「公的資金」で行なうと言うのも変な話である。


景気の現状と対策を考えるーーその5
  • 本誌の提案する景気対策
    本誌の主張する景気対策は「大型公共工事」による内需の拡大である。財源はなるべく一般会計から支出部分を大きくするため、結果的には赤字国債の増発になる。残りは建設国債であるが、将来的には一般会計からこの利子の補給を行なう。
    ただし、どのような公共工事でも良いと言う訳ではない。なるべく、その工事の結果、誘発投資を生むものを中心にすべきである。誘発投資の中味は先週号11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」で述べたような民間の設備投資と住宅建設である。つまり、社会資本の充実することにより、民間に滞留している資金を活動させることである。現在、民間は投資対して臆病になっている。今後、この傾向はさらに強まる可能性が強い。特に住宅建設は今年度においても予想を10万戸下回ったが、来年度はもっと大きく落ち込むと思われる。「税制の優遇措置」くらいで住宅建設が復活するとは考えられない。
    先日報道された建設省の分析では、今年度の10万戸の住宅建設の減少による生産額の減少は約3兆3千億円となっている。これはGDPの0.6から0.7パーセントにあたり、これは本誌の試算10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」とほぼ一致する。本誌では来年度はさらに住宅投資が落ち込むと予想している。仮に30万戸減少すれば、そのマイナス効果は約10兆円となる。「2兆円の特別減税を復活しろ」とか「5兆円の大型減税を行なえ」と言う意見が野党やエコノミストから出ているが、いかにこれらが意味がないものかご理解できよう。住宅投資の落ち込みはこのように深刻なのである。
    住宅建設についてはここ10年政府はあらゆる優遇措置を行なって来た。一旦郊外に広がった宅地開発も、あまりの通勤時間の長さに加え、最近では地価の下落もあり、都心に回帰している。都心のマンション建設が住宅投資を支えていたのである。最近では準工業地域にも次々にマンションが建設されていたくらいである。ただ、このような都心の住宅建設も限度のようである。今後は交通インフラの整備により、もう一度郊外の宅地開発を行なうしか、住宅建設の回復する手段はないと考える。
    ただし、交通インフラの整備には土地の買収が付き物である。ところがこれが今日の日本では極めて困難である。筆者は、本誌で何度か述べたように、これを解決するには「地下」特に深い地下、つまり「大深度地下」の利用しかないと考えている。現在の日本国民の間では「公共性」と言うものが軽んじられている。公共のためと言っても遅々として土地の買収は進まないのである。これは戦前の社会が逆に「公共性」を協調し、あまりにも国民に負担を強いた反動とも考えられる。一般の国民は、道路の拡張も「自分の家の前」までなら良いが、その先への工事は「騒音」が大変だから止めてくれと言うのである。ゴミの焼却場も近くに建設することには反対である。これらは一般的には「地域エゴ」と呼ばれる。ただ、これらを簡単に否定する訳にはいかない。これについてはその合理的な解決方法をそのうち述べたい。
    筆者は、これらの複雑な土地に係わる権利関係をクリアするには「大深度地下」の利用しかないと考えるのである。そしてここに高速地下鉄と道路を建設することが「景気対策」として一番優れていると主張したいのである。
    都市部の交通インフラの整備とともに「都心と地方中核都市」との交通インフラの整備による、地方への民間投資の増加策も「景気対策」として有効である。ただしこれについても本誌で何度か述べているので詳しい話は省略する。

  • 「大深度地下」の利用による地下鉄建設
    「大深度地下」の利用の具体的内容は「鉄道」、つまり「地下鉄」と「道路」の建設である。しかし、都市交通を考えると中心は「鉄道」と筆者は考える。世界的に見ても、道路を中心に交通体系を考えた都市はマヒ状態である。東京がかろうじて機能しているのも鉄道のおかげである。特に人の移動を中心に考えると今後も鉄道の重要性に変わりはない。
    筆者が考える、「大深度地下」の利用は「高速地下鉄」をとりあえず5線くらい首都圏の中心から郊外へ建設することである。さらにこれらの幹線を繋ぐ環状線を一線建設する。したがって合計で6線の地下鉄を建設することになる。これらの地下鉄に道路を併設することも考えられる。地下鉄の建設ルートは既存の鉄道が近くに走っていない所である。これにより、新しい宅地を大量に開発することが可能となる。ただし、そのうちの一線は、「東京駅」を経由して「羽田」と「成田」を結ぶものである。これにより「羽田」と「成田」の間は30分内で結ばれる。さらにそれにはジェット燃料のパイプラインを併設することも考えられる。また別の一線は、将来、東京大阪間のリニア線に使用できるよう山梨に向かって引くことになる。これらの線は始めから複々線で建設する。予算は一線が2兆円として、総額で12兆円である。これはユーロトンネルや青函トンネルの実績から類推した。
    これらの地下鉄建設により飛躍的に住宅の適地は増大する。都心から30分内のところに、年収の3倍と言わないまでもそれに近い価格でかなり大きな土地付の住宅が購入可能となろう。政府は現在の土地の供給を前提に、マンションによる「持ち家」を推進してきた。しかし、筆者は、マンションはあくまでも一時的な住居であり、将来はスラム化する可能性もあり、「持ち家」としては問題があると考えている。日本においてはやはり「土地」付の住宅を持ち家の中心に据えるべきである。土地については将来下落することがあっても一定の価値を保持することが望めるからである。
    ここまでは分かりやすい例として首都圏について述べたが、もちろん他の大都市圏でも大深度地下鉄の建設を行なうべきである。関西なら「関西国際空港」と「大阪、京都、神戸」を結ぶルートが候補となるであろう。

  • 大深度地下鉄建設による経済効果
    大深度地下鉄建設の直接的効果は上記の通りであるが、次のように、それ以外にも良い効果を経済に与える。
    1. 大深度地下鉄建設の乗数効果
      当然、公共事業自体にも経済効果がある。総額で12兆円となれば、これだけで所得減税なら20兆円くらいの相当する需要が期待できる。ところで、今だに、同じ額の財政負担なら所得減税の方が効果が大きいと明らかに間違ったことを言っているエコノミストが多いのには驚かされる。先週号11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」で述べたようにもちろん公共事業の方が大きい。これらのエコノミスト達は単に「時流」に乗っているだけである。
    2. 土地問題の解決
      狭い日本でも、交通インフラの整備により、現在のような極端な地価形成を是正できる。土地のように再生産が不可能な「財」に資金が集中すると採算と大きくかけ離れた地価が出現することになる。いわゆる「バブル」の発生である。これを押さえるには交通インフラの整備により土地の供給を弾力的に行なわれることが必要である。現在、日本はまだ「バブル」の発生する状況にかわりはない。内需拡大策が強引に行なわれた場合、これが起こるのである。香港の不動産価格の推移が日本のバブル期の地価動向と似ている。両者とも限られた土地に大量の資金が投入された場合、同様の現象が起こるのである。
    3. 高齢者社会への対応
      高齢者社会と言った場合、すぐに高齢者に対する福祉に話が集中するが、むしろ高齢者の雇用が大きな問題として浮上してくると筆者は考えている。近い将来、年金の支給開始年齢も65才に引き上げられる。つまり、高齢者も働かなければならない社会の到来である。これについては該当する年齢層の者はある程度覚悟していると思われる。将来的には、特にサービス分野での労働の供給が不足することが考えられる。雇用機会の問題がこれで解決するとしても、それまでに交通インフラを高年齢層にも合わせた形ででき上がったているのが理想である。同様に女性の労働力も一段と求められることが考えられる。これらを考えると今のうちに交通インフラを整備しておくことは重要である。
    4. 経済の内需依存型への移行
      地価の動向が注目される。郊外の地価が上昇することははっきりしているが、都心の地価がどの程度下落するかはっきりしない。土地の価額のトータルではプラスと考えている。つまり国富は全体で増えることになる。この額は12兆円をはるか超えると思われるが、今のところ額についてあまり断定的なことは言えない。ある程度言えるのは消費性向の向上である。郊外のある程度広い標準化された住居はそれだけで資産価値を持つはずである。これは国民の財産形成の一助になり、国民は消費に前向きになれるのである。これについては9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」を参願いたい。
    5. 大都市の防災対策
      大都市では「地震」などの対応が検討されている。しかし、実態は「防災都市の建設」からほど遠いものである。神戸の地震でもわかるように、防災には「都市の区画整理」が最低限必要である。ところがこれがほとんど進んでいないのである。火災が起こっても消防車さえ入っていけない所がいたるところにあるのである。このような貧弱な社会資本を放置したまま、日本では、一方にうなるほどの資金があるのである。そしてこの資金で他の国の経済発展を助けている。ところが多くの識者は公共事業はもう十分で、これからは財政再建だと主張している。このような主張が通るなら、日本人はまるで世界史に残る愚か者である。しかし、残念ながらこれが現実なのである。
      大深度地下鉄建設は都心から郊外への人口の移動をうながし、都心部の区画整理事業をスムーズなものにするであろう。また、地下の構造物が地震に強いことは阪神大震災で実証済みである。
    6. 大工事技術の維持
      日本経済の生きていく道は「技術」である。この技術の水準を維持するには、常に新技術を使った工事を行なうことである。大深度地下鉄建設にはこのような新技術の開発にプラスのはずである。そしてこの技術は、将来他の国にも必要となろう。その場合には、それが日本の売り物になるのである。
      このような大工事の構想には、「大手ゼネコンの救助策」「中小建設の切り捨て」と言う非難が起こることが十分予想される。実際、地方の小さい工事まで大手ゼネコンが進出しているのが現状である。しかし筆者は、大深度地下鉄建設などの大型プロジェクトを行なうことで、むしろ両者の住み分けがスムーズに進むと考える。つまり大手ゼネコンが大型プロジェクトに力を集中することにより、その他の仕事から手を引くことになると考えられる。結果的に、大型プロジェクトは中小建設業者にとってもプラスに働くのである。
    7. 地方の休耕田の復田
      このプロジェクトである程度の農地が宅地に転換されることになる。しかし、まだ現在全国には70万ha以上の休耕田がある。つまり、このプロジェクトを進め、大都市近郊の農地が減少すれば、逆に地方の休耕田の復田が一部可能になるのである。現在の日本においては、経済的に見て土地の利用としては農地として使うより、宅地として利用される方が収益はかなり大きい。国民経済の観点からも、交通インフラさえ整備し、宅地にできるのなら、それは「宅地」として利用すべきである。逆に地方で農業にしか適さない土地は農地として利用できるようにすべきである。まさしく大深度地下鉄建設はこの流れを促進できるのである。

今週号は本誌が考える「理想」の景気対策である。しかし、筆者もこのようなプロジェクトが景気対策として簡単に採用されるとは考えてはいない。ただ、行なわれる景気対策がどれだけ効果を持つか占う際の基準にはなると考えているのである。つまり、景気対策に「公共事業」が一番効果があることはわかるが、事業の内容も大切と言うことである。来週号では、実現性にももっと重点を置いた景気対策について述べたい。
自民党の第2弾の10兆円の景気対策がまとまったが、住宅建設を150戸と予想している。筆者の予想より30万戸から40万戸も多い。もし筆者の予想が当れば、需要は10兆円から13兆円少なくなる。その場合には、これが全く景気対策にはならないのである。本物の景気対策にたどり着くにはまだ時間がかかるようである。



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97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」