- 「よそ者」の跋扈
予定を変更して、11月1日に発足した第三次小泉内閣を取上げる。今回の自民党執行部と内閣の改造に対して、様々な評価がある。大マスコミは「改革続行内閣」「ポスト小泉準備内閣」「実務者内閣」と言っている。しかし党執行部と主要閣僚は、大半が留任か横スベリで新鮮味に欠ける。一方、小泉政権に異を唱える人々は、イエスマン内閣と揶揄している。
そして筆者は違った観点で今回の人事を見ている。来年の9月に小泉首相は退陣するということが一般的になっている。したがって今回が小泉総理総裁にとって最後の人事である。最後である今回の人事は、可能な限り本人にとってやりたかった布陣をしいたと思う。その意味で今回の人事は最も小泉的人事と言える。
昔から気になっていたことが一つある。小泉首相が、自民党から一旦出て行ったが後に舞い戻ってきた政治家、いわゆる出戻り組、そして他の政党から鞍替えして来た政治家を重用することである。「よそ者」として本来なら自民党で冷や飯を喰う立場のこれらの政治家が、逆に重要ポストに次々と抜擢されている。今回の人事ではこの特徴が一番表われている。反対に自民党一筋の政治家が冷たくあしらわれている。ちなみに郵政法案に反対した議員はこの自民党一筋組である。
自民党の国会議員には党員の獲得が義務づけられている。最近の集計で党員の獲得数が一番多かったのは綿貫現国民新党党首であり、他の郵政法案に反対した議員もほとんどが上位であった。逆に小泉首相はほぼ最下位であり、武部幹事長を始め、党執行部や閣僚は下位に位置する者が多かった。つまりこれを見ても郵政法案に反対した議員ほど党への貢献度は高かった。したがってこれらの反対派議員が自民党にこだわりを持ったことに納得する。
自民党を離党し、新進党などを経由しまた自民党に舞い戻った政治家の中で今回ポストを得たのは、二階経済産業大臣、小坂憲次文部科学大臣、松田科学技術大臣である。小池環境大臣は日本新党・新進党・自由党・保守党と渡り歩いている。新自由クラブ出身は、中馬規制改革・行革大臣と中川政調会長である。
これに竹中総務大臣、猪口少子化担当大臣の2名と公明党の北側国土交通大臣を加えると、なんと9名もの「よそ者」が重要ポストに就いている。さらに河野衆議院議長と扇参議院議長の出戻り組みを加えると、自民党・閣僚・議会の主要ポストの約半分が「よそ者」で占められていることになる。もっとも小泉首相自身も長い間、自民党の中では「よそ者」状態であった。
今日の政権は、自民党と公明党の連立政権と言われているが、正確には自民党と公明党、そして自民党の「よそ者」との連立政権である。自民党を離党した政治家や、新自由クラブ、日本新党、新進党といった新党出身者には共通の傾向がある。これらの政治家の多くが新保守主義、つまり「構造改革」と「小さな政府」の信奉者である。この政治家達が、自民党の新保守主義の代表的存在である小泉首相と手を組んで、今日の政権を担っていると理解すれば良い。もっともこれらの政治家の中には政治信条はポーズだけであり、本質は貪欲な権力指向者もいる。
以前本誌で、マスコミが新自由クラブ、日本新党、新進党といった新党ブームに深く加担したことを述べた。今日の日本の大新聞やテレビ局は、逆に露骨と思えるほど自民党を応援している。これも大マスコミ自身が新保守主義者や構造改革派にかなり席巻されており、同じく新保守主義に支配されている自民党を応援していると考えれば良い。
ところが昔からの自民党の支持者の多くは、今日の自民党のこの変質に気が付いていない。あるいは気が付いていても、他に受け皿がないので仕方なく自民党に投票している。しかし自民党の支持者には、新保守主義に反発を感じる多くの保守層の人々がいるはずである。今回の人事で、政権の新保守主義的性格がより鮮明になった。従来の自民党支持者と小泉自民党の間に軋轢がさらに大きくなることは必至と筆者は見ている。
- トップダウン
小泉首相を始め新保守主義者や構造改革派の政治手法の一大特徴は、トップダウン方式である。経済財政諮問会議など、有識者の会議で案を練り、首相のトップダウンで法案を成立させる。郵政民営化法案にもこの手法が用いられた。反対に従来の自民党の政治手法は、ボトムアップが基本であった。そのため成案を得るまで時間を要した。またその道のプロと言われる政治家が、政権の意思決定まで深く介在した。マスコミや新保守主義の政治家は、これらの政治家を「族議員」と嫌った。いわゆる「族議員」はボトムアップ政治と一体であった。
しかしボトムアップ政治は、狭い島国の日本での政治手法として理にかなっていた。なるべく人々の間の軋轢を大きくしないような解決策を模索することは、日本人にとって決して悪い方法ではなかった。しかし日本市場への参入を目指す外国勢力や新保守主義の勢力からは、「既得権にしがみつく抵抗勢力」の温存と非難の対象にされた。
自民党の郵政事業問題合同部会の出席議員のほとんどは、政府の郵政民営化法案に反対であった。しかし園田部会長(この政治家も出戻り組)が強引に一任を取付け、自民党の最高意思決定機関である総務会に法案を送ってしまった。先日、平沼元経済産業大臣がこの時の総務会の様子をテレビで話していた。
自民党の総務会は、31名の総務と呼ばれる国会議員で構成されている。総務会において、執行部はいきなり修正案というもの提出した。この修正案なるものは誰も見たことのないものであったため、出席していた総務のメンバーは混乱した。ところがいきなり久間総務会長が採決を採ると言い出した。出席した総務メンバーが、見たこともない修正案を読むのに必死になっている段階である。しかし久間総務会長は強引に決をとった。賛成が7名、反対が5名である。残りの19名は皆ポカンとしており、どちらにも挙手しなかった。自民党の総務会は全員一致が原則であり、当然、誰もがこれでは総務会でこの修正案が承認されたとは思わなかったはずである。
ところが久間総務会長は、賛成多数で修正案は承認されたと宣言したのである。7対5で賛成の方が多いと言うのである。このようなめちゃくちゃな方法で、総務会で承認されたという形にもって行った。また総務会で承認されたのだから、この法案に党議拘束がかかったということにした。さらに党議拘束がかかっているということで、本会議でこの法案に反対した議員を除名したり、離党勧告したのである。
しかし総務会の採決の様子をマスコミはほとんど伝えていないのである。反対した総務が5名いたとしか報道していない。筆者も反対した総務が5名で残りはほとんどが賛成したと誤解していた。マスコミは実際の賛否が7対5だったことも、19名がどちらにも手を挙げなかったことも伝えていない。また反対派議員がどれだけ総務会の様子を説明しても、マスコミは「小泉政治手法がファシズム的」と言っている所しか取上げていない。今回の平沼議員のテレビでの話で、筆者も初めて真相を知ったしだいである。
郵政民営化法案で味をしめ、小泉自民党は、今後もこのような強引なトップダウン方式を採用するであろう。おそらく自民党は「小泉牧場の羊」状態であり、少なくとも国会議員はなんとかなると考えている。その現れの一旦が米国産牛肉輸入再開と普天間基地移設問題である。政府が方針を出しさえすれば、結論は決まるという次第である。マスコミは、この二つの問題がまるで解決したような先走った報道を行っている。
しかし日本の牛にBSEの全頭検査を課しているのに、米国産の月齢20ヶ月以下の牛にはBSE検査を行わなくても良いとしている。それなら日本の牛も月齢20ヶ月以下は検査を不要とすれば良いが、それでは日本の生産者は消費者の反発が恐い。また月齢20ヶ月以下の牛ということを証明する手段が明確になっていない。また普天間基地移設も、現地の住民の意見を全く無視し、日米の政府がトップダウンで決めたものである。当然、住民は猛反発している。このようにトップダウンなんてカッコウは良いが、本当に日本で機能するのか筆者には疑問である。
先の総選挙で、与党は大勝し、衆議院の3分の2の議席を占めた。さらに反対勢力を追出し、党内は小泉首相に従順な羊ばかりになった。野党第一党の民主党も悲惨な状態である。党首の前原議員は、小泉首相から「あなたなら私の内閣の一員に直になれる」と心にもないことを言われ、メロメロになっている。大マスコミも小泉政権を応援している。まさに小泉首相のトップダウン手法を発揮する条件が揃ったのである。しかし筆者は、11月1日の人事をもって頂点を打ち、今後急速に小泉首相の力は低下するものと見ている。所詮、日本はボトムアップの国であり、トップダウンが通用する国ではない。
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