平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




06/1/9(419号)
思考停止の日本

  • 避けられる問題の核心
    年末年始、政治や経済をテーマにしたテレビ番組が多かった。筆者もこれらをよく観た。ほとんどがバラエティー形式であり、ある程度結論が見えていたがなかなか面白かった。民放で視聴率を気にするとしたなら、このようなものになるのだろうと漠然と考えた。

    筆者が注目したことは、これまでのように構造改革を手放しに礼讃する雰囲気はなくなったことである。株価が上昇したり、デパートの売上が伸びている。たしかにこれらをもって景気が良くなったという話に正面から反論する者はいない。小泉首相も「構造改革なくして成長なしという話が証明された4年間であった」と威張っている。本来なら小泉首相のこのような言葉に対して「さすが小泉さん」と熱狂的な賛同を得られところであろう。ところがたしかに様子が明らかに変わってきた。

    テレビの姿勢は、首相の発言にむしろ冷ややかである。視聴者の大半は景気が良くなっているとは感じていないからである。実際、GDPは増えていない。名目GDPの伸びは原油代の高騰による。実質GDPの伸びはIT製品の性能アップによる見なし計算による。唯一好調なのが輸出関連企業の設備投資だけである。


    むしろ最近、テレビを始め、メディアがさかんに取上げはじめたのが「二極化」である。高所得者と低所得者、都会と地方、資産を持っている者と持たざる者といった図式になる。実際、高級品を扱う東京の専門店やデパートの売上は伸びているが、スーパの売上は減り続けている。大企業の従業員の給料やボーナスは増えているが、大企業の正社員の数自体がかなり減っている。一方、その他の者の所得は増えていない。

    たしかに株価は上昇し、都心の一等地の地価は上昇しているが、その他の地点の地価は下落を続けている。このような結果、大企業の従業員や株価上昇の恩恵を受けている者の所得が増え、多少消費が増えているだけである。また国内の車の売上台数は微減であるが、売れているのは高級車と軽自動車といった両極端である。そして日本のこのような「二極化」が、構造改革の結果ということに、人々もようやく気が付き始めた。


    年越えの「朝まで生テレビ」も観た(途中寝てしまったが)。この番組でも変化がみられ、「二極化」が取上げられていた。さすがに田原総一郎氏も以前のような「日本は一番成功した社会主義国であり、先進国の中で格差が一番小さい」といった妄言を言わなくなった。半年前と雰囲気が様変わりしている。

    しかし「朝まで生テレビ」だけではないが、この種のテレビ番組では、不思議と問題の本質や核心を避けている。それがタブーなのか、出演者の勉強不足なのか、はたまた深く考えることが面倒なのか分らないが。例えば自民党の山本一太議員は「一番今大事なことはデフレからの脱却」と主張していた。この政治家は他の番組で同様のことを言っている。

    しかし山本議員が熱烈に支持している小泉首相は、反対に「景気は良くなった」とはしゃいでいる。さらに来年度の予算は実質的な緊縮財政である(今年度までは、緊縮予算は見かけだけであり、実態は決して緊縮財政ではなかった)。経済がデフレと言っておきながら、緊縮予算を組む小泉内閣を熱烈に支持する山本一太議員のこの矛盾した発言を、他のパネラーが全く問題にしないのである。日本中が思考停止なのであろうか。


  • 虚言・妄言の溢れる世界
    思考停止と言えば、二酸化炭素による地球温暖化問題もその一つである。地球の温暖化については専門家で構成する気候変動に関する政府間パネル、つまりIPCCが95年11月に「産業革命以降、地球は人間活動で温暖化しており、2,100年には地球の平均気温は現在より2度上がり、海面は平均で50センチメートル上昇する」と予測した。このIPCCの研究報告を元に京都議定書がまとめられ、日本もこれに調印した。

    京都議定書は、調印国に二酸化炭素などの温暖化ガスの排出量の制限を課すものである。ただし米国や中国・インドといった大量に二酸化炭素を排出している国が調印していないか、あるいは参加していない。たしかに京都議定書自体は、地球全体の環境を考えた高邁な理想を体現する取決めである。


    ところが京都議定書が完全に守られた結果、地球の温暖化にどのような影響があるのかは全く知らされていない。二酸化炭素の排出量を厳しく制限した場合、地球の温度が下がるのか、現在の温度が維持されるのか、はたまた温暖化のスピードが若干遅くなるだけなのか一般の人々は知らない。しかしどんなに規制を厳しくしても、IPCCが取上げた産業革命以前の二酸化炭素の排出量以下にすることは100%不可能である。したがってIPCCの見解が正しいのなら、地球の温度が下がるとか、現在の温度まま維持されるということには絶対ならない。

    つまり二酸化炭素の排出量をどんなに厳しく制限しても、着実に温暖化は進むことになる。仮に京都議定書を元にした制限が効果があり、考えられないくらい温暖化ガスの排出量を削減しても、温暖化は進むのである。つまり何もしないより京都議定書を守られた場合の方が、同じ温度に達するのが数年遅くなることは考えられる。しかしたったそれだけの話である。ところが一般の人々は、二酸化炭素の排出量を削減すれば、地球の温暖化は止まり、地球温暖化問題は解決すると錯覚している。

    しかしこのような基本的な疑問を誰も口にしない。本誌が地球温暖化問題を初めて取上げたのは97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」であり、それから8年も経っている。ところが筆者の知る限り、その間、このような基本的な疑問を提起したメディアは皆無である。もちろん国会でも問題になったことがなく、むしろ国会は「クールビズ」といったばか騒ぎをやっている。

    地球の温度変化の研究はまだまだ十分ではない。仮に地球温暖化と二酸化炭素などの温暖化ガスの排出量との間に因果関係があったとしても、人類より自然界が排出する分がずっと大きければ、我々が努力して排出量を削減してもほとんど意味がない。そして本当に温暖化ガスの排出が地球の温度を永久に上げ続けるのなら、人類はもっと真面目に、かつもっと真剣にこの問題に取組むべきである。「石油よりNLGの方が環境にやさしい」といった次元の話ではない。それこそ二酸化炭素を固定化させる技術の開発が必要になるかもしれない。


    しかし日本中が思考停止になっているテーマはこれらだけではない。「小さな政府が理想」「財政再建をしなければ孫子の代に迷惑をかける」「人口減少によって生産力が落ち、経済成長ができなくなるから移民を受入れる必要がある」などいい加減な話が世間に満ち溢れている。ところが誰もこれらの虚言・妄言に「それはおかしいのでは」といった反論を試みる者がいない。せめて本誌くらいは、これらの矛盾を今年も指摘して行きたい。



来週は、今年の日本経済の予測をしてみようと思う。

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