平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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97/11/10(第41号)


景気の現状と対策を考えるーーその4
  • 景気対策に対する混乱
    景気の先行きはまことに暗い。暗くしている原因は、経済の実態だけでなく、有効な対策が打たれないと言う認識が世間に定着しつつあることも一つである。また、景気対策として「大型減税」が求められており、この実現が難しいことと、先週号、11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」で述べたように、これには金額のわりには大きな効果が期待できないのである。このように景気対策で揉めている間に時間が過ぎ、景気の落ち込みがさらに大きくなるのである。以前なら故渡辺美智雄氏のような政治家が、政府の景気対策をリードしていたが、現在はそのような政治家が皆無なのである。渡辺美智雄氏については、色々と良からぬ噂もあったが、「経済」を見る目は確かであった。今でも渡辺氏と同じくらい経済に詳しい政治家がいるかもしれないが、「力」がないのかなかなか表には出てこない。
    政府や与党だけではなく、回りのエコノミストやマスコミに登場している論者と言われる人々もトンチンカンなことばかりを言っているのである。はなはだしきは、「景気が落ち込むのは当然であるが、政府は対策を打ってはならない。5年くらい過ぎれば、自然に経済は回復してくる。」と言っている銀行系のエコノミストもいる。筆者は、全く「バカ」げていると考えるが、これが世間では結構受けているのである。また、このエコノミストは財政再建のため消費税を20パーセントくらいに上げることを主張しているのである。雇用に心配ない人間にとっては良いかもしれないが、そうではない者にとってはたまったものではない。現実の経済では実験ができないものである。このような「緊縮財政」を5年も続け、このエコノミストの言っているような景気回復どころか、経済がガタガタになった場合、いったいだれが責任をとるのであろうか。
    世間で言われているような、「景気が行き詰まっても、新しいベンチャービジネスが生まれて、経済をリードする」と言う話は「幻想」と思っている。筆者は、ベンチャービジネスが生まれるのは「経済が拡張」する時と考えている。反対に経済がスランプの時には人の行動がより保守的になり、取引も互恵関係が強くなるのである。つまりベンチャー企業が入り込む余地がなくなるのである。「肉屋」と「魚屋」の間では、「魚はおまえのところから買うから、肉はうちから買え」と言うことになるのである。逆に、景気がよければ、ベンチャー企業にも「お金」を出そうと言うことになる。米国でベンチャービジネスが脚光を浴びるのも景気が良いからである。
    経済の強さを決めるのは新技術である。そしてその技術は新規の設備投資で実現されるのである。とくに現代のように技術進歩の速い時代にはどれだけ速く新しい技術を装備した設備を使うかである。昔は資本も「量」が大事であったが、現代では「質」が問題である。しかし、企業も景気低迷が予想されるなら新規の投資を控えることになる。世間では企業は「贅肉」を落とすことだけが、企業の競争力を強くすることと考えられている。ところが全ての企業が「贅肉」を落とすことを始めたら、景気は後退する。景気が後退すれば、設備投資が行なわれないことになり、逆に企業の競争力が弱くなるのである。結論としては、企業の競争力を維持し、ベンチャービジネスを生むには、まず景気を良くすることである。

  • 景気の現状の再認識
    景気対策を考えるには、日本経済の現状を正しく認識する必要がある。日本経済は今後、後退が予想されるが、民間の資金は豊富にある。ただ、その資金が有効に機能していないのである。金融機関の不良債権が問題となっているが、一方、バブル期に高い値段で土地を売った人の金も銀行に眠っているのである。金利も歴史的な低位で推移している。つまり国全体では資金がダブついている。一方、自己資本の充実を図る銀行は中小企業への貸出を渋っている。国内で行き場を失った資金が海外に流出し、為替は円安に振れている。輸出企業はこれによって好調を維持しているが、今後、アジアや米国の景気動向や為替の動きによってはどうなるか不透明である。
    従来なら、このような状態なら政府が国債を発行し、その資金で公共事業や減税を行ない、景気の回復を図るのが普通であった。ところが今回は、財政再建の声が強く、有効な対策が無理のようである。「公共事業」なんてとんでもないと言うことである。過去において「公共事業」は確かに有効であったが、それも効果がなかったと言われているのである。また、現在なされている政策がことごとく景気にマイナスのことばかりである。この点については先週号、11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」ご覧いただきたい。
    筆者は景気対策としては「公共事業」しかないと考えている。しかし、「公共事業」も従来のような方法では効果は少ない。従来の景気対策としての「公共事業」は10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」で指摘したように福田元総理の考えが踏襲されている。つまり、なるべく「土地の買収」がからみ、費用が土地代に喰われるような事業は避けると言うことである。確かに、この方針は景気を速く回復させるには有効である。とくに生産要素が余剰な時には効果がある。この結果、景気対策の公共事業と言えば「箱物」を造ったり、過疎地に道路を造ることになる。つまり、いかに速く予算を消化できるかがポイントとなっていたのである。また、従来ならこれらの景気対策で景気が回復してくると民間の設備投資がその後に増えてきたものである。これが誘発投資である。しかし、日本の経済はかなりの資本蓄積が進んでいるため、従来の景気対策が有効に誘発投資を生まないのである。
    また景気を左右するものとして住宅投資が挙げられる。しかし、10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」で述べたように過去10年に及ぶ内需拡大策の一環として、住宅建設の促進してきた結果、現状ではこれ以上の住宅投資の増加は望めないところまで来ている。筆者は今回の景気後退はこの住宅投資の減少が大きく影響していると考えている。つまり住宅投資が限度に来ていた昨年の景気をもとに今年度の緊縮予算を決めたことである。予想通り、2月頃から住宅着工件数が対前年度で減少している。そしてこの減少幅は予想を上回っている。住宅の建設は通常、誘発的な消費を生む。具体的には家具や調度品などであるが、家電品や車などの購入にも影響を与えていると考えている。現在「増税による消費不況」と言われているが、消費額そのものはそんなに変動しないものである。9月の家計調査で一般の消費支出は対前年度でプラスとなっている。筆者は、減っているのは住宅建設に伴う消費と考えている。これらの消費は住宅着工から半年くらいタイムラグで変動する。つまり住宅着工件数の減少の影響が夏場ころから現われ、各種の経済予測がことごとくはずれたのである。半年前、多くのエコノミストは9月頃には増税の影響もなくなり、景気は上向くと予想していた。これらの人々は住宅建設の減少傾向を見逃していたのである。住宅着工件数は現在も減少し続けている。このことは今後の景気動向を考える場合、深刻である。

  • 本誌の景気対策の基本的な考え
    本誌では、景気対策のポイントは「資金に問題ないのであるから、いかに民間の投資を喚起するか」である。そしてこの民間の投資は設備投資と住宅投資である。資本の蓄積が大きいため、従来のような「公共事業」では効果に限度がある。つまり予算の消化だけを考えた対策では効果が小さいのである。もっともこのような対策でも、同じ金額なら「減税」よりましなのは事実であるが。
    これに関して気になる発言がある。一つは加藤幹事長の発言である。これは「今後は同じ公共事業を行なうにも経済効果を考えた効率的なものを行ないたい。そのためにも極力土地の買収を伴わないものに限定したい。」と言うものであった。まさしくこれは福田元総理の考えが踏襲したものである。これは「福田ドクトリン」と言ってよいものであり、たしかに一次的な経済効果は大きく、速い効果が期待されるが、現在の日本では肝腎の民間の誘発投資を生むには相当大きな事業費が必要である。筆者は反対に土地の買収費がかかっても、民間の投資を誘発する事業を行なうべきと主張したい。具体的には「交通渋滞の解消のための公共事業」「高速道路と港湾施設とのアクセスの改善」「都心から郊外への交通インフラの整備」や「大都市と地方中核都市との高速交通インフラの整備」などである。このような事業を行なうことによって民間の誘発投資と住宅投資を誘発すべきである。たしかに速攻性の点で問題があるが、これについては来週号で述べる。
    もう一つは、村岡官房長官の発言である。これは「来年度の予算では公共事業費が削減されるが、配分は地方を厚目にしてもらいたい。」と言うものであった。ところが残念ながら地方で公共事業費を増やしても、誘発投資はほとんど期待できない。地方は産業基盤は既に十分できているが、民間の投資がないのである。これを解決するには「大都市と地方中核都市との高速交通インフラの整備」しか有効手段はないと思われる。現在、地方で公共事業を増やしても、新たな「箱物」増えるだけである。これについては次週号でも述べる。公共事業が必要なのは大都市圏である。たしかに地方と大都市との経済格差を小さくすることも大切であるが、大きな所得を生むのは大都市である。格差是正の財源を生むのも大都市である。つまり、大都市の経済的発展が止まることはいずれは地方経済にも悪影響を与えることになる。つまり「地方と大都市の公共事業の配分」と言った観点で物事を考えるべきではない。むしろ政府には経営者的感覚が必要である。つまり、公共事業費を何に使えば、誘発投資が一番期待できるかと言うことである。
    ただし、日本の場合、公共事業費を大都市に集中させると別の問題が起こる。バブルの発生である。日本のように「土地」が問題である場合は、これがネックになる。「土地」のように再生産が困難な物の取引が活発になると、えてして不合理な価格設定が行なわれる。この点は限られた土地に都市国家を作った香港とよく似ている。理想的には公共事業を行なう前に、土地関連の法整備を行なうべきである。具体的には「農地転用に関する法改正」などであるが、これについても次週号で述べたい。

来週号では、本誌が考える「景気対策」をより具体的に、また優先順位をつけて述べたい。



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97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」